歪な会話-2
――――♪
私は泣き続けた。
彼女に促されブランコに腰掛けた後も。
どのくらい泣いていたかはわからない。
その間、隣に座った彼女はブランコに揺られながら鼻歌を歌っていた。
どこに行くでもなくずっと。
「落ち着いた?」
しばらくたってから彼女は話しかけてきた。
私は声を出すことができず顔だけでうなずくと
「女は生きづらいよな。世の中、出世するのは男ばっかりだし、
男女平等なんて夢のまた夢で、女は男がやりたがらない仕事ばっかりやらされて。」
・・・。
性格的な事や、身体的な事。
適材適所と言われれば確かにその通りなのかもしれない。
「結婚すれば寿退社なんて言われてな。そんな気なくても周りはそういう雰囲気でな!」
全てを笑い飛ばしているようだった。
「それじゃあ頑張ろうなんて気、無くなるよな」
「私は・・・ただみんなと笑って生きたいだけなんです・・・」
仕事なんて自分が生きれるだけのお金が稼げれば十分だ。
それ以上の幸せなんて望んではいない。
同僚と笑いあいながら仕事して、好きな人を見つけて結婚して、幸せな家庭を作りたい。
私はそんなどこにでもいるような人なんです。
「それで君は仲良くするきっかけ作りに、すすんでみんなの嫌がる事をやってあげたと」
「はい・・・」
「なのに仲良くなれずにむしろ妬まれるようになっちゃった、か」
「なんで・・・みんな私を悪くいうんでしょう・・・」
私の言葉を聞くや否や、彼女は直ぐに私の方に向きなおして言った。
「他人を批判する前に自分を直しな。君の悪い癖だ。」
「私を直す・・・ですか・・・」
目を合わせていられなかった。
私自身で心当たりがあったからだ。
奇しくもつい最近に。
とっさに俯いてしまった私をみて、彼女はポケットからタバコを取り出し、
カチッ!カチッ!と音をたてて、夜空にまた煙を吹いた。
「人ってさ、何か悪い事が起きた時、誰かのせいにしたがるんだよな。でも、案外自分の行動を変えるだけで解決する事の方が多かったりするんじゃないかな」
私が部長にセクハラをされた時、断っていたらどうなっていたのだろう。
部長は怒っていただろうか。それとも自分の非を認めてくれていただろうか。
今となってはわからない。でもいまだにセクハラされる事はなかったかもしれない。
幹事の役割を引き受けた時はどうだろう。
断っていたら同期の彼は渋々でも幹事をやり遂げただろうか。
それとも断った私を責めただろうか。そして今以上に仲が悪くなる事になっていただろうか。
今となってはこれもわからない。でも少なくとも毎回私が幹事をやる事はなかったかもしれない。
「嫌な事を耐えているのは、それを選んだその時の自分の行動のせい。自分で決めた事。後になって他人を責めてもしょうがない」
セクハラを断らなかったのは自分。部長を怒らせたら怖いからと選択した。
幹事の代理を引き受けたのも自分。これで同期の彼と接点ができるからと選択した。
自分で決めた事。
でも今は、部長を悪く思った。同期の彼を悪く思った。
自分は・・・悪くないと思っていた。
フーーッ!
突然彼女は大きく煙を吐いた。
私の体が驚きのあまり、大きく上下する。
「良し!暗くなんのはこれでおしまい!」
ブランコを勢いよく揺らし、パッ!っと飛びおると、
タバコを咥えたままパンッ!っと手を叩き、
「君を体験した事のない世界に連れて行ってあげよう!」
「体験した事のない・・・世界ですか・・・?」
タバコを噛み、悪戯な笑顔を浮かべる彼女。
「俺と一緒に来るのも君しだい!このまま帰るのも君次第だ!さあ君はどうする?」
私は今日あったばかりの彼女を怖いと思えなかった。
吸い寄せられていくように透き通るほど白い彼女の手を握っていた。