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実習終わり、あの日の思い出

「コラ新人ども!魔石掘るんならそのものをツルハシで打っちゃなんねえ!根本の土塊からけずってかにゃ!」

「は、はい!すいません!」


今回の新人さんたち真面目だなあ……前回は困ったちゃん達が多かったから嬉しい誤算だね。名簿に高評価付けて提出しよう。


「兄様、洞窟内の調査終わたネ!」

「ケー、こっち、も、終わった。」

「ありがとう2人とも。特におかしな点は無かった?」

「ハイ!チョット魔物の数が多かたケド特に無かたヨ!」

「うん、同じ。」

「……ハッ、緑ゲートで問題などそうそう起こらんだろ。」


その油断はいつか痛い目見そうだな……まあ、それも経験か。ひとまず洞窟内は問題は無さそうかな。

その日はとりあえず無事に作業を終えゲートを出る準備を進めていると、発掘作業の面々も上がりの時間らしい。

洞窟の外を調査していた連中はもう既に帰ったようだ。


「おーう坊主!お疲れさん!」

「あ、今日はありがとうございました!」

「良いってことよ!お前も大変だな、借り出されて。」

「あはは……今回はお寿司で手を打つつもりです。」

「ガハハハハッ!!そいつぁ良い!!破産させちまえ!!」


ドワーフ族のおじさんもざまぁみろと大笑いだ。

背は低いけどガッチリした体格を大きく揺らしながら、立派にたくわえた髭を撫でている。

ドワーフ族の男性は大体こんな感じで豪快だけど、女性はむしろスマートなんだよね。背が低いのは同じでも、どちらかと言うと手先が器用で手足がしっかりしてる感じ?


「そうだ!おっちゃん、コレ良かったらみんなで食べて。この間スキルで見かけて欲しいかなって。」

「っ?!こ、こいつぁ……もう二度と拝めねぇと思ってたぜ!!」


手渡したのは赤い木の実のような物。『マーケットプレイス』では〝トーベン〟て名前だった。真っ赤な見た目から想像出来るようにかなり辛くて、酒造にも使われてた物らしい。食べてみた時は3日くらい味が分からなくなったくらい辛い。

ドワーフ族が居た世界では滅ぶ前よく採れていたみたいで、こっちの世界やゲートの中でも見つけられなかったものだ。代わりにハバネロに落ち着いたけど酸味が邪魔とのこと。


「これも坊主の能力ってヤツなのか?!」

「そうだけど品の母数が膨大過ぎて見つけるまでこれまでかかっちゃった。ごめんね。」

「いや、むしろ感謝してもしきれねえ!こいつぁ我ら一族は坊主に頭が上がらんくなるな!」

「いやいやそんなに重く捉えないでよ……こんな役割しかない能力なんだから。」


そう、僕の能力『マーケットプレイス』は異世界の物をポイントと引き換えに取り寄せる能力で、品揃えは異世界にある〝ほぼ全て〟だ。

念じることで目の前に通販サイト見たいなページが出てきて、そこから品を得る感じ。しかし検索エンジンとかは当然無いから、ピンポイントに探すことは出来ない。誰が選んでるのか、トップページには『ピックアップ』と書かれた枠が出てきたりもするけど意味不明な物ばかり。しかもポイント消費量がかなり高い。

ポイントは魔物を倒したりで得られるのは分かってるけど、その他にも増えてる時があるから詳細はまだ不明。


「兄様!新人さんたちは無事ゲートを抜けたネ!私達も帰るアルヨ!」

「そうだった!ごめんね締めやらせちゃって!」

「おう、ワシもすまねえな!じゃあ坊主らも気ぃつけて帰れよ!ほんとにありがとうな!」


おっちゃんは大きな荷物を担いで僕らに背を向ける。あんなに大荷物なのにトーベンが余程嬉しかったのかスキップしてるし。


「ポワ先輩も手伝ってくれたから平気ヨ!もう1人の先輩はさっさと帰っちゃったけどネ。」

「そっかー、先輩もありがとうございます!」

「……いい。」


はにかむように短くそう言うとそっぽを向く先輩。何故か尻尾は僕の脚を撫でている。リザード族は感情が尻尾に出るって父さん言ってたな。でもこの感情は何……?

遠くの方では、おっちゃんたちがゲートの出口で手を振ってるのが見える。みんな上機嫌で、きっとあの実をツマミにこれから呑むのだろう。


「兄様、私たちも行くアル。夕飯食べてきますカ?」

「そうするかー、先輩も来ますよね?」

「行く。」


こうして今回のゲート実習を終えたのだった。


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side クレァミーユ・カシェ・プファロ・エトロフ


「あーあ、私もゲート調査行きたかったなー。」


ゴロンと横になって呟く。

ここは慶次郎の部屋で、そこは慶次郎のベッドだ。


「姫様、制服のまま横になるとシワになりますよ?……あと、ちょっとだけ代わってください。」

「やーだよー!」

「……っ!」


いやそんなこの世の終わりみたいな顔しなくても……。シェリルはなんでこう本人の前では素直になれないんだか。

ところで、家主が居ない部屋で私たちがこう寛いでるのが不思議かもしれないけど、むしろ私たちは自分の部屋には寝たり着替えだったり以外にほとんど帰らない。だって許嫁よ?本人はそのこと知らないから脇固めとかないと。

お母様とお義母様から外堀埋めきって逃げられなくなってから明かしてトドメを刺せって言われてる。まあ実際は彼の立場を早く固めちゃうと身動き出来なくなっちゃうからだと思う。あの能力のこと考えたらその損失大き過ぎるもんね。


「この際、子供だけさっさと作っちゃって後宮入りしちゃったら早いんじゃないかしら。」

「ご自分のお立場をお考え下さい!……毒味はお任せを。」

「やーだよー!……ていうかホントにそろそろ素直にならないと私の側室も難しくなるわよ?」


いつかは彼の良さがバレるとは思ってたけど予想外に早かった。シャオちゃんは言わずもがなだしポワ先輩にドラコニアの姫、ドワーフにも一人、ギルドの受付連中も怪しいのよね。


「ライバルがどんどん増えて……」

「っ……!」

「て号泣?!」


まったくこの子は……同い年とは思えないほどしっかり者なのに色恋はよわよわなんだから。


「だ、だって……!」


まあ気持ちは分かるけどね。

彼と出会ってからもう10年以上になるのかしら?あの頃は一族が滅ぶ手前だったと聞いてる。

この世界には世界樹が無くて、世界樹の精霊である私たちエルフは年々力を失っていった。世界樹の加護はエルフにとって繁栄に不可欠であり、精霊として存在を維持することが出来ないから。


そこに現れたのが彼だった。

いつも外交に来る大使の息子で、ほんの顔見せくらいの感覚でたまたま村に連れてこられたのだ。


『どうしたの?』


庭でしゃがみこむ私に、少し拙いエルフ語で彼は話しかけてきた。


『だ、誰だきさまは!ひめさまに近付くな!』

『シェリル、いいのよ。』


迷い込んだ人間の子供だと思った。でも何となくその時は誰かに話を聞いて貰いたかったんだと思う。


『……お母さまが寝たきりになっちゃったの。』

『びょうき?』

『……ちがうわ。世界樹がなくて、私たちはいずれ消えちゃうんだって。ハイエルフだから私もすぐ……』

『ふーん。』


彼にはなんの事なのか分からなかったのだろう。あまりにも軽い返事に少しムッとしちゃった。

でもその後……


『せかいじゅ、って、これのこと?』

『……え?』


彼の手には苗木が一つ。

エルフである私には分かる。これが世界樹の若木であることを。


「……植えてみればいいのかな。」


そして彼が手早く土を掘ると、そこに置いた。すると眩い光が注ぎ、世界樹はこの世界にしっかり根付いた。

世界樹に注いだ光は彼もキラキラ輝かせて、幼い私を恋させるには十分だと思う。


それからは大変だった。寝たきりだったはずのお母様が走ってきて、世界樹が現れたと、そしてそれをもたらしたのはヒト種の子供だと知って大騒ぎ。

外交で来てた彼のお父様も彼の能力を正確に把握してなかったらしく、ひどく驚いていた。


この世界に来た時、助けてくれたヒト種……人種的には日本人というらしい。感謝をしてこそすれ、文化の違いに考えのすれ違いはあった。それに異界から逃れて来た他の部族とも。

だから頻繁に外交員が来て交流の場を設けていた。


『光一郎殿、これまでのお話、お受けしましょう。』

「は?」

『ですから、我ら一族との交友や技術提供についてです。』

『よろしいんですか?』

『勿論です。消えるばかりだった我らに救いをもたらしたのは貴方のご子息。ならば我らは貴方への協力は惜しみません。』


大した産業も無いエルフ族が提供できるのは魔力に関する知識や精霊から賜る知恵だけだ。それを開示してしまえば、何も持ち得ない我らは属国とも成りうる。下々の扱いともなれば奴隷のように使い潰して……という未来もあるだろう。

しかし、日本人というのはそれを良しとはせず、友好国として対等に扱ってくれた。最初から心配は杞憂だったのだ。


『ところで光一郎殿、そなたのご子息ですが……』

『はっ、私も正直驚いております。まさかあのような能力を発現していたとは……』

『私の娘と婚約させませんか?』

『……はい?』


これがはじまりである。

初恋がその日のうちに実ってしまった稀有な例かもしれない。いや、実ったというか芽が出てその日のうちに花が開いた感じ?

でももっと重症だったのがシェリルだった。子供の頃から英雄譚とか大好きだったのもあって、少年に降り注いだ光の衝撃は彼女のハートを貫く……いや、ぶっ壊したのほうが正しいかしらね。

でも私との関係を知って気持ちを偽ろうとしたのが良くなかった。


「……シェリル、あなたも慶次郎のこと好きでしょ?」

「な、なな、何を仰ってござましゅか?!き、嫌いでごわす!慶次郎!きさま勘違いするなよ!?」


こうして根っからの恋下手ツンデレが出来上がってしまったのだった。

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