設定資料と閑話
【設定資料】
主人公らが通う三国立学院北海道校は能力者及び改造生体の養育を目的とした学校で、小学期(小学校)から大学期(大学)まで一貫校で、小学期6年、中学期6年、大学期4年の16年間。特例を除き、ゲート関連の任務を請け負えるのは大学期から。卒業後は基本的に能力者管理組合や傭兵ギルドに所属するか民間のチームに加入しゲート問題の解決に従事することとなる。
魔素の影響により平均寿命は300歳ほどで、出生率はかなり低下した。そのため学校自体の絶対数が下がり、1学年あたりの人数も各校150人ほどである。大学期からは任務参加がある為、入寮が可能。
国家間の境が曖昧になり、外国語の授業は必須科目で基本的に領内は領内の母国語で話すのが通例。
・能力者管理組合
ゲート問題や能力者を管理する組合で、査定や買取なども行う役所。
能力者には初登録時に魔石技術で作られた鑑定機による力と系統の査定が義務付けられており、その後能力の希少性や貢献度によって階級が分けられる。
10級から1級まであり、最高は特級と呼称される。
・傭兵ギルド
非能力者の団体。ギルドと同様に査定や買取なども行っているが、こちらは完全に実力主義である。貢献度よりも純粋な強さで段位が昇級、降級していく。
白段からスタートし、青、黄、緑、紫、黒と並ぶ。こちらも最上位は特級。
【人物紹介】
坂本慶次郎 21歳 男性
179cm/68kg
特異系能力者、日本国籍
発現スキル『マーケットプレイス』
父である坂本光一郎は『言語理解』スキルによって歴史に名を残す初代日本国代表外交員。幼少の頃から語学はかなり叩き込まれたため、異界人種のエルフ語から始まりほぼ全ての外国語まで堪能。非常に珍しい特異系能力者。
自己評価が低いところがあるが、既にギルドからも1目置かれている。
クレァミーユ・カシェ・プファロ・エトロフ 21歳 女性
162cm/41kg
ハイエルフ種
風系魔法、治癒系魔法
過去に北方四島に興ったエルフ国の姫。慶次郎とは彼の父が外交で滞在した時から交友があり、慶次郎は知らないが親同士で婚姻が約束されている。
透き通るような白い肌に白金色の髪でツインテール、体型はスレンダー。
シェリルレラ・ハヤム・エトロフ 21歳 女性
172cm/50kg
ダークエルフ種
風系魔法、弓術
母がクレアの乳母を勤めたことから、生まれた時から彼女とは常に一緒におり、彼女の血から崇拝に近い感情を持っている。慶次郎への感情は彼以外に隠せなくなっている。
褐色の肌に白金色のロングヘアー、体型は筋肉質なグラマー。
ハン・チソン 21歳 男性
186cm/78kg
非能力者、改造生体、韓国籍
小学期から北海道校入学のために移住し、クォとはその頃からの仲。テコンドーを母体とした格闘術で戦う改造生体で、硬化術式が施された魔石により体の一部を変質できる。
普段は冷静だが実は非常に短気で、沸点を超えると限度を無くす。
クォ・ダイガン 21歳 男性
165cm/53kg
闇系能力者、台湾国籍
発現スキル『ネクロマンス』
僧侶の家系にうまれたが死を操るスキルが発現したことにより家にいられなくなり、両親がツテを頼って日本国領の北海道へ一家で移住した。
レトロなテレビゲームが好きで、自他ともに認める虚弱体質。
テリー・ジョーダン 22歳 男性
199cm/110kg
強化系能力者、アメリカ国籍
発現スキル『超人』
前代未聞の小学期で留年を経験し、勉強面で助けられてから慶次郎を慕うようになる。両親はアメリカ大使館に駐在する傭兵ギルド員。
昔、フグを生で丸かじりし毒に当たってから海産物が大の苦手で、頭の方は非常に悪い。
佐々木武蔵 21歳 男性
196cm/88kg
雷系能力者、日本国籍
発現スキル『雷切』
剣術名家の嫡男で、幼少から神童と呼ばれていた。雷の力を扱うことが出来、既に赤ゲート攻略にも参加経験がある。
テリーとは喧嘩ばかりしているが仲が悪いということは無い。非常に美形だが不器用で朴念仁。
クォ・シャオミ 18歳 女性
145cm/36kg
闇系能力者、台湾国籍
発現スキル『死ノ舞』
ダイガンの妹。飛び級を重ねて17歳で大学期へ編入した才女。ショートボブにお団子ヘア、とても小柄で華奢。
残機があれば何度でも生き返るピーキーなスキルを持ち、自爆攻撃は絵的にも破壊力が段違い。ある時から慶次郎を兄様と慕うがダイガンのことは呼び捨て。
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閑話『逃げた先の』
時は2030年代初頭、日本の北方四島の一角に黄色ゲートが発生した。日本国はすぐさま自衛隊と能力者たちを派遣、これに対応した。
一連の事件はゲートの向こう、異界にて魔族と呼ばれる残忍にして狡猾な存在の手により世界が破滅したことに始まる。
「坂本特佐!」
「どうかしましたか?」
「それが……ゲートから出てきた方達は全て保護したのですが言葉が……」
「ああ、やはりそうでしたか、それでは直ぐに向かいます!」
「助かります!」
逃げてきたのは後にエルフと呼ばれる種族であり、皆が皆疲弊しきっていた。ところが一人の女性は悲鳴をあげる心身に鞭打ちながらエルフたちに声を掛けていた。
『皆、よくぞ逃げ切りました!』
『女王陛下……こ、ここは一体……』
『分かりませんがこのヒト族たちは悪しきものでは無いようです。』
見渡しながらそう言う。
森に溶け込むような柄の服を着込み、我らに布や水を配っていく姿。
『こ、これは受け取って宜しいのでしょうか?我らは対価が……』
『そう……ですね。私がなんとか交渉して……』
不安になる。先程走り抜けた不可思議な転移門、そこを抜ける前、我らは魔族に追い詰められていた。
栄華を極めていたヒト種が敗れ、魔族の手は我らにも及んだ。地も空も水も穢れ、森は枯れていく。そして世界は破滅した。
ついには最後の砦が落とされて一族郎党なんとか逃げ込んで辿り着いたのがこの場所だ。
「水と食糧、それから清潔なタオルもどうぞ!もし怪我しているなら医療班をお呼びします!」
「能力者1班ならび2班はゲートの向こうで対処!交戦は許可するが敵を間違うなよ!明朝まで3交替で対応する!」
手渡される透き通った水。
ああ……水……水ですわ。乾ききった私は誘惑に負け口にしそうになる。
しかし、このコップ一杯の水がどれほど貴重なのかを知っている。
『……申し訳ございません、我らには替わりに差し出せるものが』
「えっと……?」
『ですから、受け取る訳には』
「す、すいません!ちょっと応援を呼んでまいります!」
『あ、あの……!』
言葉が通じない?確かに聞いたことがない言語……ヒト種とも違う、不思議な響き。
『失礼します、私は坂本と申しますがこちらの言葉は伝わっていますか?』
そして彼は現れた。変わった黒い服を羽織り布の首飾り?をしたヒト種の男性。
『……!』
『あれ……?おかしいな、この言葉じゃないのか?』
『も、申し訳ございません!わかります!伝わっております!』
『そうですか、よかった!』
こんなに流暢にエルフ語を操るヒト種を初めて見る。言葉が分かることで少し安心しかけるが、しかしそんなことよりもこの状況だ。
『この度はご助力感謝致します、ヒト族の方々。』
『いえ、こうしたことは初めてのことではございませんので。去年もこの近くでドワーフ族の方々も保護しております。』
『まあ!山の民も!』
『はい。それから、これらの物資に対価を求めませんので、どうかまずは喉を潤してください。ドワーフ族も最初はそれを心配しておりました。』
『な、なんと……!』
この澄み切った水がなんの対価もなく得られると?!
確かに辺りを見渡せば緑の服の方々は笑みを浮かべながら我が子らに水を飲ませ、食糧を下賜くださっている。
『さあ、安心なさってください。前回同様であるとお見受けし、あなた方のお辛い状況は把握しておりますので。』
『あぁ……っ』
コップの中の水面に目を移し、我らは助かったのかと思ってしまう。対価を求めないと聞いても、自らの立場を考えればそんなことは有り得ないと知っている。
しかし、サカモトと名乗った、優しく微笑む目の前の男性。そして久しく見なかった同胞たちの絶望以外の表情。
『……っ』
水を、口にする。
『大丈夫。大丈夫ですから。』
おかしいですわね。
口に含んだ水よりも、目からこぼれ落ちる水の方が多いのではないかしら。