表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

始まりは歴史から

「記録、照合。」


1999年7月11日……王が目覚める

世界各国で預言者と呼ばれる人間が増え、口々に「大魔王の降臨」や「世界の終わり」を説いた。その当時は狂言とされ、信じる者は少なかった。


2011年3月11日……地球が異界と同化を始める

頻発する地震を皮切りに、異常現象が頻発するようになる。特にこの日は日本が大打撃を受けた。預言者たちは【狂言】を続けた。


【狂言】……後に預言者と呼ばれることとなる人物が残した発言集。預言者は異界からある周波数を受け取ることができ、中には脳の一部が焼かれ狂人となってしまう人間も多いことからその名が付けられた。


2025年7月5日……地球は姿を変えた

日本の中部地方で大地震とともに最初の異変が確認される。

【異界転移門】、通称【ゲート】と呼ばれるようになった事象が四国(当時の愛媛県)に発生。これは当時の地方名を文字り【始国事変】と呼ばれている。


【異界転移門】、【ゲート】……地球とは異なる次元と繋がる出入口のこと。赤、緑、黄色など色によって種類があり、危険度が放出魔素量でFからSまでの階級で区別される。


赤ゲートは魔物が溢れる危険な異界と繋がり、主を殺害することにより無力化出来る。発生から満7日が経過し無力化出来なければ魔物は外部に溢れ、スタンピードを起こす。

緑ゲートは魔物の脅威は少ないものの、主が存在せず数日で閉じる。あらゆる異界資源を調達可能。過去には赤ゲートへの変異も確認されている。

黄色ゲートは過去に異人種が出てきたとされる。発生後、満3日で自然消滅される。2081年現在まで20年以上発見されていない。


【始国事変】……愛媛県今治市に発生したE級赤ゲートのスタンピードが原因の大災害。被害は現地住人15,000人以上が死傷し、先遣隊の自衛隊員845名全てが死亡。魔物の氾濫によって四国地方は壊滅、総勢1万人超えの自衛隊員の犠牲を出すも武力鎮圧が人類史上初成功。ゴブリン種、オーク種を確認。


2025年8月31日……人類の進化

人類に超能力を発現させる人物が誕生。後に【能力者】と呼称されるようになり、魔物等へ兵器以外の対抗策となった。


【能力者】……従来の人類にはなかった能力を発現させた者たちの総称。通称神の声が目の前に現れ、能力を授かるとされている。


2026年1月4日……【赤地域】の発生

B級赤ゲートのスタンピードにより旧ロシアが国土の東半分以上を失い壊滅。以降、旧ロシアは竜種をはじめ強力な魔物が跋扈する地帯となり、政府及び国連は奪還を諦め放棄。地球上に【赤地域】と呼称される地域がうまれた第一号となった。


赤地域(レッドエリア)】……魔物や異人に占拠され、人類が失った土地。


2026年9月14日……異界資源の活用と発展

魔物の素材や異界にて発掘される魔石をはじめとした資源により技術力がブレイクスルー。魔石から開発された魔法薬や魔素が世界に満たされたことにより人類の出生率こそ下がるも平均寿命が300歳前後まで向上。

後の研究により、二重螺旋構造だったDNAが五重になっていることが判明。人類の進化とされた。


2027年11月25日……【ギルド】の誕生

【能力者】を管理し、ゲート被害や魔物への対策を含めた問題に対抗及びゲート攻略を目的とした団体【能力者管理組合】、通称【ギルド】が発足。魔石を利用した力の数値化に成功し、保有能力の希少性や純粋な力量を考慮し、【能力者】にランク制度を設け、過度な依頼による損失や魔物への対応に貢献する。同時に通常の兵器で強力な魔物へ抵抗できるようになったことから、非能力者による【傭兵ギルド】が世界各地で誕生した。


【ギルド】……能力者が異界の攻略や資源回収を安全に行うために管理する組合。能力者は加入を法で定められている。

【傭兵ギルド】……異界に対抗すべく戦いに身を置く非能力者の組合。



2028年2月1日……旧ロシアと近隣諸国が衝突

領土問題や資源問題を引き金にした戦争が勃発。国連も介入する世界戦争となり、能力者も介入した戦争は熾烈を極めることとなった。これにより、後年に旧ロシアは事実上消滅。参戦した先進国の国力を大幅に下げる大惨劇となった。


2030年5月10日……A級赤ゲートにより北朝鮮消滅

周辺国も被害甚大で、中国やモンゴルは独力で押し返そうとするも失敗。中東諸国に庇護を求め、韓国と台湾は日本に復興協力国として救援要請。日本政府は要請を受諾し、【ギルド】を三国で統合。その名称を【三国ギルド】とした。この流れは世界に広がり、周辺国で協力体制を敷く【ギルド】が増え、国家間の隔たりが薄れるようになった。


2033年4月2日……異人種による国が誕生

日本の北方四島に世界で初めてエルフ、獣人、リザードマン、ドワーフの異人種がそれぞれ国を起こす。日本政府は危険性は低いと判断し交流を試みる。当時日本の商社に務める会社員だった男性が、翻訳のスキルにより大使として友好へ大きく貢献した。


2035年11月8日……学校と養成施設

能力者を育成する目的とした幼稚園から大学まで一貫の国立学校が正式に稼働。この頃になると生まれつき超能力を持つ子供(通称〝第二世代(セカンド)〟)が珍しくなくなり、事故防止を含めて学び舎を分けることとなった。非能力者向けに傭兵学科も同時に稼働し始めた。私立の養成施設も多数運営されている。


2036年5月18日……S級赤ゲートが出現

最難関ゲートのスタンピードにより世界地図から南米地域の一部が消える事態となった。アメリカから4名、日本から2名、ドイツから1名、インドから1名の最高位能力者が参戦し被害を最小限に抑えたが、無事帰還できたのは日本の1名のみだった。


2037年12月14日……禁忌の人体実験

上記の技術発展にも大きく貢献したツェズゲラ・コルチェニコフ博士による人体実験が世界を震撼させる。人体に魔石などを埋め込んだ生体が誕生、【改造生体(デザイナーズ)】と呼ばれた。拉致被害や人体実験も判明し、その非人道的な行いから博士は第一級指名手配となった。


2041年4月1日……人類と亜人種の婚姻

世界で初めてエルフと人類の婚姻が発表された。後年、第一子出産も発表された。この頃、世界的に禁忌とされた【改造生体】へ闇で自主的に改造する者が増え、彼らへの差別などが社会問題となっていた。


2045年8月23日……【魔人種】の出現

旧南アフリカでS級赤ゲートから溢れた新たな種族である【魔人種】が、アフリカ大陸で国を起こした。この個体は非常に強力かつ狡猾で、登場から2週間足らずでアフリカ大陸全土をその手にした。この時点で【赤地域】は旧ロシア領、南米北部、アフリカ大陸全土、南極大陸の4箇所となる。


2047年6月22日……アフリカ大陸放棄

魔人種の残虐性や攻撃的な性質から、殲滅及び大陸奪還作戦が展開された。能力者や傭兵の働きにより一時は前線を押し上げるも、猛烈な反抗にあえなく撤退。以後、国境付近では小競り合いが続き、敵対的種族として度々紛争が起こっている。


2048年4月4日……【改造生体】が合法に

後天的に能力が発現しなかった非能力者が差別されることが問題となり、保護法案とともに【改造生体】の合法化が決まった。この頃になると魔石の安全な運用も確立されており、人体改造が容易となった。


2061年4月30日……アメリカ東部にS級赤ゲート

過去最大のゲートとして記録されており、500万人を超える死者を出した。【赤地域】となることは避けられたが軍、ギルド、傭兵の多くが犠牲となった。これにより北中米カリブで相互協力同盟が発足した。


2065年3月9日……太平洋の惨劇

これまで海上に出ることのなかった赤ゲートが太平洋上に出現。ハワイ諸島を中心に、日本、オーストラリアが被害を受けた。特に小さな島々は海洋型の魔物によって大きな被害を受け、遠洋海産資源の漁獲量は世界的に激減することとなる。


2072年11月14日……【魔人種】との停戦

魔人種による攻勢がおさまり、領土の境界線で長期間続いた小競り合いに一時落ち着きを見せる。


2081年7月5日……


───王が誕生した───



==============================



「……こんなの間違ってる。」


窓からのぞく陽光をカーテンが遮り、顔にかかった春の光は僕を半ば強引に眠りから引き摺り出す。

トーストとコーヒーの香りは寝起きの鼻腔をくすぐり、いつもの朝、いつもの日々を迎えてくれる。

理想的な一日の始まりだ。


それでも僕の第一声は冒頭の通りである。


「まだかなー……まだかなー……」


声の主を探し視線を足元に下げると、白金色のツインテールがぴょこぴょこと揺れている。

毎朝起こしに来る幼馴染のクレアだった。

幼馴染連中からすると血の涙を流して羨ましがるシチュエーションらしいが、絶対にそんなことは無いと言える。


何故なら……


「まだかなまだかなー♪朝勃ちまだかなー♪」


下品な鼻歌が全てをぶち壊すからだ。


「……クレアー、何してんだー。」


布団を捲り上げ、僕の股間を両手で頬杖しながらニコニコ見つめる彼女に声をかける。


「子種待ってんのー♪」

「……さいですか。」


僕は意に介さずテーブルに腰掛けると、用意されているトーストとコーヒーに手を伸ばす。

これもクレアが毎朝準備してくれているものだ。


……羨ましい?ホントに?

確かに彼女は美人だし、才色兼備とも言える、神が二物も三物も与えたようなヤツだ。僕に理性というものが少しでも欠けていたら猛アタックに全面降伏の後にただの腰振り猿に成り下がっていたことだと思う。


ところが、だよ。


「っ!」


少しのアクシデントで手が触れようものなら……


僕は椅子から転げ落ちるように飛び退く。


ドシュ


お分かりだろうか?僕が座っていた椅子の背もたれを貫いている矢が。

確実に僕の命を狙って来たね。窓の向こう、生垣を挟んだ100メートル先にある女子寮の屋上に目を向ける。


『こ・ろ・す・ぞ』


人並みの視力でも確認できるように、しっかりと殺気を込めてそう口を動かす女性が1人。そして突風が部屋を襲ったかと思えば一瞬ですぐ側に立つその女性。


「もうっ!シェリルってばやり過ぎよ!」

『やり過ぎではございません姫様。かようなクソ虫に触れられて良い御身ではないとご理解ください。』

「慶次郎は虫なんかじゃないわ!それに、ここはニホンよ!エルフ語はよして!」

「……かしこまりました。」


相変わらず無表情のまま慇懃無礼に答える。

そして僕に歩み寄るとそのまま胸倉を掴みグッと顔を近付け……


「次はねぇぞクソ虫が」

「……はい」


それならおたくの姫様の方を注意してくれよと思う。


ここまでの流れで何となく関係性が分かったと思うが、クレアは北方四島にあるエルフ国家の姫殿下であり、シェリルは彼女の護衛兼筆頭メイドだ。

クレアがエルフの中でも王族に連なる血筋であるハイエルフという種で、エルフにとっては神聖視される存在。対するシェリルは褐色の肌を持つダークエルフ種で、実は彼女も僕の幼馴染である。


父さんが外交官だったことから子供の頃から知った仲だったのが始まりなのだけど……まあその辺は今はいいでしょ。


「……あの、シェリル?そろそろ離してくれないと……」

「……。」


鼻が付くんじゃないかという距離でいまだ睨みつけているシェリル。昔から表情が読みにくいのもあるけど、むしろ近過ぎてちゃんと見えない。


「ふんっ!」


乱暴に突き放すとそのままクレアに向き直って彼女の服の乱れをパパっと直し始める。

僕はそれを見て冷めたトーストを齧った。


「……シェリル、そろそろ貴女も素直になった方が良いわよ?」

「な、なんのことか?わかりませんが?はてはて?」


クレアは明らかな動揺を見せて、服を直そうとするはずが何故かボタンを外し付け直しと行動に意味不明さを増すシェリルにため息をつく。


「そんなことだと私以外にも盗られちゃうわ。」

「べ、べべ、べらめんめえコンチクショウです!なに?何がでごわす!?」


言葉遣いまでおかしくなっているのが彼女の混乱具合を表している。


「……ケイ、入るぞー。」

「おっ邪魔邪魔〜!」


いつものように勝手知ったる男2人も玄関のドアを開けて入ってくる。

この寮住みの2人は、ハン・チソンとクォ・ダイガンで同じく幼馴染だ。ハンは韓国領生まれでクォは台湾領。昔は国同士の隔たりなどもあったらしいけど、今ではそんなものはなく、三国同盟間では特に薄れている。


「2人ともおはよう、今支度するから少し待ってて!」

「おう。」「ういういー!」


空いたお皿を流しに置いて水につけると、洗面台で歯磨きしながらササッと寝癖を直す。


「……」

「シェリルあひがほー!」


そそくさと洗い物をしてくれている彼女の後ろ姿に感謝を伝えると、耳がピコっと動き「いいから準備を急げ馬鹿者!」と返事が飛んでくる。

エルフ種は耳の動きに感情が出やすいと聞くけど、シェリルはそれが顕著のようで飛べるんじゃないかと思えるほど動くそれに、言葉の勢いほど機嫌が悪くないことを悟れる。付き合いも長いしね。


「……お〜、シェリルは今日もツンデレが絶好調ですな〜。」

「アレはデレを超えて溶けてるだろ。」

「確かに〜。ケイからは見えてないけど、顔がもうね〜。デロデロじゃん。ツンデロじゃん。」

「ね?アレで気持ちに気付いてない慶次郎も凄いけど。」


クレアを含めた幼馴染の3人はシェリルの姿を見てヒソヒソ話す。

どんなに取り繕っていても長い付き合いの彼らに内面は丸わかりなのだ。


「どうせ新婚感に酔いしれてるんだろうな〜。ていうかクレアの侍従だからメイド服は分かるけど、わざわざあのフリフリピンクなエプロンはいらないじゃん?」

「……言ってやるな。」

「そうよクォ?私物を慶次郎の部屋に置くことを正当化してキッチンにこれ見よがしに置いてるんだから。」


そんな会話は肝心の2人には一切聞こえていない。


「でもいいのん?クレアはー?」

「ん?私は別にシェリルならいいわよ?だって慶次郎は王になるんだから側室の一人や二人は必要じゃない。」

「……さ、さいですかー」


既に決められてしまっている友人の将来に同情を寄せ、手早く着替えを済ましている彼を見る。


「うっし!お待たせ!みんな学院行くよー!」

「うん!」「おう」「ういういー!」「……ふんっ」


これは変わってしまった世界で生きる彼らが、これから再び始まる激動を懸命に進むこととなる軌跡を追った物語。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ