第四話
どんな形でも、私は貴方を自分の傍に置きたいの。
ズルくて、最低なやり方だって分ってるのに、其れでも、貴方を手放そうとしない私は、醜い生き物。
「…遅いなぁ…」
静寂な部屋に、乃利子の声とチックッタックと、一秒ごとに時計の針が刻まれる音だけが酷く響き渡る。
乃利子はソファーの背凭れに体を預け、肘掛けに左腕を置き、右手にコーヒーの入ったマグカップを持ち、今にも眠り落ちそうな意識を何とか起させ、今日―…いや、昨日から旦那になった早馬の帰りを待ち侘びていた。
居酒屋にでも行ってるのかなぁ。
……遅くなるなら、電話の一つでもしてくれたら、好いのに…。
そう思った自分に対し、何考えてるのよ! 独身時代と変らない生活を送るって言った彼に同意したから、今の様な関係になれたのよ!! と、込上げてくるどす黒い感情は最初から無いものだと自分に言聞かせ、チラッと時計を見た。
後五分ほどで午前三時になるなという時、ガチャガチャと、ドアを開けようとする音が玄関の方から聞え、待ち人が帰ってきたという気持ちから意識が覚醒し、ダッと玄関の方へ向った。
「お帰りなさい! ……遅かったのね…」
ドアを開けると案の定、酒を飲みましたというのが丸分りなほど顔を真赤にさせ、酒臭い息を吐きながら覚束無い足取りで中へ入ろうとする早馬。乃利子は早馬の脇に腕を差し入れ、自分の肩に彼の腕を回させ、玄関ドアを閉めた。鍵を掛け、早馬の靴を器用に脱がすと、部屋の奥へと向う。
リビングに着くと早馬をさっきまで自分が座っていたソファーに座らせ、「お水、持ってくるね」と言うとキッチンへと向う為、腰を上げた。―…いや、上げようとした。腕を掴まれ、再びソファーに体を沈められると、御腹に腕が回される。
「……早、ちゃ…? 」
「行からいれくらさい! 上原部長!! 」
「……」
乃利子は、体に力が抜けていくのを感じた。そんな彼女の心情に知ってか知らずか、早馬は、抱締める腕に更に力を入れた。
そんなの、覚悟の上だった
(愛の無い生活でも構わないって、さっき、決めたばかりじゃない!! )
後書き
乃利子というキャラは、唯のカマトト女ってわけではありません((いや!誰も、まだそこまでいってないし思って無いと思うよ!!
彼女は、一言でいえば不器用な人間なのです。感情とかを上手くコントロール出来ず暴走しっぱなしですが、かといって、肝心な処では甘えられないという、ぶっきら棒な優しさを秘めています
此の話に出てくる女性二人は、私が今迄書いてきた女性キャラと一味違ったタイプにしてみたのですが――如何でしょう?
初出【2012年5月24日】