第三話
「明智君。此れ、今日中に終らせて」
「えーとぉ、其れは詰り…残業、って事ですか? 」
「早く終らせれば残業なんてしなくて済むのよ。ほら。口より先、手を動かす」
今朝の出来事に続き、二日酔いでグッタリした体に鞭を打って会社に着いたのが、つい数十分前。そして、其処に追い打ちを掛けるかの如く、上司の上原麗子に大量の書類を手渡される。
「……ハァ…」
「溜息吐きたいのはこっちよ。……ったく。じゃあ、五時までに仕上がったら、缶コーヒーを奢ってあげる」
「まじですか? じゃあ、ついでにポテチとかチョコレートとかぁ…」
「缶コーヒーだけ! 」
「…チッ」
「おいテメェ…、缶コーヒーだけでも有難く思えよな。上司が部下に奢る事なんて、中々無いんだからな!! 」
早馬と麗子の会話を聞いていた周りの社員は、部長ズルーい! 私にも奢って! 俺にも俺にも!! と、麗子に詰め寄ってきた。麗子は顔色を此れでもかという程蒼褪めさせ、「分ったわよ! 全員のジュース代は奢ってやるわ」と、自棄気味に宣言していた。
そんな彼女を遠目で見遣り、早馬は、早く仕事終らせなきゃな、と思った。
缶コーヒーにつられて頑張ります!!
(……なんてぇのは建前で、ホントは、貴女の為に頑張りますなんて、素直に言えるワケが無い…)
後書き
上原麗子部長は、此の作品では悪者キャラになっちゃいますが、実際は、結構良い人です(#^.^#)
面倒見は好いし、自分の言った言葉に責任持つから宣言した事を実行する人です。そんな大人な麗子は、部下の間から凄く慕われてたり…
初出【2012年5月23日】