第十三話
『失ってから初めて分る大切さ』とは、よく言ったものだ。
でも、其の言葉。正に今の俺に相応しい言葉なのかも知れない…。
ケータイのバイブ音で目が覚める。怠い体を無理矢理起し、横に目を移す。布団は盛上ってるが、自分以外の温もりは感じない。早馬は、肩を落とした。
押掛け女房として此処に居座っていた乃利子が居なくなって丁度一週間――。
あんなにウザったくて、早く出ていってほしかった彼女が居なくなって清々する筈なのに、早馬の胸の内にはぽっかりと穴が空いたみたいに、何処か物足りなくて、落着かない。其のせいか、今迄出来ていた仕事は手に付かず、周りとのコミュニケーションも取れずで、何時しか社内では孤立していた。
「明智君。ちょっと、好い? 」
そんな彼を見て見ぬフリも出来ず、麗子は上司命令と称して声を掛けた。
実は、あのキス事件以来、二人の間に気まずい空気が出来、暫くの間ぎこちない態度を取っていた麗子だったが、今の早馬をほっとくと仕事に支障が出てもおかしくないと考え、重い腰を上げたというわけだ。
早馬は一瞬驚いた表情を浮べたが、直ぐに何時もの無表情に戻り、コクッと頷くと席を立ち、麗子の前に来た。二人を挟むのはオフィスデスク一台。気まずい空気が二人だけの間に流れる。
麗子はデスクに置かれてる書類に視線を移すと、再び早馬に目を向ける事なく書類を渡した。
「……今日の、五時までに、ね…」
「あ、はい…」
短い会話。話が終ったと思ったらしい早馬は書類を片手に自分の席へと戻っていく。其の背中に名残惜しさを感じた麗子は、「…其れと、今晩、私に付合いなさい」と言った。
言った後で、麗子は酷く後悔した。さっきまで黙々と仕事をしていた他の社員達は一斉に麗子と早馬に視線を向ける。当の早馬の反応はというと、此方に背を向け、振返る素振も見せず、どんな表情をしているのか分らない。
暫くの間。
室内には、時計の針の音だけが響く。其れと、息を呑む声。唯、其れだけだった。
「……部長」
「な…何、かしら? 」
「すいません。…早退して、好いっすか? 」
「……え…? …って、ちょっ!? 」
麗子の返事も待たずに早馬は部屋を後にした。
後で怒られるだろうなぁと頭の片隅で思いながらも体は重たくて、何より仕事が出来るコンディションではないと自覚していたので、職場に長居はしてたくなかった。まぁ、其れは一つの理由に過ぎないが。
「上原部長も、俺と、同じかぁ…」
無自覚の結末
(前までの俺だったら貴女の御誘いは凄く嬉しかったが、今の俺は、貴女の御誘いに、酷く嫌悪感を懐いちまうんだ)
後書き
はい。読んでて、オイ早馬!って思う方、…沢山、居るだろうな。。。何だよ、コイツって、思いますよね(-_-;)
でもね、彼はとても不器用な人間なんだ!だから、一人の女性を愛すと、他の周りには関心を持たなくなるんだ!((おいおい好感上げようってか?
初出【2012年5月31日】




