第十二話(早馬side)
そんな昔の話を引張り出された処で、はいそうですか、と受入れられるわけがない。ってゆーか、全く、身に覚えが無かった。でも、小娘が嘘を吐いてる様にも思えない。
じゃあ、小娘が話してた事は何だ?
「……なぁ…」
「…何ですか? 」
「其のさ…、まじで、俺なの? 」
「……え…? 」
「…あー、其の、あのですねぇ……」
「覚えてなくて当たり前です。だって、十年前の事ですものね。でもね…、私、ズルいんです。貴方が覚えてようが覚えていまいが、私は、貴方とどんな形でも、結婚しようと思ってた」
「………」
「好きなんです…、愛してるんですッ」
人から此処まで想われるのは、多分、一生あるうちにもう無い事だろう。しかも、こんな美人に。靡かないわけじゃ、無かった。でも、俺の瞳には、たった一人の女性しか映ってなくて…。
「ごめん…」
「………あはっ…何、謝ってる、んです、か…」
「……おまっ」
「…御免なさい…。こんな私が、貴方を、好きになってしまって…。ごめんね…ごめんね…っ」
しゃくり上げる彼女を見た瞬間、込上げてくる感情は、何とも言えないものだった。罪悪感に雑じって、彼女に此処まで愛されてる事に対する優越感と、此の侭でいると彼女が去ってしまうんじゃないかという不安感。
――あれ? 何で、不安なんか懐いてるんだ?
好いじゃねぇーか。此のチャンスを逃しちまったら、一生嫁さん気取りで俺を縛り付けるんだぞ、此の女は!! 今しかない! 今しか、此の女を追い出す方法はないんだ。そうだ。だから……。
「ほんと、迷惑してるんだわ。だからさ、サッサと家から出ていってくれるよな」
「……うん…あの、今は遅いから、朝一になったらで、好いですか? 」
「あぁ…是非、そうしてくれ」
俺が吐いた言葉は、余りにも冷たく辛辣なものだった。小娘の反応が気になり、チラッと見遣ると、彼女の顔は悲しげに歪み、今にも泣出しそうだった。そんな姿に、胸が張裂けそうなほど苦しくなった。
『好きなんです…、愛してるんですッ』
嗚呼、そうか…。そうなんだ…。何で、もっと早くに気付かなかったんだろう。
隣で落込んでる小娘に対し、俺が懐いてる此の感情の名は――
【遅すぎた恋】
そう気付いた時には既に遅く、俺は彼女を抱締めてあげられる権利は、もう無かった。
後書き
胸が締め付けられる位、切ないものにしたかったのですが、私が書くと如何してこう、グダグダでしかならないんだろう…((しょうがないさ。だって、楽十だもん
初出【2012年5月30日】




