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第十話(早馬side)

 今日は、散々な日だった。部長とは気まずくなるわ、何時もは余裕で終る筈の仕事は手間取ってこんな時間になるまで片付かないわで、現在の時刻、午前0:00。

 何でこうなっちまったんだろうなァ…。

 そうだ。あれも此れも全てあの小娘が悪い。あの小娘と会ってから、良い事なんて一度も無い。そうだよ、あの小娘が――…。




「早ちゃん! 」


「?」



 呼ばれた気がしたから顔を上げると、今、一番見たくない顔の奴が、此方に向って走り寄ってきた。あらまぁ。俺を見るなり嬉しそうな顔しやがって、可愛いねぇ。そう言って欲しいワケ? 生憎あいにく、俺はそんな優しい奴じゃない。

 ってか、何? 妻気取りなわけ? 確かに、俺達は戸籍では夫婦だけど、俺は認めちゃいねぇぞ。愛しても無い女が嫁さんなんて、大事に出来るわけもないしな。



「御酒…、臭くない…。御仕事? 」


「……」



 小娘の質問には答えなかった。答えるつもりなんて、無かったからだ。

 薄暗い夜道に人気は、俺と此の娘以外無し。民家だというのに、まるで誰も住んでないんじゃないかという錯覚に陥る。まぁ、其れは寝静まっててもおかしくない時間帯だからなわけで。


 そんな、人気がない場所の為に電柱に備え付けられてる蛍光灯の明かりは、スポットライトを当てるかの様に、俺と小娘を照らしていた。



「……助けて、くれたんです…」


「……は…? 」


「早ちゃんは覚えてないかもしれないけど…、合コンで、初めて会ったわけじゃ、ないの…」



 段々小さくなっていった声。でも、最後まで言い切ると、小娘は顔を此れでもかという位真っ赤にさせ、そっぽを向いた。






【其の言葉に

 嘘を吐いてるとは思えない】


 アンタは何が言いたいんだ?

初出【2012年5月29日】

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