名前。
この物語は死の表現や残酷な描写が含まれます。
気分が優れない方は、閲覧を中止してください。
今日は何とか学校に辿り着いた。
気分は暗いままだが、薬がよく効いていて何も考えられない。頭が空っぽだ。
いつものように正午過ぎ。
校舎に入った僕は誰にも会わないように図書室を目指す。
ありがたいことに、図書室か保健室にいれば出席扱いにしてもらえた。
とはいえ、人目が気になるんで殆どを図書室で過ごす。
二階の隅にある図書室は少し暗くて、人の出入りも少ない。僕にはピッタリだと思う。
司書さんも僕の事情を知ってか、控え室から殆ど出てこない。
たまに飲み物を差し入れてくれる女性だ。我ながら恵まれてる気がする。
気になるのは、僕の後ろをついて回る悪魔の存在だった。
本人曰く「邪魔はしねぇ。死にたくなったら声かけろ」との事。
不思議なことに、誰にも見えずに聞こえない。
僕がなりたい理想の存在だった。
手前の人気がありそうな本たちには目もくれず、奥の本棚を目指す。
少しの埃の香りと少しのカビの香りがする。
独特な香りを放つ、長年放置されたであろう分厚い本。
普通の学生生活が送れていれば、この香りに気づかなかったんだろうか。それは悪い気がしない。
ふと大量の本の中に“悪魔“という文字を見つけた。
他にもたくさんの単語が並ぶ中で、その二文字を見つけるとは何の因果か。
普段は読む事もない辞書のような本を手に取ると、パラパラとめくる。
字を読むと言うより、挿絵を鑑賞することが目的だ。僕がよくやる手法。
本を読んだ気になって、賢くなった気がする。
高校受験の時も似たような感覚だったなと。ほんの数ヶ月前のことが懐かしく感じる。
閑話休題。
悪魔という者は大体が異形だ。人型と言える悪魔はいるのだろうか。
そんなこと思いながら、挿絵を凝視する。
何かを察したのか隣から声が聞こえる。
「悪魔と一括りにしても特徴と性質が異なるんだよ。
その中で名前がついてるのなんかほんの一握りだ。俺の特徴が人型だったってことだろ」
僕とは真逆だ。これが率直な感想だった。
個性があって名前がない。それが悪魔なら、名前があって個性がないのが僕だ。
僕の代わりはいくらでもいる。
“聖澤 信乃“なんて名前を貰いながら、中身はこのザマ。
名前負けもいい所だ。かと言って、他に相応しい名前なんて全くない。
思いつかない。仕方ない。僕は空っぽなんだから。
「名前なんて大した意味なんてない。寧ろ、俺らにとってはないほうがありがてぇ」
何故なら、名前の持つイメージに縛られることがなくなるから。
それほどに納得できる理由がなかった。
オカルト話によく出てくるあれか、と。本物の悪魔が言うんだ。説得力がある。
少しばかりゾクっとしてしまった。
何となく、漠然とではあるけれど、この悪魔をこのままにしておくのは惜しいと思う。
縛っておきたいとかそんな話ではなく、もっと漠然とした、ぼやっとしたこの感じ。
この感覚はきっとそのうち答えが出るだろう。
何にも考えられないこの頭では、これ以上のことは分からない。ただ、僕の覚悟を見せるには丁度いい。
震える手で本を閉じ、深呼吸を数回。
「君に名前をつける。これが僕の最初の願いだ。」
悪魔は驚いた。僕に死ぬ気がないと言い切っていたんだから当たり前な気がする。
それでもニカっと笑い直し、いいぜと言いながら一言。
「しょぼい願い事だな、意気地なしが」
自分でも嫌なぐらい自覚してる。悪魔も笑わしてしまうような意気地なしの死にたがりだ。
これで今日から“ロゼ”と呼ばれる悪魔は、死にたがりと本格的な契約を交わす。
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