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悪魔の王様

 

 悪魔の世界では上級より上には爵位が設けられている

 上級の次に上である特級には「伯爵、侯爵、君主」と呼ばれ、数十もの悪魔を従わせるリーダー格


 そしてさらに上、最上級は9人しかいない。それらを『王』と呼んでいる

 王はその名の通り悪魔達の頂点に君臨している悪魔であり、指先ひとつで大陸を沈ませるほどの力を持つらしい


慧眼(えげん)の悪魔】

【礼儀の悪魔】

【音楽の悪魔】

【予知の悪魔】

【戦争の悪魔】

【錬金の悪魔】

【博愛の悪魔】

【森林の悪魔】


 そして


「【遊戯の悪魔】…!!」


 それは悪魔の中で最も自由な悪魔

 悪魔の中でも禁忌とされている事に躊躇わず手を出し、ありえないというものをいとも容易く覆す。興が湧いても明日には飽き、逆に興味なかったものに突然興味を示す予測不能な行動と思考


 つまり、『自分が興味有るか否か』で物事を判断するということ



 悪魔は同種族を取り込む、つまり『共食い』は出来ない。取り込んだ悪魔の魔力の干渉により取り入れた本人が消滅するから

 だが【遊戯の悪魔】は唯一それができる。『王』である故の気が遠くなる様な魔力量により干渉など出来ないに等しいからだ

『共食い』への興味が出れば、の話ではあるが



「えぇ、ダンドリス王様だったの?」

 教科書に書いてあった『悪魔の王』については特級悪魔と契約した魔術師がその悪魔から聞いた話らしく、いかにも貴族っぽいような表現がされていたが…

 実際はワガママだしチーズオムレツは手で食べるし口悪いし、なんか違う

「何だその不服そうな顔は。確かに『王』の1人とは呼ばれていたが今は最下級だ、どう見ても魔法が使えない可哀想な悪魔だろう」

 上級の悪魔を倒したくせに可哀想だなんてよく言うよ

「まるで不良じゃん」

「そういえば人間は喰ったこと無かったな」

「いやごめんって!シニタクナイ!」




 必死に抵抗するアレクにニヤニヤしながら近づく悪魔を唖然と見ているグレイグは理解が追いついていなかった


 歴代魔術師の中でも『王』を喚ぶことが出来たのは誰一人としていない。


 大昔にとある魔術師が意図的に『王』を喚ぶ術を見つけ試した結果、必要だった膨大すぎる魔力が枯渇し命を落とした

 それからその術を記した書類は王城で厳重に管理し、二度と人の目に晒されることはなくなった



 そのような歴史がある中、今目の前に『王』を召喚し契約したにもかかわらずケロリと生きている人間がいる



 落ちこぼれのアレク



「ばかな、ありえない…いくら最下級に堕ちたとしても必要な魔力量は変わらないはずだっ!落ちこぼれに出来るはずがないだろう、一体どうやったんだ!!」


「え、どうやったと言われても、教科書通りにしたとしか…」

「そんなはずないだろう!王を呼ぶなんてそれなりの魔力を─」


 途中でピタリと黙り、次いでガタガタ震え独り言のように何かを言っている

「ありえない…こんなことあってはならないッッ」




「数千年続いた魔術師の中で落ちこぼれの貴様が最も魔力が多いなんてあってたまるかー!!」

 飛びかかってきた先生は狂ったような目をして僕の首に手を伸ばし────


「そこまで」

 ドンッと鈍い音を立てて床に転がった先生と呆然としている僕の間に、黒いローブにつば広ハットを身につけたエルフが立っていた


「グレイグ先生、あなたの行動は目に余ります。直ちに帰宅しなさい。追って沙汰を伝えます」



 白目でピクピクしている先生に聞こえたのかどうかは分からないがその人はくるりとこちらに向いた

 わぁすごい美人…あれ?どこかで見た気が

「フィー先生から話を聞きました。あなたがアレク君ですね?」

「は、はい」

 フィー先生とはこの前の召喚した時に「本当にこの悪魔でいいのか」と何度も確認した先生の名前



「そしてそちらの悪魔がアレク君が契約した最下級悪魔…」

 我関せずと言ったように近くの机に腰かけて足を組んでいるダンドリス、どこまでも偉そうだ


「私は学園長のサマルです。なるほど、最下級悪魔と契約したと言ったものだから様子を見に来ましたがどうやら杞憂のようですね」

「学園長!?」

 やばいどこかで見たことある顔だとは思っていたけど学園長だったとは


「すみません!どうか退学だけは!」

 今退学したら帰るとこないんです!!

 契約した悪魔を従わせれず、挙句の果てに先生の悪魔の腕食べさせてしまったから望み薄だけどっ



「そんなことしませんよ。今回はこちらの教師の過ぎた指導のせいですから。それに『王』を召喚した希少な魔術師をそう安安手放すわけありません」

「へっ」

「【遊戯の悪魔】、『王』の座に座っていたあなたが何故最下級になったのか経緯は分かりませんが、行動は慎むようお願いします。直接被害被るのはあなたの主人である彼なのですから」

「知ったことか」


「実は私ある悪魔と知り合いなんですが、その方に相談することも可能です」

「は?だからどうし──」


 ぴたり、と動きが止まったと思ったらものすごく嫌そうな顔をして舌打ちをしたと思ったらまたそっぽを向いた

 一体何なんだ



「とりあえずアレク君、今から学長室に来てほしい」









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