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イマジナリーフレンド  作者: 黒井木アイシャ
8/24

見ない知らない気付いてない

屋上でそのままぴゆと別れ、ぼんやりと考え事をしながら1人階段を降りて帰宅した。


(あんまり構いすぎるのも良くないのかもしれないな…)


不便な今の生活を気に入っていると本人は言っていたし、あれやこれやとお節介を焼くのは此方のエゴの押し付けだ。

安いペラペラのビニール傘の露を払って傘立てに戻すと、後ろ手に玄関の鍵を閉める。

不便と言いつつも鍵のかかった部屋に平気でワープができる時点で、基本的な生活水準は人間よりも上なのかもしれない。

心配性だと言われたのは、遠回しにうざったいという意味だったのかも…。


誰かとまともに話したことや食事を共にしたことが久し振りで、無意識に舞い上がっていたようだ。

本来、頼まれてもいないことはするべきではないし、ぴゆにはぴゆのペースがあるんだろう。

明日からはまた来るもの拒まずの距離感にしなきゃな。


溜め息を一つして、気晴らしに片付けをすることにした。


-------


一人暮らしをするにあたって荷物をあまり増やさないように心掛けていたのでそんなに部屋は散らかってはいなかった。

ただ一つ、見ないフリをして全く手をつけていない箇所があった。ーークローゼットだ。


実家暮らしの時代に集めた漫画を暇つぶし用にとダンボールに詰めて引越しの際に持ってきたが、一人暮らしは何かと忙しく荷解きさえしていない。

いつか片付けようと押入れに押し込めたままにしていたが、良い機会だから片付けてしまおう。


こんな大掃除もどきは天気のいい日に行うものと相場が決まっているが、思いついたのが大雨の日なんだから仕方ない。


クローゼットを開くと、ハンガーにかけられた洋服の下スレスレまで引越社のキャラクターが描かれたダンボールがみっちりと詰みあげられていて、見ただけでウッとやる気が削がれる。

そのままクローゼットを閉めてしまいたい気持ちをぐっと堪えて、ダンボールを引っ張り出した。


太い黒の油性ペンで、雑にマンガと書かれたダンボールのガムテープにハサミで切り込みを入れて中身を確認する。

懐かしいお気に入りタイトルが一巻から最終巻までまとめて入っていた。


(高校生の頃、バイト代でちまちま集めてたなぁ)


適当な巻を取り出してぺらぺらと捲る。

少し日焼けしているものの、特別目立った汚れもないのでまとめて中古本買取に出せば1,000円くらいにはなるだろうか。

売りに出すと考えた途端に若干の名残惜しさが生まれたが、今の今まで忘れていたのだから手元に置いておいても読み返しはしないだろう。

続けて他のダンボールも同じように中身の確認をした後、元のようにガムテープを貼り直して買取屋にメールで問い合わせをし、その流れで宅配業社に集荷の依頼までした。こういうものは思い切りが大事なのだ。


大きなダンボールを4個も引っ張り出した後、せいせいした気持ちで広くなったクローゼットを見ると、隅の方に比較的小さなダンボールがあった。

手にすると中からカランカランと、缶が物に当たったような軽い音がする。

他のものと違ってガムテープで封がされていないので引っ越しした後に仕舞い込んだようだ。

中を開けると、遊園地のお土産でもらったお菓子の缶と大学の授業で使うノートやペンケースが入っていた。


ーーああ、大学用の荷物か。


中を見るのも面倒臭い。

途端に火がついていた片付け欲に水を差された気分になって、再びクローゼットの隅にそのダンボールを追いやるとそのまま扉を閉めた。


-------


片付けに一区切りをつけた後、レトルトの白粥におばあちゃんお手製の梅干しを乗せて夕飯を食べた。


(梅干し……)


考えないようにしていたはずなのに、連想ゲームの要領でまたぴゆのことを考えてしまった。

たった数回会っただけなのに、なんでこんなに気に掛かるんだろうな。


風が木々を揺さぶる音が聞こえる。


(暗い雨の日に1人で寂しい思いをしているんじゃないかって心配になるのは、自分がそうだからじゃないのか)


心の中の自分に痛い部分を突かれて苦い気持ちになった。


-------


ダンボールを片して何となく身体が埃っぽくなったような気がしたので、久々に浴槽に湯を溜めることにした。

普段はシャワーしか使わないので、浴槽を軽く洗うことにする。


(前はこんな風に、色々する気になんてならなかったのに)


やれやれと思いながらシャワーヘッドをホルダーに戻すと、何処からか音がしたような気がして耳を澄ます。


何の音だろう。


『かー…』



『…れかー』




高い、何かの鳴き声のような…




『だれかーー!』




『誰かたちけてーー!!』



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