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イマジナリーフレンド  作者: 黒井木アイシャ
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ぴゆのはじめてクッキング

キッチンに立ち、賑やかなテレビの音をBGMにカレーの下拵えを始めることにした。

ニンジンの皮を剥きながら、誰かがいる空間は居心地がいいなと感じる。

ーーたとえそれが謎の生き物であっても。


見た目は完全に子ペンギン…いや、少し頭が大きいか?

拙いながらも喋るということは人語を理解して使える知能はあるし、アニメがあるということは人間に限りなく近い文化がありそうだ。


「んふ〜!今回も神回でちたよ」


最高の作品でちねと言いながら、キッチンのあらゆるものを足場にしてシンクまでよじ登ってきたぴゆが、しげしげと俺の手元を見つめる。


「かえーに入れるやち?」

「そう、ニンジン」

「ぴゆもやりたぁい!」


貸して貸して!と小さな両手を出してせがむので、比較的小さめのニンジンとピーラーを渡して様子を見ることにした。


「手を切らないようにな」

「くっ…こりは…なかなかむずかし…」


そろ〜っと恐ろしい程ゆっくり皮を剥いている。

…うん、この様子なら手を切ることはなさそうだ。

俺は安心してジャガイモの芽取りに手をつけることにした。


「ところで、ぴゆはペンギンなのか?」

「違いまちよ、ぴゆはぴーゆん星から来たぴーゆん星人でち」


あくまでも平静を装い、世間話をするようなフランクさを演出しながら聞いたつもりだったが、返事のパンチが強すぎて危うくジャガイモを落としそうになる。


「へ、へぇ〜…じゃあぴーゆん星人はたまたま地球のペンギンに似てるってこと?」


「ん〜…まあ話すと長くなるんでちけど…。

一番最初にちきうに降りたぴゆたちのご先祖ちゃまがペンギンに擬態すゆことを選んでから、ぴゆたちはこのぷりちーぼでぃーで生まれるようになりまちた。

ぴゆたちは人間を圧倒的に上回る超知的生命体なので、本来目に見える肉体など必要ないのでちよ」


フンと得意げに胸を張って話しているが、この会話の間にぴゆが剥いたニンジンはゴボウのように細くなっていた。

これが…超知的生命体が剥いたニンジン…。


「あ、ありがと。もう皮剥きは大丈夫だよ」


ニンジンがなくなっちゃうからね。


「お安いご用でちよ!

ちゃて、他にぴちもんはありまちか?

特別に答えてあげまち」


それから、カレーの支度をしながらぴゆから色々な話を聞いた。

ぴーゆん星はひとつの大きな宇宙船であること、今は島の形に宇宙船が変形し、ぴーゆんアイランドとして地球の暖かい地域の海を移動していること、ぴーゆんアイランドでは人間と同じように畑を耕したりそれぞれ色々な仕事をしながら暮らしていること。


「ぴゆたちはある目的を果たすため、ぴーゆんアイランド以外でも人の目を忍びながら地球のあちこちで生活していまち」


はいと手渡したカレー皿に山盛りにご飯を盛りながら、ぴゆが真剣な面持ちで語り出したので冷や汗が滲む。


(ある目的ってまさか…地球侵略…!?)


「ま!ぴゆはまだ子どもなので詳しくは知らないんでちけどね〜!」


「知らないんかい、心配して損した。

…はい、じゃあ運ぶから、ぴゆはスプーン持ってきて」


引き出しから小さめのスプーンと、カレースプーンを取り出してぴゆに手渡す。


「ぴゆ、おろーりって初めてでちかや…

うまくできてるといいんでちけど」

「大丈夫、きっと美味しいよ」


ぴゆはへへッと照れくさそうにしてるが、ニンジンの皮を剥いただけでは味には全く影響が出ないことは秘密にしておいた。



--------



隠し味にケチャップとチョコレートを入れた甘口カレーはぴゆに大好評で、その身体の何処に入るんだというほど何度もおかわりをし、最後はタッパーを持ち出してみっちみちにカレーライスを詰めてお持ち帰りまでした。


「えー、けぷっ…本日わ、どーもごっちょーちゃまでございまちた」

「はーい、気を付けてな」


玄関先でぴゆと別れてドアを閉めた後、もう一度静かにドアを開けてそっと部屋を出る。

本当に昨日ぴゆは階段を使って帰っていったのか、もう一度確認したかった。

今回は絶対見逃さないようにかなりギリギリを攻めようと、息を浅く細くしながら、忍者のような気分で後ろを歩いていった。


ぴゆが曲がり角を曲がって階段を降りた瞬間に、間髪入れずくだり階段を見たものの、やはり…いない。


(ワープか…?)


ふぅ、と詰めていた息を吐く。

そりゃ宇宙人の跡をつけるなんて無理な話か。

途端に、それまで真剣になっていた自分が滑稽に思えて苦笑する。


ぺちぺち ぺち ぺちぺち


……あれ?

聞き慣れたぴゆの足音が頭上から聞こえる。


もしかしてぴゆは階段を降りていたんじゃなく、昇っていたんじゃないのか?


ハッと気付いて、急いで階段を昇る。

屋上は安全の観点から立ち入り禁止にはなっているものの、確かドアに鍵は付いていないはず。

…まあ、ぴゆに鍵はあってもなくても関係ないけど。


屋上への階段は簡易的に柵で区切られていたので、極力音を立てないように横にずらして階段を昇ると、万が一にも他人に見られてもいいように元の場所に戻した。

踊り場は昼間なのに薄暗くて少し埃っぽく、使われていない椅子や古い棚が置かれていた。


わざわざ屋上から帰るということは、UFOの類でも使って移動しているのだろうか。

それを俺に隠しているということは、やはり見られたくないということだろうか。

鶴の恩返しよろしく、見られたからにはさよならだなんて展開…

屋上の見慣れないドアを目の前に、今更ながら開けるのをためらう。


(いいや、此処まで来たんだから行こう!)


手汗が滲むのを感じながら、ゆっくりドアノブを捻る。

意外にも音もなくあっさりとドアは開いた。



「あ、ゆーた!」

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