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イマジナリーフレンド  作者: 黒井木アイシャ
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朝もはんはおにぎょり

ハルと離ればなれになってからというもの、まともに眠れた試しがない。

夜、ベッドにもぐりこんで目を瞑っても、浮かぶのは不安なことや嫌な思い出ばかりで気が滅入ってしまい、全然眠気はやってこない。

毎日23時頃、寝る気もないのに電気を消して、ベッドに座り込んでボーッとする。

何時間も何時間も。

たまにウトウトして、2-3時間経っていることもある。

そうしてカーテンの隙間から差す光で、いつの間にか夜明けがきたことに気付く。

気が向いたら風呂に入ったり食事をしたり水を飲む。

それだけするのが精一杯。


でも、昨日は違った。


ぴゆと出会った当日、まだ外が暗くなり始める前に部屋中掃除機をかけてまわり、ハチミツでベタベタになったラグを洗濯機にぶち込んだ。


(一人暮らし始める時はドラム式なんか絶対いらないと思ったけど、この乾燥機能を味わっちゃうともうやめられんな…)


ラグを乾燥させている間、ぴゆが読み散らかした漫画を片付け、皿を洗い、ふとお腹が空いたのでインスタントの白粥を食べた。


何となくまたぴゆが突然現れる気がして、俺はきちんとやっているぞと、ぴゆに証明しなければいけないと思った。



--------



相変わらずまともな睡眠は取れなかったが、朝7時ごろになるとカーテンを開けた。

昨日、久々に動いたからか、ふくらはぎが筋肉痛だ。

痛む足に苦労しながらキッチンに向かい、冷蔵庫の中身を確認する。

仕送りのお陰で冷蔵庫の中身は潤沢だ。

母さんと父さんには頭が上がらない。


ーーぴゆはどんな食べ物が好きだろうか。

嫌いなものや食べられないものはあるだろうか。


「ぴゆ、今日はかえーがたべたぁい」

「うわ!!」


ガチャン!と扉側のポケットにしまわれた瓶がぶつかり合う音とともに、冷蔵庫のドアが勢いよく閉まる。

驚きのあまり力任せに閉めてしまった。


「おはよーございまーち」

「びっくりした!」

「何だか部屋がキレイになりまちたねぇ」


朝っぱらから驚かされて冷や汗をかく此方をよそに、ラグを洗濯したことに気付いたのかイモムシのように這いずり回っている。


「玄関の鍵は閉めたはずだけど」

「ぴゆには関係のないことでちね」


チッチッチと言いながら得意げな顔をして短い指を左右に振っている。指…?


「それ手ぇどうなってんの?」

「ゆーたの手と同じでちよ」


ぴゆは指をシュッと引っ込めてぷいとそっぽを向いた。

一見喋る子ペンギンなのに、本当に不思議な生き物だ。

身体の中から紙を取り出したり、鍵のかかった部屋に侵入したり、突然消えたり…。


「あ。そういえば昨日…」


と言い出して、はたと気付く。

ぴゆを追跡しようとしていたことは本人には秘密なんだった。


「ぴゆ?昨日、なんでちか?」

「あ、えーと、昨日はどうやって帰ったんだろうな〜と思って…」


小首を傾げるぴゆに内心ギクリとしながらも、ごまかすように言葉を続ける。


「階段さ、高いだろ?建物古いし…」


ぴゆの身体のサイズ感に触れるのは何となくデリカシーがないような気がして、咄嗟に変な言い訳をしてしまう。

特別古い訳でもない建物と、急な訳でもない階段を思い浮かべて苦笑いがこぼれる。



「フフッ、ぴゆを心配しているんでちか?

確かに、いこし高い階段でちが問題ありまちぇんよ。

昨日も普通に昇り降りできまちたから」


ぴゆ足長いしと言いながらお腹をつまんでスカートをたくし上げるような動作をすると、小さくて短いあんよがぱたぱた動いている様子が見えた。


ぴゆの発言を真に受けるのなら、昨日は普通に階段を降りて帰っていったのだろう。

ワープを使えるのか、はたまた空を飛ぶのか、何にせよ不法侵入がお手のものであるこの生き物に人間の道理は通じないと考えた方が良さそうだ。


「無事に帰られたなら良かったよ。

それで、カレーは昼でいいか?

朝からカレーは流石に重すぎる」


「ぴーゆん…まあいいでちょう。

ぴゆは物分かりの良いぴゆでちから…

その代わり、別のあさもはんをくだち!

ぴゆ、おにぎょりがいい!」


ギュッギュっとおにぎりを作る動作をしているので、おにぎょりがおにぎりであることが理解できた。それ手ぇどうなってんの?


「はいはい。

そしたらご飯炊かなきゃいけないから、なんか、適当にテレビ見たりしてて」


「はぁい!」


ぴゆがチョロQのようなスピード感でテレビの前に行ったのを見送って、キッチンのシンク下収納から仕送りの米を取り出して米びつに移す。

ご飯をきちんと炊くのは久々だ。

物臭な俺のために、わざわざ無洗米を選んでくれる母の気遣いが有難い。


炊飯器を早炊きモードでセットしてふとリビングを見ると、俺のベッドからブランケットを引っ張り出して身体中に巻きつけ、まん丸になったぴゆが熱心にるろうに剣心を読んでいた。


(明日は布団干すか〜)


炊飯器からは早くもシュンシュンと音がしていた。

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