あまい、あいまい。
あれから数日。
幸いにも柊くんは大事には至らず、数週間の入院のみで、また自宅での療養に切り替えられると尾池さんから話を聞いた。
「本当に、裕太くんがあの時気付いてくれなかったらと思うと……あっ、これね、うちの娘、柊の母親から、で、こっちは私から!
本来なら母親から直々にお礼するべきなのにごめんなさいね、今仕事で海外にいて…。
できるだけ急いで戻ってくるとは言ってたけどいつになることやら」
笑ったりため息をついたり、表情をくるくる変えながら尾池さんは捲し立てるように話し続ける。
俺はというと、はぁとかいえいえとか、愛想笑いも程々に適当な相槌を打っていた。
「お見舞いに行っても大丈夫ですか?」
「あら〜!もうそんなにしてもらっちゃって…あの、場所ね、市内の大学病院の1105号室!
いい孫で覚えてるのよ私!アッハッハ!
それじゃこれね…いいからいいから、ありがとうの気持ちなんだから!はい!じゃあまた!」
遠慮する俺に半ば押しつけるように大きな紙袋をいくつか渡して、尾池さんは帰っていった。
小熊のようなまるんとした尾池さんの背中を見送って静かに自宅のドアを閉めた途端、安堵のため息とともに一気に体の力が抜けた。
勿論、柊くんが無事であることが一番安心したが、実のところ、不法侵入を咎められるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのだ。
部屋でのんびりしていたら、黒いシーツのウサ耳オバケが助けを求めにきましたなんて、誰が信じてくれるだろうか。
尾池さんから受け取った紙袋をテーブルに置くと、それまでクッションに埋もれてマンガを読んでいたぴゆが流れ星のような速さで近付いてきて、紙袋の中身を物色しだす。
「な、な、なんでち?こりはなんでち?」
おしりを振って歌いながら紙袋の中に潜り込んで大小様々な中身を取り出すと、ビリビリと容赦なく包装紙を破り捨てていく。
「この前の…ほら、お隣の柊くんが倒れちゃった時にさ、救急車呼んだでしょ?
その時のお礼にって。中身なんだった?」
紙吹雪のように散らかされた色とりどりの包装紙を拾い集めながら尋ねる。
「こりは〜、おせんめい?
あとくっちーと、かんじめと、たおゆ」
……お煎餅、クッキー、缶詰、タオルか。
足が早いものはなさそうだな。
ぴゆは次々と箱を開け、自分が食べたいものかどうかをチェックしては興味のないものを端に避けていく。
そうして仕分けが済むと、俺の前にはタオルと唐辛子煎餅だけが寄越された。
「これで綺麗に半分こでちね」
んふーと満足そうにため息をつき、さっさとクッキーの袋を開けて食べ始める。
「外国の味!」
「へぇ、ホノルルクッキーだって」
「ピーユンコレスキー」
「ぴゆの星の偉人?」
淡い緑色の缶の中にはパイナップルの形をした厚みのあるクッキーがぎっしりと入っている。
そういえば、尾池さんが柊くんのお母さんは海外にいると言っていた…つまりこれは柊くんのお母さんからの物か。
ひとつ摘んでかじってみれば、なるほど、日本のクッキーとは違う豊かなバターの味がした。
「ぴゆはこのチョコのやつが好きでちねぇ」
「はいはい、また明日ね」
「ぴーゆん!」
素早くクッキー缶を閉めるとぴゆはうらめしそうに叫ぶのだった。




