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イマジナリーフレンド  作者: 黒井木アイシャ
17/24

虹色の乱反射

ぴゆハウスとお別れをしてからしばらくが経ち、のんびりとした毎日が続いた。

相変わらず俺の睡眠時間は短く、外が明るくなるまで寝つけなかったり、反対に寝つきが良くても夜中に目覚めたりしていたが、傍らで薄手の掛布団を蹴飛ばして大の字で寝るぴゆの様子を見ると、世界中で自分だけが起きていると錯覚するような孤独な夜も気にならなくなった。

寧ろこの小さな生き物が安心してゆっくり眠れるように、優しく、穏やかな夜が続けばいいと願った。


「ぴゆ、ご本が読みたいんでちけろ」


季節は少し移ろいで汗ばむ陽気になった頃、日課のあいうえお体操を済ませたぴゆが洗濯物を干していた俺に話しかけてきた。


「本?絵本とか?」


クローゼットから取り出した子供用のタオルケットを物干し竿にかけながら足元のぴゆを見るとチッチッと指を振っている。


「ぴゆが読みたいのは、おろーりぼん!」

「おろ……り…お料理本か!」

「そうゆってるじゃないでちか、変なゆーた!」


本人はやれやれと首を傾げているが、ぴゆの独特な発音を変換して理解している俺はなかなかすごいと思う。


「ぴゆ、食べたいごあんがあるんでちよ。

まから始まゆやちなんでちけろ」

「まー?麻婆豆腐とか?」

「もっと短いんでち。そいで見たことない」

「見たこともないの?なんだろう…

本で調べて分かるかなあ」

「本ならいっぱいあるでちょ!

インターネットは載っている情報に偏りがありまちからね」


和食か洋食か、はたまた地球の食べ物なのか…全く見当がつかない。

本となると、やはり図書館だろうか。

自転車で15分くらい行けばかなり大きな図書館がある。


「図書館って知ってる?」

「無料のTSUTAYAでちね」

「遠からず近からず…

まあ本を借りられる場所なんだけど。

そこに行く?」

「やった!」

「でも静かにしなきゃダメだよ。

みんなが本を読んでるからね」

「ぴゆもうベビじゃないんでちよ。

しーかにすゆことくやい余裕でち!」


両手を広げて嬉しそうにくるくると回るぴゆを見て、もっと早くどこかに連れ出してあげれば良かったなあと反省する。


とにもかくにも、久々の外出だ。

気合いを入れるべく顔を洗いに洗面所へと向かった。


-------


初夏にしては強い陽射しが腕や背中をジリジリと炙る。

生温い風を切りながら人通りの少ない街を自転車で走っていると、後ろから古めかしい軽自動車が大きなエンジン音を立てながら追い抜いていった。

その様子を見るや否や、前カゴに乗るぴゆがバタバタと手足を揺らしながらまくし立てる。


「もっともっとスピード出してくだちゃいよぉ!

あんなポンコツカーに抜かれまちたよ!」

「自転車は車を追い抜くようにはできてないの。

ほら、段差あるぞ〜」

「あ!きゃーなんでちよぉ!」


子供用の小さな麦わら帽子を被ったぴゆは、器用に前カゴの縁をきゅっと握ってはしゃいだ。


久々に駐輪場から引っ張り出した自転車がきちんと動くかどうか、また数ヶ月ぶりの自転車を乗りこなせるのかどうか、他にもたくさんの不安はあったが何とかなりそうだ。


広い公園の敷地内、煉瓦造りの道を通り抜けると小高い丘の上にガラス造りの建物が見えた。

丘の麓に自転車を停め、ぴゆを抱き上げて真っ白な階段を登る。


「きえーい」


太陽光を反射して虹色の光を放つ壁面を見てぴゆが呟いた。

世界的に有名な建築デザイナーが設計を手掛けたという図書館は、建物内にバリスタが駐在するカフェもあり、デートスポットとしても有名だ。


「中に人がたくさんいるから静かにね」


階段を登り切った後、図書館の出入り口からは少し離れた場所で持ってきたリュックを開いて中にぴゆを座らせる。

念のためタオルで包んだ保冷剤と冷やしたスポーツドリンクも中に入れておいた。

リュックの中の水筒を見つけるや否や、飲み干す勢いでスポーツドリンクを飲むぴゆはこくこくと頷いている。

そんなぴゆの頭を撫でて、中が見えない程度にリュックのジッパーを閉めて背負うと、出入り口の自動ドアを通って図書館の中へと進んだ。

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