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イマジナリーフレンド  作者: 黒井木アイシャ
14/24

おわかれしなきゃ

翌日。


「ぷわーあ…おはよーございまち…

お、ゆーたは相変わらず早起きでちねぇ。

うーん…7時半くらいでちか?」


「11時だね」


ちょうどベランダで洗濯物を干していた時だった。

夜中に起きていたせいか、その日、ぴゆが起きてきたのは昼頃。

眠そうにあくびをしながら、陽射しを浴びて伸びをしている。


「でわ、今日のぶやんちはらぴたぱんでお願いしまち」

「ラピュタパン?目玉焼きの?」

「いえち!ちゃて、ぴゆは世界の動きを確認ちなければ」


ぴゆはテレビのリモコンを手にすると、短い指で器用に操作し、教育テレビにチャンネルを合わせた。

映し出された番組では、カラフルなパペットと司会進行と思われる女性が身振り手振りで話している。

ぴゆがお気に入りのビーズクッションに座って教育テレビを観ているその様子が、あまりにもいつも通りで一瞬拍子抜けしてしまうものの、楽しげにぴぴぴと笑うその姿に昨晩の泣いている姿が重なる。


(平気そうに振る舞っているけど…)


どうしたものかと考えながら、ベランダの窓を閉めて洗濯カゴを洗面所に戻しに向かう。


誰かに心配をさせたくない、いつも通りに過ごしたい、上辺だけでもそう振る舞うことで自分を誤魔化す。

元気そうに見せかける理由は人それぞれだ。

別にどう過ごしたっていい。それで自分の中の悲しいことを終わりにできて、日常を取り戻せるならやり方は何でも構わないと思う。

でも、ぴゆの場合は違う。

きちんと向き合って、決別をしなければいけない。


リビングに戻ると、テレビの向こう側でパペットとパペットの友達だと名乗る女性が元気良く別れの挨拶をして、番組が終わった。


「ゆーた、おながいがありまち」


そのエンディングテーマと重なるように、ぴゆは此方側に背中を向けたまま話した。


「ぴゆと一緒に、お別れの儀式をして欲しいんでち」

「え…」


教育番組が終わり、お昼のニュースが始まると、ぴゆはリモコンでテレビの電源を消してビーズクッションの上でくるりと回転して此方に向き直る。


「ぴゆ、ハルちゃんに文字を習ったんでち。

平仮名とカタカナ、漢字はまだいこしでちけど…

れいじょーこに貼ってあるやちも、ぴゆ読めまち」


ぴゆが指差す冷蔵庫に貼ってあるのはごみ収集のカレンダーで、明日はちょうど月に一度の粗大ゴミ回収の日だった。


「あした、お別れの日なんでちょ?」


ぴゆの目の縁には見る間に涙が盛り上がり、ポロポロと溢れた。


「た、確かに明日はそうだけど…

でも、明日お別れをするかどうかはぴゆが決めることだよ。

俺が勝手に決めたりはしないよ」


慌ててぴゆに駆け寄って抱き上げる。

畳んだままテーブルの横に置きっぱなしにしていたタオルの山から、ハンドタオルを取り上げてぴゆの涙を拭った。


「お別れのタイミングはぴゆが決めていい。

別にお別れしなくても、何か別の方法があるならそれでもいい。

壊れたからって…その、すぐに捨てなきゃいけないとか…

大事にしてるものならそんなことしなくたっていいんだよ」


「あいまとう、ゆーた……でも、ぴゆ決めたんでちよ。

ぴゆハウスがくちゃくちゃのまま、ずっと袋の中にあるほうが可哀想だと思ったんでち。

ゆーたとこれかや楽しく暮らすためにも…

ぴゆハウスとはきちんとお別れちたい」


ぴゆはタオルを受け取るとゴシゴシと涙を拭って、ぷーんと鼻をかんだ。


「ぴゆが決めたなら俺はそれでいいと思う。

そしたら明日お別れできるように、えっと…準備しておくね。

その、あのままだとお見送りできないから」


ぴゆハウスやその他の壊れてしまった物たちをゴミ扱いすることは避けたくて、分別や分解という言葉は使いたくなかった。


(材質…大丈夫かな)


もし未知の材質の場合、燃やしたり刺激を与えた時に何か起きてしまうかも知れない。

準備の時にはそれについても確認しておこう。


「ぴゆハウスをよろちくおながいしまち」


俺の腕の中でぴゆは深々と頭を下げた。

ーーと、同時にきゅるる〜とお腹の音。


「ぴゆおなかすいちゃった」

「うん、ご飯にしよう」


へへっと笑うぴゆを床に下ろして頭を撫でてから、俺は可愛い同居人へブランチを作るためキッチンに向かった。


-------


少し遅めの朝ご飯の匂いがリビングに漂う。


「いたっきまーち!」


ぴゆは小さな手をぱちんと合わせた後、ラピュタパンにかじりついてそのままスルスルと目玉焼きだけ食べた。


「…ぴゆのたまご、なくなった」

「目玉焼きだけ食べたらそうなるでしょ」

「らぴたぱん…」


それまで嬉々としていたぴゆが途端に肩を落としてもそもそとトーストをかじるので、やれやれと思いながらも冷蔵庫から苺ジャムを持ってきてあげた。


「ジャム塗ってあげるからパン貸して」

「やった!ぴゆ、いちもじょむだーすち!」


ざりざりと小気味良い音を立てながらルビー色のジャムをトーストに塗ると、部屋に苺の甘い香りが立ち込めた。


「綺麗に食べてね」

「ハイッ!」


その日は天気がとても良く、ジャムでベタベタになったラグをすぐに洗濯できたので本当に良かった。

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