それが宝物になるまであと○日
カーテンを開けると、天気は落ち着いたようで外は薄曇りだった。
洗濯が終わった後、ぴゆがお腹が空いた時にすぐ食べられるように、小さなおにぎりとタコさんウインナーを作ってラップをかけておく。
適当にテレビをつけていたら、幼児向けの教育番組に興味がある様子だったのでつけたままにしておいた。
特に歌ったり踊ったりはしないけど、何かぴゆ本人の気が紛れるものがあるならそれでいい。
(さて、と)
我が家にはぴゆが楽しく暮らすための用意が何もないので、意を決して近所のスーパーへ買い出しに行くことにした。久々の外出である。
「ちょっとだけ出掛けてくるね。
お腹空いたら、ご飯あるから食べて」
「あい」
ぴゆの寂しそうな気配を察したが、今回はサプライズも兼ねての買い物だったので胸は痛むが留守番してもらうことにした。
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自宅から徒歩3分のスーパーは昔から地域の住民に愛される店だ。
入店前に小さく深呼吸して自動ドアを進む。
店内の少しひんやりした空気が肌に触れると同時に、呼び込みくんの賑やかな曲と、店員さんたちの明るい声が聞こえた。
久し振りに来店したものの、店自体の雰囲気や品揃えに変わりはなく、何だか懐かしいような気持ちになってホッとする。
たかだか近所のスーパーに行くくらいで緊張するなんて馬鹿げてると自分でも理解しているが、一度社会との繋がりを断絶してしまうと、元のように流れに乗るのは難しい。
プラスチックのカゴを取り、適当な食材を選んだ後、店内の隅にある文房具コーナーに立ち寄る。
冠婚葬祭用の封筒や小洒落たレターセットと一緒に、子供向けの塗り絵や折り紙などが並んでいた。
俺は少し悩んで、落書き帳と手が汚れないクレヨン、折り紙、それからシャボン玉セットをカゴに入れてレジへと向かった。
(漫画が高く売れて良かった)
押入れを掃除してまとめ売りした漫画のひとつにアニメ化が決まったものがあり、思った以上に高額で買取してもらえた。
今回の買い物は漫画を売ったお金で買う、言わば俺のお金で買うぴゆへのプレゼントだ。
我が家へようこそ、これからよろしくね
ありきたりだが、そんな気持ちを込めたささやかな贈り物のつもりだった。
平日の昼前、お客さんもまばらでレジはスイスイと進む。
会計を終え、品物をエコバッグに詰め終えて近くのベンチに座った。
普段全く使わないスマートフォンを取り出して、数回タップ…
ーー深呼吸を数回して電話をかけた。
「もしもし、母さん?
あ…えっと…久し振り、だね。
ごめん、全然連絡しなくて…。
うん…うん…
あ、えっと、仕送りいつもありがとう。
本当に…すごく助かります。
あと、ひとつお願いがあってさ」
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数日後。
あれからぴゆは少しだけ元気を取り戻したようで、ベランダで一緒にシャボン玉をしたり、折り紙を折ったりしてのんびりしながら過ごしていた。
教育番組はすっかりお気に入りになって、色々な童謡や手遊び歌を覚えた。
少しずつだが、昔のような明るいぴゆに戻ってきてくれている感覚があった。
そんな穏やかなある日の昼間、母からの荷物が届いた。
中には俺が小さい頃に使っていた布団と
「いぇごぶよっこ?」
「そう、レゴブロック。
こうやって小さい四角いやつを組み合わせて、好きな形にできる。やってみる?」
小さい頃の俺が夢中になって遊んだレゴブロック。
母さんは親戚の子にあげるつもりで取っておいたらしいが、無理を言って送ってもらった。
ぴゆはキラキラした目でカラフルなブロックを見つめ、カチャカチャと興味津々な様子で触っている。
「これ、ぴゆシップのパーツにそっくりでち!
これなら新しいぴゆシップができまちよ!
あいまとうゆーた!」
久々にぴゆの明るい声を聞いて、何だか俺まで嬉しくなった。
ぴゆシップが何のことかはさっぱり分からないが、それはまた今夜のお風呂の時にでも聞くことにしよう。




