第96章 アリシア伯爵の領地改革-資金調達編②
魔王さまに抱かれたおかげで、ゲネンドル伯爵領への融資が全額承認された。
私の体、まだ捨てたもんじゃないわね?
それにしても、やっぱり男の人に抱かれるっていいってつくづく感じた(汗)。
あの問答無用でグイグイ来る力強さ、強引な番い方とか、女の子と戯れるのとは全然違う。
まあ、女の子は女の子で、あのやさしい手つき、柔らかな手と細い指、女の子がよく感じるところを熟知しているので扱いも上手という、いいところがたくさんあるんだけど。
本題にもどって―
ゲネンドル伯爵領の地図を魔王さまにお見せしたところ、西ディアローム帝国における私の伯爵領で最大の町- 私の館がある町の名前『ランゴーヴェル』- が“西の町”を意味する名前だと説明すると、『ゲネンドルタウン』と変えるがいいと言われた。
ゲネンドルは家名でいいけど、“タウン”って聞きなれない言葉なので意味を訊いてみると『町』を意味する言葉だと教えてくださった。どこの言葉か知らないけど、響きがいいので気にいった。
魔王さまの提案を受けて、名前を『ゲネンドルタウン』に変えることにした。西ディアローム帝国政府には、あとで変更を届け出せばいいだろう。
領主が変わったのだから、町の名前を変更するくらい問題なく了承してくれるだろう。
「問題は、あまりにも距離が遠すぎると言うことだな」
三人でお風呂に入っていると魔王さまが言った。
「そうなんです。今回はハリジちゃんのおかげで通り道を使って行きましたけど、次回からどうやって行き来しようかと悩んでいます」
次回って、一週間後にフローリナちゃんちゃんたちを迎えに行くと約束していたんだった(汗)。
通り道が使えないので、歩いて帰って来てくださいなんて言えないし、そもそも連絡するのにだって、どんなに速くても3ヵ月はかかるんじゃん?
「ふうむ... 特別に直通用のドコデモボードの設置を許可するとするか」
ワオ!だから、魔王さま大好き♪
チュッと魔王さまの頬にキスをした。
「ただし、設定を固定させるから、ゲネンドルタウンのおまえの館と魔都のおまえの屋敷の間でしか移動は出来ないぞ?」
「それだけで十分です」
「それと、部外者の無断使用を避けるために、手の平認証魔法陣を組み込む必要がある」
「はい。けっこうです」
「それと、融資の利子...」
「年に10パーセントですね?」
「最後まで聞け」
「すみません」
「利子代わりに十日に一度、私に抱かれること!」
「はい(お安いご用じゃなかった、利子です)!」
とんとん拍子で問題が解決していった。
やはり、持つべきものはパトロンだ。
パトロンって何かって?
若い女性に金銭的援助をする金持ちの年上の男のことよって、マイレィちゃんがビアに教えてくれた言葉。つまり、私と魔王さまの関係で言えば、私が若い女性(愛人)で、魔王さまが金銭的援助をする金持ちの年上の男ってこと。
金貨1万5千枚を無利子で貸してくれると言っているんだ。
十日に一度、魔王さまに抱かれるなんて安い安い?
持つべきものはパトロン
そして、男どもが垂涎する美貌と若さね!
エヘン!
「ところで...」
「なんだ?」
「ドコデモボードって、魔術師が魔素とかいうものを送りこまないと動かないんじゃなかったんですか?」
私は、魔王さまの背中に小ぶりだけど形のいいオッパイを押しつけている小っちゃな魔術師-ハリジちゃんを見ながら言った。
「ああ、あれか。あれは、そういう風にやって見せているだけで、実際は電気だけでも動くのだ」
「えっ、やって見せているだけ?」
「これは国家機密だから、口外無用だぞ?」
「は、はい!」
「つまり、もし、敵がドコデモボードを手に入れたとしても、魔術師がいなければ作動しないと思っておれば、魔術師がいない場合は宝の持ち腐れになると思うという訳だ」
驚いた...
ドコデモボードは、トゥンシー大先生が古代の魔法陣とかを研究して作り出したものと聞いていたけど、電気で動くなんてまったく知らなかった。
まあ、驚いたのは驚いたけど、これで魔術師なしドコデモボードを動かせることになった。
魔王さまには、週末に伯爵領にもどる必要があると言っておいたので、それまでに屋敷に設置してくれるだろう。
魔王さまの承認で融資が出ることが決まったので、その日のうちに金貨1万5千枚を銀行から引き出し、わが家に馬車で運んだ。
金貨1万5千枚って言っても、重量にしてわずか50キロほどで、金貨千枚ずつ入った革袋14個だけだ。
女の私でも抱えることが出来る重さだけど、貴族たるもの、そんな重労働はしない。
魔王さまにお願いして、ガバロス親衛隊10名に護衛してもらって家まで運んだ。
家に帰ってから、ロニア、アマラ、ペーミン、ミンタの四人とゲネンドル伯爵領での税金をどうするかで知恵を出し合う。
魔王国の学校で習った税金の使い道は、道路や橋の建設・補修などのほか、上下水道の整備、低所得層向け住宅建設などの公共事業や病院、学校、治安、病人や貧困者の救済などに主に使われる。
ただし、魔王国の場合は、東ディアローム帝国およびその傀儡国と戦争をやっているので、税金のかなりの部分が軍事費に使われている。
まあ、これは魔王国に限ったことではなく、テルースの世界のほとんどの国が軍事費にすごいお金(税金)を使っており、それが原因で先ごろゾオルでも市民の反乱起こったわけだし、ゲネンドル伯爵領の元領主ゼーブランドさんも、戦争でお金を使い過ぎて領土の経営がうまく行かなくなり、それを解消するために増税をし、さらに状況が悪化したというのもよく知っている。
税金を柄えない領民は、税金を払う代わりに兵役を務めるることになり- これを血税と呼び、れが原因となって農村では男の働き手が減り、農業の生産量が減り、結果としてさらに領地から上がる利益が減ると言う悪循環が生まれていた。
「一番悪い税金は、人頭税ね!」
「銀貨4枚って、熟練の石工や熟練大工の日当分よ!」
「少ないようだけど、15歳から課せられ始めて60歳まで徴収されるのよ。領土全体で10万人が払うと計算すると、概算で金貨4千枚よ」
「金貨4千枚って、私にはとほうもない大金みたいだけど、戦争でお金を湯水のように使っていたんだから、人頭税って財政的にはあまり必要性はないみたい」
「平時なら、領主の懐を温めたかも知れないけど、人頭税なんてなくてもかまわないんじゃない?」
「ほかに適当な税収があれば廃税した方がいいかも」
「二番目は地代ね。帳簿を見ると、ゼーブランドさんは6割という高い地代を徴収していたようだけど、めっちゃ高すぎる!」
「男手は足りない、女子どもや老人が一生懸命に働いて収穫した作物や家畜の6割が領主にとられるってわかったら、働く意欲なくすよね?」
「おまけに水害とか干害とかで、近年は凶作続きなんでしょう?」
「餓死者もかなり出たって言うし、栄養不足で病人も多いって言ってたわよ」
ロニア、アマラ、ペーミン、ミンタちゃんたち四人の意見はかなり参考になった。
途中でミルイーズさんも呼んで議論に加わってもらった。
元領主の娘として、父親の領地経営や領地の問題などを聞くためだ。
何も知らなかったと言うのであれば、私にとって今後あまり利用価値のない娘ということになる。
議論は、いわば試金石の一つだった。
「私も領民のみなさんが苦しんでいることは知っていました。父が戦争で手柄を立てたいがために、働き手であった男の人たちを大勢召集して連れて行って、それで農村で深刻な人手不足になっていることも知っていました」
ミルイーズさんは、やはり聡明な娘だった。
彼女は、彼女なりに心を痛めていたのだ。とくに彼女がいたたまれない思いになったのは、戦いで手足を失くしたり、失明したり、病気になったりして帰還した男たちが、帰って来た領地で厄介者と見られていたことだと言う。
傷病兵を抱えた家族もまた大へん辛いもので、病気が重かったり、怪我がひどくて動けない夫や息子をもつ家族の苦労はとても言葉で言い表せないと涙を流して話してくれた。
「つまり、介護施設とか病院とかが要るってことね」
ミンタちゃんが、大発見をしたように言う。
「それも必要かも知れないけど、働けなくなった家長や息子などを抱えている家族に、何らかの経済援助も必要ってことよ!」
「ミンタちゃんの言っていることも、アマラちゃんの考えも重要ね。だけど、伯爵領はお金不足なんでしょ? だから室長さまはお金を銀行から借りたわけでしょ?」
「そうだよね、ロニア。せっかく借りることのできたお金を傷病兵の経済援助とか病院とかに使っていたら、全然利益ないじゃん?」
「だけど、放っておくわけにはいかないでしょう、アマラちゃん?」
「そうだよね」
「そうだね...」
「何かいい案ないかな」
その夜は何の解決策も案も出なかった。
でも、収穫はあった。とにかく税金を減らして領民が働き甲斐を得られるような領政をしなきゃならないってこと。それと、ミルイーズさんは素質があるってこと。
よし、ミルイーズさんをメイドから格上げして、私の秘書にするわ。
えっ、じゃあメイド不足はどうするのかって?
明日にでもゼニヤさんにお願いして、魔都の職人組合に行ってもらって、新しいメイドを探してもらうわ。それも1人じゃなく2人ね。おしゃれが好きな女が増えるってことは、それだけ洗濯物とか鉄ゴテがけとか、すごく手間と労力が増えるということだからね。
その時、頭に閃いた。
組合って、相互扶助とかやってなかったっけ?
たしか組合費とか言うのを年に一回だか、毎月だか知らないけどギルドに納めると、ギルド加入者が病気になった時や引退したあとの老後に年金とかもらえるんじゃなかったっけ?
この案、もっと深く調べて領地で導入出来るかどうか検討する必要がある。
金曜日、用事があったのでソフィエッタ王妃さまのお父さまを訪問してから、夜、家に帰って来ると、間もなくしてドコデモボードが運ばれて来た。
と言っても、ガバロス親衛隊にものものしく護衛された馬車で運ばれて来たのではなく、すでに座標が設定されていた貴賓室に通り道を開けて運ばれて来ただけだけど。
私は、ドコデモボードを一階の奥の棟にある書斎の隣の部屋に置くことにした。
すでにドアには厳重な鍵を付け、鍵は私の部屋に金貨の袋といっしょに金庫にしまっておくことにした。
たとえ、私の屋敷とゲネンドルタウンの館だけの間にしか通り道を開けることが出来ないとわかっていても、国家秘密の魔法道具なのだから責任は重大だ。
まあ、私以外の者は使えないように、“手の平認証魔法陣”が組み込まれているので、万一、ほかの者がいじったとしても作動しないらしいけど。
この“手の平認証魔法陣”ってすごく便利だから、私が承認する者も同じように“手の平認証魔法陣”を使って作動できるように出来ないかトゥンシー大先生にマデンキで聞いてみよう。
アリシア子爵宅平面図
そして迎えた第五曜日の夕方―
私たちは情報総局から直帰すると、屋敷の庭には彼らが勢ぞろいしていた。
さすがに広い庭も、これだけの数がいたら狭く感じる。
グワルルル―――――ッ!
グワルルル――――――ッ!
グワルルル―――――ッ!
異様な鳴き声が住宅街の空に響く。
私たちは、急いでめいめいの部屋へ行って、前もって用意していた着替えなどを詰めた背嚢やカバンを手にドコデモボードの部屋に入った。
私の肩掛けバッグの中には、金庫から出した金貨の袋を1つ入れている。ロニアちゃんとアマラちゃんの荷物の中にも1つずつ金貨の袋が入っている。
当座の資金だ。ゲネンドルタウンの館に着いたら、フローリナちゃんたちから調査結果を聞いて、組合の設立を具体化するつもり。
組合を設立するためには、信用のおける者を組合の管理職につける必要がある。その管理職になる者を探さなければならないけど、誰がいいのか皆目わからない。
わかっているのは、オーマル・ゼーブランドさんや彼の家族は、絶対にダメということ。
彼らは元領主および領主の家族だから、誰であれ領民には大きな影響力をもっている。ギルドの設立資金を横領されたり、自分がお気に入りの(取り巻き)貴族や商人などにギルドの金を勝手に貸したりバラ巻かれたりされてはたまらない。
やはり、ギルドの管理職や職人は、まじめで誠実な人でなければならない。
ほかにも、徴税官も早急に選ぶ必要がある。これまでは、たぶんあの領地でも腐敗徴税官による横領が横行していたのだろうし、悪賢い商人たちや、ずるい農民によるごまかしなどもたくさんあっただろう。
領民を重税から解放してやろうと税制改革を進めても、相変わらず腹黒い徴税官に横領され、ずる賢い領民からごまかされたのでは何の意味もない。それどころか、税収が減って元も子もなくなる。
ハリジちゃんから教えられた通りに、ドコデモボードに電気を通す開閉器を『開』にする。
ジ…ジジジ…ジジジジ…
周囲の空気が震えるような音がしはじめた。
収納棚がある壁側の空間に小さな穴が開いたと思ったら、見る見るうちにその穴は大きくなり、見覚えのあるランゴーヴェルの町、いや、ゲネンドルタウンの町で、私の所有不動産となった館の広間が現れた。
「ミンタちゃん、庭にいる者たちに知らせて!」
「らじゃ!」
ミンタちゃんがタッタッタと走って行った。
通り道の穴が最大の大きさになり、私は穴を通ってゲネンドルタウンの館の広間に渡った。
*剣と魔術のファンタジー小説に必ずと言っていいほど出て来るギルド。
ググって見ると、「中世の西ヨーロッパにおいて、商人や手工業者などの自営業者が、キリスト教の友愛精神に基づき、生活のさまざまな面で相互に助け合うために結成した身分的な職業団体」などと出て来ます。
さらに語源を調べてみると-
語源【ギルド】 1282年に中期オランダ語 “gilde”(職人の団体)という意味で初めて使われた。
古フランス語のgelde (「バンド、部隊、協会」)からフランク語の “gilda”となったそうです。
興味深いですね。
*この作品では、金貨1枚=10万円という設定にしています。
なので、金貨15000枚は、円換算で15億円という金額になります。
それを無利子で融資してもらうって、アリシア、本当に魔王から贔屓にされているんですね。




