第91章 アリシア伯爵の領地改革-検地編①
通り道から出ると、肌寒さを感じ、鳥肌が立った。
気温はたぶん10度を下回っているだろう。3月なので季節は春だが、緯度の高い西ディアローム帝国の田舎は結構冷えるようだ。
魔都はテルクワーレに近いため、冬でも日中は25度、夜でも15度を下回ることはないので、西ディアローム帝国の田舎との温度差をすごく感じる。
「うっ、寒っ!」
思わずコートの前を合わせ、襟を立てる。
通り道を通って来たところは小高い丘の上で、遠方には山々が連なっていて、あたり一帯はトリゴ麦らしい畑や草の生い茂ったなだらかな丘陵、それに雑木林などがある朴訥とした田舎の風景だ。
アリシア伯爵領
「ここは、寒いですね!」
アマラちゃんが横に来て、ちゃんと着て来たコートのボタンを閉める。
「昨日、『西ディアローム帝国の西部はこの時期、かなり冷えますよ』とマルレーヌちゃんが言ってくれたのでコートを着て来てよかったわ」
「寒ーい!」
「本当に寒いわ」
「早く魔都に帰りたいーい!」
「室長さま、早くどこかの家に入りましょう」
「やだあ、西ディアローム帝国が冬って忘れていた!」
部下たちは、みんな大騒ぎだ。
「正確に転移する場所がわからなかったので、おおよその見当をつけて設定したのですけど... あそこに農民の家がありますから、ここがどこなのか聞いて見ましょう」
通り道から出てきたハリジさんが、下を指差した。
眼下には、母屋らしい家と納屋らしいのがあるが、質素な家なのでたぶん農民の家だろう。
遠くに見える畑では、あちこちで女たちが何やら農作業をしているのが見えた。
ぞろぞろと総勢50人近くが丘を降り、家があるところまで行く。
庭先でメエメエ叫びながら遊んでいたカプラニディオ族の子どもたちが、私たちを見てビックリして、井戸のそばで洗濯をしていた初老の女のところに走って行って、私たちの方を指差して何やら喚いている。
カプラニディオ族の初老の女は、洗濯をしていた手を止め、驚いて子どもたちを後ろにやってかばう。
初老の女は警戒の目で私たちを見て、何か自分や子どもたちに危害を加えるのではないかと危惧しているようだ。
「こんにちは。心配しないで。私たちはあなたたちに何も危害は加えません」
「メエ 本当ですか?」
「本当です」
「私は、新しくゼーブランド伯爵領の領主となったアリシア・ミラーニア・ゲネンドル伯爵という者ですが、ゼーブランド伯爵の領地はここからまだ遠いのですか?」
「メエ... あ、あなたさまが、新しく領主さまとなられたと噂になっている魔王国の子爵さまですか?」
すでに領主が変わったという噂は広まっているようだ。
「ご婦人、ゲネンドル殿は、魔王国の伯爵です」
ペンナス伯爵さまがすぐに訂正する。
「あなた。アリシアさんは、ここ、西ディアローム帝国の伯爵でもあるのですよ」
「おお。そうであった。失礼しました。ゲネンドル殿は、ドリアンスロゥプ皇帝陛下から、ここの領地を拝領された伯爵です」
「メエ ど、どうも失礼いたしました。ここは、もうゼーブランド伯爵さまのご領地...いえ、あなたさまの領地でございます」
「ああ、よかった!あまり到着地点の誤差なかったのね!」
ハリジさんが胸をなで下ろしている。
騒ぎを聞きつけたのか、一人の老人と若い女が4人納屋から出て来た。
みんなカプラニディオスだ。中にはお腹の大きな女もいる。
私たちたちは貴族なのを見て彼らは頭を深く下げて礼をしたので、私たちも会釈を返したけど近寄ってこようとはせずに遠くから見ているだけだ。
カプラニディオスの若い女たちは、納屋でブタでも解体していたのだろう。前掛けが血だらけで手にも血が付いている。
カプラニディオスは基本的に草食なのだけど、生ハムとかソーセージとか作ってどうするんだろうと私は考えていた。それに西ディアローム帝国では、原則肉食は禁止されているのだ。
「ゼーブランド伯爵の館はここから遠いですか?」
相変わらず子どもたちを庇うように前に出て答えていた初老の女に聞く。
「メエ いえ、この道をまっすぐ行って、3キロほど歩いたところに町があります。ゼーブランド伯爵さまのお屋敷は広場に面していて、お役所のすぐそばの立派な屋敷です」
「どうもありがとう。ちなみに、あなたのお名前は何て言うの?」
「メエっ?!」
「いえ、心配しなくてもだいじょうぶです。あなたにも家族にも危害も損害もあたえるつもりはありませんよ。領主として約束します」
「メエ... アデラと申します」
「アデラね。いい名前だわ。それはそうと、ここではあまり男の姿が見えないわね?」
先ほどから気になっていたことを訊いてみる。
「メエ 私の主人も、息子たちも、娘の夫たちも、みんなゼーブランド伯爵さまに召集されて、戦争に行っております...」
道理で男の姿が見えないはずだ。
貴族は、戦に必要な兵を“血税”という名前の税金で農民や領民から払わせることができる。
戦いに勝って家に帰れば納税をしたことになるが、戦争で死んでしまった場合には補償などは一切ないという、一方的で領主の都合だけを考えた税だが、税を払えない者は兵役をするしかなく、戦いに行きたくなくとも領主が兵役を命じれば行かなければならない。領主の命令は絶対なのだ。
「どうもありがとう。それじゃ、また近いうちにまた会いましょう」
貴族からお礼を言われて、アデラという名前の初老の女は目を大きくして驚いていた。
「いえいえ、どういたしまして」
「ねえ、ねえ、おばあちゃん、あのキゾクさま誰?」
「キゾクさま、何をしに来たの、おばあちゃん?」
農家を後にして街道へ向かった私たちに、カプラニディオスの子どもたちがアデラに聞いている声が聴こえた。アデラさん、おばあちゃんだったらしい。
領主の館がある町まで続く道を歩く。
道の両側は畑で、高さ50センチほどの青いトリゴ麦が寒さに負けずに伸びていた。
「すごくトリゴ麦が植えられていますね!」
「あと何ヶ月したら収穫出来るんでしょうか?」
「アリシア伯爵さま、この領地の収穫で儲けれそう!」
ロニアちゃんたちが、畑を見て驚きながら話している。
「いえ、これはトリゴ麦じゃありませんわ。セカボ麦よ」
イクゼルさまが訂正した。
「えっ、トリゴ麦かと思いました」
「私も!」
「イクゼルの言う通りです。トリゴ麦なら、わずか2ヶ月くらいでこんなに伸びるはずがありません。それに、どうもこのセカボ麦畑は肥料が足りてないようだ。このままでは思った通りの収穫は望めませんね」
さすが農業大臣だけあって、ゲラルド侯爵さまは詳しい。
半時間後―
私たちは、周囲を石塁と土塁の入り混じった防御壁で囲まれた中規模の町に着いた。
防御壁の外側には壕が掘られてあったが、門は開かれていて門番も兵士もいず、何の問題もなく町の中に入ることが出来た。
町には活気がなく、町の中を歩く人もどこか生気がなく、暖炉やかまど用の焚き木を馬車に積んで売り歩いている農民や、野菜や果物を手押し車で押しながら声を上げて売っている農村の娘なども、買い物客があまり寄って来ないのでしょんぼりしているみたいだ。
町には、酒屋、靴屋、皮なめし屋、毛皮屋、鍛冶屋、肉屋などさまざまな商店が並んでいるが、大通りなのに入口の扉に『休業しました』『休業』などと書かれた札が下がっている店も少なからずあった。
役所はすぐに見つかった。町の中央の広場を囲むように、役所と教会とゼーブランド伯爵の館があった。
私たちは三階建ての瀟洒なゼーブランド邸の門から入って行った。
庭木の手入れをしていたシミディオの男は、私たちを見ると驚いて木から飛び降り、「キーキッキー!大へんだ――っ!」と叫びながら屋敷の裏の方へ走って行った。
「ミラナにマナリっ、後を追って!」
「「はいっ!」」
目にも止まらない速さで背の低いフェリノディオ族の魔術師たちが、シミディオの男の後を追う。
私がゼーブランド伯爵の領地と屋敷を受け取りに来たなどと知ったら、ゼーブランド伯爵は兵を使って阻止するかも知れないので警戒するに越したことはない。
「ジロランダっ、応戦用意!」
「モウ!まかせてっ!みんなっ、攻撃態勢をとって!」
「「「「「「「「「「モ―――ウ‼」」」」」」」」」」
ボヴィニディオス族のでっかい魔術師たちが、私たちを取り巻くように囲む。
ジロランダさんたちボヴィニディオス族の魔術師が詠唱を始めると―
周囲の空気に異変が生じはじめたのをフェリノディオの直感で感じた。
何と館までの道に敷き詰められている砂利や小石が半メートルほど浮かび上がった。
庭の木の根元を囲むように置かれている、子どもの頭くらいの大きさの石も全て浮き上がっていた!
そして―
ハリジさんたちフェリノディオ族の魔術師立ちも5メートルほど空中に浮いて攻撃態勢をとった。ボヴィニディオス族の魔術師たちは浮いてないが、やはり重いからだろう。
屋敷の裏の方から何やら大声が聴こえ、数人がドタドタ走って来る音がした。
「誰か来ますっ!」
リンド君が叫び、剣の柄に手を掛けた。
「いや、敵意を持ってないから心配ないわ!」
私が言うのと、屋敷の裏から太った男とロングスカートの中年の女が現れた。
彼らのすぐ後ろに若い女が三人と若い男二人が続いている。
「おおっ!ゲネンドル伯爵殿ですか!」
太ったクルチバドール種族のカニスディオ族の男が、転びそうな勢いで喜色満面で駆けて来た。
「前もってお知らせいただけたら、馬車を迎えにやらせましたのに!」
後ろの中年のスコティコリー種族のカニスディオ族の中年女性が、スカートの裾をつまんで貴族の挨拶をした。おそらく彼女は太ったカニスディオスの男の妻なのだろう。
「ようこそゲネンドル領へいらっしゃいました!」
「お待ちしておりました!」
若いスコティコリー種族の娘たちもスカートの裾をつまんで挨拶をする。
この二人は太った男の娘らしい。
「それにしても大勢の方ですね?」
「みんな使用人なの?」
クルチバドール種族の若い男と少年。
ふむ。この人たちは、たぶんゼーブランド元伯爵の息子か孫なのだろう。
「みんな、警戒態勢を解いて!」
ハリジさんの声で、フェリノディオ族の魔術師ちゃんたちは地上に降り、ボヴィニディオス族の魔術師さんたちも魔法で浮かしていた石や砂利を地面に降ろした。
ゼーブランド元伯爵と家族の者や下僕たちは、その様子をビックリして見ていた。
そりゃ驚くわよね? ゼーブランドさんも伯爵だったとは言え、目の前でこんなスゴイ魔法は見たことないだろうから。
私たちは、ゼーブランド元伯爵に案内されて、私の所有となった屋敷の応接間に入り、ゲラルド侯爵夫妻、ペンナス伯爵夫妻同席のもと、元領主であったゼーブランド元伯爵の話を聞くことにした。
ゲラルド侯爵さまが連れて来た若い農業技術者たちと魔術師たちは、ドコデモボードのワゴンといっしょに広間に入ると誰にも中に入らないように言ってドアを閉め、見張りにボヴィニディオス族の魔術師を廊下に立てた。
「いや、我が輩は、東ディアローム帝国の回し者だったドアングレームを信用しましてな... 先祖代々、4百年以上に渡って築いて来た皇帝からの信頼も名誉も土地も財産も... すべて失ってしまいました」
ゼーブランド元伯爵は、まるで貧乏貴族の執事が着るような、くたびれたジャケットにダブダブのトラウザーを穿いていて、古びた靴を履いていた。とても西ディアローム帝国の師団長だったとは想像もできないほどの落ちぶれようだ。
彼の妻も息子たちも娘たちも、質素な服装だ。娘の一人は乳飲み子を抱えていた。
ゼーブランドの話によれば、彼の秘書官であったアングレームは、西ディアローム帝国でも代々続く由緒ある男爵家だった。
しかし、多くの貴族がそうであるように、資産運用に疎く、資産管理もヘタだったにも関わらず、それでも貴族としての体面を保つために金を使い続け、借金で首が回らなくなり、父親の代からゼーブランド伯爵の秘書官として働きはじめたのだそうだ。
上級貴族が下級(貧乏)貴族を家来にすると言うのは別段めずらしいことではない。
ゼーブランド伯爵は、ドアングレームが父親の代から彼に仕えて来たのでとても信頼していた。
そう言うゼーブランド伯爵家もドアングレーム男爵家同様、生活は楽ではなかった。
西ディアローム帝国の首都ゾオルを守る師団長として、帝都で貴族として暮らすというのは、想像以上に金がかかるものだった。
いや、それ、私もよくわかるよ。私も金貨1000枚もする屋敷を購入しなきゃいけなかったし...
えっ、あれは魔王さまからもらったんだろうって?
テヘヘ。本当はそうだった。魔王さまは、私を囲い者にするつもりで大金はたいて買ってくれたのだろうけど、私は絶対に囲い者にはならないからね!?
あ、話しが脱線したけどゼーブランド伯爵は、領地から得られる農作物販売による利益はもう何年も思わしくなく、領地の農民たちは少ない収穫をほとんど領主に収奪されて飢え、医者代にも困る状況になり、領地から逃げ出す農民が後を絶たなくなった。
ゼーブランド伯爵の財政難がいよいよにっちもさっちも行かなくなり、しかたなく秘書官のドアングレーム男爵を書斎に呼んで解雇を告げたところ、ドアングレーム男爵は、
「私の給料はいくら遅れても構いません。いえ、払って頂かなくても構わないと思います」
とゼーブランド伯爵が驚くようなことを言った。
その時の会話をゼーブランド元伯爵の回想を元に再現すると―
ゼーブランド伯爵「いや、その気持ちはありがたいが、ただで娘の婿でもある君を使っていることが他の者に知られると、我が輩の面子が保たれん」
ドアングレーム男爵「いえいえ、私もエリラーナが身ごもっていることもあり、いくらエリラーナの父親だとしても、一切を舅殿である伯爵に負担していただくことは心苦しいものがあります。そこで、一つ提案があるのですが...」
ゼーブランド伯爵「提案?」
ドアングレーム男爵「はい。私が少し前からアヤフカスカ族が古代から宗教的行事に伝統的に使っている“内面に神聖なものを現す薬草”と呼ばれる『シャクロナ』を使用しており、仲間などにも分けてやっていますが、意欲が増す、神秘さを実感できる、女性との交接時に感じる高揚感がすごい、などと好評をいただいております」
ゼーブランド伯爵「“内面に神聖なものを現す薬草”、『シャクロナ』?」
ドアングレーム男爵「はい。これを1袋銀貨1枚で分けてやっております」
そう言って、ポケットから一包みの薬包紙をとり出して伯爵に見せた。
ゼーブランド伯爵「これが銀貨1枚?」
ドアングレーム男爵「はい。伯爵殿は財政が苦しいと申しましたが、この『シャクロナ』の効果はすごいものがあります。これを伯爵殿の師団の兵たちの士気を上げるために販売されてはどうですか?」
ゼーブランド伯爵「なに?これを師団の兵たちに売る?」
ドアングレーム男爵「はい。伯爵殿なら、一包みを銅貨5枚でお譲りできます。100包み売ることが出来れば、金貨2枚半が手取りとなります。師団にはどれくらい兵がいるのですか?」
ゼーブランド伯爵「1万人以上おる」
ドアングレーム男爵「半分の兵たちに売ったとしても、金貨125枚を税金を払うことなく儲けることができますよ?」
ゼーブランド伯爵「金貨125枚!」
ドアングレーム男爵「それに、この『シャクロナ』は、一度試したら何度もまた試したくなるという効用もあります。5千人が月に4回買えば...」
ゼーブランド伯爵「金貨500枚になる!」
ドアングレーム男爵「ものは試し。今回は伯爵殿が、この『シャクロナ』が、どれだけ効果を兵たちにもたらすかを感じていただくために、40包み無償で提供します」
ゼーブランド伯爵「な、なんと金貨1枚分を?」
ドアングレーム男爵「私にとって、伯爵殿はお義父さまでもあるのですから、娘婿としてお助けするのは当然のことです!」
ゼーブランド伯爵は、試しに師団の大隊長や中隊長などに「疲れをとる疲労回復薬だ。夜、妻に奉仕したいと思う時にも絶大な効果があるそうだ」と言って半分を分けあたえた。
「初回は無料だが、効果があると分かり、次も服薬したいと言うのであれば、銀貨1枚払ってもらうことになる」と付け加えて。
果たして反響は上々だった。
「師団長殿、あの疲労回復薬の効果はバツグンです!」
「師団長殿、あの薬のおかげで、久しぶりに妻が腰が抜けそうだわと言うくらい頑張ることが出来ました!」
「師団長殿、あの薬はすごいです!神秘な気持ちになり、一日中高揚した気分になりました!」
そして、伯爵が予想した通り、二服目をみんな求めた。
伯爵は半分しか分けあたえなかったので、残りの20包みはすべて彼の儲けとなった。
わずか銀貨10枚分の儲けだったが、『シャクロナ』の効果は十分過ぎるほどわかった。
ゼーブランド伯爵は、友人の貴族に金貨10枚を十日後に返すという約束で借り、ドアングレーム男爵から『シャクロナ』を400包み仕入れた。
一週間もしないうちに伯爵は400包みを全て完売し、金貨10枚分儲け、借金の金貨10枚を返済した。
手持ち資金が出来た伯爵は、それを元にどんどんと『シャクロナ』の購入量を増やし、販売路を増やして行った。
そして、六か月が過ぎた頃、ゼーブランド伯爵は1万人以上の顧客を有するまでに販路を広げ、『シャクロナ』の販売による儲けはひと月に金貨50枚を超えるまでになった。
その時に突然起こった、ベルミンジャン・アングルスト両トロール大国と東ディアローム帝国による西ディアローム帝国侵攻。ゾオル間近に敵の軍が迫った時に、ドアングレーム男爵はゼーブランド伯爵を唆した。
「伯爵殿、西ディアローム帝国が、こんな存亡の危機に直面しているのは、キャルニボル政権が腰抜けの集まりだからです。東ディアローム帝国のゾドアンスロゥプ皇帝とドリアンスロゥプ皇帝陛下はご親戚です」
「それは知っておる」
「東ディアローム帝国軍は、絶対にドリアンスロゥプ皇帝陛下ならびジャブイ皇后と皇族に危害を加えません。ここで伯爵殿が師団を動かし、キャルニボル大統領と大臣どもを逮捕し、ダイダロス宮を占領し、皇帝陛下たちの身柄を安全に確保し、真に西ディアローム帝国を思う者を新たな大統領を選ぶべきです!」
今は東と西に分かれておたがいに覇権を争っていると東ディアローム帝国と西ディアローム帝国だが、ディアローム帝国の基礎を築いたのは初代のゼリアンスロゥプ大王で、当時はディアローム帝国とは呼ばれていなかった。
初代ゼリアンスロゥプ大王には5人の王位継承候補がいた。
第一王妃の長男・ゾドアンスロゥプ、第一王妃の次男・ゼロアンスロゥプ、第三王妃の長男・ズムアンスロゥプ、第三王妃の三男・ロレアンスロゥプ、第四王妃の長男・ドリアンスロゥプの5人の王子だ。
しかし、ゾドアンスロゥプ王子は強欲、利己主義者、ゼロアンスロゥプ王子は無能、ズムアンスロゥプ王子は誰彼構わず若い女であれば寝室に連れて行く女たらし、ロレアンスロゥプ王子はどうしようもない怠け者という理由で王位継承候補から退け、最も優秀と認めたドリアンスロゥプ王子に譲位した。
自分こそが獣人族国の大王になると考えていたゾドアンスロゥプ大公は、父王の決定を不服としてドリアンスロゥプ王の暗殺を企て、失敗したのちにゾドアンスロゥプ大公は、兵をダイダロス宮殿に差し向けたが、すでにそれを見越していたキャルニヴォル将軍は用意周到に兵と親衛隊を配置していて、激しい戦いになったが、ドリアンスロゥプ大王側がゾドアンスロゥプ大公軍を打ち破った。
ダイダロス宮の乗っ取りにも失敗したゾドアンスロゥプ大公は、彼を支持する貴族たちが領地を有する獣人族国の東部へ逃亡し、そこで皇帝を宣言。
自分が獣人族国の正当な後継者であると内外に喧伝し、ディアローム国の東側を東ディアローム帝国と呼ぶようになったのだが、それからテルースの世界の諸国を巻き込む戦いがはじまったのだ。
したがって、ドリアンスロゥプ皇帝とゾドアンスロゥプ皇帝は兄弟なのだ。
まあ、兄弟同士の権力争いなど、どこにでもあることだが、西ディアローム帝国の形勢が悪くなり、明日にもゾオルが陥落するかも知れないという状況になった時、ゼーブランド伯爵はドアングレーム男爵の次の一言で覚悟を決めた。
「西ディアローム帝国を無能な連中の手から守ることが出来た暁には、ドリアンスロゥプ皇帝陛下は必ずやゼーブランド伯爵殿を宰相、もしくは大統領に任命されることでしょう!」




