第90章 アリシア伯爵、ガバロスの恋愛を成就させる
私は貴賓室にいた。
私の前には、ロミッケン君とマルリシャラちゃんが座っていた。
二人が座っているのは、ボードニア国製の最高級ひじ掛け椅子だ。
先ほどまで魔王さまが座わられていた椅子で、うねるような曲線が特徴的なボカイユ調と呼ばれる美しいデザインの椅子で、使用されているモグノ材は、深みのある赤色と美しい縞模様が特徴で、長年使用することによって深みが増していき、上品かつ高級感漂う色味になる
この屋敷は、エンギン辺境伯が長年使っていたもので、辺境伯が魔都で元マビハミアン国の貴族の邸宅であったこの屋敷を魔王さまから拝領したあとで、魔王さまを屋敷に迎える時に座ってもらおうと高い金を出して購入したものだと聞いている。年代物のこの豪華な王族用ひじ掛け椅子はおそらく数百年は使われている、骨董品的な家具で美術的価値も相当なモノだ。
だけど、貴賓- つまり(めったに、いやほとんど来ることのない)国王用の椅子であるため、ずーっと家具用白布がかけられていたため保存状態は最良であり、座面および背もたれ部分の生地の色彩もあまり色あせてないし、当然m日にも焼けてない。
背もたれとひじ掛け、それに脚の木材には見事な装飾彫りがあり、その上から金箔が施されており、一層の豪華さを出している。
こんな豪華な椅子に座ったことのないロミッケン君とマルリシャラちゃんは、当然コチコチに緊張していた。
「失礼します」
ロニアちゃんとマルレーヌちゃんがワゴンを押して入って来た。
ロミッケン君とマルリシャラちゃんの前にある、これも重厚なモグノのテーブルの上に、金の装飾が入った見事なクリスタルグラスを置き、レッべガアル産の葡萄酒の封を切り、クリスタルグラスに注いだ。
《グラン・ルキフェル・リミテッド》は、レッべガアルの最高級葡萄酒で、魔王さまにプレゼントしてとてもよろこんでいただいたものだ。
メルルス種の黒葡萄を原料として作られる《グラン・ルキフェル・リミテッド》。
その飲み口は優しく、非常にまろやかで、濃厚さがありながらも、メルルスの持つしなやかなさを保っており、絶妙な味の調和と均衡を楽しめる葡萄酒だ。ちなみにお値段は、金貨20枚もする。
「あなたたち、私の陞爵を祝いに来てくれたんでしょう?」
「は、はイ」
「はい...」
「さあ、飲んで。これは、《グラン・ルキフェル・リミテッド》と言う銘柄の葡萄酒で、魔王さまがたいへんお気に召された葡萄酒なのよ」
「エ... 魔王さマ ガ 好きナ 葡萄酒?」
「ちょ、超高級葡萄酒なんですね」
クリスタルグラスに入った赤色の葡萄酒を見て、さらに二人は緊張する。
「ザロッケン君は、ルミシャラちゃんと結婚するって言うし、ロミッケン君もマルリシャラちゃんとじきに婚約するんでしょう? 私もゾオルで、私といっしょに、ドリアンスロゥプ皇帝陛下とジャブイ皇后陛下を救出するために大活躍してくれたガバロス親衛隊員の一人であるザロッケン君が、こんな美しい娘さんと結婚すると知ってとてもうれしくなって、前祝いをしてあげたかったの!」
「エ... モゴモゴ...」
ロミッケン君、どこかの皇帝さまのような聞き取りにくい言葉を発した。
「.........」
マルリシャラちゃんは、下を向いて黙ったまま。
「ロミッケン君は、マルレーヌちゃんも知っているように、魔王さまも認められたくらいの勇敢な、将来性のある親衛隊だから、しっかりしたお嫁さんをもらってマジメに頑張れば、将来はミリトゥリオンも夢じゃないわね?ミリトゥリオンは年にお給料金貨600枚と金貨120枚の年末手当をもらえるんですって!」
ミリトゥリオンはプリミウス・カピタンであり、ガバロス親衛隊でも5人しかいないとザロッケン君がさっき言っていた。
ザロッケン君の年棒は、デクリオンであった時は金貨60枚だったが、センチュリオンに昇格したことで年棒金貨150枚になったそうだ。
副デクリオンだったロミッケン君の年棒は金貨50枚だったのが、副センチュリオンに昇格したことで年棒金貨130枚になったとザロッケン君は言っていたけど、ミリトゥリオンともなれば年棒は金貨600枚に跳ね上がる。それにプラス年末手当が金貨120枚。つまり、子爵であった時の私より金貨120枚多くお給料をもらえるのだ。
「えっ、年にお給料を金貨600枚と金貨120枚の年末手当?!」
マルリシャラちゃんの目が妖しく光った!
「ロミッケン、あなた明日私のパパとママに挨拶に来て!」
「モゴモゴ... エっ、君のパパ ト ママ ニ?」
「ちゃんと手土産にヤキトリ50本持って来るのよ!」
「モゴモゴ... ヤキトリ 50本? なゼ?」
「決まっているじゃない。私をお嫁さんにくださいって申しこむためよ!」
「モゴ!?」
「モゴモゴ言うのやめて、ちゃんと話しなさいっ!」
「ワかっタ。オレ、グシッケン副レクスレギオン長殿ト サエジャナさマ ニ 明日 ゴ挨拶ニ 行ク!」
「ヤキトリは、熱々のやつを持って行くのよ!」
ふうっ... 恋の手助け役も簡単ではないわね。
でも、これも何かの縁だろうしね。ともかくも、若いカップルの仲を取り持ってやるのも悪くないわね。
ロミッケン君とマルリシャラちゃんは、それぞれの夢がかなった安心も手伝ってか、《グラン・ルキフェル・リミテッド》を美味しそうに飲んでから、私に礼を言ってもどって行った。
まあ、マルリシャラちゃんの夢- ロミッケン君がミリトゥリオンになるという夢- がかなうのは、10年後か20年後か知らないけどね?
ロミッケン君、まじめに親衛隊で務めていれば、妻となるマルリシャラちゃんのお父さんは、副レクスレギオン長、お母さんはガバロス族の女性で、ラクジャナさんに次ぐ、ナンバー2の地位を持つサエジャナさんって聞いたから、妻・ラクジャナさんの両親のコネでトントンと出世すること間違いなしだよね?
若いガバロス・カップルの恋の成就を成功させた私は、大任(?)を果たした安心感で《グラン・ルキフェル・リミテッド》を一杯飲むと、ロニアちゃん、マルレーヌちゃんといっしょに庭に向かった。
玄関に近づくと―
「ガ―――ッハッハッハ!」
バカ伯爵(ギャストン伯爵)のバカ笑いが聞こえて来た。
ギャストン伯爵のバカ笑いは、嘲笑する時か、本当に愉快な時にしかしないと言う。
たぶん、愉快になってバカ笑いをしているのだろう。
「あ、すまないけど、ロニアちゃん、貴賓室にある《グラン・ルキフェル・リミテッド》持って来てくれる?」
「はい!」
ロニアちゃんが急いでもどって行った。
庭に出ると、私はゲラルド侯爵を探した。
ゲラルド侯爵さまとイクゼルさまは、ペンナス伯爵夫妻とお話をされていた。
私はロニアちゃんが持って来てくれた《グラン・ルキフェル・リミテッド》を手に、四人に近づいて行った。
「おお、アリシア伯爵殿、今日はまた素晴らしい祝賀会でしたね!」
「本当に素晴らしい祝賀会ですわ!」
ペンナス伯爵さまとフロルフ夫人が、私を見てにこやかに話しかけた。
「まったくですな。去年の始めに魔王城にいらした時は、ただの可愛いフェリノディオ族の少女と思っていたのですが、2年もせぬうちに子爵から伯爵にまでなられるとは!」
「アリシア伯爵さまは、すごく優秀なんですよ。今日のヤキトリだって、こんな美味しいものが提供されるなんて誰も想像しませんでしたもの!」
ゲラルド侯爵とイクゼルさまが、私をべた褒めだ。
「イクゼルさま、そのアリシア伯爵さまという呼び方やめてください。恥ずかしいです。以前通りアリシアさんで結構です」
「何をおっしゃるの? 子爵も伯爵も貴族。貴族はちゃんと敬称で呼ぶのが習いです」
「......」
イクゼルさまの言っていることは正しい。
貴族は貴族として尊敬されなければならないのだ。
「ゲラルド侯爵さま、ペンナス伯爵さまご夫妻とお話中のところ申訳ありませんが、ペンナス伯爵さまご夫妻といっしょに、この葡萄酒を飲みながら私の話を聞いていただけますか?」
「おお、それはかなり高級そうな葡萄酒... おおっ、これは魔王さまもご愛用の葡萄酒では?」
「はい。《グラン・ルキフェル・リミテッド》です」
「《グラン・ルキフェル・リミテッド》!私たちでも、滅多に入手できない高級銘柄ではないですか!」
ペンナス伯爵さまも驚く。
「はい。魔王さま用に保存しておいたものですが、先ほど、ガバロスの若いカップルの恋を成就させるために封を切りました。大へん申し訳ありませんが、その残りです」
「残りとおっしゃっても、ほんの少し減っているだけですわ」
フロルフ夫人が、テーブルに置かれた葡萄酒の瓶を見て言う。
「では、遠慮なく魔王さまご愛用の葡萄酒をいただくとしますか!」
ペンナス伯爵さまが栓を開け、マルレーヌちゃんがトレーに乗せて来たグラスに次ぐ。
「さ、では頂きましょう!」
みんながグラスを持ったのを見てペンナス伯爵さまが言った。
「では、魔王さまのますますのご壮健と魔王国のさらなる繁栄を祈って乾杯!」
ゲラルド侯爵さまの音頭でみんなが乾杯をした。
私も二杯目を飲む。
《グラン・ルキフェル・リミテッド》は結構強い葡萄酒なので、すでに庭で葡萄酒やエールを数杯飲んでいて、それから先ほど貴賓室で一杯飲み、今二杯目を飲んだので、私はもうかなり酔いが回っていた。
「それで、お話とは何ですか、アリシア伯爵殿?」
こちらも、お酒で赤くなった顔を私に向けたゲラルド侯爵さま。
「ええ。実は、ゲラルド侯爵さまもすでにご存じと思いますが、魔王国での伯爵陞爵に先だって、私は西ディアローム帝国でも伯爵の爵位を授かっております」
「おお、それは聞いています。魔王城でもその話しで持ちきりでしたよ」
「魔都でもすごい噂になりましたわ。アリシア伯爵さま、わずか14人で皇帝ご夫妻を救出されたって」
ゲラルド侯爵さまが大きく頷き、イクゼルさまもうんうんと頷いている。
「それで、その時に、西ディアローム帝国の田舎にあるという領地をもらったのです」
「それは私も聞きました。すごいものではないですか!」
ペンナス伯爵さまも頷いている。
「それで、その領地、まだ見てないんですけど、1万平方キロメートルもあるらしいんです」
「何と!1万平方キロメートルと言えば、100万ヘクタールではないですか!」
ゲラルド侯爵さまが、かなり驚いた。
「魔王国の面積が、おおよそ250万平方キロメートルだから、その100分の1ってかなりの面積ですわ!」
フロルフ夫人、かなり物知りみたい。
ペンナス伯爵さま、経済・貿易大臣だからね。大臣夫人ともなれば、それくらい知ってなければ夫人役が務まらない?
「ふむ。西ディアローム帝国の田舎に広大な領地ですか... ということは、アリシア伯爵殿は、私に農地改革を指導して欲しいと考えているのですか?」
ゲラルド侯爵さま、鋭いっ。
まあ、バカだったら、魔王国の農業・漁業・工業大臣になってないものね。
ゲラルド侯爵さまは、私の目をじっと見ていたが、トクトク…と葡萄酒をグラスに注ぎ、グーっと飲み干すと、私を再度見つめて言った。
「わかりました。ほかならぬアリシア伯爵殿の依頼です。ご協力いたしましょう。では、領地視察は今日の夜にすることにしましょう!」
「ありがとうございます!えっ、今日の夜?」
「時差のせいで西ディアローム帝国には、第六曜日の朝に着くことになります」
「あ、時差がありましたね。すっかり忘れていました」
「善は急げと言うらしいですから。あ、これは魔王さまから教えていただいた諺です」
「はぁ」
領地の農地改革が、善なのかどうかわからないけど、とにかくゲラルド侯爵さまが視察してくれるなら、領地問題は解決の糸口が見えたということになる。
伯爵への陞爵の祝義―
魔王国では、結婚式とか、出産とか、祝い事があると、金と銀の糸が帯のように奇妙な形で封筒に張り付けられている白い封筒や赤と白の糸が同じように貼り付けられている封筒に金貨を入れて贈る習慣があり、私は子爵になった時に初めてもらった。
今回は、魔王さまから金貨80枚、アマンダさまたち王妃さまからは、それぞれ金貨10枚ずつ。
大臣たちからは前回同様金貨10枚ずつ、ゲラルド侯爵夫妻からは15枚、それにご近所さんや情報分析室の職員とか- 職員にはいらないって言ったんだけどね- 全部を合わせると、合計205枚にもなった!
その日の夜―
正確には午後9時きっかりだ。
魔都を午後9時にドコデモボードで出発したら、時差のため、西ディアローム帝国の西部には午前11時ころに転移するらしい。
魔王城のドコデモボードの部屋には、私、フローリナちゃん、ロニアちゃんたち六人組、ゲラルド侯爵さま、イクゼルさま、若い農業技術者と紹介されたカニスディオ族とカプラニディオ族の男女が10人ほど、護衛のリンド君。
それに、なぜかペンナス伯爵夫妻もいた?
「いやあ、魔都にいても何もすることがなくてですね。アリシア伯爵殿がいただいたという領地を見学させてもらおうって話しになったんですよ!」
「前もってアリシア伯爵さまの許可をいただかなくて... ご迷惑だったかしら?」
「いえいえ、迷惑なんてとんでもありません。人数が多い方がにぎやかですし」
「いや、奥方が、朝になって急にガバっと起きて、アリシア伯爵の領地を見たいわ、何て言いだしたもので...」
「あら、何をおっしゃいますの、カルヤ。昨日、アリシア伯爵さまの祝賀会から帰って、アリシア伯爵の領地をぜひ見てみたいなと何度もおっしゃっていたのは、どなたでしょうか?」
片手に蓋つきのカゴを持ったフロルフ夫人が、ちょっと睨む目つきをする。
カルヤと言うのは、ペンナス伯爵さまのお名前で、ペンナスは家名だ。
このお二人、10歳ほど年の差があるそうだけど- もちろん、フロルフさんの方がお若い-
すごくアツアツの夫婦として有名だ。
それに、フロルフさん、エルフ族なのに、かなりボンキュッボンの羨ましいようなお身体の持ち主。
同じエルフ族であるアイフィさまのペッタンコに近い、いや、控え目なおムネとは大違い。
アイフィさまによれば、「フロルフちゃんの胸とオシリは、トツゼンヘンイなのよ!」だそうだ。
ペンナス伯爵はミタン国北部出身のエルフ貴族で、ブレストピア軍とマビンハミアン軍がミタン国を占領すべくミタン王国北部に攻め入った時に、ミタン国の北部の要塞の一つを守備していたのがペンナスさまで、当時は子爵だったそうだ。
ブレストピア・マビハミアン連合軍は15万の大軍でミタン国北部から侵攻を開始したが、婚約者であったアンジェリーヌ王女さまとジョスリーヌミタン王女さま(どちらも当時の身分)の母国を救うために駆けつけたのが魔王さま。
魔王さまは、ソフィエッタさまの父親であるドジョーネル王の部下のドワーヴァリ族の戦士2万人、ヴァナグリー2万匹、それに魔王さまとの盟約にしたがってギャストン伯爵が2万の兵をもって駆けつけ合流、魔王さまの智謀とドワーヴァリ戦士プラスヴァナグリー軍とギャストン伯爵軍の大奮闘で、ブンドリ半島からブレストピア軍とマビンハミアン軍を追い出すことに成功した。
魔王さまは、その勢いを駆ってブレストピア王国とマビンハミアン帝国に侵攻し、魔王国を創立されたと言う話しは、今じゃ誰でも知らない者がいないほど有名な話だ。
ペンナスさまは、その当時から魔王さまを深く信頼し、魔王さまについていく度となく大きく重要な戦いに参加され、ギャストン伯爵、スティルヴィッシュ伯爵、ゲラルド侯爵などとともに、草創期からの魔王さまのもっとも信頼する側近の一人となられた。
そのペンナス伯爵、5年前まではまだ独身だったのだけど、魔王さまの仲介で、元アルドラルビダカの魔術師、通称靉靆の者と呼ばれ、誰からも恐れられていた魔術師部隊の一員で、19歳だったフロルフさんと結婚された。
フロルフさんは、ヴァスマーヤ王妃と同じく、彼女たち元アルドラルビダカの魔術師部隊が所属していたヒムリドール将軍の指揮するブレストピア軍が、魔王軍との戦い- 魔王国の歴史書で『オドグタールの戦い』と呼ばれる戦い- で完全に敗北した時に、アンジェリーヌとジョスリーヌ姉妹、ミカエラさま、アイフィさまたちと魔法対決をして敗れた。
その後に、ヴァスマーヤさまはその美貌のおかげで魔王さまの王妃になり、ほかの元アルドラルビダカの魔術師部隊の娘たちは魔王国魔術師部隊に入り、フロルフさまは、ペンナスさまに見染められ、魔王さまの仲人で結婚されたそうだけど、ペンナス伯爵とフロルフさんは、いまだに二人は新婚気分を味わっているようだ。
えっ、カルヤ・ペンナス伯爵さまって、5年前にフロルフさんと結婚したばかりって言っているけど、じゃあ、情報分析室で研修をしているロナミちゃんがペンナス伯爵さまの娘ってどういうことですって?
ああ、それはね... ここだけの話なんだけど、フロルフさんさんね、14歳の時にある貧乏貴族の若者と熱烈な恋愛をして、それであんなコトやこんなコトをして... 結局妊娠しちゃって。
生まれたのがロミナちゃんで、父親であるその貧乏な貴族の若者は、オドグタールの戦いで名誉の戦死をしたのだそう。
魔王さまは、フロルフさんとロミナちゃん母娘の事情も知っておられて、ペンナス伯爵さまがいまだに独身だけどマジメな人って知っていたので、物は試しとペンナス伯爵さまとフロルフさんを会わせたところ、まるで磁石が引きあうように、おたがい“一目惚れ”したのだとか。
魔王さまさまが、ペンナス伯爵さまに出会いはどうであったか聞くと、「あれほど素晴らしい女性はいません!」と答え、プリシルさまがフロルフさんに聞くと、「あのように素晴らしい男性はいません!」と答えたので結婚させることにしたのだとか。
「フロルフには、若い時の過ちで出来た娘が一人いるのだが、それでも構わぬのか?」
魔王さまが、「一度結婚したら、離婚は許さんぞ?」みたいな調子で念押しをしたらしいけど
「子付きでも爺婆付きでも、まったく構いません。私はフロルフさんを愛しています!」と答えたとか。
まあ、これは聞いた話なので、どこまで真実なのかわからないけど、とにかく、そう言う話で、当時10歳だったロナミちゃんをペンナス伯爵さまはフロルフさんといっしょにご自分の籍に入れて、娘として育てたのだそう。
テルース歴5058年のブレストピア・マビハミアン連合軍とミタン軍の衝突地域
ドコデモボードの周りには、十人以上の小っちゃな魔術師たちがいた。
昨日、魔王さまの膝の上で、魔王さまからイチャイチャしていた、「東ディアローム帝国最強の魔術師」とかアンジェリーヌさまが言っていたフェリノディオ族のハリジさんだ。
ほかの魔術師たちも全員フェリノディオ族なので、ハリジさんと同じ魔術師仲間なのだろう。
昨日、ゲラルド侯爵さまに相談した後で、今日西ディアローム帝国の田舎にある伯爵領を視察に行くことが決まったあとで、ゲラルド侯爵さまはすぐに魔王さまと話をして、ドコデモボードの使用許可をとった。ゲラルド侯爵さま、行動がすごく早い。
フェリノディオ族の魔術師の女の子たちは、5台のワゴンにドコデモボードを乗せていた。
ドコデモボードは、魔王国の極秘兵器で、常に厳重な警備下におかれる。なので、魔王城内のこのドコデモボードの部屋もいつもガバロス親衛隊が24時間警備している。
そのドコデモボードを5台も駆り出すなんて、ゲラルド侯爵さまってすごく魔王さまの信用があるのね?
いや、西ディアローム帝国の田舎にある私の領地を見に行くのに、これだけドコデモボードを使わせることを承認したってことは、私が魔王さまの信用あるのか?
それにしても、たとえ盟主国であるとしても、つい一週間前までは東ディアローム帝国軍、アングルスト帝国軍、それにベルミンジャン王国軍によって侵攻され、首都ゾオルでは反乱軍によるダイダロス宮乱入事件が発生したばかりの西ディアローム帝国に、魔術師十数人だけの警備でドコデモゲートを運搬してもいいんだろうか?
ハリジさん、何か時間を気にしているようで、腕時計を先ほどから何度も見ている。
その時、ドスドスドスと地響きが近づいて来たと思ったら、巨大なボヴィニディオス族の若い娘たちがドカドカと15人ほどドコデモボードの部屋に入って来た。
巨大な若い娘たちが大勢入って来たことで、部屋が急に息苦しくなった感じ(汗)。
「ごめん、ハリジ! お化粧に時間がかかって遅れてしまったワ、モウ!」
「まったく!今日は魔都の町見物じゃないのよ?ちゃんと時間守ってよジロランダ!」
「だからあやまっているじゃない。モウ!」
「ハリジさん、構いませんよ。今日は1日視察のために時間をとっているんです」
ゲラルド侯爵さまが、ハリジさんをなだめるように言う。
「スミマセン。魔王さまは時間に厳しいとアマンダさまから言われていますので...」
「あっはっは。私は魔王さまじゃないから、それほど厳しくはないです」
「ほっ、よかった。では通り道開けますね」
「お願いします」
ハリジさんが、ドコデモボードに向けて手を伸ばした。
魔素をこめるためだ。ハリジさんの手先から、淡い光がドコデモボードに向けて放たれている。
ハリジさんの右手の薬指には、大きな宝石が嵌められた指輪が眩い光を放っていた。
婚約指輪だ。おそらく魔王さまから贈られたのだろう。
ジ…ジジジ…ジジジジ…
周囲の空気が震えるような音がしはじめた。
窓側の空間に小さな穴が開いたと思ったら、見る見るうちにその穴は大きくなり、見知らない田舎の風景が現れた。
「開きました。行きますか、アリシア伯爵さま?」
「行くわ!」
真っ先に通り道を通り抜けた。




