第9章 魔王の好み
そして翌日。
私たちは朝起きると、着替えてお化粧をしてから、昨日教えられていた時間にダイニングルームに降りて朝食をとったの。
ルナレイラお義姉さまは降りて来なかったし、魔王さまも姿を見せなかった。
きっと二人は素敵な一夜を過ごした後で、ゆっくりとお昼頃にでも起きて、部屋に食事を運ばせて、遅い朝食をとったあとで、また愛たっぷりの蕩けそうな時間を過ごすのでしょう。まったく、妬けるわ。
アマンダさまたちも現れなかった。みんな、それぞれ忙しいみたい。
朝食のメニューは、白パンに豚の燻製の薄切りを炒めたもの、トゥルッタの塩焼き、ゆで卵、塩と胡椒を入れて炒めた卵料理、つぶした芋のサラダ、果物、コドルナの焼き肉にレビットのモモ肉のシチュー、野菜サラダ。飲み物は、お茶が4種類ほどに果物ジュースが5種類ほど。
朝食は昼食や夕食と違って給仕がいなくて、端型のテーブルに置かれている食べ物や飲み物を一人ひとり好きなだけお皿にとってテーブルで食べる方式だった。
この方が、形式ばってなくて気楽だわ。私もビアも育ち盛りなので、旺盛に食べる。
お母さまとモナさまも、かなり食が進んでいるみたい。カリブ君、ジオン君、キアラちゃんも食べるのに没頭してる。それにしても、昨日の夕食といい、今朝のこの食事といい、魔王城の食事って贅沢すぎない?
アマンダさまたちの顔も見えず、昨夜の高官たちや大臣たちも当然いなくて、何だか私たちだけで広いダイニングルームを独占しているかのような気分だった。
「あ、おはよーう!」
元気な声で現れたのは、リエルさん。
後ろにかくれるように一人の女の子がいる。
リエルさんは、えーっと、たしか8番目とか10番目に魔王さまの妃になった方で、魔王国の同盟国であるボードニアン王国の王女さまだったとかエイルファちゃんが昨日言っていたっけ。
年は若くて、たしか18歳くらいだったはず。
エリゼッテって言う妹がいて、その娘も魔王城に住んでいるそうだけど、今は鬼人族国に遊びに行っているのだとか言っていたけど...
リエルさまの後ろから、ひょこんと顔を出したオレンジ色の髪と水色の目の子。
「えっへっへ。アタシ、エリゼッテよ。リエルの可愛い妹なの。よろしくね!」
「あーっ、やっぱり!髪の色が同じだから、もしやと思ったわ!」
そこで、私たちはエリゼッテちゃんにそれぞれ自己紹介をした。
「あなたたちが、魔王城に住むことになったって知らせたら、昨夜遅くに帰って来たの」
「えっ、鬼人族国って、かなり距離あるけど、昨夜のうちに誰かを鬼人族国へ知らせにやったんですか?」
リエル王妃の言葉に、また奇妙さを感じて、訊いてみた。
「ん?...... やだ、何言っているの、アリシアちゃん。マデンキで連絡したのよ!」
「え? マデンキ?」
「マデンキ...」
「?」
「それなに?」
お母さまたちもビアも首をかしげている。
「あ、そうか、あなたたち、ドコデモボードは知っているけど、マデンキはまだ知らないんだ!」
「あの... それって、やっぱり魔法を使ったものなんですか?」
「うん。魔法式遠隔伝達器て言ってね。魔王城では王族とか政府や軍の高官が使えるようになっているの」
「そんなモノがあるんですか?!」
「あ、マデンキは魔王国の国家機密なの。ドコデモボードもそうだけどね。ほら、今、戦争中だから、敵に知られたらマズいから、魔王国軍のお偉いさんが認めた人しか使えないのよ」
「なるほど...」
魔王国軍って、すごく強いんだってお父さまが以前おっしゃっていたけど、こういうところにもその強さの秘密があったんだ。ドコデモボードにマデンキ。何十日もかかって行軍する必要もなければ、鷹の餌食になったり、迷ってしまったりするかも知れない伝書コルンバを使う必要もないんだ。
そりゃ、強いはずだよ。そんなこと、戦争には詳しくない私にだって理解できる。
ああ、それでイクゼルさまは、ヤーダマーの塔から話し合いの結果をアマンダさまに伝えたんだ。
今までわからなかったことが、リエルさんと話したことでわかった。
お皿にパンと炒めた卵、つぶした芋のサラダと野菜サラダを少量乗せ、片手に果物ジュースのグラスを持ったリエルさまと、私たちのテーブルにやって来ると、ゆで卵5つ、コドルナの焼き肉ごっぽり、レビットのモモ肉のシチュー盛りだくさんを二つの皿を両手に持ったエリゼッテちゃんが、私のテーブルの正面に座った。
それにしても、このエリゼッテって子、こんなに食べて太らないのかしら?
リエルさん、エリゼッテちゃんも加わって、楽しい朝食となった。
やっぱり、魔王城の内部事情に詳しい人がいた方が、何かと便利。
リエルさん、上品にナイフとフォークを使って炒めた卵を白パンに乗せてから、口に入る大きさに切って一口食べてから、私を見て訊いた。
「アリシアちゃん、昨日はビックリしたでしょ?」
「え?... 何がですか?」
リエルさんが訊いて来たことの意味はわかっていたけど、とぼけて分からないふりをした。
「もぐもぐ... 昨日、何が もぐもぐ... あったの? もぐもぐ...」
エリゼッテちゃんの方は、上品とはほど遠い食べ方で、大口を開けてコドルナの焼き肉を食べている。これで髪の色が同じじゃなかったら姉妹って言われても誰も信じられないでしょうね。
「ふふふ... とぼけちゃって!ほら、昨日、魔王さまのひざでいろいろと触られたことよ!」
「!」
「‼...」
お母さまとモナさまが、目を剥いて
ビアが
「?」
って顔をしていた。
カリブはどこ吹く風って感じ。
ジオンとキアラは食べるのに夢中。
「魔王さま、新しい美女に目がないからねェ... ごくごく」
自分の分のジュースは持って来なかったので、リエルさんのジュースを飲みながらエリゼッテちゃんが、“そんなこと、別にめずらしくないじゃん”みたいな顔で言う。
「それじゃあ、アリシアちゃん、私たちは先に部屋にもどっているわ」
「あ、私も行きます。ジオン、キアラ、果物欲しかったら一つ持って行きなさい」
お母さまは、私とリエル・エリゼッテ姉妹だけにしておこうと思ってくれたらしいけど、モナさまは、小さい子に聞かせる話しではないと判断したみたい。
「ラーニアあばさま、ボク、ルファエル君と遊んでいい?」
カリブは、昨日の夕食の時、アマンダさまの息子と仲良くなったらしく、いっしょに遊びたいと言い出した。
「あ、ぼくも行きたい!」
ジオンも男の子同士で遊びたいのだろう。
「ええ。いいわよ。でも、あまりイタズラとかしちゃダメよ?」
「はい!」
「やったー!」
二人は垂直移動部屋に向かって駆けて行った。
お母さまとモナさまは、リエルさんとエリゼッテちゃんに「では、昼食の時にまたお会いしましょうね」と言って出て行った。
「魔王さまって、手が早いんだよね...」
お母さまたちが出て行くのを見てから、リエルさんがつぶやいた。
何だか遠くを見ているような目だった。
「わたしね... 15歳の時に魔王さまに抱かれたんだ」
「え、15歳?」
それって、私とあまり変わらない年じゃない?
あと4ヶ月もしたら、私も15歳になるんだから。
「わたし、処女だったんだ」
「処女!?...」
リエルさんは、自分は処女だったって言った。
そりゃそうでしょうね。
一国の王女さまで、15歳で処女じゃなかったら、それって、どんな王女さまなのよってなるじゃない?
で、何で“処女だった”と過去形でリエルさんが言ったかと言うと、それは15歳で魔王さまに処女をあげたってことなのよ!そんなこと誰でもわかるでしょ?
でも...
悲しいかな、その時、人生経験の少ない私は最初に聞いた時はわからなかった。
「リエルさん、 処女だったって...」
「魔王さまにあげちゃったんだ」
「え?」
私の頭が急速回転した。
つまり...
あと4ヶ月したら私もなる15歳の時に
リエルさんは、魔王さまに抱かれて処女を失ったってことなのよね?
「そう。お姉さまは、処女だったのよ!」
「何が、“ お姉さまは、処女だったのよ”よ?あなたも、15歳で捧げたくせに!」
「え? えええっ? エリゼッテちゃんも... しょ、しょ、しょ」
「うん。もう、処女じゃないわ」
平然と言った。
まるで、今朝のウ〇チの通じは良かったわよとでもいうような感じで(汗)
私は唖然として二人を見つめていた。
「へえ。ショジョってウンチみたいなものなんだ!」
ビアがおかしな事を言った。
「いや、ビアちゃん、ウ〇チみたいなモノじゃないわよ。女の子にとっては、とっても大切なモノよ!」
「そうだよ、ビアちゃん。ショジョってのは、誰にでもあげていいもんじゃないわ!」
「へえ、そうなんだ!じゃあ、誰かがワタシのショジョ欲しがったら、お姉ちゃんに相談しよう」
リエル・エリゼッテ姉妹のおかげで、妹はウ〇チみたいに処女を捨てることはなさそう。
やはり、持つべきものは先輩と友人ね。
「じゃあ、エリゼッテちゃんも魔王さまの王妃さまなの?」
私が、“当然”と考えることを聞くと
「ううん。アタシ、魔王さまの奥さんじゃないわ。妾でもないし... 恋人ってとこかな?」
「こ、恋人?」
「うん。魔王さまは、正式な奥さま、つまり王妃のほかに、恋人もたくさんいるのよ。魔王の王妃には、なりたくないって人とか、いろいろな事情でなれないって人もいるからね」
これは、私にとっては衝撃のことだった。
「それで、どうだった、昨日の魔王さまのおシッポ握りとおひざの上は?」
ゲゲっ!
しっかり見られていた?
「そ、そんなこと話せません... 恥ずかしいわ」
「ふふふ。まあ、いいわ。どうせ、魔王さまのすることなんて、みんな知っているから!」
「だよね、リエルお姉さん。魔王さまって、オンナの扱いに長けているからね!」
「それは言えるわ」
この姉妹、魔王さまとの蕩けるような甘い愛の営みについて、いつも話し合っているって言うの?
いや、いつも見て来ているんだよね? 魔王さまとが、どのように美女たちと接するかを。
「魔王さま、スゴイのよ、アノ方...」
リエルさんが、スゴイことを言った。
「......」
“アノ方”と言うのが、お父さまがお母さまやマイテさまやモナさまなどと毎晩遅くまで励んでおられたことだとって分かっていたけど... 実際問題、“アノ方”って、どんなことをどんな風にするのよ?
リエルさん、私の考えていることを読んだのか、ニンマリ笑ってこう言った。
「まあまあ。アリシアちゃん、そんなに急かなくても、あなたたちが魔王城に来たのを記念して、今晩あたり家族風呂があるはずだから、せいぜい、よく観察することね!」
“え、何よ、その家族風呂って言うのは???”