第89章 アリシア伯爵、伯爵の陞爵祝賀会をする(後編)
「うん?この匂いは!」
魔王さまも鼻をひくつかせて匂いを嗅いでいる。
「これは... もしかして...?」
アマンダさまが私の方を見ている。
「はい。お察しの通り、ヤキトリです!」
「なにっ、ヤキトリ?それは何だ?」
モモコ大王さまが、?印を頭の上に浮かべている。
「ヤキトリの屋台があるのか?」
魔王さまが、驚いている。
「はい。とくべつにお願いして屋台をやってもらっています」
「どんな料理か知らんが、うまそうな匂いだ。アリシア伯爵、こっちに持って来るように命令しろ!」
「いえ、モモコ大王さま。屋台は料理をお届けしません。屋台に行って、行列にならんで注文して食べてもらうことになります」
「なんだと?私を鬼人族国のモモコ・ベンケー・ シュテン7世大王と知ってのことか!?」
「モモコ」
「何だ?」
「私も魔王国の王なのだが...」
「む... そうだったな」
「どおれ、では列に並ぶとするか!」
「いや、ルークより、私の方が先だ!」
「負けられん!」
プリシルさまたちが驚いて見る中、魔王さまとモモコ大王さまが、駆けっこでヤキトリの屋台目がけて超音速は無理なので、バタバタと走ってすでに100人以上並んでいる列の最後尾に並んだ。
「アマンダ、私に順番を譲ってくれっ!」
魔王さまは、自分の10番ほど前に並んでいたアマンダさまを見つけて叫んだ。
「魔王さまでも、今日は譲れません!」
すごい... アマンダさまが順番を譲ることを拒んでいる(汗)。
それにしても、アマンダさまの走るのって、めちゃ速くない?
私が今日のために用意したマル秘料理は、ヤキトリだった。
情報総局ビルの地下にあるヤキトリ店の店長さんにお願いして、ヤキトリの価格にプラスして金貨5枚を払うという条件で屋台を出店してもらったのだ。ビル地下一階のお店の方は信用のおける店員にまかせて店長自身が二人助手を連れてやって来てくれたのだ。
屋台の周囲は、もうもうと煙がたちこめ、おいしそうな匂いが漂っている。
すでに注文したヤキトリを手にした招待客たちが、両手にヤキトリの串をもち、はふはふ言いながらヤキトリを頬張っている。
「なにっ、これ?すっごく美味しんですけど?」
「コリコリとして、食感がたまらないわ」
「これはうまい!ガルの心臓みたいだが、濃厚な味だ!」
「こつは、非常にあっさりしているが、甘みが少しありクセになりそうなうまさだ!」
「うまいっ!カリッとした食感で噛むとジュワッとした脂のうま味が出て来る!」
「これを食ってみろ。肉汁が多く、濃厚な味だ。実にうまい!」
ヤキトリを食べた者たちの感想を聞いた者たちは、さらに食欲が沸き、口の中がヨダレでいっぱいになる。
一人当たり10本と計算して、クマーラ王子たちトロール族は20本は食べるだろうと思って、少し多め- 1500本用意したヤキトリは、焼きはじめて1時間ちょっと経ったころには売り切れてしまった。
まあ、今日は私の奢りなので誰もお金を払う必要はないのだけど。
私は、ロニアちゃんが6本注文した分から3本もらっただけだけど、毎日情報分析室でおやつ代わりに10本ほど食べているので別に食べたりなくはない。
魔王さまは、10本もらってフローリナちゃんや元輔祭の娘たちと話していた。
しかし、結果は捗々しくなかったみたで、何だか失望したような顔をしていた。
フローリナちゃんとロニアちゃんたち元輔祭の娘たちのところから離れた魔王さまは、私のそばに来てこぼしはじめた。
「最近の娘は、どうもわからん。王妃にしてやると言っているのに、全然興味を示さん!」
「え、誰か、王妃になされるつもりなのですか?」
「うむ。あのキャルニボル大統領の娘のフローリナと、ゾオルの総本山から来たという六人の元輔祭の娘たちだ」
「そんなに一度に?」
「若い妻は多いのに越したことはない。私もますます意欲が湧くしな!」
ブレストピアの郷土料理、バッカラウレの揚げ物を美味しそうに食べながら、冷えたエールを飲んでいる。
「ま、魔王さま、おそばにいてもよろしいでしょうか?」
恐るおそるといった感じで聞いた者がいた。
身長が150センチほどしかない女の子は、あの新顔のフェリノディオ族の娘だった。
「おう、ハリジか。いいとも!」
「失礼します」
「まだ紹介してなかったな。こちらは、今度私の王妃となる...」
「ハリジ・ザルコヴィルスさんよ!」
「元東ディアローム帝国の最強魔術師ちゃんよ」
アンジェリーヌさまとジョスリーヌさまが、魔王さまに代わって新顔王妃の名前と出身を言った。
「最強魔術師だなんて...」
ハリジと言うフェリノディオ族の娘- もう、娘じゃなくて、人妻なのだが- が恥ずかしがる。
「そう言うことだ。さ、ハリジ、遠慮せずに私の膝の上に座るがよい」
「え?」
「魔王さまのご命令は絶対よ」
「そうよ。早くお膝の上に座りなさい!」
「は、はい!」
アンジェリーヌさまとジョスリーヌさまに言われて、慌てて魔王さまの膝の上に座るフェリノディオ族の魔術師。
「ジロランダさんたちは、どうしているの?」
「あ、はい。今日はほかのゼブルワンドルのスラビーたちと魔都に遊びに行くって言ってました」
「あら、じゃあ、今頃楽しんでいるわね?」
「ちょっと失礼します」
話題が全然知らない話になって来たので、フローリナちゃんたちのところに行くことにする。
フローリナちゃんは、エールを飲みながらロニアちゃんたちとにぎやかにおしゃべりしていた。
「あら、室長さま、魔王さまのところから逃げ出して来たんですか?」
「うん。新しい王妃さまを膝の上に座らせたから、これからイチャイチャが始まると思ってね」
「ああ、あのフェリノディオ族の小っちゃな娘ですね?」
「魔王さまの新しい王妃さまなんだ」
「まだ正式に式は挙げてないみたいだけどね」
魔王さまは結婚式を盛大にするが、まだ結婚式の招待状は頂いてない。
戦争が一段落してから挙式をするのだろう。
「わたしにも膝の上に座るようにと言ったんですよ!」
「フローリナちゃんも?私も言われたわ」
「あたしは王妃にしてやるって言われたわ!」
「私も!」
「私もよ!」
全員が手を上げた!
「でも断ったわ」
「私も!」
「私もよ!」
「あたしも!」
「私も断ったわ!」
全員が手を上げた?
「え、なぜ断ったの?それこそ玉の輿じゃない?」
どんな理由で断ったのか聞いてみた。
私の魅了能力、信頼能力が効果を発しているらしいけど、どんな影響を彼女たちにあたえたのか知りたかった。
「だって、わたし、まだしたいことたくさんありますから。今結婚して王妃になったら、魔王さまだけに尽くすしかないでしょう?」
さすがキャルニボル大統領の娘だけあって、フローリナちゃんは優等生だ。
「そうよね。あたしたちまだ若いんだし、今結婚したら、毎日魔王さまに抱かれて、魔王さまの子どもを産むだけだもんね!」
ううむ。アマラちゃんはそこまで考えているのか?
「男の人から愛されるって、少し怖いよね」
最年少のミンタちゃんが言えば
「やっぱり、室長との方がいいわよね?」
こ、こらっ、ペーミンちゃん!フローリナちゃんは、まだ私たちの事を知らないんだから、そんなことを言っちゃあダメ!
「え、室長となにをされているんですか?」
ほらね、フローリナちゃんが訊いたよ。
「うん。お風呂で、みんなでワイワイ騒いで楽しんでいるのが一番いいってこと!」
レイカちゃんの機転で危険地域から脱出できた(汗)。
その時、私は広い庭にある噴水のそばに二人のガバロスの姿を見た。
ロミッケン君とマルリシャラちゃんだ。何かロミッケン君が懸命に言っているようだけど、マルリシャラちゃんはほかの方角を見ていて、ロミッケン君の言葉に興味を示してないみたい。
フェリノディオ族の鋭い聴覚を使って、ガバロスカップルの話を聴いてみる。
盗み聞きだけど、ま、いいじゃない。ここは私の家だし、私の祝賀会だし、私が招待主なんだから。
「お願いダ モウ少し 恋人のふリを しテ もラえないカ?」
「いやよ。ワタシ、もうヤキトリは食べたし、お酒も飲んだから帰るの!」
「帰っテ、まタおめかしをしテ、あノ女たらシのゴロキッケンと出カけるのカ?」
「あなたの知ったことじゃないでしょ?」
「オレは、今度デクリオンに昇格しテ、給料モ 年ニ 金貨40枚モらえルようニなっタ 結婚シてモ マルリシャラに苦労ハ かケなイ」
「だからぁ!ワタシはまだ若いんだし、結婚する気はないって言っているでしょう!」
え――っ、なんだロミッケン君、マルリシャラちゃんに“1日恋人役”をやってもらっていたんだ!
いや、私はガバロスの美的基準は知らないよ。だけど、ロミッケン君、ガバロス好男子じゃないの?
ロミッケン君マジメだし、ゾオルでは皇帝夫妻救出で大いに助けてくれたし、何んとか仲をとりもってあげたい。
「やーだ、ザロッケン。明日、私のパパとママに挨拶に来るのに、あのヤキトリを持って行くつもり――?」
ルミシャラちゃんの声が聞こえて来た。
「いヤ、だかラ、ルミシャラもヤキトリ気にいっただロ?」
「そりゃ、あんな美味しいもの、嫌いな者はいないんじゃない」
フェリノディオ族の瞬足で、木下の長椅子に座って話しているガバロスカップルのところに急行した。
「えっ、アリシア伯爵さま、すっごく速いんですね!」
「ガア? びっくリ しタ!」
「あのね、二人楽しんでいるところ悪いんだけど、ロミッケン君とマルリシャラちゃんのこと、少し教えてくれない?」
「え?ロミッケンとマルリシャラのこと?」
「そう」
ルミシャラちゃんの話によると、マルリシャラちゃんは、今、あまり関心しない男と付き合っているのだそうだ。その男はとゴロキッケン言う名前で、30歳過ぎの離婚歴のある男で、マルリシャラちゃんが。年の差がありすぎる男と付き合い始めたことを知ったルミシャラちゃんが、親友であるマルリシャラちゃんのことが心配になって調べたところて、今までにわかっているだけで3度離婚し、4、5人のガバロス娘と関係をもっていたことがわかったのだそうだ。
「えっ、ルミシャラちゃん、よくそこまで調べることが出来たわね?」
「ううん。私のパパはレクスレギオン長だから、その名前を借りて親衛隊に調べてもらったのよ」
ゲゲゲっ、この娘、ガバロス族長の権威を私的目的のために利用しちゃっている?
まあ、親友のためだから、純粋に私的ではないけど。
「それで、最近は四股かけているということが判明しました」
「えええっ、二股じゃなくて三股じゃなくて、四股あ?!」
「はい。ルミシャラで四股です」
「ルミシャラちゃん、女たらしに遊ばれているだけか...」
「はい。だから、ザロッケンがロミッケンがアリシア伯爵の祝賀会に連れて行く女の子を探していると聞いた時にルミシャラに話せば、もしうまく行ったら、ゴロキッケンのことを忘れるかも知れないと思ったんです」
「うまく行ってないみたい。ロミッケン君とマルリシャラちゃん、噴水のところで口論していたわ」
「やっぱりね...」
「マルリシャラ、頭が固イ とこロ あル」
ううむ。
私に直接関係はないことだけど
何んとかうまく行って欲しいわ、あの二人。
ロミッケン君は、皇帝救出で大活躍してくれたし、マルリシャラちゃんも悪い娘じゃないみたいだし。
「う―――む...」
腕を組んで唸っていたら、マイレィちゃんがビアと研修生たちを引き連れて通りかかった。
供の者(ビアと研修生たち)にヤキトリやジュース、バッカラウレの揚げ物などを持たせている?
王女さまは、常に王女さまなのね?
「あーら、アリシアちゃん、そこで便秘でおトイレにいるような顔して何をしているの?」
「便秘じゃないわ!意思の疎通がないカップルの恋をどうやって成就させようかと悩んでいるのよ!」
「え?それって、わたしとリンド君のこと?」
「えええっ、マイレィちゃん、私の護衛君が好きなの?それとも護衛君があなたに片思いしているってこと?」
「うふふ。冗談よ。すぐに信じるんだから!」
「大人とおちょくったらダメよ!」
「アリシアちゃん」
「何よ?」
「あなた、どうやってフローリナちゃんとロニアちゃんたちが、パパのお嫁さんになることを邪魔したの?」
ピカピカピカ
突然、私は迷いを払拭して解脱した。
そうだ、私の能力を使えばいいんだ!
私はフェリノディオ族の高速で噴水へ向かって駆け出した。




