第87章 アリシア子爵、魔王妃と秘密会談をする(後編)
「アリシア伯爵さん、私たちがそろってここに来た理由は、あなたが可愛がっているらしい元輔祭の娘たちとキャルニボル大統領の娘のことについてよ」
アマンダさまが、私を見据えて冷たい声で言った。
「はい... わかりました。どの娘でも連れて行ってください」
私は、ネコ耳を下げてうなだれた。
「アマンダさん、ダメじゃない、そんな冷たい口調で言ったら?」
「え、なに?これは、私の普通の...」
「だからぁ、アマンダさんは、言い方が平坦で抑揚がないのよね?」
「胸はこんもりと盛り上がっているのにね!」
「心臓は温かい血を送り続けているのに、声は冷たいですよね」
「あ、あなたたち、何を言っているの?私は別にアリシア伯爵を冷たく扱って...」
「そもそも、みんなアリシアちゃんって言っているのに、なんであなただけ“アリシア伯爵さん”なのよ?」
「そうよ、そうよ」
みんなから、吊るし上げを食らっている?
「もう... 知らないっ。あなたたちが説明したらいいわ!」
アマンダさまがふてくされた?
「ごめんなさいね、アリシアちゃん。アマンダさん、魔王さまがまた若い娘を妻にすると思って、情緒不安定になっているのよ」
「情緒不安定なんかじゃないわ!」
「それに重なって、あの日なものだから」
「.........」
アマンダさまを見ると、私の視線に気づいたのか、私を見て赤くなってプイと顔をそむけた。
なんだか、とても女の子らしくて可愛いところがあって...
胸がキュン!ってする感じ。
いや、だからアマンダさまは30歳近いお年だから女の子じゃないって...
それに、アマンダさまは、私の『女の御殿』には入れないよ?
アマンダさまって怖いし、入れたら私に代わって御殿主になりそうだから(汗)。
「それで、アマンダさまの不安は、わたくしたちも同じなの...」
「今以上に奥さん増やしてほしくないわ」
「15歳とか17歳とかの若い娘にはかなわないものね」
「そうですわ。私もいつまでも二十代じゃなですし」
「わたしもとっくに二十歳を過ぎたし!」
プリシルさま、リリスさま、ハウェンさま、それにアンジェリーヌさまとジョスリーヌさまが口をそろえて、現在の数以上に魔王さまが妻を増やすことに反対らしい。
でも、そんなのどうやって阻止するのよ?
魔王さまって、自分の好みの女を誰でもかんたんに落とせるみたいだし。
それで、ルナレイラお義姉さまは王妃になっちゃたし、私も愛人にされたし(涙)、お母さまもモナさまもマイテさまも魔王さまの奥さんになっちゃったんだし。
「魔王さまはね... 人を魅了し、彼を信頼させる能力をお持ちなのよ」
「...... え? えええ――っ、そ、そんな能力アリなのですか―――っ?」
「あるも何も。実際、あなたもその能力の被害者の一人でしょう?」
びっくりしたの何のって。
そりゃ、魔王さまは背が高くて美男子だし、お金持ちで権力ももっているし、ベッドでも絶対に女性を100パーセント以上満足させてくれるけど...
それらの魅力意外に、そんな絶対無敵の能力をもっていたのね?
そりゃ敵うはずがないわ。道理で、名だたる敵国の猛将たちや将兵が、こぞって魔王軍に投降し、魔王軍の麾下に入るはずだよ?
「まあ、魔王さまのあの能力は、創造主さまから頂いたものらしいんだけど、その時に、アマンダさんは無敵の剣士、私は百発百中の弓の速射と透明化能力、リリスは治癒能力、そしてハウェンは絶対防御を付与されたんだけどね」
プリシルさまの説明に口が開いたままだった。
「アリシアちゃん、口が開いているよ?」
マイレィちゃんから言われて口を閉めた。
「それで、わたくしたち四人で相談した結果、あなたにも魅了能力、信用能力をもってもらおうってことになったわけ」
リリスさまが、面白そうに私の顔を見ながら言った。
「ええっ?私にも魔王さまみたいな...」
「いえ、魔王さま並みの能力は、エタナールさまじゃないと無理ね」
ハウェンさまが否定する。
「え、じゃ、じゃあ... 今から... エタナールさまにお祈りして、お願いするんですか?」
「あら、アリシア伯爵じゃない、アリシア ちゃん... あなた、お祈りが好きなの?」
ようやくご機嫌がなおったらしいアマンダさまが、仕返しみたいな感じで(少しイジワルに)聞く。
「あまり... 祈りません」
「は――っはっは!そうでしょう、そうでしょう?敬虔なエテルナール教徒には見えないものね!」
勝ち誇ったように、こんもりと盛り上がった胸を張って言うアマンダさま。
やっぱり可愛いわ。
『女の御殿』入輿候補者の一人にいれとこうかな?
いや、止めておこう。アマンダさまは、情緒不安定になろうが、生理の日になろうが、魔王妃であることに変わりはない。
人さまの持ちモノを自分のモノにするのは良くない。
それに、アマンダさまのあの性格だと、私が姓ドレイにされそう(汗)。
私、男の人には多少イジメられるのが気持ちイイと思うけど、女にイジメられるのは好きじゃないのよね。
えーっと思考が横道にそれ過ぎた。
で、エタナールさまにお願いするんじゃなかったら、どうするの?
まさか、魔王さまに「魔王さまの能力、少しお裾分けしていただけませんか?」ってお願いするんじゃないよね?
「そこで、マイレィちゃんの出番になるのよ」
「そう、われらがマイレィちゃんの出番ね!」
アンジェリーヌさまとジョスリーヌさまが、異口同音に言った。
「マイレィちゃん?... まさか、マイレィちゃんはエタナールさまの生まれ変わりなんですか?」
「なに、それ?キャーッハッハッハ!」
マイレィちゃんが笑い転げた。
「マイレィ、そんな品がない笑い方はやめなさい」
「はい、ママ」
プリシルママの言うことには素直な良い子。
「この娘はね、眠っている能力を目覚めさせる能力をもっているの」
「はぁ...」
プリシルさまが、何を言っているのかよく理解できなかった。
「そうですーっ!わたしはスゴイのです――っ!」
マイレィちゃんが、もう私のおムネ並みの胸を張って自慢してる。
「マイレィ、もったいぶってないでやってあげて」
「イエス、ママン」
変な言葉を言って、マイレィちゃんが私に近づいたと思ったら―
イタズラっ子みたいな目をして、私のおでこを人差し指で“ツン”した。
ビリッ!
「フニャン!」
痛いような痺れが全身に走り、思わず尻もちをつきそうになったけど、ハウェンさまに支えられて恥を晒さずに済んだ。
人差し指で突かれたおでこから、なんだか変な、痺れるような感覚が頭の中に充満するような感じだ。
少し気分が悪くなった。そして、なんだかすごく寒くなり、身体がふるえはじめた。
プリシルさまがマントをかけてくださり、アマンダさまもご自分のマントで私を包んでくれた。
決めたわ。アマンダさまを私の『女の御殿』の監督官にしよう!
「アンジェリーヌお姉さま、少し温めてあげて」
「まかせて、ジョスリーヌ!」
アンジェリーヌさまが、詠唱をすると私の周りの空間が暖かくなった。
「本当のことを言うとね、私も妹のジョスリーヌも、魔術師の能力は、まだ乳飲み子だったマイレィちゃんが開眼してくれたのよ」
「それまで、私たちはふつうの王女さまだったの!」
「!」
びっくりしたわ、もう。
魔王国で最強の魔術師5人に入る、元ミタン国の王女姉妹が、赤ちゃんだったマイレィちゃんの能力で目覚め、最強の魔術師になったなんて。
そんなこと、今まで誰も言ってくれなかったし。
まあ、事が事だけに、誰にもわからないようにして来たんだろうね。
じゃないと、誰も彼もマイレィちゃんに眠れる能力を覚醒してもらいたがるからね。
そのまま5分だか、10分だか、暖かくしていると悪寒が去り、汗をかきはじめた。
「もう、それくらいでいいわ、アンジェリーヌさん」
「はい」
「じゃあ、プリシル局長さん、あの総本山から来た輔祭の娘たちとキャルニボル大統領の娘を呼んでちょうだい」
「わかったわ」
アマンダさまに言われて、プリシルさまはドアを開けて情報分析室に向かった。
え、でも、今情報分析室にいるのは、昼番のマルレーヌちゃんとミンタちゃんだけで、朝番のロニアちゃんとアマラちゃんも夜番のレイカちゃんとペーミンちゃんもいないはず。
プリシルさまは、すぐにマルレーヌちゃんとミンタちゃんを連れてもどって来た。
そのあとから朝番のロニアちゃん、アマラちゃん、夜番のレイカちゃんとペーミンちゃんが入って来た。これで、元輔祭の娘六人がそろった。
そして、最後にフローリナちゃんが入って来た。これで魔王さまが狙っている7人が全員そろったことになる。
「こんにちは、室長。あ、王妃さまたちもいらっしゃる?」
最初に入って来たロニアちゃんがおどろく。
「みなさま、こんにちは」
「こんにちは!」
「こんにちは!みなさま」
「こんにちは!」
「こんにちは。王妃さまと室長さま」
「こんにちは。室長、何の会議なんですか?」
「あなたたちが魔王さまの妻や恋人にならないための説得よ!」
アマンダさまの言葉に、ざわめく元輔祭の娘たちと大統領の娘。
「じゃあ、アリシアちゃん、お話をしてあげて。この娘たちは誰一人として魔王さまの妻にも恋人にも愛人にもなってはならないって」
プリシルさまの言葉に、私はマイレィちゃんから覚醒してもらったと言う魅了能力と信頼能力を全力で使って(使ったつもり)、7人の娘たちに話しかけた。
「いいこと。あなたたちは、私以外の誰も好きになってはいけないし...」
「あら、アリシアちゃん、あなたいつから女好きになったの?」
プリシルさまの言葉でやり直すことになった。
マイレィちゃん、ママに告げ口してなかったのね?
もうすぐ11歳になると言う王女さまは、私をニヤニヤ笑いながら見ていた。
仕切り直して―
「いいこと。あなたたちは、魔王さまからのいかなる甘い言葉にも誘惑にも、決して心を動かしてはなりません。魔王さまは、とても魅力的な男性ですけど、彼が王妃にしてやろう、妻にしてやろう、恋人にしてやろう、愛人にしてやろう、魔王さまの付き人にしてやろうなどと、いかなる言葉で体の関係を迫っても、あなたたちは純潔を守り通さなければいけません。わかったわね?」
「「「「「「「は――――い、室長!」」」」」」」
7人全員、返事をした。
え、これ、ちょっとあっけ過ぎない?
「どうもありがとう。じゃあ、みんな持ち場にもどって。ロニアさんにアマラさんにレイカさんにペーミンさんはご苦労さま。またアリシア室長の家に帰って休んでいいわよ!」
「はーい!」
「どうもお疲れさまです」
「お疲れさまです!」
「では、失礼します」
「失礼しまーす」
「お疲れさまです。室長さま、またあとで!」
「室長、夜にまた会いましょうね」
ふうむ。アマンダさまたち、私の家にいた4人に連絡してここに来るように言っていたのね。
それにしてもあっけなかったわ。本当にあれで効果があるのかしら?
最後にアマラちゃんが手をふって出て行ったドアをすこし茫然として見ていると、プリシルさまが呼びかけた。
「アリシアちゃん、マイレィから授けられたという能力、はたして効いているんだろうかって思ってない?」
「え?正直言って、半信半疑です」
「あのね、あなたが使えるようになった魅了能力と信頼能力はね、その対象となる者が、少なくともあなたを信用するか、あなたに好感をもってないと効かないのよ」
「えっ、そんな制限があるんですか?」
「そりゃそうよ。魔王さま並みの能力をあなたが持っていたら、このテルースの世界は、魔王さまとあなたで二分することになってしまうわ」
「ええっ、あはは。まさか―!」
「冗談じゃないわ。本当よ。アリシアはく... ちゃん」
伯爵と言おうとして訂正したアマンダさま。
私がうれしくてアマンダさまの顔を見ると、赤くなった?
私とアマンダさまの様子を興味深そうに見ていたリリスさま。
「つまり、あの7人の娘たちは、すでにアリシアちゃんを尊敬し、とても信頼しているから、能力が効きやすいということね?」
「アリシアちゃん、能力を授かる前から、魔王さまや私たちに好印象をもたらす魅力をもっていたようだしね!」
リリスさまとハウェンさまが、私が今まで気づかなかったことを言った。
「あら、それは反対じゃなくて?」
「反対って何が?」
「だから、魔王さまの魅力でアリシアちゃんが魅了されて...」
「そうかも知れないけど、アリシアちゃんも潜在能力として持っていたから、相乗効果で...」
「いや、最初にヤーダマーの塔に行った時のこと思い出してごらんなさいよ」
「そうそう。あの時、泣く子も黙ると評判だった魔王さまの前から逃げ出したのは、アリシアちゃんだったのよ?」
「そうだったわね。あれには私も驚いたわ」
リリスさまとハウェンさまの論争にアンジェリーヌさまとジョスリーヌさまが加わって、論争は果てしなくなりそう...(汗)。
キャルニボル大統領の娘と元輔祭の娘たちが、魔王さまの新しいオンナにならない(だろう)という収穫を手に、魔王妃さまたちと最強の魔術師王妃さま二人は意気揚々と通り道を通って帰って行った。
やれやれ...




