第81章 アリシア子爵の皇帝救出作戦④
万事休す?!
これで私の人生終わり?
“アリシア・ミラーニア・ゲネンドル魔王国子爵
テルース歴5065年2月〇〇日、西ディアローム帝国のドリアンスロゥプ皇帝を救おうとして、ダイダロス宮にてハリネズミのように矢を撃たれて名誉の殉職をする。
享年16歳。夫なし、愛人数人、子どもなし。
全財産金貨125枚大銀貨142枚、銀貨58枚、銅貨31枚。
資産のほとんどはレッべガアル産葡萄酒の販売事業に注ぎこんでいたため、事業主であったゲネンドル子爵が亡くなったのを幸いと、子爵の葡萄酒を保管していた業者は在庫をすべて販売し、その金を着服した...
何で死の間際に、こんなトンデモナイ未来図を想像するのよ?!
死んだ!
と思った瞬間―
バシッバシッ
バシッバシッバシッバシッ
すべての矢が弾かれた!?
「間一髪、間に合ったわね!」
聞き覚えのある声にふり返ると、そこにはアイフィさまがいた。
図書の間から出て来たのは彼女だけではなかった。
ミカエラさま、アンジェリーヌさま、ジョスリーヌさま、それにヴァスマーヤさまが出て来た。
そして... 全員浮遊していた!
「げげっ、魔術師?!」
反乱兵の指揮官が驚いている。
「よくも、わたくしの可愛いアリシアちゃんを傷つけたわね!」
「えっ、私を傷つけた?」
「室長さま、腕に矢が...」
「あ、本当!」
ロニアちゃんとアマラちゃんの声に、腕を見ると矢が刺さっていた!
「みんな、黒焦げにしてやるわ!」
アイフィさまが怒っていた。
彼女が怒った顔は見たことがない。
「アイフィさん、すごく怒っているよ!」
図書の間の入口から顔を出して様子を見ていたマイレィちゃんが目を丸くしている。
バリバリバリ……
どこから出たのかわからないけど、眩いばかりの青白い稲妻が廊下を走った。
「ぎゃあ!」
「ぐはっ!」
「げっ!」
「ぐわあ!」
アイフィさまの超絶電撃魔法で、指揮官も反乱兵たちも真っ黒こげになってしまった!
バリバリバリ……
バリバリバリバリ……
アイフィさまが、廊下を飛びながら電撃魔法を放って反乱兵たちを片っ端から黒焦げにしている。
廊下の両側から迫っていた反乱兵や反乱市民の先鋒を4、50人黒焦げにすると、今度はさらに廊下の奥に飛んで行って、こちらへ向かっていた敵を攻撃しはじめた。
「あ、ズルい、アイフィさんだけ敵を倒して!」
「私たちも、せっかく貴重な時間を潰してここまで来たんだから、たくさん反乱兵を倒さなきゃ!」
「そうよ、そうよ!」
アンジェリーヌさまとジョスリーヌさまが、何やら話している。
「じゃあ、ここはアイフィさんとミカエラさんにまかせて、私たちはキャルニボル大統領のところへ!」
「そうそう。アイフィさんだけが手柄を立てたって魔王さまが聞かれたら...」
「魔王さまより、アマンダさまの方が怖いわよ」
「じゃあ、行くとしましょう」
「行きましょう」
何やら結論に達したみたい。
やはり、魔王さまから命じられてここにやって来たからには、何か手柄を立てたいらしい。
後輩であるアイフィさまだけが大手柄を立てた、と魔王さまやアマンダさまに知られるのを避けたいらしい。
まあ、それもそうよね。それなら、何も4人も魔術師送る必要ないし。
「えっ、アンジェリーヌさんとジョスリーヌさん、私たちを見捨てて行くんですか?」
「何を言ってるのミカエラさん?」
「そうよ。テルースの世界で最強魔術師と言われるアイフィさんとあなたがいれば、敵の千人や万人、屁でもないでしょう?」
「え... 屁でもない?」
「じゃ、がんばってね!」
「ケガしちゃダメよ?」
ミカエラさんが、先輩王妃であり、先輩魔術師であるアンジェリーヌさまとジョスリーヌさまに甘えるのを二人のミタン国出身の魔術師たちは突き放したあとで、上手に持ち上げてから飛んで行ってしまった。
さすがにテルースの世界で2番目、3番目に魔王さまが妻にしたという王妃だけあって、人間関係をうまく保つ術に長けている(汗)。
「わ、わたしもアイフィさまに負けてられないわ!」
ミカエラさまが“わたしもやるわ!”みたいな気合の入った顔をして、アイフィさまが飛んで行ったのと反対側へ飛んで行った。
すぐにミカエラさまが飛んで行った方向から、反乱兵や反乱市民の悲鳴や絶叫が聴こえて来た。
しばらくして、ミカエラさまが飛んで行った方から、すごい焼き肉の匂いがただよって来た。
いやいや、これは焼き肉じゃないし、ヤキトリでもない。
ミカエラさまの火玉魔法で焼き肉じゃない、焼き殺された反乱兵や反乱市民たちの肉の焼けた匂いなのだ。
無性に焼き肉が食べたくなって、思わず唾を飲みこんだ(汗)。
「アリシアちゃーん、アリシアちゃんは、どこ――っ?」
図書の間から、私の名前を呼びながら出て来たのは、プリシルさまとリリスさまだった。
「あ、そこにいた!」
「いましたわ」
ロニアちゃんとアマラちゃんとマイレィちゃんに囲まれて、腕に突き刺さった矢をどうするかを思案していた私に駆け寄って来た二人。
「ごめん、ごめん、アリシアちゃん。来るのが遅れちゃって」
プリシルさまは完全武装、リリスさまは軽武装だった。
プリシルさまは手に弓を持っていた。
リリスさまは、ショートソードを腰に下げている。
「これ、抜かないとダメよ」
「えっ、抜く?」
私は少し青褪めた。
矢は二の腕を貫通しており、先端が10センチほど出ていた。
出血はそれほどないけど、ズキズキと痛む。
「抜くのがイヤなら、腕切り落とすしかないわね」
図書の間から出て来た、これも完全武装の群青色の髪と空色の瞳の瞳が美しい女騎士が言った。
「アマンダさま?」
「魔王さまがね、ちょっと見に行ってやってくれとおっしゃられたので来たんだけど」
「は、はぁ...」
「プリシルさん、ちょっと子爵の腕を伸ばして見せて」
「こうですか?」
アマンダさまの言葉に、ズキズキ痛む腕を伸ばした。
シュバッ!
ボトン
「ふぎゃアアア――――っ!」
抜く手も見せずにアマンダさまは剣を抜き、私の腕を切り落とした。
「!」
「!」
ロニアちゃんとアマラちゃんがビックリして尻もちをつく。
床にオシッコのシミが広がる。
ロニアちゃん、あまりにも驚きすぎて失禁したみたい。
「あらら。アマンダさん、アリシアちゃんに抜くのと切るのとどちらがいいか訊かないで切っちゃったのね?」
「切った方がいいに決まっているでしょう」
「ふぎゃアアアっ!痛い、痛い、痛いっ!」
血が切られた腕から噴出しているのを手で覆いながら泣き叫ぶ私。
ロニアちゃんとアマラちゃんも寄って来たけど、どうしていいかわからずにうろたえている。
「リリスさん、早く治癒を」
「はい」
アマンダさまが私が動かないように羽交い締めし、
プリシルさまが血が噴き出ている腕を握った。
リリスさまが、私の腕に向けて手をのばした―
すると、淡い光のようなものが彼女の手の先から出て腕を包み...
二の腕の半分から断ち切られていたのが、出血が止まり、
傷がみるみるうちに皮膚でふさがってしまった?
さらに、傷がふさがったところが、にょきにょきと伸びはじめ、
前腕→ 手→ 指 と復元していった!
痛みはとうになくなっていた。
「腕が... も、もとに もどった!」
「ね? 切る方が早かったでしょう?」
「アマンダさまっ!」
思いっきりフェリノディオ族の目で睨んでやった。
「おお、怖っ!アリシアさんって、そんなお顔も出来るのね?」
アマンダさま、全然怖がらなかった(汗)。
まあ、私はネコじゃなくて、フェリノディオ族なので、いくら睨んでも怖くはないかも知れないけど、私はかなり腹を立てていた。
ひと言説明してくれたってよかったじゃない?
切る方が抜くより簡単だって。
「アマンダさまっ!」
腹に力をこめ、低くて威圧感のある声で静かに呼んだ。
「な、何よ、アリシア子爵さん」
「今日もおきれいですね!」
「え、あ...ありがとう」
アマンダさま、今度は少しビビったみたいなので、これで良しとする。
それにしても、リリスさまのこの能力はなに?
負傷している近衛騎兵や貴族たちを治療しているリリスさまを見て、血に染まった私の長袖シャツを見た。
アマンダさまが切ったところでシャツは切れ、血だらけになっている。
リリスさまは、私の腕を元通りにしただけでなく、出血による血液不足も感じないので、腕の復元と同時に出血で失った血液も回復したんだろうか?
図書の間が騒がしくなったので、図書の間にもどって見ると、みんなが窓に鈴なりになっていた。
「見ろっ!あの氷の竜が吐き出す氷の息で、反乱軍と反乱市民たちがみんな凍っているぞ!」
「いや、あの炎の竜を見ろ!炎の息で反乱軍を焼き尽くしている!」
「あっちを見ろ!空は晴れているのに、無数のカミナリが落ちて、反乱軍を黒焦げにしている!」
「こっちを見ろ!物凄い突風で反乱軍が空高く巻き上げられている!」
アイフィさまたちが、ダイダロス宮の中にいた反乱兵や反乱市民をやっつけた後で、アンジェリーヌさま、ジョスリーヌと合流したらしく、ダイダロス宮を取り囲んでいた3千人を超える敵が、もうメチャクチャにやられていた!
「モゴ... 魔王国ノ 魔術師 スゴイ モゴ!」
「ムゴ 本当に恐ろしいくらい凄いですわ!」
ドリアンスロゥプ皇帝とジャブイ皇后も目を瞠っている。
「おっ、市街地から、こちらへ向かって来る部隊がいるぞ?」
「なに、どおれ... おお、あの旗は、ガナパティ厩役伯爵殿の紋章旗ではないか!」
「首都防衛軍と救援に駆けつけてくれたか!」
「見ろ、左手からも別の部隊が大勢来るぞ!」
「あの紋章は、ボンガゥル侯爵殿だ。憲兵師団を連れているぞ!」
「これで、反乱軍が鎮圧されるのも時間の問題だな!」
「鎮圧も何も、宮殿内にはもう反乱軍は残ってないのではないか?」
ダイダロス宮内にいた敵の内通者の手引きで、反乱兵と反乱市民が宮殿に突入して来た時、ガナパティ厩役伯爵とボンガゥル侯爵は、すぐに脱出してゾオル防衛軍と憲兵師団を引き連れてもどって来たのだった。
ゾオル防衛軍と憲兵師団の到着で、反乱軍と反乱市民はすべて鎮圧された。
高官や貴族たちが言っていたように、反乱軍は大部分がアイフィさまたちに倒され、生き残ったのはわずか千人ほどだった。
アンジェリーヌさまとジョスリーヌさまから聞いた話によると、アイフィさまは千人以上殺したそうだ。ミカエラさまが、五百人ほどで、アンジェリーヌさまとジョスリーヌが合わせて千人くらいだとか。
「アイフィさんって、アリシアちゃんのお母さまみたい」
「わが娘を傷つけたヤツは八つ裂きにしてやるわってやつね!」
キャルニボル大統領もリンド君たちのおかげで無事で、フローリナさんが皇帝・皇后陛下救出の立役者になったことを知ってすごく感激していたそうだ。
大統領は、マイレィ王女と私たちがうまく逃げれるようにフローリナさんを遣わせたそうだけど、結果的にそれが皇帝と皇后をお救いすることになったというわけ。
魔王国軍が参戦したので魔都ではかなり慌ただしくなっており、アマンダさまは皇帝・皇后陛下に「魔術師たちの働きを見に来ただけですので。皇帝陛下、皇后陛下ともご無事のようで安心いたしました。魔王さまにもご無事であったとお伝えします」と言って、アイフィさまたちを連れて帰ってしまった。
私も魔都に帰りたかったけど、まだ『古文書光写作戦』が終わってないからね。帰れるのは明後日になりそう。
ザロッケン君たちガバロス親衛隊に護衛されてパンディーオーン宮にもどり、お風呂に入りなおして...
そのままグッスリ寝てしまっちゃった。
疲れ切っていたのよね。
ガバロス親衛隊とともに、ロニアちゃんとアマラちゃんを従えて反乱軍をたたっ切り、斬り伏せ、皇帝・皇后陛下を助け、腕を矢で撃たれ、それをアマンダさまにたたっ切られ、リリスさまに元通りにしてもらった。
本当に大へんな1日だった。
疲れない方が不思議でしょう。
おやすみなさい…




