第80章 アリシア子爵の皇帝救出作戦③
戦えない者は礼拝堂に残して、中庭に向かう。
廊下を進んで来る反乱兵士や反乱市民は、刃向かって来るヤツは片っ端から血祭だ。
後ろから続く近衛兵や貴族たちは、倒された敵の武器を拾って続く。
中庭に到着するまでに、すでに40人以上の反乱軍兵士や反乱市民を倒した。
中庭にはには50人ほどの反乱軍がいた。彼らはヴァナグリーの姿を見て腰を抜かしたが、こちらがわずか5騎だとわかると、一斉に襲いかかって来た。
「散開!」
「ガハア、ガアっ!」
ザロッケン君が、私の命令を伝え、
ガバロス親衛隊は横隊になって迫りくる反乱兵士と反乱市民の中に突入した。
ブ―――ン
バキャ ガキャっ バギャっ ボキっ
ブ―――ン ブ―――ン
ガキャっ バキャ ボキっ バギャっ
太いシッポの一撃で、たちまち10人ほどの反乱兵たちがなぎ倒される。
なぎ倒された者たちは、背骨や肋骨を折られて戦闘不能になる。
ガリーッ バリーッ
鋭いツメのついた前足攻撃で胴体が真っ二つになる者、頭が飛んでしまった者、
両足がもぎ取られた者の山が築かれる。
「ぎゃあああっ!」
「ぐえええっ!」
「助けてくれ――っ!」
「ギャ――!」
中庭にいた反乱軍と反乱市民たち50人ほどは、たちまちほとんどが倒され、残りは死に物狂いで逃走した。
近衛兵たちと貴族・高官たちは、ここでも倒した敵の武器を手にとる。
「このまま、図書の間へ突入よ!」
「ガア!」
ドドドドド……
廊下を図書の間へ向かう。刃向かって来る敵は倒し、逃げる敵もヴァナグリーの足蹴にかける。
ヴァナグリーが通ったあとは、累々たる死骸しか残らなかった。
図書室の前には、レオニディオ近衛騎兵が十人ほどいた。
そこで近衛兵と戦っていた反乱兵たちは、ヴァナグリーが迫るのを見ると近衛兵と戦うのを止めて一目散に逃げだした。
「おう。味方か?」
レオニディオ近衛騎兵の一人が訊いた。
腕や肩に傷を負っている。ほかの近衛兵も負傷をしている者が多い。
廊下には、戦いで倒された近衛騎兵が20人ほどと、反乱兵や反乱市民も40人ほど倒れていた。
さすがに近衛騎兵だけあってかなり強いようだが、多勢に無勢で数で圧倒的な反乱軍に押されて、もう少しで全員戦死で皇帝陛下と皇后陛下を反乱軍に拉致されるところだったみたいだ。
「魔王国のアリシア・ミラーニア・ゲネンドル子爵ならび魔王国のガバロス親衛隊参上しました!」
「おう、総本山で古代文書を調べると言って来られていた魔王国王妃さまのご一行の...」
「いかにも。こちらは、マイレィ王女さまにザロッケンデクリオンとロニア・フォールンさんとアマラ・エボニーさんです」
「おう、王女殿下も陛下の救出に来てきださったのか。かたじけない!」
「皇帝陛下と皇后陛下は、ご無事か?私は皇帝衣装係のヴルペス侯爵だ」
「はい。われわれがここを死守していましたので、図書の間でご安泰でおられます」
なるほど、このセルヴィニディオス族の貴族のオッサン、ドリアンスロゥプ皇帝の衣装係だったのね。衣装係と言えば、ただ皇帝や王などの服装を管理し、服装助言役みたいな感じだけど、とんでもない。
宰相などが、国の政治・外交を司る表向き、対外的な役職であるのに対して、最高支配者である皇帝や王の衣装係というのは、皇帝や王に直接何でも言えるという特権をもっている場合が多いの。
ヘタをすると、皇帝や王が衣装係を信頼し、その助言- 衣装ではなく、政治的助言や人事助言など-
を受け入れると、宰相などが想像もしないような結果を招きかねないの。
お父さまにも、そんな衣装役がいたんだけど、お父さまは煩がって位の低い貴族を近習にしちゃったけどね。
まあ、西ディアローム帝国の場合はキャルニボル大統領が政治実権をもっているので、そんなことは起きないだろうけど、衣装係はそれほど影響力のある役職なのだ。
レオニディオ近衛騎兵が図書室の扉を開くと、中には皇太子や皇女、寵妃たちに囲まれた ドリアンスロゥプ皇帝とジャブイ皇后がいた。
「ムゴ... アリシア子爵でハ ナイカ?ムゴ!」
「モゴ!アリシア子爵さん、あなた、わたくしたちを救いに来てくださったの?」
「はい。少し無謀だったかも知れませんが」
「ムゴ... アリシア子爵ニ マイレィ王女殿下、ソレニ 魔王国ノ親衛隊 我が輩ハ 大変感謝スル。ムゴ!」
「モゴ!本当に感謝しますわ」
「皇帝陛下に皇后陛下、ご無事で何よりです!」
「ムゴ。ヴルペス侯爵 無事デアッタカ?」
「はい。ここのアリシア子爵さまと魔王国のガバロス親衛隊のおかげで、閉じこめられていたのを助けられました」
「フローリナさんたちも、儀式広間に閉じこめられていた近衛兵たちを解放して、無事キャルニボル大統領のところへ行けたみたいよ」
皇帝と皇后が、 ヴルペス侯爵やほかの貴族たちと感動の再会に浸っていると、マイレィちゃんがリンド君たちの状況を教えてくれた。
「それは良かったわ」
「でも、安心はできないわ。先ほど逃げ出した反乱兵士たちが、城外にいた反乱兵たちに知らせたので、千人以上がこちらに向かって来ているわ!」
マイレィちゃんが、眉を曇らせて告げた。
「えっ!?」
「ガア!大軍?」
「どうしましょう、室長さま?」
「戦うしかないんじゃない?」
ロニアちゃんとアマラちゃん、それぞれ反応が違う。
まあ、エルフとパンサーディオ族では、戦闘能力にかなり差があるので、それも無理がないか。
だけど、ここにいるのは、私たち四人- マイレィちゃんは戦力外だけど- と、ガバロス親衛隊5人、それにレオニディオ近衛騎兵50人と高官・貴族が10人ほどだけだ。
ガバロス親衛隊は強いし、ヴァナグリーは無敵だけど、いかに彼らが強くても、千人の敵というのは多すぎる。ガバロス親衛隊の中にも、先ほどからの戦いですでに手足に負傷をしている者もいる。
城外にいた反乱兵や反乱市民たちが突入して来て、矢などの飛び道具を使われたら厄介だ。
ヴァナグリーも矢で目を射られたらひとたまりもない。
無敵のヴァナグリーも目は弱点なのだ。
「敵はもう中庭からこっちに向かって来ているわ!」
マイレィちゃんが、かなり緊張した顔で告げた。
「マイレィちゃん、エスオーエスよ!」
「らじゃ!」
「反乱兵がこちらに向かって来ます!」
廊下にいたレオニディオ近衛騎兵が、図書の間にいる私たちに知らせる。
「反対側からも大勢来るぞ!」
別の近衛兵が反対側を指差し叫ぶ。
「みんな、救援が来るまで、皇帝陛下と皇后陛下、それに皇族をお守りするわよ!」
「「「「「ガ――――ア!」」」」」
ガバロス親衛隊が気勢を上げ
「「「「「「「「「「オオオオオオオ――――!」」」」」」」」」」
レオニディオ近衛騎兵たちが雄叫びを上げ
グワルルルルルル―――――ッ!
ヴァナグリーたちが大声で吼え
「はい...」
「はい」
ロニアちゃんは相変わらず消極的な返事で、
アマラちゃんは元気な返事だ。
「来たぞ――っ!」
「突っこめ――――!」
「「「「「「「オオオオオ―――――――!」」」」」」
近衛兵の叫び声と、突入した来た反乱軍の指揮官の号令に応えた反乱兵たちの叫び声が聴こえたと思った次の瞬間―
ガキン!
ガキーン!
ガキガキン!
剣と剣がぶつかる音が鳴り響いた。
「ザロッケン君、跳躍攻撃っ!」
「ガア! ガガア――ッ!」
私の指示で、ガバロス親衛隊が乗ったヴァナグリーたちは戦っている近衛兵たちの頭の上を飛び越え、押し寄せるように攻めて来る反乱兵たちの中に着地した。
鋭いツメのある前足と後ろ足で十数人が踏みつぶされる。
ヴァナグリーは、キバでツメで、強靱なシッポで、瞬く間に死骸の山を築いていく。
「行くわよ―――っ!」
「オオオオオオオ――――!」
「はい...」
「はい」
私たちもレオニディオ近衛騎兵たちとともに、ガバロス親衛隊とヴァナグリーの攻撃を免れた反乱兵たちの中に斬りこんだ。
「子爵さまとエルフ娘とパンサーディオ族娘を守れ!」
ヴルペス侯爵が、剣を手に近衛兵に命じる。
「おう!」
「ネコ耳子爵殿はオレたちが守る!」
近衛兵たちが、私たちの周囲を守りながら反乱兵たちの攻撃に反撃する。
その時、脇の廊下から新手の反乱兵たち一団が押し寄せて来た。
「クロスボウ隊っ、こいつらを始末しろ――っ!」
敵の指揮官らしい奴が、後ろの方にいるクロスボウ隊に命令した。
距離が近いので曲線攻撃はできないが、敵の弓隊と私たちの間にある障害物- 敵兵たち- がいなくなると、クロスボウの直線攻撃を受ける!
これはヤバい。
ガバロス親衛隊は、廊下を突っ走って中庭の方に行ってしまったので、もう呼びもどすことはできない。
私たちを守ってくれていた近衛兵たちも、槍傷や剣の傷で存分に戦えなくなっていた。
後方には30人ほどの近衛兵が、皇帝陛下と皇后陛下の最後の守りとして死守すべく控えているが、応援に彼らを呼ぶことはできない。
ガシュ!
「ギェエ!」
槍を突っこんで来た反乱兵の槍を剣で弾き、弾いた流れでそいつの首を斬り飛ばす。
その後ろから剣をふり上げて迫って来たヤツを跳躍して躱し、真上から脳天を真っ二つにする。
続いて突っこんで来た反乱兵たちを、ロニアちゃんとアマラちゃんが、二人がかりで腕を斬り、胸を貫く。
ヒュン ヒュン
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
敵兵がクロスボウを撃った!
万事休す?!




