第78章 アリシア子爵の皇帝救出作戦①
話をエテルナール教総本山の秘蔵文書保管庫にもどして―
私たちが、エテルナール教総本山の古代文書の光写作業で汗水を流していたころ、ベルミンジャン王国軍とアングルスト帝国軍から攻め込まれていた、西ディアローム帝国、ベルミンジャン王国、鬼人族国(正式名称はラーシャアグロス王国)の状況は大きく変わりつつあった。
それは、魔王国がいよいよ戦いに介入したからだ。
魔王国は、ゾオル救援作戦の第一段階として、魔王国海軍がゾオル湾に集結していたベルミンジャン王国とアングルスト帝国の船団を魔王国艦隊で急襲し、ほぼ壊滅させた。
これにより、ゾオルの包囲網のうち、海からの補給物質の供給を阻止した。また、これにより、敵の海からの援軍の心配もなくなり、ゾオル救援作戦を敵の援軍の心配をすることなく続行することが可能となった。
魔王国の艦隊は、さらにベルボロ海峡を封鎖していたベルミンジャン王国の艦隊を破り、同日、鬼人族国艦隊もボロオーリョ海峡で、60数隻からなるベルミンジャン・アングルストの連合艦隊を破り、敵艦隊の半数を拿捕した。
ボロオーリョ海峡とベルボロ海峡で、ベルミンジャン・アングルスト艦隊を破り、ゾオル湾も制圧したとの報を受けた魔王軍参謀部は、『西部大州作戦』の第一段階作戦を発動させた。
『西部大州作戦』第一段階作戦の目的は、西ディアローム帝国の都ゾオルに迫りつつあるベルミンジャン・アングルスト両軍を撃退することだ。
ゾオル湾は、魔王国艦隊によるトロール船団壊滅後、魔王国が派遣したゾロワリン伯爵軍の師団によって制圧され、ベルミンジャン・アングルスト軍の補給路は完全に断たれた。
ゾロワリン伯爵の第2軍10万の兵は、ゾオルを包囲して攻撃をしているベルミンジャン・アングルスト両軍を背後から攻撃し、間もなくゾオルを解放する予定で進軍を続けている。
ボロオーリョ海峡&ベルボロ海峡海戦図
あと二日で終わる予定となった古代文書の光写作業。
二日に一度は、古文書解析作業を見回りに来るオジロン大神官の対応で少し遅れが生じているけど、作業も二日目、三日目となるとコツをつかみ、効率も上がったので、今日はかなりはかどったし、明日には遅れはすべて取りもどせるだろう。
パンディーオーン宮にもどってすぐに、プリシルさまたちは、私たちとマイレィちゃんを残して通り道で魔都へ帰ってしまった。
風雲急を告げる戦況の変化に対応するためだろう。アイフィさま、ミカエラさま、それにアレクも、作戦に参加するようだ。
以上が、プリシルさまが情報分析室長である私に話してくれた最新状況。
「明日の朝までには帰って来るつもりだけど、もし、帰って来なかったら、ガバロス親衛隊さんたちに印をつけている古代文書を順序通りに運ぶように言ってちょうだいね」
なぜ、マイレィちゃんを残して帰るのかちょっと不思議だったけど
「それは、ほら、私はキケンの予知が出来るから、アリシアちゃんたちのお守り役なのよ」
とのマイレィちゃんの言葉で納得がいった。
つまり、マイレィちゃんは、万が一私たちに危機が迫った時に、早く脱出するための警報役ということなのだ。
マイレィちゃんは、私たちのお守り役ではない。だって、彼女魔術師じゃないし、戦闘能力も私よりずっと低いだろうし... って、全然剣なんか使えないだろうから。
戦闘能力と言えば、パンディーオーン宮に来てから、護衛のリンド君に、ロニアちゃんとアマラちゃんに剣術を教えさせている。
私は、ゾオルで刺客たちから襲撃されたあとで、いかに護身のための剣術が大事か身に凍みてわかった。それで、リンド君が私の護衛としてやって来てから、毎朝2時間早起きして剣術の稽古を始めた。
それを見たロニアちゃんとアマラちゃんが、「わたしも習いたいです」「あたしも習う!」と言って稽古に加わったのだ。
私たちの世話役のキャルニボル大統領の娘のフロリーナさんに頼んで、木剣と剣を用意してもらって、二人の元輔祭ちゃんたちにも稽古をつけることになった。
軽く30分ほど準備運動をしてから、木剣で稽古をする。
私もすでに初心者ではないので、リンド君と交代で元輔祭ちゃんたちに稽古をつけることになった。
まあ、ロニアちゃんとアマラちゃん、最初にリンド君を見た時から恋する乙女のような目で見ていたので、彼に稽古をつけてもらうのがうれしくて仕方がないらしい。
「剣は、こういうふうに握って」
「はい」
赤くなるロニアちゃん。
「打ちこむ時は、気合を入れて」
「はい!」
リンド君にしなだれかかるアマラちゃん(汗)。
リンド君に剣術を教えさせたのは間違いだったのかしら?
と嫉妬をしたくなるほど、二人はデレデレになる。
だけど、リンド君はロニアちゃんとアマラちゃんには関心がないようで、二人が基礎訓練のあとでパンディーオーン宮の庭に立てた杭に木剣を打ちこむ練習をしている間、私の稽古の相手をしてくれる。
二人とも、「室長いいなぁ」「室長うらやましい」みたいな顔で私の方を見ながらも懸命に剣の練習をしていた。
私は少しムフフ...な気持ちで稽古していたら、何本も続けて打ちこまれた。
「剣を持ったら、雑念は捨てなければなりません」
ビシッと護衛君に言われちゃったわ。
でもね、夜は護衛君は私たちの寝室から遠い使用人部屋で寝るのよね。
だから、夜は私の天国。お風呂に入ってたっぷりと戯れ、夕食をしてからまた戯れるの。
その日もまずお風呂に入って汗を流してから、エレファントディオ族が入れる大きなお風呂でキャッキャッ言いながら楽しんでいたの。
もちろん、マイレィちゃんもいっしょ。
いやあ、マイレィちゃん、たしか今年11歳になるはずだけど、おムネがもう一人前な感じ。
下ももうけっこう茂っているし。短耳エルフって、成熟が早いのかしら?
まあ、子どもがいっしょなので、いつものムフフ...は出来ないけど、それでもおたがい洗いっこしたり、くすぐりあったりで結構楽しかった。
17歳のエルフ娘とパンサーディオ族娘もいいけど、思春期の女の子もかなりいい!
ウブなので何も知らないし、お風呂の水遊びにかこつけて、もうかなりふっくらしているオッパイに触ったり、揉んだり―
「あん、くすぐったいわ アリシアちゃん」
(はん。まだくすぐったいだけか)
小っちゃなボタンを弄ったり
「ああん 感じちゃう!」
(え? 感じちゃう?)
かなりの草原になっている“神聖な区域帯”を触ったり
「そこダメっ もっとヘンに感じちゃう!」
(も、もっとヘンに感じちゃう?)
いや、思春期の女の子の感度のよい勉強になったわ。
ドンドン!
突然、バスルームのドアが叩かれ、戯れが中断された。
「子爵サマ!大変デス!」
親衛隊のザロッケン君の声だ。
「どうしたの?」
「反乱軍ガ、ダイダロス宮ニ 突入しタ と知ラセて来ましタ!」
「わかったわ。廊下で待っていて。そして護衛のリンド君を至急呼んで!」
「ガア!」
ドタドタとザロッケン君が走って行く音がした。
マイレィちゃんの危険予知警報が出なかったのは、たぶん、私たちとの遊びに夢中だったためだろう。
私たちは急いでお風呂から出ると、すぐに服を着た。
「動きやすい服を着るのよ。ドレスもスカートもダメ。手荷物は最小限度で剣を持って!」
「はい!」
「はいっ!」
二人も真剣だ。
マイレィちゃんは、バスタオルを巻いて自室に駆けもどって行った。
あとをカニスディオ族の付き人が追う。
髪は乾かす暇がないので、ざっとタオルで拭いてからスカーフで髪を巻く。
服を来て、最小限度必要な私物をバッグや背嚢に詰めこみ、剣を手にした時にリンド君の声が聞こえた。
「子爵さま、リンドです」
「入ってもいいわ」
「失礼します」
「失礼します」
リンド君に続いて入って来たのは、フロリーナさんだった。
「この大統領の娘さんが、急を知らせに来たんだそうです」
「ダイダロス宮には、秘密の通路がいくつかあり、そこを通って知らせに来ました!こちらにも、すぐに反乱軍がやって来るはずです。早く安全なところへ...」
「皇帝陛下と皇后陛下は?」
「わかりません。お父さまが近衛騎兵を指揮して守っておられると思います」
「... 行くわよ」
「はい」「はい!」「はいっ」
ロニアちゃんとアマラちゃんとマイレィちゃんが答える。
「皇帝陛下を救いに行くわよ!」
「え?」
「ええっ?」
「逃げるんじゃないの?」
「これだけの人数で無理です!」
「これだけって、ここにはガバロス親衛隊が10人いるわ」
「「「「「「「「「「ガ――――ア!」」」」」」」」」」
ザロッケン君と9人のガバロス親衛隊が威勢を上げた。
ザロッケン君たち10人のガバロス親衛隊は、プリシルさまたちを護衛するために派遣された100人のガバロス親衛隊が、プリシルさまたちといっしょに魔王城にもどったのと入れ替わりに、マイレィちゃんと私の護衛のために送られて来ていた。
「え... でも、親衛隊10人と護衛の方1人だけでは...」
「あなた、ヴァナグリーが戦うところ見たことないでしょう?」
(私も見たことはないけど、耳にタコができるくらい聞いていた)
「いえ」
「ヴァナグリーは、無敵のバケモノ。そして、ここにいるガバロス親衛隊たちは無敵のバケモノ戦士なのよ!」
「ガッ... オレタチ バケモノ?」
「ガッ バケモノ?」
「シカシ... 無敵ト 言ッタゾ?」
「ソウダ。無敵 言ッタ!」
私がバケモノ戦士と言ったので、“バケモノ戦士”と私が言ったことに少し動揺したけど、すぐに気を取り直したらしい。
「そしてこの護衛は、ブレストピア国で知らぬ者のいない、天地破壊流のアッカドーウ子爵家の五男、リンド・キインノ・アッカドーウよ!」
「え、天地破壊流ゥ?!」
フロリーナさんが驚き
「「「ええええ――――!」」」
ロニアちゃんとアマラちゃんとマイレィちゃんが驚いた。
「ボクは... 天地破壊流の遣い手なのか?」
なぜか、リンド君も驚いていた。
そりゃそうだよね。
天地破壊流なんて流派なんて存在しないし、リンド君の剣術の流派なんて私知らないもん。
「そういうわけで、ダイダロス宮突入―――――っ!」
「オオオオオオオ――――!」
「「「「「「「「「「ガ――――――ア!」」」」」」」」」」
「ザロッケン君、ヴァナグリーを呼んで、私たちを乗せて!」
「ガア!」
ヴァナグリーがいる庭に向かって走り出したガバロス親衛隊に続いて走っていたマイレィちゃんに追いつき、彼女の耳元にボソボソと囁いた。
「らじゃよ!」
マイレィちゃんが、悪戯っぽく右手の親指を立てた。
庭にいたヴァナグリーたちは、本能的に戦いがあると感じたのだろう、もうかなり興奮していた。
「え、こ、これに乗るんですか?」
最初にビビったのは、フロリーナさんだった。
ロニアちゃんとアマラちゃんとマイレィも20メートル離れたところで止まっている。
無理もない。ヴァナグリーって、トカゲのバケモノそのもので、体長5メートルを超すからね。
鉄片を貼り付けたような硬いウロコ、鋭いキバ、背骨を一撃で砕く太いシッポ。
見ただけでオシッコもらしそうになるもん。
「なにを怖気づいているの!皇帝陛下と皇后陛下の危機なのよ!」
何はともあれ、フローリナさんには人身御供になってもらうしかない。
いやいや、だから、ヴァナグリーは、パンサニディオス族の娘なんて食べないって。彼らの好物は魚なの。ピチピチした若いパンサニディオス族とかエルフとかフェリノディオ族とかは、メニューじゃないの。
ガバロス親衛隊に抱えあげられて、真っ青な顔でヴァナグリーに乗ったフローリナさん。
オシッコ漏らしそうな顔をしていた。
ついで、ロニアちゃんとアマラちゃん。
二人いっしょにオスのヴァナグリーに乗せられた。
何でも、オスは女性を乗せるのを好むのだそうだ。
リンド君は少し蒼褪めた顔だったけど、別にお漏らしもせずに乗った。
私はマイレィちゃんといっしょ。
マイレィちゃん、半ベソをかいていたわ。
「ミンナ、用意ハ イイカ!」
「「「「「「「「「ガ――――ア!」」」」」」」」」
ザロッケン君の問いに一斉に叫び声を上げるガバロス親衛隊。
グワルルルルルル―――――ッ!
ヴァナグリーたちも唸り声を一斉に上げる。
「行クゾ―――――!」
「「「「「「「「「ガ――――ア!」」」」」」」」」
グワルルルルルル―――――ッ!
ドドドドドドドドド………
ヴァナグリーに乗ったガバロス親衛隊が、地響きを立ててダイダロス宮へ向って突進する。




