第72章 アリシア子爵、陰謀に加担する③
モテるというのはいいことだけど―
主賓の影を薄めるというのはよくない。
とくに臣下としては。
「本日のドリアンスロゥプ皇帝陛下ならびジャブイ皇后陛下主宰の晩餐会の招待客をご紹介いたします―――ぅ!」
執事らしい、顔中白ヒゲだらけのバブイーノの男が、私たちが大広間に入ったのを見て、大声で大広間にいる者たち― 獣人の政府高官や貴族、軍人たちに告げる。
「魔王国のォ―――っ… プリシル・リリアーヌ・ギオンサトゥバ・ドレッドメイル王妃陛下殿――――ォ!」
「おお!あれが魔王国で二番目に偉いと言うプリシル王妃か!」
「清楚とした中にも威厳がある王妃ね!」
「それにしてもお美しい王妃さまだ!」
「見て、あの美しいドレス!」
たちまちザワザワ...と招待客たちが小声で話しはじめたのが聴こえた。
「マイレィ・ルアナ・ドレッドメイル王女殿下殿――――ォ!」
「なんと可愛くてきれいな王女さまだ!」
「プリシル王妃さまのお嬢さまなのね!」
「あと5年もしたら、各国の王侯貴族からぜひ嫁にと求婚が殺到するぞ!」
「もう、胸もかなり大きい!」
男どもは、少女の成長を確認している?
「ミカエラ・アイウェンディル・モリオダ・ドレッドメイル王妃陛下殿――――ォ!」
「おお!気が強そうな王妃だが、こちらも凄い美女だ!」
「我が輩は、気が強い女性を躾けて従順なセイドレイにするのが夢なのだ!」
「あなた、何をアホみたいなことおっしゃってるの?今晩から別々の寝室よ!」
「ミカエラ王妃は、今日、刺客どもを生きたまま黒焦げにした魔術師と聞いたぞ」
「貴公、口に気をつけないと、魚の丸焼きの横にポルクス族の丸焼きとして並べられるぞ?」
あの男たちは、何を言っているの?
ミカエラさまの耳に聴こえたら、本当に黒焦げにされるわよ?
「アイフィ・ウィンテル・テフ・ドレッドメイル王妃陛下殿――――ォ!」
「なんとも高潔そうな王妃だ!」
「あの方が、次期教皇の有力候補と言われているオジロン大神官の愛弟子なのね!」
「アイフィ 王妃さまも、今日の襲撃の時、刺客をカミナリ魔法で100人感電死させたそうだ」
「魔王さまは、よくベッドで感電死しないものだ」
男って、美女を見たら、そんなことしか想像しないのかしら?
「アレクサンドラ・マリアンヌ・ゼリアンスロゥプ・ドレッドメイル王妃陛下殿――――ォ!」
「おお、あれがボンガゥル侯爵殿の娘か!なんとも美しい王妃になったものだ!」
「おい、滅多なことは言うなよ?彼女は皇帝陛下の親族だからな」
「誰かに我々が、ボンガゥル侯爵の悪口や娘の誹謗をしたなどと告げ口されたら...」
「アレクサンドラ王妃の破滅拳とやらで殺されるぞ!」
「なんだ、その破滅拳とは?」
「すごい破壊をもたらす能力で、今日もプリシル王妃一行が襲撃された時、破滅拳で大通りの店を100軒ぶっこわしたそうだ!」
噂に尾ひれがついて、被害が大きくなっている?
アレクさんの破滅拳で壊れたのは3軒だけよ。
「アリシア・ミラーニア・ゲネンドル・ドレ... 子爵殿――――ォ!」
あのバブイーノの執事のオッサン、私の名前にドレッドメイルを付けようとしたよ?
まだ私は王妃じゃないし、妻でもないんだよ。プンプン!
まあ、ドレッドメイルって最後まで言わなかったので、腹を立てることでもないか。
「おおっ!ネコ耳子爵だ!」
「こうして見ると、一段可愛い!」
「いや、本当にかわいいわね!」
「おお!あの魔王国のかわいいフェリノディオ族の娘はアリシアと言うのか!」
「ゲネンドルと言うと... あのブレストピア国の王に繋がりがある者なのじゃないか?」
「きっとゲネンドル王の王女の一人よ。フェリノディオ族の王女がいるって聞いたことあるわ!」
何だか、小声で話している獣人たちが盛りあがっている(汗)。
「それにしても、なんてステキな髪型でしょう!」
「あの黄色いドレスもすてき。魔都でしか売ってないのかしら?」
「特注品よ、特注品!」
「私も欲しいわ」
「40歳のあなたが着るものじゃないわ」
「何よ?じゃあ、39歳のあなたなら似合うって言うの?」
「おまえたちよしなさい。ああ言う美少女は、ドレスなしの美しさを想像して楽しむものだ」
ゲゲッ。あのヒポホルスディオ族のエロ貴族、何を考えているの(汗)。
それにしても、私に関する小声のおしゃべりの盛りあがり方がハンパじゃない。
とにかく、私はプリシルさまたちより目立たないように、身体の大きなアレクの後ろに隠れて招待客のテーブルに向かった。
「アリシア、なんでわたしのオシリに顔をくっついて歩いているんだ?」
「べ、別にアレクのオシリにくっついてないし。それに、私そんなに低くないよ?」
「ロニア・フォールン輔祭殿――――ォ!」
「.........」
「.........」
「.........」
「アマラ・エボニー輔祭殿――――ォ!」
「.........」
「.........」
「.........」
ロニアちゃんとアマラちゃんに関する感想とかは一切なかった。
みんなが、私の姿に注目していたからだ(汗)。
「王妃たちも美女だが、あのフェリノディオ族の子爵は、何だか、こう、抱きしめたくなるような気がするな?」
「うん。我が輩もそれを感じておったぞ!」
「晩餐会のあとで舞踏会があれば、ぜひあのフェリノディオの子爵と踊りたい!」
「儂も踊るぞ!」
「私も踊る!」
男どもは、そんなヒソヒソ話をしていた(汗)。
大広間にいる獣人たちの注目を浴び、恥ずかしさで耳が真っ赤にして歩いて、ようやくテーブルに到着し、『アリシア・ミラーニア・ゲネンドル子爵』と席札に書かれてあった椅子に座わることが出来たけど、あまりに注目を浴びすぎていたたまれない気持ちだった。
「アリシアちゃん、気にしなくていいのよ。あなたは、愛嬌があって美人で頭もいいから今回の任務に選ばれたんだから」
「プリシルさまのおっしゃる通りよ。あなたがゾオルで人気者になると、わたしたちの作業もやりやすくなるわ」
「私も同感。精一杯そのネコのシッポをふって、ゾオルの貴族どもを惑わかしてちょうだい」
アイフィさまとミカエラさまがも励ましてくれる...
でも、ミカエラさまは、私に対して何か思うところでもあるのかしら?言い方が少し辛辣な感じがするんだけど?
「アリシアちゃん。ミカエラさん、月に一度はあんな風になるんけど気にしないでね...」
アイフィさまが、そっと教えてくれた。
そうか、ミカエラさま、女性が月に一度迎える“女の子の日”の時期なんだ。だからイライラしているのね。
「モゴ... コウシテ、西ディアローム帝国ノ モゴ... 最大の同盟国デアル モゴ 魔王国ノ 王妃タチヲ 迎エテ モゴ... 晩餐会を開ケテ ウレシク思ウ モゴモゴ」
ドリアンスロゥプ皇帝のあいさつのあとで、晩餐会が始まった。
長いテーブルの上には、5メートルはあろうかと思われる大きな魚の丸焼き、魚の照り焼き、魚の酒蒸し、魚と野菜のスープ、魚の天ぷら、魚と海の幸の唐揚げ、魚のホイル焼き、魚の煮物、エビやカニ料理、色んな種類の生魚などなど、昼食と同じく魚料理が多い。
そして、さまざまな貝料理、足が数えきれないほどたくさんあるタコの酢漬け、これも足が無数にあるイカの刺し身、イモムシの串焼き、ハチの子、生ミミズ、オケラのあぶり焼き、マイマイ蛾のサナギの天ぷら、こんがり焼いたアリの山などもあり、さらに新鮮な木や草の葉、クリ、クルミ、ナラやアメンドエイラの実、ヤマモモ、アンズ、マンゴーや名前もわからないたくさんのフルーツ等々もある。これらは、昼食にはなかった料理だ(これが料理と言えるならばだけど)。
しかし、昼食の時と違って晩餐会には、獣人族国である西ディアローム帝国首都にいる様々な種族に属する政府高官、貴族、それに高級軍人などが参加していた。
なので、ウルソディオの政府高官は、ハチの子を食べて堪能しているし、アルマディオ族とパンゴリンディオは、こんがりと焼いたアリをポリポリ食べたり、味のついたスープに入っているミミズをウドンのように啜っている。一方、スキロウディオは、キノコや木の実をおいしそうに齧っている。
「ムゴ... アリシア子爵さん、いつも食べ慣れている肉がないので寂しいでしょうけど ムゴ...我慢してくださいねムゴ...。獣人族は ムゴ...四つ足の者の肉を食べることを禁じられているのです ムゴ...」
ジャブイ皇后さまが、私がローニンアジの天ぷらとレインボツルッタ《マス》の塩焼きを食べているのを見て、心配そうに声をかけてくださった。
「いえ、このローニンアジは、意外と甘みがあり、口の中でほどけるような美味しさですし、レインボツルッタは淡白ですけどけっこう行けます」
晩餐会の料理にケチをつけるわけにはいかない。
「それはよかったわ」
サリレのカルパッチョを20枚ほど長いフォークでまとめて刺して口の中に入れて食べながら、ジャブイ皇后さまがニッコリと微笑んだ。
ロニアちゃんとアマラちゃんは、魚料理になれているのだろう、美味しそうに食べている。
まあ、魚料理も慣れればおいしだろうけど、やはり私は一日に最低一度はジュワ~っと口の中に肉汁があふれるような肉を食べたいのよね...
2時間ほどで晩餐会は終わり、料理と食器が片付けられ、長いテーブルも大半が運びだされた。
そう、これからは、戦々恐々の踊りの時間なのだ(汗)。
「モゴ... ゲネンドル子爵ドノ ワガ輩ト 踊ッテ クレルカ?モゴ...」
最初のお相手は、ドリアンスロゥプ皇帝だった!
皇帝から踊りの相手を求められ、断ることはできない。
「たいへんな光栄でございます。よろこんで!」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪♪
軽快な音楽に乗って踊る皇帝と私。
3メートル半を超える身長、体重300キロ以上はありそうな皇帝と
身長155センチ、体重50キロ未満の私。
(50キロは超えてない。絶対に超えてない!)
まるで大人が3歳の幼児と踊っているような奇妙な感じだけど、
皇帝さまは、かなりご機嫌みたい。
ズンチャッチャッ ズンチャッチャッ♪
「モゴ... フンガフンガ... 子爵ドノハ イイ匂イ ガ スル! フンガフンガ... モゴ!」
「は、はぁ...?」
* * *
「お姉ちゃん、香水使わない方がいい匂いするよ!」
私が魔都に住むようになって、私も年頃になったこともあり、(魔王さまから)お小遣いをもらえるようになった私は、さっそく魔都の店で香水を買ってつけはじめた。
その時に、ビアが言った言葉がそれだった。
「あなた、香水つかない方がいいんじゃないの?」
お母さまも私の香水を嗅いで言ったし
「お義姉ちゃん、こーすいつけない方がいい匂いするよ!」
ジオン君までそう言った。
以来、私は香水を使わないようにして来た。
* * *
ドリアンスロゥプ皇帝の言葉で、なぜ私が男たちに人気があるのかが少しわかった気がした。
そう言えば、ドゥモレ男爵さまも、私と愛し合ったあとで私の全身を嗅ぎながら
(ああ、思い出すだけでも恥ずかしい!)
「わたくしは、アリシアのこの匂いが好きなんですよ。クンクン...」
男爵さまは、そう言って、私の脇の下や体中を嗅ぎながら下へさがり...
私の“神聖な区域帯”でさらに鼻を近づけて
「おお、ここは、さわやかな酸味のヨーグルトの匂いがする!ペロリ」
「ひゃ ひゃ――っ!」
「モゴっ!?... ゲネンドル子爵ドノ ドウサレタ? モゴ...」
ドリアンスロゥプ皇帝が大きな目で私を心配そうに見下ろしていた。
ゲゲゲっ!
ドゥモレ男爵との熱い夜を思い出して、突然小さな叫び声を上げてしまった(滝汗)。
幸い、楽団の音楽が高くて、皇帝以外には誰にも聴かれなかったみたい。
「アリシア子爵さま。ルイセルモ第一皇太子です。踊りのお相手願えますか?」
「はい。よろこんで!」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
「バドセルモ第二皇太子です。お相手願えますか、アリシア子爵さま?」
「はい。よろこんで!」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
「クレモンド第三皇太子です。お相手お願えれば光栄です、アリシア子爵さま」
「はい。よろこんで!」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
「エクドルモ第四皇太子と申します。お相手願えますか?」
「はい。よろこんで!」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
............
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
............
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
............
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
............
50人ほどの皇太子と踊り終えたと思ったら...
「パナラヴィ公爵じゃ。お相手願えますかのう、アリシア子爵殿?」
「はい。よろこんで!」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
「モッキーモルス伯爵と申します。一曲踊っていただけますか?」
「はい。よろこんで!」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
「アルボン子爵でござる。お相手願えますかな?」
「はい。よろこんで」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
「グランアン伯爵です。お相手願えますか?」
「はい」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
「一曲お相手していただけますか?ゲッディガム男爵と申します」
「はい」
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
.....................
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
..................
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
...............
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
............
ズンチャッチャッ♪ ズンチャッチャッ♪
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午前3時に舞踏会が終わるまで―
300人以上の政府高官、貴族たちと踊るハメになった。
途中で、一曲が終わるのを待っていては希望者全員と踊れないと判断した誰か(たぶん、皇帝だと思う)の指示で、曲の途中で踊りの相手が入れ替わるようになった(汗)。
入れ替わり立ち代わり踊る相手が変わるという変則的な踊りになったけど、踊りっ放しの私は、それはもうたいへんだった。
さすがに疲れた様子の私を見て、ジャブイ皇后 さまが楽団に演奏をしばし停止するように言ってくれなければ、踊り疲れて死んでいたかも知れない?
まあ、そんなことは起こるはずもないけど、1時間ほど踊ったあとで20分ほど休憩をとり、ジュースなどで水分を補給した。だけどその間も皇太子たち、政府高官たち、貴族たちに囲まれて、いろいろ聞かれたり、聞かされたりした。
ロニアちゃんとアマラちゃんに支えられてパンディーオーン宮に帰り、自分の部屋に入ると着替えもせずにベッドに突っ伏して、そのまま泥沼のように眠りこんでしまった。




