第69章 アリシア子爵、西ディアローム帝国に行く③
「アリシアちゃん、そいつら刺客よ!」
馬車の中から、マイレィちゃんの金切り声が聴こえた。
私は、剣を片手に近づいて来た兵士に向けて高く跳躍すると剣をふり下ろした。
バシュっ!
剣はジャコウネディオの兵士の腕を肩から切り落とした。
驚愕した顔の刺客の胸に剣を突き刺した。刺客というヤツらは、息がある限り任務を果たそうとする連中だ。躊躇せずに息の根を止めなければ、こちらが反撃を食らうことになる。
ニセ兵士は、胸に突き刺さった剣をにぎって驚いた顔で崩れ落ちた。まさか、女貴族から殺されるとは想像もしなかったのだろう。
御者に化けていた刺客を殺したアレクさまは、馬車から飛び降りると、私たちの方に向かって来る二人の刺客に剣先を向けた。
私のように跳躍する構えはとってない。跳躍するにしても距離が遠すぎる、そのまま待ち受けるのだろうか?でも、相手は二人だ。私も加勢を...
「ウ――――ンンンンンン…」
アレクが、唸りはじめた。
そして、彼女の持っている大きな剣が、ボゥ…っと光りはじめた。
次の瞬間―
ド―――――ン……
すっごい音が鳴り響き、衝撃を感じた。
咄嗟(本能的)に、私は目を閉じた。
私の顔や服に何かがパラパラっと当たって落ちた。
目を開けて見ると―
アレクさま目がけて迫っていた二人の刺客は、跡形もなく消えてしまっていた!
「え?」
そして、アレクさまの立っている場所から10メートルほど先から、大通りを縦断するように深い溝が扇状に開がっており、その深い溝は大通りの反対側― 距離にして30メートルのところに並んでいた商店数軒が半壊していた!
アレクさまの破壊力、凄い...
私は唖然として、立ったままで自分が起こした惨状を見ているアレクさまを見た。
「力を少な目にしたんだけど...」
アレクさまが、壊れた商店を見て肩を落としていた(汗)。
アイフィさまとミカエラさまが、空から降りて来た。
プリシルさまが、馬車から矢をつがえた弓を片手にして降り、続いてマイレィちゃんも降りた。プリシルさまは弓に矢をつがえたまま油断ない顔であたりを見回している。私も周囲を見渡し、怪しい獣人はいないか確認する。
どうやら刺客はみんな倒したようだ。獣人族の野次馬たちが、大勢集まり遠巻きにワイワイ騒ぎながら私たちを見ていた。もし、まだ刺客がいるとしても、この野次馬の群れの中から我々に向かって来れば、すぐにアイフィさまたちによって攻撃される。もし刺客がまだいたとしても、みすみす無駄死にするようなことはしないだろう。
「もう、だいじょうぶみたいね」
プリシルさまが、ようやく弓から矢を外すと矢筒にもどした。
「みんな、もう安全だから、馬車から降りたかったら降りていいわよ」
馬車の窓から目から上だけを出して見ているロニアちゃんたちに声をかける。
ロニアちゃんたちやレディースメイドさんたちが、馬車から降りて、黒焦げになって転がっている刺客や、斬られて事切れているジャコウネディオのニセ兵士たちの体を恐々とした顔で見ている。
暗殺者の剣
それから当然のように大騒ぎになった。
レオニディオ近衛騎兵たちが馬に乗って駆けつけ、観衆を遠ざけると応援を呼び、30分後には百人を超す獣人兵がおっとり刀で駆けつけた。
馬車の中にいたラビットディオのレディースメイドの中には、あまりの怖さにおもらしをしていた娘もいたらしいけど... あの状況でおもらししない者っていないよね?
誰もそのメイドを責めなかったし、プリシルさまはすぐに馬車の中を清掃させて、誰にも知られないようにレディースメイドを着替えさせた。
しばらくすると、知らせを聞いたガナパティ厩役伯爵とボンガゥル侯爵が真っ青な顔をして現れた。二人は五十騎ほどのレオニディオ近衛騎兵を引き連れてやって来た。
「大変申し訳ございません。もう隠密裏などと言っておられません。ここから総本山までは、近衛騎兵の護衛をつけます」
ガナパティ厩役伯爵が告げ、ボンガゥル侯爵が先導すると言った。
刺客はいずれもヒエーナ族だとガナパティ厩役伯爵が言った。
ヒエーナ族は、カニスディオ族にやや似た外見をしているけど、ジャコウネディオの近縁族だ。ヒエーナ族は、昔から暗殺などの汚い仕事を引き受けて来た種族だ。もちろん、ヒエーナ族全体が暗殺者というのではなく、汚い仕事をするのは、ヒエーナ族の中の秘密結社のような一つの部族だそうだ
プリシルさまと私たちが、秘密裡にゾオルに来たことが敵には漏れていたのだ。
西ディアローム帝国も東ディアローム帝国も、国民の大半は獣人族なので、東ディアローム帝国の諜報員や刺客がゾオルに潜伏することはいとも簡単だし、たぶんダイダロス宮殿の中にも敵の回し者がいるのだろう。
それにしても、カプラニディオスの御者まで敵の刺客だったとは... まったく油断は出来ない。
レオニディオ近衛騎兵に護衛され、馬車は動き始めた。私は馬車の座席に座ってからも、しばらくの間心臓がどきどきしていた。
殺さなければ殺されていたのだ。良心の咎めを感じることはまったくない。獣人を殺したということ事を冷静に受け止めている自分がいた。
「アリシアちゃん、ごめんね。あなたを危ない目にあわせて」
「あのニセ兵士たち、わたしは本当に西ディアローム帝国の兵士だと思ったのよ」
ミカエラさまとアイフィさまが謝られた。
何でも、ミカエラさまの火玉魔法は威力が大きすぎて、私ニセ兵士の距離が近すぎたので使えなかったのだとか。アイフィさまのカミナリ魔法も、私が感電死する危険があったので使えなかったんだって。魔法ってすごいけど、そういう欠点もあるのね。
そう言えば、アレクさまのあの破壊能力、初めて見たけどすごかった。
幸い、商店の人たちは騒ぎが始まった時に道に出て見物していたので怪我人はいなかったんだって。
ああ、よかった!壊れた商店は、当然西ディアローム帝国政府が弁償するだろう。
アレクさまの能力、『破滅拳』と言うらしい。アレクさまが本気出して破滅攻撃を使ったら、大部隊でも壊滅出来るんだって。
おお怖っ。破滅拳バロネスって呼ばれるだけあるわ。あんなに可愛い顔しているのにね。
でも、あのマイレィちゃんが前もって危険を知らせてくれたのは何よ? プリシルさまが言っていた“危険を察知する能力”と言うのがあれなの?
「アリシアちゃんは、以前、剣の修業を護衛役に習っているって言ってたけど、かなり使えるのね?」
プリシルさまが、私の剣の腕前を褒めた。
「刺客を一人だけしか倒すことができませんでした」
「わたくしを守ろうとして駆けつけてくれたんでしょう?うれしかったわ。本当にありがとう!」
「プリシルさまとマイレィちゃんを守ろ... いえ、お怪我させてはいけないと思って...」
“守ろうとして”と言おうとして言い直した。
アイフィさまたち“護衛”がいるのに、私が“守る”なんて口幅ったいと思ったからだ。
「うんうん。心配してくれてありがとう」
「室長さま、すごく恰好良かったです!」
ロニアちゃんが頬を染めて尊敬の目で私を見ている。
「剣を持っておられたのは、伊達じゃなかったんですね!」
アマラちゃんも、目をキラキラさせて見ている。
二人とも、恋する乙女の目だ(汗)。
「アリシアちゃんの護衛役、連れて来るべきだったわね...」
プリシルさまの言葉に、魔宮殿まで送ってくれたリンド君が別れる時に見せた寂しそうな顔が頭に一瞬浮かんだ。
「ママ、パパに言って、あのカッコいい護衛の人、ここに呼んでもらったら?」
「あら、それは言い考えね!」
マイレィちゃんの提案にぱっと顔を輝かせたプリシルさま。
“えっ、本当に護衛君を呼ぶの?そりゃ、呼んだら大よろこびで駆けつけて来るだろうけど...”
私たちは物々しい護衛に囲まれてダイダロス宮から20キロ離れたところにあるエテルナール教の総本山に到着した。
エテルナール教の総本山は、霊峰エテルナ山の麓にある。
標高2800メートルのエテルナ山は、創造主エタナールさまが、テルースの世界をお創りになられた時に、テルースの世界の最初の4つの原初住民たち- エルフ、獣人、トロール、ドワーフに話しかけるために降り立った場所とされている。
エテルナール教総本山
エテルナール教の聖典である『旧約聖神書』には、最初の4つの原初住民たちから、現在、テルースの世界に住んでいる全ての種族が派生したと書かれているそうだ。
まあ、私は“神聖アールヴ文字”で書かれた『旧約聖神書』なんて読んだことはないんだけどね。
その4つの原初住民たちのうち、エルフ族、トロール族、鬼人族、それにドワーフ族は、種族としてあまり変異種は生まれなかったけど、獣人族はどういうわけか、かなり多様な種族が生まれたのだそうだ。
五本の大理石の支柱がある総本山の荘厳な門を通ると、そこはもう俗世とは隔離された聖域となる。
ゆるい傾斜の石畳の広い道をしばらく上がって行く。道の両側には、歴史も由緒もありそうな建物が並んでいる。
1000メートルほど歩くとかなり大きい広場に出た。
そして、その正面に圧倒するように聳える荘厳な建物があった。これが、エテルナール教総本山でもっとも重要な建物-エタナール大聖堂だ。エタナールさまが降臨し、教えを説いたと言い伝えられる場所の上に建てられた大聖堂は、高さ150メートル、幅200メートルの総大理石造りの圧倒的な建物だった。
エタナール大聖堂は、エテルナール教を信奉する者は一生に一度は、ここに詣でなければならないと言われている聖所だ。アリシアの父親デルン・ゲネンドルも王であった時に、最初の王妃であったクレメアさまを伴って200日以上かけて旅をしてエタナール大聖堂詣でをしたと聞いている。
私も、15歳になったらお母さま、マイテさま、ルナレイラお義姉さま、モナさまたちといっしょにエタナール大聖堂詣でをする予定だった。
しかし、残念なことにブレストピア国は魔王軍に占領されたため、それはかなわなかったけど。
馬車から降り、目の前に聳えるエタナール大聖堂を見上げると―
なぜか... すごく感激して、目から涙がこぼれ落ちた。
お母さまたちが、是非元気なうちに一度は行きたいと常に言っていたエタナール大聖堂の前に私は立っているのだ。
そりゃ、感激するのも当然でしょう?
... 私、それほど敬虔なエテルナール教の信者じゃないけど、毎月お給料をもらったら、欠かさずに魔都の大聖堂に大銀貨5枚の寄付をしているし― 自分では、ほとんど行く暇がないので、ゼニアさんまかせだけど― 年末には奮発して金貨2枚も寄付したのよ?
えっ、子爵として年間金貨6千枚以上、魔王国情報総局情報分析室長として年間金貨400枚以上をもらっているくせに寄付が少ない?
……… 少し、少ないかも。
これだけ、エタナールさまの恩恵をいただいているのだから、もう少し増やして大銀貨8枚にしよう!
「アリシア」
「はい。大銀貨8枚と言うのは、本当にみみっちいです。金貨1枚にします!」
「え?」
アレクさまが、きょとんとした目で私を見ていた。
私は、エタナールさまが、“それでも少ない”と言ったのかと思っちゃった(汗)。
「みんな、入っているよ?」
見ると、みんなエタナール大聖堂の階段を上がって中に向かっていた。
アレクさま、私を待っていてくれたみたい。
「どうも、すみません。つい感激してしまって」
「あ、わかる、わかる。アリシア、初めてなんでしょう?」
「はい」
「あのね、アリシア」
いっしょに階段を上がりながら、アレクさまが話しかけた。
「はい?」
「私とあなたは同い年でしょ?」
「はい」
「だったら、そんな年上の人に言うような言葉遣いはやめて」
「え?でも、アレクさまは王妃...」
「あなたも魔王さまの寵妃なんでしょう?」
「ちょ、ちょ、寵妃!?」
私の魔王城における私の待遇は、魔王さまの寵妃待遇なのか?
「あ... 寵妃って言葉適切じゃなかった?じゃあ、恋人ってことで!」
(その方がいいです(汗))
プリシルさまたちに追いつく。
プリシルさまたちを先導しているのは、オジロン・ヒッグス大神官だ。
アイフィさまの恩師であり、次期教皇の最有力候補と見られているオジロン大神官は、白いキャソックの上に紫色の広い縁取りが襟や袖にあるローブを纏い、頭にも紫色の縁取りのある白いミトラを被っていた。
紫色は、エテルナール教では最高位の色とされ、“高貴”な者しか使えない。ちなみに、教皇は紫より高位とされる金色をふんだんに使った法衣を着用する。
エタナールさまが降臨されたとされる場所には、金と大理石で造られた見事な祭壇があり、白い大理石のエタナールさまの彫像が祀られていた。
みんな、床にひざまずいてエタナールさまの彫像にお祈りを捧げる。
私も、お母さまやビア、マイテさま、ルナレイラお義姉さま 、モナさま、ジオン君、キアラちゃんなどの分もお祈りした。あ、カレブの分もね。
魔王さまの分は...
プリシルさまたちにおまかせしておこう。
「では、つぎに教皇聖下の謁見を受けましょう」
そう言って、オジロン大神官は、銀のバクルスを手にして、エタナール大聖堂の奥に向かった。外に出なくても、ここから通路を通って謁見の間に行けるらしい。
レディースメイドのラビットディオさんとマイレィちゃんの付き人カニスディオ族は、控室で待機となった。
「総本山から送った、この輔祭たちが、予想以上の働きをしていると知って、私も一肌脱いだ甲斐があったと言うものです。はっはっは!」
オジロン大神官は、後ろの方を歩いていたロニアちゃんとアマラをふり返って見て、うれしそうに笑った。
「アリシア子爵の人材の育て方には、わたくしも大いに習うところがありますわ」
プリシルさまが、アレクさま- いや、さまはいらないか- アレクと歩いている私をふり返って微笑んだ。
「いえ、そんなことはありません。ロニアちゃんやアマラちゃんが、すごく優秀なだけです」
急に私のことを話しはじめたので、恥ずかしさで顔が赤くなる。
「この娘たちが優秀なのは、我々も知ってはいましたが、ほれ、この娘たちは幼少の頃から、信仰一筋、教理学どっぷり漬け、寄宿舎生活暮らしですので、どうも人付き合いがヘタで。そういう訳で、神学を学ぶ者は視野が狭くなってしまう傾向があるので、正直な話、私自身は彼女たちが還俗すると聞いて少し心配したのですが...」
そう言って、自分たちのことを言われているので緊張気味の顔をしているロニアちゃんとアマラちゃんを愛おしそうに見た。
「ロニアちゃん、アマラちゃんと子爵さまから親し気に呼ばれるほどになり、さらに子爵邸に全員宿泊させてもらっているとは、私の想像以上に俗世にうまく適応し、普通に一般の人たちと友好関係も築けているようで、私としてもうれしい限りです」
オジロン大神官は、ロニアちゃんたち元輔祭の活躍に大いに満足されているようだ。
まあ、ロニアちゃんたち元輔祭の娘たちは、分析室では、管理局から移籍した連中や、新規採用や研修生たちとの交流があるし、魔都の商店街で買い物などをすれば、店員と話したり、飲食店でおしゃべり好きなオッサン獣人や、オバサンエルフなどとの会話も弾むだろうから、普通に一般の人たち友好関係を促進していることはマチガイない。
「それにしても、ロニアさんもアマラさんも、こうして見ると街を歩いているふつうのオシャレな若い娘にしか見えませんね」
オジロン大神官が、また後ろをふり返って見る。
ロニアちゃんは、スキニーパンツにブラウス&ジャケット。アマラちゃんは、穴がいたるところに開いているダメージ・ジーンズにダボダボのシャツという服装。
たしかに、魔都やゾオルで歩道を歩いているエルフにしか見えない。
オジロン大神官から見られて、真っ赤になるロニアちゃん。
「これ、カッコいいでしょ、大神官さま?」
アマラちゃんは、それほど大きくない胸を張る。
「二人ともよく似合っていますよ。でも、教皇聖下に謁見する時は、その下着が見えるパンツは着替えてください」
やっぱりね...
控室でしばらく待ってから、教皇の謁見を受けた。
あくまでも外交儀礼的なもので、プリシルさまは挨拶をしたあとで、今回、古代魔法の研究の許可をしたことについて魔王さまからのお礼の言葉を伝え、教皇からは、魔王さまがゾオルとエテルナール教総本山を守るために魔国軍を派遣すると約束したことへのお礼が述べられた。
今回の私たちのゾオル訪問の真の目的は、エテルナール教総本山に数千年間秘蔵されて来た古代魔法書の研究が、今回の訪問の真の目的だとダイダロス宮でエテルナール教総本山に行く馬車に乗る前にプリシルさまから説明を受けた。
青天の霹靂ではないけど、今回の任務は魔王城内でもごく少数の者しか知らない極秘の任務なので、「敵を欺くためには、まず味方を欺け」という諺にしたがって、魔王さまにとってもっとも重要な今回の任務をカムフラージュするために、プリシルさまが戦後処理について西ディアローム帝国政府要人と接触して西ディアローム帝国政府側の感触を得るという表向きの理由を作ったのだとか。
古代魔法書というのは、神聖アールヴ文字で記された古代経典のことで、神聖アールヴ文字が読めるのは、今や神官や巫女だけとなっているのだとか。
なぜ、魔王さまが古代魔法にこれほど関心をもっているかと言えば、今回の東ディアローム帝国とアングルスト&ベルミンジャン両トロール大国との戦いにおいて、決定的な勝利をおさめるために、敵兵を殺すことなく戦意をなくさせるような魔法を探しているからなのだそうだ。
アガピウス・スロゥプ教皇は、魔王がエテルナール教総本山に秘蔵されている古代魔法の原書を研究刺せてほしいと願い出た時、教皇はその目的を知って感動し、即座に許可した。
謁見が終わったあとで、ふたたびオジロン大神官に先導されてエタナール大聖堂の謁見の間を出て複雑に入り組んだ大聖堂内の廊下を何度か右折、左折し、長い外廊下をかなり歩いてひとつの古い建物の前に着いた。
オジロン大神官が鍵束の鍵で扉を開けた。
薄暗い建物の中を少し進むと頑丈な鉄格子があり、鉄格子扉の前に衛兵二人がいた。
衛兵たちは、オジロン大神官を見ると敬礼をして、すぐに鉄格子の扉を開けてくれた。
奥にはもう一つひとつの鉄扉があった。衛兵といい、二重の鉄扉といい、さすがにエテルナール教にとって貴重な資料や神具などを保管している場所だけあって厳重になっている。
大神官は鉄扉を鍵束の鍵で開けた。そこからは地下へと続く階段を降りると真っ暗な地下通路に出た。
オジロン大神官は先頭に立ち、灯りをともしたランプを手にしていた。
地下通路の壁には10メートルおきほどのランプが設置されていて、大神官は火打金で灯をつけながら進んだ。
通路の両側には、錠前のかかった鉄扉がいくつもあった。それらの部屋にもエテルナール教の大事な資料とか神具や骨董品(?)とかが収納されているのだろう。
地下通路の最奥には、また鉄扉があった。大神官が鍵束の鍵で開ける。
「ここが、秘蔵文書や古代経典が保管されている保管庫です」
オジロン大神官に続いてみんなも入る。そこはかなり広い部屋で、しっかりした作りのテーブルがいくつかあり、椅子も置いてあった。
大神官はテーブルの上にあるランプに火打金で灯を灯した。そしてロニアちゃんに火打金を渡し、ほかのテーブルの上にあるランプや壁のランプに明かりをともすように言った。
明るくなると部屋の様子がよくわかった。
テーブルは10あり、各テーブルには椅子が六つずつある。どうやら、この部屋は古代経典などの研究などが行われていた部屋のようだ。
その広い部屋からさらに奥に向かって幅2メートルの通路があった。オジロン大神官の指示でロニアちゃんとアマラちゃんが通路のランプを灯して行く。通路の左右には書架がずらーっと並んでいた。
ロニアちゃんとアマラちゃんのあとをついて、オジロン大神官と私たちも書庫に入る。左右の書架には、見ただけでかなり古いものだとわかる書物が埃をかぶって並んでいた。
「古代魔法に関する資料は、50番から55番の書架、それに60番にあるはずです。必要な古代魔法の資料だけ見て、ほかの本などには触れないでください」
大神官は、古代魔法の資料があるらしい奥の書架を指差した。
「当然のことですが、ここにある本、資料等は一切持ち出しは禁止です。私は仕事があるので出ますが、トイレ、手洗い場は入口の横。ここから出る時は、テーブルの上にあるランプを一つ持って、通路をもどって階段を上がり、衛兵に言えば鉄扉を開けてくれます」
オジロン大神官は、そう言って去って行った。




