第67章 アリシア子爵、西ディアローム帝国に行く①
翌日―
プリシルさまは、徹夜明けの私たちに、今回の戦いが終了した時点で、情報分析室から通訳をするための人員を東ディアローム帝国とアングルスト帝国、それにベルミンジャン王国に送ることになると言われた。
情報分析室の会議室には、私、リエルさん、クマーラ王子、トマーラ王子、ロニアちゃんとアマラちゃんがいた。
クマーラ王子とトマーラ王子は目を瞠り、次の瞬間立ち上がった。
「それは、朗報です!すぐに母国の同志たちに知らせたいと思います!」
「クマーラ王子さま。それはもうしばらく待ってください。あなたたちのお仲間を疑うわけではありませんが、作戦の成功が確認されるまでは口外厳禁です」
「わ、わかりました、プリシル王妃さま。少し興奮してしまいました。申訳ありません」
プリシルさまから言われ、クマーラ王子が謝っって椅子に座った。
「うれしい気持ちはわかりますが、すべてはこの作戦の成否にかかっています。勝利は間違いないとアマンダさまはおっしゃっていますが、楽観は禁止です」
「わかりました」
みんなも頷いている。
魔王さまが、奇抜な作戦をたびたび実施して、大勝利を獲得し続けて来たことは、今や魔王国の伝説になっている。しかし、突拍子もない一か八かの作戦というのは極少なく、ほとんどが勝利確実の作戦であったと言う。つまり、慎重の上にも慎重に事を進めるのが、魔王さまとアマンダさまの戦い方なのだ。
「というわけで、今回の戦いが終わったあとで、交渉団に付き添う通訳員を情報分析室から送るわけですけど、その前に魔王さまは、わたくしをゾオルに送り、戦いが終わったあとの東ディアローム帝国および東ディアローム帝国側の諸国ならびアングルスト帝国、ベルミンジャン王国への処置について、西ディアローム帝国政府と非公式に話し合うことを決められました。そして今回のゾオル行きに、アリシア子爵、ロニアさん、アマラさんの四人を連れて行くことが決まりました」
「え?」
「!」
「ゾオルに?」
プリシルさまの言葉に、私は口が開いたままになり
ロニアちゃんとアマラちゃんは目を瞠った。
「出発は、明日の午前零時。それまでに、あなたたちが不在の間の分析室の三番制の組み換えをし、アリシアさんの後任を決め、旅行の準備を終えること。向こうでの滞在は、たぶん一週間ほどになるはずよ」
プリシルさまの指示にしたがって、リエルさんといっしょに私とロニアちゃんとアマラちゃんがいない間の後任の人選をした。
私の後任には、プリシルさまの助言もあり、アガリさんが決まった。
アガリさんは、魔王さまの王妃のひとりで、参謀本部に務める参謀であり、私と同じ女性伯爵だ。
ただし、魔王さまから授爵されたのではなく、出身地であるドヴェルグ王国で伯爵だ。
アガリさんは、エルフとドワーフの血が混じった美女で、父親はドヴェルグ国のドワラン・ドンゴ・ロス国王の信頼厚いブロン・ザンギレーパ ・バンディ伯爵という高級貴族の血筋だ。
ルーボードタン連邦の前身とでも言うべき五国同盟が設立された時、北の軍事強国であるドヴェルグ国のドンゴ・ロス国王は、同国をルーボードタン連邦に加入する条件としてアガリさん魔王さまの王妃として迎えるように要望したらしい。
いわゆる政略結婚だ。両国間の関係をさらに強固にするための婚姻だが、魔王さまがお気にいられただけあって、アガリさんはすごく美しい女性だ。
ロニアちゃんとアマラちゃんの後任は、残った四人の元輔祭を再配置することで解決した。
残ることになったレイカさんたちは、ちょっぴり羨ましそうな顔をしていたけど、ヘタをすればトロール軍に攻め込まれるかも知れないゾオルに行くことになる私たちは、旅行を楽しむために行くのではないとわかっているので、アガリさんの紹介を兼ねた最後の打ち合わせのあと、真剣な顔をして見送ってくれた。
プリシルさまといっしょに地下三階でマフトレーンに乗る。
家からはすでに旅行鞄を持って来ていたので、このまま魔王城に直行だ。
ロニアちゃんとアマラちゃんも、大きな背嚢やカバンを持って来ている。
「アリシアちゃんの後任を探すのに、少し手こずっちゃったわ。もっと若い武官を育成しなければって思ったけれど、戦がなくなったら必要ないしね。それよりも、情報分析室の人員枠を増やし、そこでどんどんと研修生や若い者を採用して人材を育てる方が将来のためにもいいと思ったの」
プリシルさまの隣に座って、お話を聞いていて驚いた。
まだ職員を増やすんだ。どこまで情報分析室の人員を増やすつもりなんだろう?
「あなたたちも、ゾオルに行ったら、総本山に挨拶に行くのでしょうけど、戦いが終わったら、また輔祭にもどるなんて考えないでね? あなたたちの将来は、魔王さまとわたくしが、ちゃんと考えていますからね」
「あ、はい。そんなことは考えていません」
急にプリシルさまから話しかけられて、前の席にいたロニアちゃんが真っ赤になった。
「あたしたち、魔王国での生活、とても気に入ってるんです!」
アマラちゃんは、元気よく答えた。
「それに、室長さまには、とてもよくしていただいていますし」
今度は、聴き取れないような小さな声で言った。
「室長のベッド大きいんですよ!いつも三人で寝ているんです!」
ア、アマラちゃん、そこまででやめて(汗)。
「ああ、あのベッドね。あれはたしかに大きいわね。マットレスもちょうどいい柔らかさだし」
プリシルさまが頷きながら言った。
... プリシルさま、それ言わない方が...
「あら、プリシルさま、あのベッドに寝られたことあるんですか?!」
ほらね、アマラちゃんが、早速訊いた。
「ええ。あの子爵の屋敷披露の日に、ちょっとためしに横になってみたのよ」
「ああ、あの日、室長さまのお屋敷を見学されたのですね」
アマラちゃん、見事に騙されている?
そっとプリシルさまを見ると、ポッと頬を染められた。
「マフトレーンの中、暑くない?」
いや、プリシルさま、マフトレーンの中は適温ですよ。
プリシルさまが、あの日、私の巨大ベッドで魔王さまとされた、あんなコトやそんなコトを思い出して身体が熱くなっているのでしょう?
西ディアローム帝国に帰れるので、かなりウキウキしているのだろう、ロニアちゃんとアマラちゃんは「□□ちゃんは元気かしら」「〇〇さまは、どうされているかしら」などと輔祭仲間や、先輩神職官のことなどを話していた。
ロニアちゃんとアマラちゃんは、もうあの、来た時に来ていた白いキャソックに、腰のあたりまである長い白いベール姿ではない。神職の道を捨て、還俗したので、一般の若い娘が着る服装をしている。
ロニアちゃんは、脚にぴったりとしたスキニーパンツ姿にジャケットだし、アマラちゃんは穴がいたるところに開いているダメージ・ジーンズを穿いていた。
それも、下の下着が見える位置に穴があるジーンズだった。
家で、旅装が終わった時、アマラちゃんが魔都で買ったジーンズを見て、ロニアちゃんが素っ頓狂な声を上げた。
「アマラ、それ... 下着が見えているわ!?」
「うん。見せるために穴があるのよ!」
「そ、そんなの...恥ずかしいわ」
「別にいいじゃない?別にロニアが穿いてるんじゃないし!」
「で、でも、総本山には、そんな恰好で行かないでね?」
「ああ、だいじょうぶよ。それに、これ見せパンだし!」
若い娘のファッション吸収は早い。
それにしても、このアマラちゃん、私でさえ穿かないようなパンツを穿いて...(汗)。
マフトレーンが魔王城の地下三階に到着し、すぐに私たちはドコデモボードの部屋に直行した。
ドコデモボードは魔王国の極秘兵器なので、警備もすごく厳重だ。いつも部屋の前にはガバロス親衛隊が警備している。部屋にはいると、そこには魔王さま、アマンダさま、アイフィさま、ミカエラさまとアレクさまがおられた。
そして、なんとマイレィちゃんも旅装をしていた!
マイレィちゃんの服装は、ママと合わせたのだろう、ワイドパンツだ。
「マイレィちゃんも行くんですか?」
「もちろん。この子は、危険を察知する能力があるの。王妃である私が危険なところに行く時は、必ずこの子もいっしょに行くのよ」
そう言えば...
ブレストピア国の貴族たちの間で不穏な動きがあるとの情報が送られて来た時、プリシルさまはマイレィちゃんを連れて解決しに行ったっけ...
プリシルさまは、アイフィさまとミカエラさまとアレクさまの三人だけを護衛として引き連れてブレストピア国に行って、見事に任務を果たされたと聞いている。
それにしても見送りの人数多すぎない?
って、この三人の魔術師さんたち、全員旅装をしているじゃない?!
「ふふふ。わたしたちも護衛として行くのよ!」
アイフィさまが、それほど大きくない胸を張って言った。
彼女の服装は足にぴったりしたレギンスにジャケットというバッチリしたファッションだ。
「私たちがついていれば、トロールなど10万人来ようが、20万人来ようがだいじょうぶよ!」
黒髪の美女、ミカエラさまも自信たっぷりの顔だ。
こちらも、パンツルック。こちらは裾広がりのベルボトムパンツにジャケット姿。
私も魔都に来てから服装に詳しくなったものだ。
ミカエラさまは、アイフィさまと並ぶ魔王国の超絶魔術師の一人であり、魔王さまの王妃の中ではソフィエッタさまについで年季の古い王妃さまだ。
もちろん、もっとも古いのは、魔王妃と呼ばれるアマンダさまとプリシルさまとリリスさまにハウェンさまなんだけど。
何でも、テルースの世界で魔王さまが最初に戦われた『ビアストラボの戦い』の時に、ミカエラさまはジョスリーヌさまと魔法対決をして負け、その時に魔王さまの王妃になったんだとか。
アレクさまは、破滅拳バロネスと呼ばれる王妃さまで、レオニディオとエルフの血が混じった美女で、金茶色の目と茶褐色の短い髪の毛が特徴で身長が、何と180センチもある!
「アリシア子爵といっしょにゾオルに行けるなんて、うれしいわ!」
まだ、15歳という(私と同い年!)若い王妃で、なんだか少し子どもっぽいところがあるけど、彼女の戦闘能力超人的なんですって。
「みんな、忘れずにエプロン持って来たわね?」
「はい」
「はいっ」
「持って来ました」
「はい」
「はい」
「はい。プリシルさま」
「はい」
「はい!」
そうそう。プリシルさまは、ゾオルで私たちに料理講習でもするのか、全員エプロンを忘れないで持って行くようにと言っていたんだ。
え? 後ろの方にいたラビットディオのメイドさんたちも返事をしたよ?
あ、そうか、このメイドさんたち、プリシルさまとミカエラさま、それにアイフィさまのレディースメイドなんだ。カニスディオ族の女性は、たぶんマイレィちゃんの付き人ね。私も誰か連れて来た方がよかったのかな。
私? もちろん忘れずにエプロンをカバンに入れたわよ。
プリシルさま、どんな料理を教えてくれるのかな。
「では、気をつけて任務を果たしてくれ!」
「はい」
「はい!」
「はい」
「はいっ」
魔王さまの言葉に、みんな返事をする。
魔王さまはプリシルさまに近づくと―
肩を抱いて、チューをされた!
ついで、ミカエラさまにチュー、そしてアイフィさまにチュー。
頬を赤くしているアレクさまにチュー...
えっ、えっ、チューは、王妃さまだけだよね?
(なんて考えながらも、なぜか期待している私)
来た!
魔王さまは、緊張でコチコチになっている私の両肩に手をおいて...
チュウウ~
キスをしてくれた(恥ずかしい!)
少しボーっとなってしまった(汗)。
「フギュっ?」
ゲゲっ、魔王さま、神聖な輔祭、いや、元輔祭のロニアちゃんの初キスを奪っちゃったよ?
「あん!」
アマラちゃんも初キスを奪われた!
…………
ま、本当言うと、ロニアちゃんとアマラちゃんの初キスは、私がすでに奪っちゃっていたんだけどね。てへっ。
六人の元輔祭たちの初キスは、すべて私が頂いていたのよ。
へへーんだ!
「魔王さま、ゾオルへの設定終わりました」
アマンダさまの声に、魔王さまが後ろに下がる。
このまま私たちといっしょのいるとドコデモボードが作動した時に、いっしょにゾオルへ移転してしまいかねない。
魔王さまは尊敬しているし、好きだけど、近くにいると仕事がやりにくくなる。
それに、何だかロニアちゃんとアマラちゃんに目をつけているようだしね...
これはヤキモチじゃないよ、絶対にヤキモチなんかじゃない。
部屋の中央に台座の上にはドコデモボードが置いてあった。
ジ…ジジジ…ジジジジ…
アイフィさまがドコデモボードに魔力を送ると、周囲の空気が震えるような音がしはじめた。
アイフィさまの手の先からは、ぼわーっとした淡い光が出てドコデモボードを包んでいる。
突如、部屋の壁にどこかの広間が映し出された。
遠巻きにこちらを見ている獣人族が見える。
ジ…ジジジ…ジジジジ…
「さあ、行きましょ!」
プリシルさまの声で、私たちは広間の中に入って行った。
後ろをふり返ると、あのドコデモボード部屋の光景が急速に小さくなって消えるところだった。
文中の『五国同盟』についてもっと知りたい方は、『魔王の勇者オデッセイー 魔王はつまらないので異世界でハーレムを作ることにしました』 https://ncode.syosetu.com/n3597gy/79/でご覧になることができます。
なお、『ネコ耳❤アリシアの魔王城日記』は『魔王の勇者オデッセイ...』の世界と少し違うパラレルワールド作品という設定になっていますので、内容的に少し違うところがあります。




