第65章 アリシア子爵、期待に応える(前編)
夕食会は大成功で終わった。
トロール人たち、職員たち、研修生たち、将軍たちは大満足して帰って行った。
ご近所さんたちもとても喜んで帰って行ったので今後の近所付き合いも問題ないだろう。
ご近所さんたちは、近所に引っ越して来たと聞いた新しい貴族の転居祝いに、魔王さまが来られたのですごく驚いていた。
そりゃ驚くよね。でも、これで新しい住人(私のことだ)が、魔王さまと強いつながりを持っているということをご近所さんたちも知っただろうし、これからの近所付き合いでもそれが役立つだろう。
だけど、誰よりも満足して帰られたのは魔王さまだと思う。
久しぶりに私を(たっぷり)と抱いて、そのあとで魔王妃たち、王妃たち、それに妻たちを私の寝室で思う存分に抱いたのだから。
魔王さまたちが、来られた時と同じ方法- ドコデモボードで帰られたあと、寝室を見に行ったら...
想像していたほど乱雑になってなかった。
と言うか、まるで使ったことがないように、きれいにしてあり、ベッドのシーツも新しいのと替えられていて、お風呂もきれいに洗われていた。
これは、プリシルさまが私のことを思われて、後片付けと清掃をしておいてくれたのだろう。
まあ、これだけ後をきれいにして使ってくれるのなら、今後も... いや、それは遠慮しておくわ。
ここは、あくまでも私の愛の褥なんだから、私と恋人たち専用の部屋にしておきたい。
屋敷での新生活が始まった。
お母さまもビアも新しい家がすごく気に入ってるし、モナさまの娘のキアラちゃんは、ゼニヤさんの娘のナリヤちゃんとすっかり仲良くなったし、ジオン君も自分の部屋が持てたのでうれしがっている。
子どもたちがよろこんでいるのを嬉しがらない母親がいるだろうか?モナさまもとても満足しているようだ。
屋敷は広く、いっしょに住む家族も増えたこともあり、正式にメイド長となったゼニヤさんのほか、新しいメイドであるキナラさんとイムラさん、それに料理人、料理助手二人、給仕二人、下男二人を雇うことになった。
下男には家の中の仕事は力仕事以外はあまりさせず、雑役係みたいな感じ。
家には女が多いので、男の使用人が家の使用人部屋に住み込みでいると恋愛沙汰などが生じやすいのでそれを避けるために、既婚で通いの下男を雇った。同様の理由で給仕も女しか雇わなかった。
下男には、一ヶ月に一度呼んで庭の手入れをさせている庭師の手伝いをさせ、将来的には庭の手入れもまかせるつもり。倹約できるところは倹約しなくちゃ。
そして、これらの授業員を管理し、屋敷の維持および管理するために執事を雇った。
それも女執事を。領地を持ってないので、かなりの高給を払わう必要がある家令は要らないし、男の執事も信用が置ける有能な者は、高給を払わなければ雇えないのでやめた。
女執事は、タマラ・ドリーヌと言う同族(フェリノディオ族)の女性で、執事の経験はないけど、前にメイド長みたいな仕事を長年やった経験があり- 前の雇い主が、私よりケチだったらしく(?)、正式にメイド長として雇わないで、メイドの責任者みたいな形で安い給料で雇ってていたらしい。
頭のいいフェリノディオ族で、家の管理一般と授業員の管理をやっていたという経歴の持ち主だった。
タマラさんは、私が女執事を探していると授業員組合の求人版で知って訪ねて来た。
女執事なんて組合には登録されてないので、私はたぶん見つからないだろうと半分あきらめていた。
どうしても見つからなかったら年寄りの男執事でも雇おうかと考えていたら、求人募集を出してから十日ほど経ってから訪ねて来た。
ちょうど私は仕事、お母さまとモナさまも授業で家にいなかったので、ゼニヤさんが応対し、連絡先を訊いてくれ、私が帰宅してからタイロさんにお願いして迎えに行ってもらった。
たかが執事風情と面接するのに迎えの馬車を出す必要あったのかって?
私は、階級や職業や種族で差別はしない。私自身、王女の身分から没落王族となり、罪人のようにヤーダマーの塔で数年閉じ込められて暮らした経験もある。
その時に塔の警備員さんたちや近く村の人たちと親しくなり、それが大いにゲネンドル一家の助けになったこともあり、階級や職業で“差別”などするものではない、みんな同じなんだと身をもって知った。
タマラさんは、私やお母さまの質問にテキパキと答え- モナさまは、直接の雇用主とはならないのでだまって聞いていただけだけど- 頭がよく、計算にも強く、責任感があり、「雇っていただけたら、授業員の調和と働きやすい仕事環境にするために力を入れます!」と言ったので、そのひと言で雇うことを決心した。
給金は月に金貨1枚。ゼニアさんの倍で高いと言えば高いけど、それでも経験のある男の執事の給料は月に金貨3枚なのだから、その三分の一は安いと言える。
私の事業が軌道に乗り、資金状態が十分になったら、ゼニヤさんも含め授業員の給料を上げてもいい。だけど、それまではこの給料で我慢して欲しい。
タマラさんには、アイラと言う10歳の娘がいるけど夫はいない。ゼニヤさんと同じく、母子家庭らしい。
「お給金は、今のところはこれ以上は払えないけど、アイラちゃんをジオン君が通っている魔都の学校に通わせなさい。月謝は私が払ってあげるから」と言うと、すごく感激していた。
住居、食費はタダだし、娘の学校の月謝- 貴族や金持ちが子弟を入れる学校なので月謝は、それほど安くない- まで払ってもらえるという好条件に、タマラさんは一も二もなく大きく首を縦にふった。
魔王国立学校は、貴族、金持ちの子弟の英才教育を主眼として設立された学校だ。
と言っても、貴族の子ども、金持ちの子どもがすべて優秀で頭がいいとは言えない。なので、当然、凡庸な生徒と優秀な生徒は分けられており、特組、傑組、秀組、才組の四つの教室が各学年にあるそうだけど、『特組』がもっとも優秀な生徒の教室で、ビアやビースーちゃんたち研修生は、全員この教室の生徒らしい。
当然、『才組』がもっとも凡庸な生徒の教室らしいが、親は『才組』という名前から、自分の子どもは秀才だと思っているとか思っていないとか... これは、ビアからの受け売りだけど。
この魔王国立学校、優秀な貴族の子弟には月謝を半額にするという奨励、つまり特待生制度をとっている。なので、私が入学を申請すれば、通常であれば大銀貨5枚の月謝が大銀貨二枚半ですむという利点もあるのだ。
まあ、そんなことまでしなくとも、タマラさんの娘がいい成績をとれば半額しか払わなくて済む。
そのことをタマラさんに言うと、「アイラに一生懸命に勉強して特待生になれるようにと言います」と約束してくれた。
まあ、この賢いタマラさんの子どもだ。きっといい成績をとって特待生になってくれるだろう。
これで、私たち家族三人、モナさまの家族三人、それにお母さまとモナさま専用のレディーズ・メイド二人とキアラちゃんの乳母を入れると9人、これに執事のタマラさんを加えて15人の使用人を加えると、総勢24人の大所帯となった屋敷の維持・管理は心配がなくなった。これで心置きなく情報分析室の仕事に打ち込める。
* * *
西ディアローム帝国とボロツク公国の状況は風雲急を告げていた。
ブリュストン伯爵さまも、前線で戦いの指揮をとるべく鬼人族国に急遽もどって行った。
とても寂しいけど、状況が状況だ。しかたない。早く停戦協定を結ぶなどして戦争を終えて欲しいけど、状況から見ると無理っぽい感じ。
情報分析室の方は、トロール人たちの協力者がそろったことで万全の体制となり、西ディアローム帝国、鬼人族国、ボロツク公国、それにクマーラ王子がアングルスト帝国内とベルミンジャン王国内に構築した情報収集組織などからの情報を総合的に分析することが可能となり、よりよく戦況がわかるようになった。
戦いに関する情報の分析結果は、すぐに報告書として参謀本部にマデンキで送る。
分析担当は、私とリエルさん、それにロニアさんたち6人とクマーラ王子にトマーラ王子の10人だ。
西ディアローム帝国とボロツク公国の情報分析は、鬼人族国からの情報提供があることもあり、私たちとリエルさん、ロニアさんたちで十分やれるが、アングルスト帝国とベルミンジャン王国二国のの情報分析は、やはり両トロール国の内情をよく知っているクマーラ王子とトマーラ王子の分析の方がずば抜けて優れている。
プリシルさまは、情報分析室の適切迅速な報告書のおかげで、参謀本部の方では当初の混乱も収まり、かなり余裕をもって反撃作戦を練ることが可能になったと私たちに伝えてくれた。
「魔王さまもアマンダさんも、かなりご満足よ!」
それを聞いた時は、私たちは徹夜での疲れも忘れ大声で歓声を上げた。
え?
残業はしないって言ってたのに、徹夜で働いているのかって?
それは当然でしょう?
だって、アングルスト軍とベルミンジャン軍によって、盟主国・西ディアローム帝国の首都ゾオルが陥落するようなことにでもなれば、ドリアンスロゥプ皇帝は一族とともに、ブレストピア国か魔王国あたりにでもドコデモボードを使って亡命して助かったとしても、その影響は大きく、西側同盟諸国に大きな動揺をもたらすことは確実だから。
皇帝が逃げ出したあとで、西ディアローム帝国軍がどれだけ持ち堪えることが出来るかわからないけど、ゾオルに迫っているトロール軍の勢いを止めることは難しくなる。
西ディアローム帝国は、西側国境からはアングルスト軍、東側国境からは東ディアローム軍、そしてメジアグロス海からは、アングルスト・ベルミンジャン連合軍によって侵略されており、まさしくフクロのネズミ状態となっており、このままだと戦況を挽回するのは困難だというのは、魔王軍の参謀でなくともわかるわ。
東ディアローム帝国の反攻作戦図
さらに加えて、魔王国の最大の同盟国であるモモコ大王の鬼人族国の南部- 鬼人族国とボロツク公国は同族であり、この二国は地峡でつながっている- にもアングルスト軍の一部が上陸し、後の主力軍の侵攻にそなえて橋頭保を構築しているとの情報が鬼人族国からもたらされている。
もし、両トロール大国がボロツク公国と西ディアローム帝国を制圧すれば、次は鬼人族国の番になる。そうじゃなくても、鬼人族国は東ディアローム帝国と国境を接しており、東ディアローム軍は簡単に陸路から鬼人族国への侵略を開始することができる。
そして、その作戦が実施される時は、間違いなく、両トロール大国も占領した西ディアローム帝国内と海から同時作戦で鬼人族国に侵攻するだろう。
戦争って言うのは勢いが大事で、敵が予想もしてなかった奇襲などで混乱をあたえ、すかさず圧倒的な軍事力で圧倒制圧していくというのが常套手段なのだ。
鬼人族国は軍事力的には、世界最強を自負しているけど、万が一、もしトロール軍の勢いを止めることができなければ、魔王国も危なくなる。
まさしく、魔王国存亡がかかっていると言っも過言ではない。
まさかそんな事態にまではならないだろうと思うが、こういう切羽詰まった状況下では、いくら私が管理職だから残業手当はでないとわかっていても、一生懸命に情報分析に精を出すのは当然だ。
魔王国あっての子爵だし、年収金貨600枚なのだから。
高給貴族という地位を守るためなら、私は目が充血しようが、美肌が荒れようが、ニキビが出ようが、徹夜でも週末返上でも仕事をする!
なんてカッコつけちゃったけど、実際は、私は夜勤明けだっただけ。
戦況が切迫するにつれ、情報分析室は24時間体制で情報収集と分析をする必要が出て来た。
それで、プリシルさま、リエルさんと相談して、情報分析室の人員を朝番、昼番、夜番の3つに分け、それぞれプリシルさま、リエルさん、それに私の三人が各番の責任者として分析室を24時間稼働させることにした。
「ふぁ~~っ。アリシアちゃん、お疲れさま。さ、交代しましょう」
プリシルさまが、ご自分の番- 朝の7時の30分前に分析室に眠そうな顔で現れた。
プリシルさまは、魔王妃の一人でもあるので、午後3時に昼番のリエルさんと交代されたあとも魔宮殿のご自分の部屋に帰られて、「おやすみなさ~い」と翌日まで休んでいるわけにはいかないのだ。
アマンダさまに次ぐ魔王妃としての責務もあるし、マイレィちゃんの母親でもあるし、魔王さまの妻でもあるので、セイリョクのお強い魔王さまと時折、いや、頻繁にベッドを共にしなければならないも知れない?
魔王さまと結婚したルナレイラお義姉さまも、ほぼ毎日魔王さまに求められているらしい。
「お父さまは、レオニディオだから、とくにお強いのかと思っていたけど、魔王さまはお父さま以上みたい...」とマイテさまにこぼしたとか、こぼさなかったとか。
いや、ルナレイラお義姉さまは、18歳になったばかり。
すごく若い。なので私と同じく、一晩中魔王さまから愛されても全然問題ないはず。
えっ、どうして私と比較するのかって?
だからぁ、私も魔王さまのお好みのオンナの一人だってことを言っておきたいだけ(汗)。
まあ、ルナレイラお義姉さまの言われたことは、こぼしたんじゃなくて
おノロケね、それは。
でも、私もルナレイラお義姉さまも、プリシルさまにはかなわないわ。
魔王さまの王妃さまたちって、いずれも超美人なんだけど、その中でもプリシルさまの美しさは群を抜く。
プリシルさまはまだ25歳とお若く、大浴場で見る彼女の体は、適当にふっくらしていて、太もも、オシリなんかとても女性らしいし、たゆんとしたオッパイも美しく張っていて魅力たっぷり。
私やルナレイラお義姉さまのように、まだどこか少女っぽいところのまだ残っているような体と違って、プリシルさまの体は白くてふっくらとしており、お肌もお湯から出ると水を弾くほど瑞々しい。
それほどの体の持ち主だ。やはりプリシルさまも魔王さまに頻繁に求められるのだろう(汗)。
胸のボタンは小粒で、まるで少女のようにピンク色で、胸部から腰にかけてのラインがとても美しい。女性である私が惚れ惚れするくらいの体を持っている。同じ女性なのに、あれほどお美しい体には、正直言って羨ましささえ感じる。私も、あと10年したらあんな美しい体になるんだろうか?
いつの日だったか、魔王さまがほかの王妃とイチャイチャしている間、いっしょにお湯に浸かりながらお話をしてくれたことがある。プリシルさまは、なんと15歳で魔王さまに初めて愛されたのだとか。
「ふふふ。あのころは、わたくしもあなたが初めて魔王城に来た時のように男を知らないウブな女の子だったのよ...」
遠くを見る目をしてなつかしそうに言った。
「アリシアちゃんは15歳で魔王さまに抱かれて、若すぎると思ったかも知れないけど、私も同じ年だったの。リリスも15で魔王さまに抱かれて、ハウェンだけが17歳でわたくしたちの中では一番年上だったの」
リリスさまは、プリシルさまの母方の従妹で、ハウェンさまはリリスさまの又従姉妹なのだそう。
プリシルさまを魔王妃にしたあとで、やはり美少女として評判だったリリスさまとハウェンさまが魔王さまに呼ばれ、気に入れられ、同じように魔王妃になったのだとか。つまり、アマンダさま以外は、親戚と言うことになる。
プリシルさまは、私が立ち上がるとそのあとに座り、紫色の長い髪を指先でクルクルと巻きながら、デスクの上に置かれた、参謀本部に送る報告書にざっと目を通しはじめた。
7時になると、朝番の人たちが挨拶をしながら賑やかに入って来た。
それを見て、ロニアさんとアマラさんも、朝組のレイカさんとペーミンさんと代わるために席を空ける。
「お姉ちゃん、おはよう!プリシルさま、おはようございます。ロニアさんとアマラさんもおはよ!」
ビアが研修生たちといっしょに入って来た。
「プリシル王妃さま、室長、ロニアさん、アマラさん、おはようございます」
「王妃さま、アリシアさま、みなさん、おはようございます」
ビースーちゃんやモナクちゃんは、ちゃんと目上のプリシルさまから最初に挨拶しているのに、ビアはプリシルさまを私の次にした。
「ビア。挨拶は、目上の人が先っていつも言っているでしょ?」
「いけねっ、お姉ちゃんの顔を見ると、ついうれしくなって最初に挨拶するの!」
「いいのよ、いいのよ、アリシアちゃん。元気に挨拶してくれるだけでうれしいわ」
プリシルさまは、どこまでもおやさしい。
ビアとは同じ屋根の下に住んでいるんだけど、ビアはお昼まで分析室で仕事をしたあとで学校に行き、学校が終わると例の語学の勉強を遅くまでやっている。
私は私で夜勤なのでビアの顔を見るのは、分析室、それもプリシルさまとの交代時だけだから、まあ、ビアが私の元気な顔(充血した目に肌荒れした肌の?)を見て喜ぶのもムリがない。
でも、私たちは姉妹二人だけってこともあって、小さいころからすごく仲がいい。
ビアが私を見てうれしがっている... 本当にかわいい。今度、また新しい服でも買ってあげようかな。
「じゃあ、 ロニアさんとアマラさんは、レイカさんとペーミンさんに引継ぎがすんだら、行きましょうか?」
「はい。こちらは終わりました」
「私も終わりました」
「じゃあ、いつも通り、一階でトリプルバーガーを食べてから帰りましょう」
「はい!」
「はいっ!」
とたんに、いつもはおとなしく控えめな感じのロニアさんの目が輝く。
アマラさんも“やったあ!”みたいな恰好をする。
あの恰好はビアたち研修生から習ったのだ。
西ディアローム帝国のエテルナール教総本山からやって来た輔祭たちは、すっかりトリプルバーガーとフライドポテトとマオウコーラの虜になってしまった。
それも無理はない。私だって、ビアだって、カリブ、ジオン君、それにキアラちゃんまで、魔王城に来てからトリプルバーガーの味を覚え、やみつきになったくらいだもの。
私もすっかり虜になっているけど、あの白いプツプツしたジェルジェリン粒が表面にある、ふわっとした丸っこいパンのに挟まれた三枚の分厚いハンバーグの味は格別だ。
口を開けて噛むと、肉汁がじゅわーっと口の中に広がり、クリームチーズ独特の酸味とお肉との味がうまく絡み合い、肉のうま味を引き立てる。
それに薄切りトマトとキュウリの酢漬けが加わると、まさにお口の中は天国だ。
アマラさんは、クリームチーズじゃなく、黄色いチーズの方が好みだ。
熱いハンバーガーの上でとろけたチーズもまた格別だ。そして香ばしく、サクッとしたフライドポテト。あれだけずっと食べていられるようなおいしさだ。私はチーズ味のフライドポテトがとくにお気に入りだ。
外務省の新別棟に情報総局が入り、どんどん働く者が増えて来ると、便宜を図るために地下に食事が出来る、お手頃な値段の食事を提供レストランなども開店しはじめた。その一つが、ゲラルドさんが大臣を務める、魔王国農業・漁業・工業省傘下の外食産業部が経営するハンバーガー店『マオウナルド』だ。
魔王さまは商業の才があるのか、儲かる事業はほとんど国営化している。
若い世代や上級階層向けのファッションメーカー『モンスタイル工房』もそうだし、工業も貿易も国の独占だし、農業、畜産業なども国有化した上で、元領主の貴族たちに運営させている。
魔都も地方の大きな都市も、同盟国も、若者や貴族、金持ちたちは競って『モンスタイル工房』の服を買って着るし、どういうルートで流れるのか皆目見当もつかないけれど、何と敵陣営の国でも闇市場でかなりの量が販売されているらしい。
情報総局の建物の地下1階も、ここ2週間ほどできれいに整備され、レストランや書店、アイスクリーム店などが出店している。まだ新店舗が入る場所がたくさんあり、あと半年もすれば地下街はさらに賑やかになるだろう。
『マオウナルド』という、魔王さまの名前からとったらしい明るく若者受けする店構えの店にはいる。
“マオウ”の意味は「魔王」からとったのだとわかるけど、“ナルド”の意味はわからない。辞書で調べても出てこなかった。
ロニアさんは、クリームチーズのトリプルバーガーとチーズ味のフライドポテトを注文し、アマラさんは黄色いチーズのトリプルバーガーにフライドポテト、私は炙り醤油風ソースとクリームチーズのトリプルバーガーとチーズ味のフライドポテトを注文した。
飲み物はロニアさんとアマラさんはマオウコーラ。私はメロンジュースにした。
二人が、おいしそうに食べているのを見ながら、アイフィさまが彼女たちを情報分析室に呼んでくださって本当によかったとつくづく思った。
彼女たちの情報分析力は、アマンダさまやギャストン伯爵たちの当初の予想を大きく超えた。
やはり、しっかりとした基礎知識- 各国政府・軍部首脳の政略&軍略傾向、軍隊の規模、強さ、鍛錬度- を持っている者と持ってない者とでは、情報の解釈に天地の差がでる。
ロニアさんたちの分析・解釈能力は、ケタ外れていた。彼女たちの東ディアローム帝国側諸国の知識に、クマーラ王子がアングルスト帝国とベルミンジャン王国に築いた情報収集網から送られてくる情報を足し、ロニアさんたちは、アマンダさまたちやギャストン伯爵たち大臣、それに参謀本部が舌を巻くような分析、いや、敵軍の戦略予想まで立てた。
『マオウマックス』で朝食をとったあと、私たちは家に帰った。
屋敷に寝室があまっていることから、当分の間、彼女たちをわが家に宿泊させることにしたのだ。
もちろん、プリシルさまの許可をとってある。
ロニアさんたちは、すでに夕食会の時に私の屋敷に来ていて、かなり大きい立派な屋敷だと知っていたので、最初、私が寝室を提供すると言った時、ロニアさんは恐縮した。
「そんな。子爵さまのお屋敷に泊まるだなんて...」
「わあ、素敵!あたし、こんな屋敷に住んでみたいなって思っていたの!」
「わたしもです!」
「右に同じです!」
ペーミンさんとミンタちゃんも同意したので、多数決(?)で全員わが家を宿舎とすることになった。
もちろん、永久的にではないが、情報分析室の仕事になれ(もうすっかり慣れているようだけど)、魔王国での生活に慣れたら、それぞれ好きな家を借りて住んでもいい。
いや、寄宿舎生活に慣れている彼女たちのことだ。もしかすると6人いっしょに住める家を借りるかも知れない。いや、魔都でステキな恋人でも見つけて結婚して自分の家を持つことも出来る。
しかし、輔祭であることをやめたと言っても、敬虔なエテルナール教徒であることはやめないだろうから、独身のまま一生を過ごす?...
いや、もう自由なんだから、アイフィさまを見習って人生を謳歌してほしい。




