第59章 アリシア子爵、栄転をする(後編)
魔王国情報局情報分析室は、総勢52人という大所帯になってしまった。
情報分析室の仕事は軍事&外交関連文書の翻訳だけではない。
文字通り、情報を分析しなければならないのだ。これは、極めて重要な仕事で、情報の最終的な結論はプリシルさまや軍事大臣・ギャストン伯爵、外務大臣・スティルヴィッシュ伯爵、それにアマンダさまや魔王さまがされるとしても、最終結論をする彼らが“情報を素早く理解”出来るような分析報告書を提出しなければならないのだ。
正確な分析書を作成・提出しなければならないので、私たちの責任は重い。
だけど、私は生来楽天的と来ている。なんせ、誰もが怖がる魔王さまと初めてお会いした時に、魔王さまの前でトイレに走って行ったくらいだからね?
あ、これはあまり自慢にならないわね?(汗)
なぜ、輔祭を6人も入れたかって?
それはね、教会というのは、古来より政治と密接につながっていて、おたがい利益になるような関係をずーっと続けて来たからよ。
創造主エタナールさまを信奉するエテルナール教にせよ、太陽神を崇めるソーリス教にせよ、いかにして権力に取り入り、うまく教勢を伸ばし、信者を増やすかに腐心し、権力側は教会の影響力を利用して大衆を彼らにとって従順な羊にしようとして来た。
なので、教会と国家(権力)は、たまに利害のために衝突はすることがあっても、原則持ちつ持たれつの関係を維持して来た。
したがって、教会の人間は政治の動向にすごく敏感なの。
教会の神職たちが、神への祈りと宗教儀式と賽銭を数えることだけしかやってないと思ったら大間違いで、上は教皇、大神官から、下は神官、助神官、そして輔祭にいたるまで、二人いれば最近の〇〇国の状況は...とか、□□国と△△国の関係が...などと情報を交換したり、共有したりするし、三人集まれば口からつばきを飛ばしてはげしく政治議論をすると言われるくらい。
なので、輔祭と言えど、ヘタな政治家や貴族よりも政治の事をよく勉強しているし、知識があるの。
情報分析室の構成員は、次の通りになった。
室長 アリシア・ミラーニア・ゲネンドル子爵
副室長 リエル・エイルファ・ボードニア王妃
補佐 エイルファ・ウィンテル・テフ
補佐 エリゼッテ・アルティア・ボードニア
連邦管理局からの移籍組11人
アダリヌ・ドメダナ
マクジム・ルスドボウル
モイーズ・メンゲレブ
ゼナイデ・モレイーラ
アラニ・ウリノリン
メレレア・ サウロマ
ポラニー・ヴァサトゥラ
ルシオン・アエジョール
シベーレ・グリンベラ
ベラ・ベルドーナ
イーダン・ヤマニ
研修生 10人
ビア・スティルヴィッシュ
エラ・グロッルド
モナク・アングレン
ロナミ・ペンナス
リラーナ・ダルドフェル
アラネイル・ハンノンベリ
イジルダ・ベテラーブ
シドゥネイ・ファイバン
カルヤ・ガバロス
ルドフェル・メルストガル
元輔祭6人
ロニア・フォールン17歳。
アマラ・エボニー 17歳
レイカ・アルデウ・ガルニエ
ペーミン・ガンガネッリ
ミンタ・ジェンガス
マルレーヌ・アルフォ・アロイス
トロール族11人
トマーラ=ケカイ・ゾーリュ(兄)
ニギータ・ドラグマ・ゾーリュ(兄嫁)
クマーラ=ジーボ・ゾーリュ(弟)
チェニーレ・ビッテングル(弟嫁)
ヴィリアン・ダュダロスゥ
ヴァイヴィアネ・ダュダロスゥ
ヴィイロン・ダュダロスゥ
バロドゥン・ダュダロスゥ
ビュクヘール・ボティンドロ
ヴォヴォル・ボティンドロ
オールロン・ドラグマ
一般公募から10人
ラノリア・ロバンズン
エレノラ・リンジー・ トルッファ
マリエル・プレスタン
ロメーナ・ガル・ ウリノリン
バラメ・ハルメ=ボルル 没落元貴族
タンニイ・アエガグル
ノーロル・ガブリット(男)
ゴリーヌ・ラバネード(男)
マサリオ・ハンノーム
カルデス・エネスレン
補佐役のエイルファちゃんが作成した各職員の名簿と経歴を見た時―
「うむむむ...」
としばらく唸ってしまった。
「どうしたの、子爵?」
副室長のリエルさんが訊く。
「かなり... 貴族の子弟がいますね...」
「ああ、いるわね。外務大臣スティルヴィッシュ伯爵の娘とか、経済・貿易大臣ペンナス伯爵の娘とか、ダルドフェル公爵の娘とか、ハンノンベリ辺境伯の息子とかね」
「ダルドフェル伯爵の娘も...」
「あ、それは彼の孫娘よ」
「一般公募で採用した中にも、かなりいるみたい...」
「ああ。ガブリット伯爵の甥や、ラバネード侯爵の兄弟とか、ハンノーム侯爵の兄弟とか、エネスレン男爵の弟とかね。仕事にあぶれている貴族の親戚とか兄弟とかが、公募を見て応募して試験に受かったのよ。頭のいい者ばかり採用しているから、仕事は問題なくできるはずよ」
言われてみればそうだ。
ツテで入省したわけでもないし、コネで入省したわけでもない。
実力で入省した者ばかりだ。極秘情報を家族や恋人などに流さない限り、きちんと仕事をやってくれれば問題ないと思う。
午前9時から始まった情報分析室の仕事は活気づいていた。
私は初仕事なので1時間前に登庁した。
部屋のドアを開けると、何とあの輔祭さんたちが、みんなのデスクを拭いていた?!
情報分析室と局長室、会議室のある15階は、昨夜のうちに清掃係の人たちがきれいに掃除していたはずだけど。
「おはようございます」
「おはようございます!」
「おはようございます」
みんな口々に元気よく挨拶する。
「おはよう。私が一番かと思ったら、あなたたちの方が早かったのね?」
「神学校時代から、授業を受ける教室や仕事をする教会は、誰よりも早く来て清掃するようにと教えられて来ましたので」
ロニアさんが、私が褒めたので顔を真っ赤にして答える。
うむ...
たしかにこの娘はかわいい。
魔王さまも目が高いな...
私は、自分のデスクに座って、マデンキで受信した連絡文を印刷してあるのをざっと見ながら、昨夜、魔王城の広間で開かれた歓迎会・情報局新設を祝う会のことを想い出していた。
* * *
魔王城の広間で行われた歓迎会・情報局新設を祝う会には、何と魔王さまがご出席された。
アマンダさま、プリシルさま、アイフィさまの三人とごいっしょに。
突然、親衛隊のガバロスたちがドアを開け、魔王さまが入って来られた時、祝う会の参加者たちは一瞬でおしゃべりを止め、椅子から立ち上がり、凍りついたようになった。
「そうかしこまることはない。魔王国にとって、もっとも重要な機関の一つとなる魔王国情報総局の職員がどんな顔ぶれなのか見に来ただけだ。みんな楽にしておしゃべりをして料理に酒を楽しむがいい」
そう言って、魔王さまは私の座っていたテーブルに近づいた。
テーブルには、私とビア、それにリエルさま、エリゼッテちゃん、エイルファちゃん、そしてあのエテルナール教総本山からやって来た六人の若い輔祭たちがいた。
彼女たちは、服を変えることもなく、あの白いキャソックを着ているのですごく目立つ。
「おう... そなたたちが、アイフィと オジロン・ヒッグス大神官殿が、ようやく説得することが出来たと言う輔祭たちか?」
「お初にお目にかかります。 ロニア・フォールンと申します」
「アマラ・エボニーと申します」
「レイカ・アルデウ・ガルニエ と申します」
「ペーミン・ガンガネッリです。魔王さまにお会いできて光栄です!」
「お会いできて光栄です。ミンタ・ジェンガスと申します」
「マルレーヌ・アルフォ・アロイス と申します」
それぞれ名乗る。
「して、年はいくつだね?」
え、魔王さま、魔王国はどうだねとか、急な旅で大へんだっただろうとか言わなくて、年はいくつか聞いたよ?
ロニア、アマラ、ペーミンがそれぞれ17歳。レイカとマルレーヌが18歳。ミンタはまだ16歳だけど、みんなすごくきれいな娘ばかりだ。
うむむ... アイフィさまの美女選択眼、彼女の魔法同様超一流ね?
「そうか。みな若いな? だが、アリシア子爵は、みんなよりまだ若いぞ? 子爵はまだ15歳になったばかりだ」
「ええっ?」
「室長、そんなにお若いんですか?」
「おどろきました」
「私は二十歳を超えていると思っていました!」
みんなおどろいている。
それも当然か。
って、誰よ、私が二十歳を超えているって思ったって言ったのは?
若い時から苦労をするとフケるのかな(汗)。
「だが、アリシア子爵はこの年に似合わず、物事をよく観察して、よく考えるフェリノディオだ。若いからと言って決して舐めてはいけない。若く美しい、賢明と言うだけで子爵にはならないし、分析室長という重要な職にもつかない」
「はい」
「わかりました」
「はい」
「ごもっともだと思います」
輔祭の娘たち、神妙な顔をしている。
え、誰が“若く美しく、賢明”ですって?
もう10回ほど言ってもらえますか?
いつの間にか、魔王さまの周りには、分析室の新職員たちの輪が出来ていた。
「今回、魔王国情報局を設立するに当たって、エテルナール教の総本山やルーボードタン連邦管理局の職人、それに一般公募で採用された者、語学研修生などが魔王国にとって重要な仕事に携わることになる」
そう言って、魔王さまはみんなを見回した。
「この中には、私が大へん信頼している大臣や貴族たちの子弟や親族の者もいる...」
そう言って、ビア・スティルヴィッシュやロナミ・ペンナス伯爵の娘やダルドフェル公爵の娘などの顔を見た。彼らの顔が緊張する。
「中には、親が魔王国の要職についている者や、魔王軍の将軍の親戚や子弟もいる。だが、ここで私がみんなに言っておきたいのは、いかなる情報であれ、情報分析室で得た情報は、決して家族や恋人、友人などに言ってはならないと言うことだ」
コクリ、コクリとみんなが真剣な顔で頷いている。
「情報分析室で得られた情報は、最終的にアリシア室長が吟味し、それからプリシア局長を通して上層部へ送られることになる。また、アリシア室長には、必要と思えば、プリシル局長を通さずに、極端な場合、私に直接情報を送る権限もあたえられている...」
すごい…
へぇ!
驚いたような小声が聴こえ、みんなが私に注目する。
私は恥ずかしくなって、プリシルさまの後ろにかくれたくなった。
「機密漏洩罪の罪は重い。くれぐれもその点に心がけて、仕事に励んでほしい」
そう言って、魔王さまはプリシルさまとアイフィさまを残すと出口に向かった。
出て行く前に、ビアの近くに寄って何かひとことふたこと言ったあとで、ビアが「ひゃん!」と小さな悲鳴を上げ、わーっはっはっは!と愉快そうな笑い声を響かせて魔王さまは去って行った。
「魔王さまったら、ワタシのオシリを揉んだのよ!」
ビアが得意げに仲間に話している。
ビア... あまり調子に乗りすぎると、あなた魔王さまにお部屋に連れていかれてムチ打ちの極刑にされるわよ?
「ふふふ。魔王さま、すっかりみんなを怖がらせっちゃったみたいね?」
くったくなげなプリシルさまの言葉に、緊張が少しやわらいだ参加者たち。
情報総局全体はまだ始動してなく、情報分析室だけが他部署に先駆けて明日から仕事をはじめる。
そのため、今日の歓迎会&情報局新設を祝う会に参加しているのは、ほとんどが情報分析室の職員だけだ。
「それにしても、魔王さまは、あなたたちをすごく気に入ったみたいよ?」
プリシルさまは、そう言ってロニアたちを見た。
「ま、魔王さまが、わたしたちのことをお気に入られたんですか?」
ロニアさんが、おずおずと訊く。
だけどロニアさんとかなり仲がいいらしいアマラさんは、それを聞いて目を輝かせている。
ペーミンさんやミンタちゃんは、頬を染めている。
「魔王さま、若い娘に目がないのよね...」
ちょっと困り顔のプリシルさまが何だかとてもかわいい。
「わたしも、魔王さまのお好みをよく知っているので、輔祭の中でも飛び切り美女を選びました!」
どういうわけか、アイフィさまが自慢をしている?
あれっ?アイフィさま、シャンパンの瓶を片手に、グラスに自分で注いでどんどん飲んでいるわ?
「アイフィさん、もう始めちゃったの? じゃあ、わたくしたちも始めましょう!」
プリシルさまの声で、みんな歓声を上げて、一斉に料理や飲み物に飛びついた。
って、男たちはもうさっきから飲んでいるんだけど?
ビアたち研修生の輪から笑い声が弾ける。
一般公募で入省した新しい男性職員たちが、何か面白いことを話しているらしい。
情報総局では、機密漏洩は厳禁だけど、職員同士のおつきあいや恋愛は禁止しないから。
せいぜい、女の子を妊娠させないように注意して楽しんでちょうだい。
それに、私は新たに情報分析室長に任命されてから決めたことがあるの。
それは、残業、休日出勤は厳禁ってこと。
連邦管理局では、ほぼ毎日夜遅くまで残業をした。
仕事で結果を出したかったと言うのもあるけど、仕事の量も半端なかった。
まあ、そのおかげですごくたくさん覚えることが出来たし、同盟国の要人とかとも知り合うことが出来たんだけどね。
でも、優秀な人材がそろっていて、能率が良ければ残業などしなくてもいい。
定時で切り上げ、ゆっくりと休んだ方が翌日の仕事もはかどる。それに、みんな仕事だけで生きているわけじゃない。それぞれ家族がいるだろうし、恋人がいる職員もいるだろう。
帰宅してからは、家族と団らんを楽しんだり、恋人と逢瀬を楽しんだりして欲しい。
私もほぼ毎晩、ブリュストン伯爵さまと会って、たっぷりと愛し合っている。
若いんだもの、楽しまなきゃ。人生は一度きりなのよ。




