第56章 アリシア子爵の恋人
「いやあ、もう食べすぎて腹がパンパンですよ!」
庭園に出ると、ほぼ真上にある太陽の光に目を細めながら、ブリュストン伯爵さまは少し張ったお腹を礼服の上からたたいた。
ブリュストン伯爵さまは、鬼人族国将校の礼服姿だった。
金色の組紐の装飾が付いた濃紺の制服は目が覚めるほど美しい。
パンツには稲妻を模した赤い側章がついており、右肩には金色の革ベルトを締め、表は濃紺、裏面が真っ赤なマントを羽織っているが、上衣の胸元のところで裏面の鮮やかな赤色が見える工夫がされており、これが濃紺の制服とコントラストを出し、否が応でも目を引く。
2メートル近いブリュストン伯爵は、膝まである黒色の長いブーツを履いて歩いているけど、同じく庭園を歩いていた人たちが立ち止まって見るほどのファッションだし、伯爵は美男鬼人なので、とくに女性たちの注目を引いた。
「その軍服、とてもお似合いですね? みんなが見ていますよ?」
「何を言っているんですか? みんなが見ているのは、アリシア子爵さまではないですか?」
「......」
何も言えずに真っ赤になってしまった。
私が着ているドレスは、今日の祝賀会ために特注した白色のロングドレスだ。
胸と脇腹と袖は透けた生地だけど、オッパイは見えないように肩からの幅広いベルト状の布地がお腹まで続いており、胴と胸と襟の生地は銀色のスパンコールでキラキラさせた上に、白い造花と蔦をあしらった濃い緑色のスパンコールで飾られているという超オシャレなドレスだ。
デザインは私が考えて、行きつけの高級洋服店の洋裁師に一ヶ月前に注文したものだけど、今日の祝賀会ではすごく注目を浴びた。
「こんな素敵なドレス、どこで買ったの?」
「誰がデザインしたの?」
「ねえ、ねえ、どこでそんな美しいドレス買ったか、教えてちょうだい」
「どこのお店の裁縫師がそれを作ったの?」
ルナレイラお義姉さまや、プリシルさま、リリスさま、それにファッションメーカー『モンスタイル工房』を経営されているアンジェリーヌ・ジョスリーヌ姉妹などから、祝賀会でうるさいくらい聞かれたけどデザインは私が考えたものなので、一つしかないドレスだ。
「あなた、ファッションの才能あるわ。公務員止めて『モンスタイル工房』で働かない?」
「そうよ。アリシア子爵さんなら、チーフデザイナーで雇うわ。月給は、そうね。年収金貨200枚に売り上げのコミッション10パーセントでどう?」
「少なくとも年に最低でも金貨1000枚、デザインした服が大ヒットしたら金貨2000枚とか3000枚とかになるわよ?」
私がデザインしたと知ると、アンジェリーヌ・ジョスリーヌ姉妹からは、とんでもないお誘いを受けた。
ゲゲゲ...
金貨2000枚って、今の給料の2倍、3000枚なら今の4倍じゃないの?
すっごく魅力的な勧誘だけど...
公務員の安定した給料の方がいいのよね。
丁重に断ったわ。
ミタン王国出身の二人の王妃さまは、かなりガッカリしていた。
「じゃ、じゃあ、素敵な鬼人族国の将校さまと、うら若きフェリノディオ族の女子爵という、お似合いの男女ふたり連れにみんなが注目していると言うことにしておきましょう」
「ははは。その方がいいですね...」
私とブリュストン伯爵さまは手をつないでおり、誰から見ても恋人同士にしか見えないだろう。
ん?
何だか、伯爵さまの歯切れが悪い。
真昼の日差しが暑いので、日陰のある林の方に向かう。
城を囲むような形で作られている庭園は、この城が長年マビンハミアン帝国皇帝の居城だったこともあって、かなり大きな木があちこちに残っており、庭園の三分の一ほどは林になっている。
魔王さまは、城や庭園の保持にかなり気を配っており、そのため庭園はよく手入れされている。
後ろをちらっと見ると、護衛のリンド君が20メートルほど後ろをつまらなそうについて来ていた。
林の手前でリンド君に「その辺で待っていてちょうだい」と命じた。
人目を引きにくい林の中では、どんな“親密な事”が起こるかわからないので、林の外で待つように命じたのだ。
仮にもここは魔王城。警護の親衛隊もいるし、監視塔からも怪しい者の侵入がないかを常に見張っている。それに、私の同伴者はテルースの世界でも名だたる鬼人族の将校だ。万が一にも誰かに襲われる心配はない。
手を繋いで林の中に入るとやはり涼しい。
先ほどから黙ったままの伯爵さま。たぶん、暑い日差しのところから涼しい林に入ったので涼を感じてほっとされているのだろうと思っていた。
いや、正直言うと、伯爵さまが黙っているのを幸いと、私はダユーネフ国に帰られたドゥモレ男爵さまのことを考えていた。
魔王さまは、ドゥモレ男爵は大臣政務官に任命されたので魔王国にはもうもどって来ないと私に言われた。ダユーネフ国駐在魔王国公館からの連絡だと言っていた。
まさか魔王さまが、私をからかって言った冗談ではないだろう。
魔王さまは冗談など言わない人だ。時たま私に意地悪をされることがあるが、それは、私が意地悪をされても魔王さまを決して憎まないと知っているからだ。
たかが子どもっぽいとも見える魔王さまの意地悪に、私は本気で怒ることなどない。
魔王さまの私に対する意地悪は、男の子が好きな女の子の注意を引こうと意地悪をするのに似ている。
私を魔王さまにふり向かせようと意地悪をするのだと考えていた。
私は子爵であっても、私的なことでマデンキを使ってドゥモレ男爵の事を問い合わせるわけにはいかない。
個人的な手紙を出しても、書簡の往復で40日はかかる。それでも、魔王さまから男爵さまのことを聞いてからすぐに手紙を出した。
男爵さまは、12月の初めに年末年始をダユーネフ国で過ごすために帰国された。
旅立つ前日、私たちはほぼ一日中愛し合った。ドゥモレ男爵と最後に愛し合ったあとで私は泣いた。
なぜだかわからないけど、涙が止まらなかった。
「最後はそんなによかったですか?」
さすがに、少しふーふーと息をしながら、男爵さまは冗談っぽく言った。
「次にドゥモレ男爵さまに合えるのは、2月になるかと思うと...」
「...... アリシア。わたくしと結婚しませんか?」
「結婚!?」
「わたくしとアリシアは、すごく合うと思うんです。おたがい近い種族ですし、体の相性も抜群です。あなたの言語能力と賢さと美貌があれば、ダユーネフ国でも一級の貴族になれるでしょうし、魔王さまに願い出てダユーネフ国の駐在文官として務めることも難しくないでしょう」
たしかに私の頭脳と美貌でもってすれば、それらのことはいとも簡単にできるだろう。
男前で容貌の美しい男爵さまと結婚して、気候の温暖なダユーネフ国で幸せに暮らす。
結婚して2年後くらいには子どもを産んで、その後、2、3年越しに子どもを3~4人ほど作り、素敵な夫とかわいい子どもたちに囲まれて暮らす...
女性として、これほどの幸せはあるだろうか?
誰もが望む幸福な生活で、お母さまもマイテさまもモナさまも大賛成されるだろうし、プリシルさまもアイフィさまもよろこんでくださるだろう。
ただ、魔王さまは、いい顔をされないだろうし、アマンダさまも快く思わなれないだろう。
彼女は、魔王妃さまたちの中で、もっとも“魔王さま一筋”という思いの強い方だ。
あらゆることで魔王さまの利益を最優先される方なのだ。
そして...
私も男爵さまから求婚されたことにとてつもない喜びを感じながらも、心の中では―
“結婚って... 私はまだ15歳よ? まだまだしたいことはたくさんあるし、外交官としても大きく成長したい。男だって、魔王さまと男爵さまだけしか知らないし。
大体、16歳とか17歳で子どもを産みはじめて、20代前半で子どもを産み終わってからどうするのよ?
その他大勢の貴族夫人みたいに、流行の服や装飾品で着飾って、噂話や誰かれの浮気話をして一生を過ごすの?そんなのイヤ、絶対にイヤ!”
「考えさせて...」
腕をドゥモレ男爵さまの首に巻きつけながら、そっとチューをして...
その時は、それだけしか言えなかった。
「アリシアはまだ若いですからね」
私の心の中を読んだようなことを言って、男爵は去って行った。
あの日、男爵さまに一日中抱かれ、
それからエタナールマスの晩に魔王さまに抱かれた。
以来、オトコ日照りが続いている。
もうすぐ排卵期なので、よけいに男が欲しくなる。
魔王さま、今日あたりお部屋に誘ってくれないかしら...
なんて、トンデモナイことを考えていたら、
「アリシア子爵さま。今、何を考えているのですか?」
唐突にブリュストン伯爵さまに話しかけられてビックリした。
「え? ちょっとぼーっとしていました」
ドギマギしながら答える。
脇の下に汗が流れるのを感じる。
「そうですか...」
「何か... フギュっ!?」
突然、太い腕で抱きしめられチューをされた。
「ふむぐぐ...」
低く唸り声を出しながらも、久しぶりのキスを堪能する。
ブリュストン伯爵さまは、チューを続けながら、私の胸を触って来た。
むむっ。今日の伯爵さま、何だかいつもより積極的!?
いや、これ、揉んでいるよ?
私のオッパイを揉んでいるよ?
しっかりと私のオッパイの感触を感じながら揉んでいるよ?
ブリュストン伯爵さま、チューを続けながら、ひょいと私を抱き上げた。
えっ? これから、どうする気?
このまま、あの茂みの中に連れこんで、白昼堂々とアオカンするの?
林の中の開けたところに小さな池があり、その周りにツゲの茂みがあるのが見えた。
はたして伯爵さまは、周りを見て誰もいないのを確認すると、ツゲの茂みの中に入って行った。
ツゲの木の間にあるやわらかい草叢の上に私を横たえ、上に覆いかぶさる格好になった。
伯爵さまはキスを続け、胸を揉み続けた。片手はドレスの中に入り、私の足をなでている。
これは、どうやら最後の一線を超えるつもりね?...
「ア、アリシア... 愛している」
そう言いながら、ドレスを脱がし、かなり手こずってからビスチェを脱がした。
ビスチェは、体の線をすっきりと魅せてくれるから好きなので、ドレスを着る時によく着る。
フレアパンティ一枚になった私は、もう恥ずかしくて死にそうだった。
「恥ずかしい...」
伯爵さまは、それほど大きくもないオッパイを必死(っぽく?)に両手で覆って、恥ずかしさにもだえている(演技をしている)乙女の声はまったく耳に入らないらしく、パッパと自分の服を脱いでいる。
全部脱ぐのに30秒もかからなかったんじゃないかしら?
「いいかい?」
あのぅ... 乙女をおパンティ一枚になるまで剥いておいて、
“いいかい?”はないでしょう?
男なら、早くヤっちゃいなさいよ!
とも言えず、恥ずかし気に横を向いてコクンと頷いた。
(これこれ。この仕草が男を獰猛にさせるんだよね?)
ブリュストン伯爵さまは、フレアパンティを破けんばかりに引っ張って脱がすと―
ドーンと上に乗っかって来た。
ぐえっ!
重いです、伯爵さま!
しかし、すぐに私の両足を開き、思いのたけをぶっつけて来た。
むむっ...
おぬしのモチモノ、中々のモノであるな?
ま、これは冗談だけど、体格が体格だけに、伯爵さまのモノはさすがの大きさだった。
げげっ。
まるでインランの言葉じゃん、これ?
そんな理性的な言葉と裏腹に、私の体は久しぶりの男に反応していた。
「アリシア、好きだ。好きだ。愛している、愛している チュ~~~ウ」
伯爵さまは、うわ言のように“好きだ”“愛している”をくり返しながらキスをし、体を動かし続けた。
数分後、伯爵さまは終わった。
だから、これは1回目だって。
そのあとで、もう1回あったのよ。
正直言うと、2回だけでは、ちょっと足りない感じ(汗)。
魔王さまとは、私の腰が抜けそうになるくらいするからね。
まあ、魔王さまはアノ方は超人的だから、比べるのはかわいそうだ。
伯爵さまは、排卵期前の私の渇望を満たしてくれたのだから
よしとしよう。
結局、30分ほど愛し合って―
そのあとで私は池で下を洗ってから服を着て、服を着終わった伯爵さまと仲良く歩いて林を出た。
林に入る時は手をつないでいたけれど、出て来る時は腰に手を回していた。
これ、誰が見ても“もう肉体関係のある男女ね”ってわかるんじゃない?
まあいいや。どうせ私とブリュストン伯爵さまとは“恋人同士”ということで公認されているんだから。
林から出ると、護衛のリンド君の姿が見えなかった。
待ちくたびれて、どこかへ言ったのだろうか?
と思っていたら、ちょっと離れたところから出て来た。
林の中でオシッコでもしていたのだろう。
「アリシア」
「はい」
もう、“アリシア子爵さま”でも、“アリシアさま”でもなく、“アリシア”と呼び捨てだ。
「私たち、婚約しませんか?」
来た!
ドゥモレ男爵さまに続いて、今度はブリュストン伯爵さまから求婚だよ?
私って本当にモテ期なんだ。
美男鬼人伯爵さまから求婚されたってお母さまが知ったら、泣いてよろこぶかも?
「結婚とか、婚約とか、まだ私には...まだ早すぎると思うんです」
こんな時、相手に希望を持たせるようなことは言ってはならない。
「え...でも、婚約したからって、すぐに結婚する必要はないんですよ?それに、結婚しても...」
このあとの話は、ドゥモレ男爵さまとあまり変わりない内容だった。
鬼人族国では、モモコ大王の親戚の公爵夫人として問題なく暮らして行けること。
魔王国国民のままでいる気なら、鬼人族国の文官として務めればいい、子どもは最低5人は欲しい。
あれ、これはドゥモレ男爵さまより一人多いわ?
「絶対に幸せにしてあげます!」
ご提案はありがたいけど、今後10年間は結婚など考えたくないことをキッパリと伝えた。
伯爵さまは、かなりガッカリしていたけど...
「でも、恋人としての関係はこれからも続けましょう。チュッ!」
そう言って、キスをしてあげたら、とたんに相好を崩して、熱烈的なキスを返された。
伯爵さま...
リンド君が睨むような目で見ているんですけど?
それはそうと、あとで忘れないでヒニンヤクを飲んでおかないと…
15歳で妊娠・出産なんてことになったら
私の人生計画、おじゃんだよ。
お母さまはよろこばれるだろうけど(汗)。
久しぶりの恋人とのデート。
微笑ましいデートになるかと思いきや...
今までの欲求不満が爆発したような行為にまで発展しました。
まあ、アリシア子爵は“触れなば落ちん”みたいな状態でしたし、ブリュストン伯爵も若いので、お酒の勢いでこうなったことにしておきましょう(汗)。




