第50章 アリシア子爵とエタナールマス(前編)
テルース歴5065年が開けた。
魔王城では、毎年、年が明けると新年祝賀会が行われるそうだ。
イヴォール城に住んでいた頃は、城ではそれほど大きな祝いはしなかったけど、仲良し三人組によると、毎年、魔王城では初日は魔王さまと身内による祝賀会、二日目は魔王さまと親族による祝賀会、そして三日目は魔王さまと政府高官ならび将軍たちとの祝賀会があるそうだ。
さらに、一週間後から十日後までは、魔王国の全貴族を集めた盛大な大祝賀会があるのだとか...
“魔王さまって、どれだけ新年が好きなのよ?”
って思ってしまった。だけど、魔王さまの身内-つまりご家族は、長年、そんな習慣の中に暮らして来たからか、全然おかしいなんて考えてないみたい。
連邦管理局の方の仕事は、12月の24日から年末年始休暇に入ったので、同じく休暇に入ったお母さまとビア、それにマイテさまやモナさまたちと年末年始の飾りが美しく飾りつけられた魔都の街歩きを楽しんだりした。
え?ドゥモレ男爵さまは、どうしたのかって?
男爵さまは、年末年始の休暇でお国へ帰ってしまいました(涙)。
もどって来られるのは、たぶん1月の半ば以降-
それまで、朝の練習はリンド君が相手をしてくれます。
そのリンド君、男爵さまが帰郷すると聞いてから、すごく機嫌がよくなり、またやさしくなった?
街歩きをする時も当然ついて来て、通行人が私にぶっつからないように気をつけたり、お店に入る時はドアを開けてくれたり、レストランで座る時は椅子を引いてくれたりと...
まるで18歳の男爵さまみたい(汗)。
それに、毎朝の練習もすごくやさしくなって-
「あまり、無理しない方がいいですよ」
「そうそう。とても上手になりましたね!」
「木剣を持つ恰好、すごく決まっていますよ!」
とベタ褒め。
う~む...
やっぱり、リンド君、男爵さまに嫉妬をしていたんだね(汗)。
それだけ、私を好きってことよね?
まあ、私は自他ともに認めるネコ耳美女子爵だからね。
それにしても、魔都って不思議。
11月の終わり頃から、魔都は『エタナールマス』とみんなが呼ぶ、奇妙なお祭りの時期に入る。
魔都では、通りにある街路樹には、ピカピカの飾りや赤いドレスに赤いトンガリ帽をかぶったエタナールさま人形が飾られたり、雪に見立てた綿が乗せられたりして、魔都のお店は、すべて小さな電球でいっぱい飾られたり、緑の松の枝で飾られたりと、ふだんとはまったく違った華やかさでいっぱいになる。
電気は、魔王国がもっとも普及に力を入れている事業のひとつで、魔都および近郊は100パーセント電力が普及しており、現在は距離が遠い町でも発電所が次々に建設されているとか。
何でも、川があるところは水車みたいなのを回して電気を生み出す水力発電とか言うのをやっていて、川のないところは、例のソントンプ研究所が開発したという魔法陣を使った発電機なんかで電力を作っているんだって。
その魔法陣は、火属性魔法で水を沸騰させ、それで大きな羽根車を回して電気を作るんだって。火属性魔法を生み出す魔法陣は、すごく大きいもので直径が100メートルもあるので、一つ作るのに半年ほどかかるって、工業大臣もやっているゲラルドさんから聞いたことがある。
だから、地方の町の電化計画は思ったように進んでいないんだとか。
なので、現在は風の力を利用した発電所とか、太陽の光を電気に変える発電所とかもソントンプ研究所で開発が進められているらしい。
テルースの世界地図
それはそうと、元ブレストピア国でも、元はマビハミアンという国であったここ(現在は魔王国)でも『エタナールマス』なんて言う、エタナールさまをお祝いする祝日なんてなかった。
だいたい“マス”って何よ?
マイレィちゃんに夕食のあとの団らんの時に聞いたら「お祈りのことよ」と言ったけど、エリゼッテちゃんは「お祭りのことだよ!」って言うし、エイルファちゃんは、「一年間、無事で過ごすことが出来たことへの感謝よ」と言う。みんな言っていること違うし。
エタナールさまに感謝し、お祈りを捧げる日は毎週第七曜日で、午前中に魔王城の大ホールで行われていて、お母さまたちは、魔王城の大ホールでアイフィさまの主宰で行われる礼拝に参加しているけど、私は忙しいので(?)、参加していない。
でも、エタナールさまへの信仰心はあるよ?
大聖堂にも一ヶ月に一度、お給料をもらったらすぐに寄付をしているし- ほとんど行く暇がないので、ゼニアさんまかせだけど- 年末には奮発して金貨2枚も寄付したし。エッヘン!
え?少ない?
いや、私もいろいろ将来のことを考えないといけないしね。
将来の結婚資金とか、わが家購入資金とか、子ども教育資金とか…
いろいろあるのよね。
ま、それはいいけど、この『エタナールマス』って言う祝日、それはそれでいいんだけど―
この時期、魔王国では贈り物をおたがいに交換するという習慣があるの。
これが、またけっこうお金がかかるのよね。
子爵だから、あまり安い物を贈るわけには行かないし、お世話になっている人は、魔王さまや魔王妃さま、その他の王妃さまだけで20人(汗)。
それに、王妃さまたちの子どもにもあげなきゃならないし、うちの家族だけでも、お父さま(やはり、娘だからあげないとね)、お母さま、ビア、マイテさま、モナさま、ジオン君、キアラちゃん、ルナレイラお義姉さま、それにカリブと5人の妻たちと彼女たちのご両親とかかなりいるし、
メイドのゼニアさんに護衛のリンド君...
ひええええええ―――!
ざっと計算しただけで、金貨50枚くらいかかりそう(ゾーッ)!
これでカリブに子どもが生まれたら、甥や姪が一挙に5人増えることになる(汗)。
道理で、子爵には年末に特別給与があるはずだよ。
おまけに、この『エタナールマス』の贈り物、親しい者の間では“秘密のお友だち”とかいう奇妙なことをやって贈り物をおたがいに贈るらしい。これは、籤で決まった自分の“秘密のお友だち”に、自分の正体は絶対に明かさずに、『エタナールマス』当日までの期間、その“秘密のお友だち”に手紙などを贈るの。
「趣味はどんなことですか?」とか「好きな色は?」とかね。
そうやって、“秘密のお友だち”の好きそうな贈り物などを“推定”して―
そして、『エタナールマス』当日に、テーブルに詰まれた贈り物の山を前に、“秘密のお友だち”に参加している全員が集まり、担当の者が名前を呼ぶの。
呼ばれた者は、自分の名前が書いてある贈り物を贈り物の山の中から取り上げて、包みを開いて何が入っているか見る。
そして贈り主が誰かを当てるの。これが、なかなか当たらなかったり、すぐにわかって当てたり、結果はさまざまだけど、これがけっこう皆ドキドキしながら楽しめるのよね。
それで、『エタナールマス』の昼食時に、“秘密のお友だち”を家(魔宮殿の私たちの部屋)でやって、そのあとでご馳走食べたり、葡萄酒飲んだりして楽しく過ごしたんだけど...
夜には、何と魔王さま主催の“秘密のお友だち”に参加することになっていた。
それで... 誰を私が籤で引き当てたかと言うと...
ゲゲゲの10乗、何と魔王さまだった(滝汗)。
魔王さまには、たくさんと言うか、すごくお世話になっているしね。
世界から忘れられてしまったようなヤーダマーの塔から魔王城に連れて来てもらったし、
私と家族(お母さまやビア、それにマイテさま、モナさまの家族)を大事にしてくださっているし
お父さまも大事にしてくださっているし(若いメイドを送って、お母さまたちを離婚させちゃったけどね...)
私を子爵にしてくださったし
カリブを厳罰に処さないでうまく判決してくださったし
私をオンナにしてくれたし(汗)。
ま、最後のこれは、恨んではないよ?
どっちみち、いつかは失くすものでしょ?
そんなわけで、見方を変えると、実の親より面倒見てもらっている感じなの。
いや、お父さまとお母さまに恩を感じていないというわけではなく、私が二人の娘として美しいネコ耳美少女に生まれていなかったら、こんな境遇にはなれなかったと思うし、その意味では両親にはいくら感謝してもしきれいない。
だけど、私に“新しい生き方”を示してくれたのが魔王さまなの。
私に秘められていた能力や素質を解放し、伸ばす機会をあたえてくれたのが魔王さま。
だから、“秘密のお友だち”の贈り物を“何にするか”ですごく悩んだ。
出来ることであれば、“もう一度、処女になって”抱いてもらってもよかったんだけど”...
いや~、こればかりは無理だから(汗)。
いっそ、また(二回目)抱かれちゃうか?
スッポンポンになって、可愛いリボンを体に巻いて、
『私が『エタナールマス』の贈り物です。どうぞ♪』とかカードに書いて...
あーっ、これはダメね。
魔王さまに可愛いリボンを付けたムチで打たれそう(汗)。
四苦八苦して悩んだ末―
ダユーネフ国へ帰国することになったドゥモレ男爵さまにあるお願いをした。
“秘密のお友だち会”は、魔宮殿の一階にある礼拝室兼広間で行われた。
魔王さまの“身内”だけが使う礼拝室兼広間で、せいぜい100人ほどしか入らない。
私も、ここには数えるほどしか来たことがないけど、名前の通り、身内だけが参加する日曜のお祈りとか、身内だけが集まる会などをやるための広間だそう。
何事も派手に祝うのが好きな魔王さまは、王妃さまたちやルファエル君、マイレィちゃんたちなど王子、王女の誕生会などは、すべて大ホールで千人ほど集めてやるので、この広間は礼拝以外にはほとんど使われてないらしい。
“秘密のお友だち会”には、お母さまたちも魔王さまの“妻”で“身内”なので、美しく着飾って参加した。マイテさま、お母さま、それにモナさまは王妃ではない。あくまでも魔王さまの妻という地位に留まることを望んだからなの。
「魔王さまの王妃は、すでにルナレイラがいます」
マイテさまの言葉に、みんな頷いた。
母娘で同じ王(魔王さま)の王妃なんて...
誰が見てもおかしいからね。
まあ、マイテさまとルナレイラお義姉さまは、すでに“親子丼”なんだけど、それはそれで置いとくとして- これは、私たち母娘の問題ではないんだし。
えっ、私とお母さまも親子丼だろうって?
いやいや、私は一度しか抱かれてないから、親子丼じゃないよ!
私は、ふだんの男装ではなく、美しいミニドレスを着て参加することにしたわ。
やや紫がかったピンクのひざ上15センチという、私の美脚をたっぷり見せつけるミニドレスで、大きく開いた胸元とスカートの部分に、ピンク、紫、水色の造花のバラがあしられており、すごく人目を引く特注ドレスよ。
「なんとまあお美しい...」
ゼニアさんは、しばらく姿見の前で、お出かけ準備が整った私を見て、しばらく見惚れるほどだったし、応接室で待っていたリンド君にいたっては...
口を開けてぼけーっと5分ほど私を見つめていた。
いや、5分というのは大げさだけど、30秒は見ていたわね、うん。
もちろん、ちょっとかがんだりするとオシリが丸見えになるので、
上からひざ下まである白のコートを着て出かけたわ。
魔王、前世での生活がなつかしいのか、いろいろとテルース人にとっては、“奇妙な習慣や食事を魔王国にもたらしています(汗)。




