第5章 魔王の都
魔王さまの使者イクゼルさまをヤーダマーの塔に迎えて話し合った結果は―
ゲネンドルお父さまとマイテさまは、ヤーダマーの塔に住み続けることになった。
魔王さまは、お父さまが私たちといっしょに魔王城に住んでも問題ないと考えていたらしい。
だけど、お父さまは、「私が魔王城に住むことになれば、元ブレストピア国の貴族たちがブレストピア国を再興しようなどと言い出すかも知れないので、出来るだけ人目につかず穏便に暮らしたい」
と魔王さまの使者だったイクゼルさまにお伝えした。
それを聞いた魔王さまが、「そう望むのなら、そうすればよい」とお認めになって一件落着。
ルナレイラお義姉さまの母親であるマイテさまもお父さまの考えに同意したそう。
魔王城-
魔王城は、元マビンハミアン国の皇帝の城だったのを魔王さまが自分の城とされたお城。
以前はアンドゥインオスト城と呼ばれていたこの城は、前に私たちが住んでいたイヴォール城から馬車で50日ほどかかる、けっこう遠いところにある。
魔王城で暮らすことになった私たちと侍女のマルカは、イクゼルさまとエイルファちゃんといっしょに立派な王室専用馬車に乗って旅行することになった。
私はまだ14歳、妹も12歳なのでやはりお母さまが近くにいないとダメだし、モナさまの息子のジオンは8歳、娘のキアラはまだ4歳の幼児なので、これも母親なしでは完全にダメだしね。
でも、モナさまはまだ26歳と若いだけあって、何だか魔王城で暮らしたがっていたみたいだったので、今回正式に魔王城に住みことが決まったと聞いて目を輝かせたわ。
「ちょっとお手洗いに行って来ます」
モナさまは、そう言って席を外した。
私がお代わりのお茶をマルカに頼むために階段を下りていたら、モナさま、トイレの前で飛び跳ねていたわ。ええ!
モナさまって若いせいか、それとも性格的なのか知らないけど、気持ちを正直に態度で表すのよよね。それに、彼女は、ラビットディオ族なので飛び跳ねるのはとても得意なの。
あ、そうそう。
プリシルさまは、魔王さまの第二魔王妃なのだけどとても優しい方だって知った。
アマンダさまとは大違い... あ、これはあまり書かない方がいいわね。もし、アマンダさまが私の部屋の強制捜索をされ、この日記が見つけられでもしようものなら... 即刻首をはねられかねないわ(冷や汗)。
いよいよ出発の時間になって、私やビアは心ウキウキだったけど、お母さまとキアラちゃんを抱っこしたモナさまは、塔の前にいるお父さまとマイテさまを何度もふり返って手を振り、涙ぐんでいた。
ルナレイラお義姉さまはお父さまとマイテさまを抱擁して別れを告げてから、少し緊張した顔で馬車に向かい、カリブとジオン君は誰が先に馬車に乗りこめるか競争して...
って、カリブ、あなた何歳よ? 自分の半分しかない年の子と駈けっこ競争なんかしちゃって!
感涙極まる感激的なお別れシーンのあとで馬車に乗ったんだけど、この馬車っていうのが、イクゼルさまたちが乗って来た普通の馬車の倍以上の大きさで、車輪六つもがついたの馬車なの。
私たちは、出発するまでその馬車に乗ったことはなかったんだけど、中はすっごく広くて内装も豪華なの。四人は座れるフカフカした椅子が四列あって、何と私たち全員がイクゼルさまとエイルファちゃんといっしょに楽に快適に馬車で旅をすることができるのよ!
あとの4台の馬車には、魔王さまからルナレイラお義姉さまへ贈られたの“結納”の品々や私たちへのお土産などが積まれていて、また魔王城へ持って帰ることになっていたわ。
当然、魔王さまから、お父さまとマイテさまへのお土産などは降ろしたんだけどね。
持って来た品物をまた持って帰るなんて...
バカみたいだけど、結納って、ルナレイラお義姉さまを妻として迎える“夫・魔王”としての権威と偉大さと財力を示す目的である結納の品々と、その家族への贈り物なので、その結納と贈り物をもらったルナレイラお義姉さまや私たちが魔王城に行くことになるので、持って帰るのは当然なんだけどね...
お父さまやマイテさまたちが手を振って別れを惜しんでいるのが見えなくなり、私たちが遠くへ行ってしまうと知った村人たちが手を振っている村を通り過ぎ、深い森の中の道に入ったと思ったら...
突然、黄金の波がうねる大海の真っただ中に出たの!
大海ってのは、ほら、詩的な表現で...
ほら、私はロマンティックな思春期の少女でしょ?
こういう表現が出来るということを...
あー、面倒くさい。
つまりね、収穫間際の黄金色の穂が、吹き抜ける風で波のように揺れるトリゴ麦畑だかアベナ麦畑だかわからない畑が見渡す限り続く景色がある場所に出たの。
もちろん麦畑のど真ん中に馬車が出現したわけではなく、その広大な麦畑の中を通る道に馬車が出たってこと。そんなこと、説明しなくてもわかるわよね?
「え... ここどこ?」
「森が消えちゃった!」
「いつの間に?」
「森に入ったばかりなのに?」
「おどろくことはないわ。これはドコデモボードと言う魔法陣を使った移動なの。ほら、あそこに魔都が見えるでしょう?」
みんなが、驚いて窓から見たこともない風景を見ているとイクゼルさまが平然と言って前方を指差した。
たしかに、馬車の前方の窓から城の尖塔らしいものが見える。
「こんなにたくさん実って!今が収穫期なのね...」
「魔王国の民は食べ物に困ることはなさそうですね」
お母さまとモナさまが、見渡す限り広がる畑を見ながら話していると
「これはトリゴ麦ですわ」
さすがマルカ。だてに農民出身じゃないわ。
「何年か前に、マビンハミアン国のアンドゥイン皇帝の甥か誰かの結婚式で来た時は、このあたりは、これほど畑はなかったわ... このあたりは、ただの草原だったのを覚えているわ」
「そうですか。魔王国って、思っていたよりも豊かな国なんですね」
お母さまとモナさまがお話をしている。
「お姉ちゃん、重いっ!」
知らずに窓際に座っていたビアの上に乗っかって目を丸くして景色を見ていた私。
急いで自分の場所にもどったけど、ルナレイラお義姉さまも可愛らしい口を少し開けておどろいていたわ。
あ~あ、その可愛らしい口も、もう少ししたらあの美形の魔王さまのモノになるのね…
そんなことを思いながら、知らず知らずのうちに自分のぷっくらした唇を指先でなでていたら…
ビアから「お姉ちゃん、それなに? 気味悪っ」って言われた(汗)。
ほざくな、妹め!
魔都の近くには大きな川が流れていて、水車とかもあっちこっちにあって子どもたちが川遊びをしてたりして、いかにも平和って感じ。戦争はまだ続いているっていうのにね。
魔都に近づくにつれて、魔都を敵から守る高い城壁が見えたんだけど、その城壁がまた延々... と続いていて、魔都の大きさが想像できる。
城壁の規模を見ただけでも、イヴォールなんか比べもののならないくらい大きな規模の都市だってことは子どもでもわかるわ。
魔都の家並みは城壁の外にも広がっていて平屋建てや二階建ての家がたくさんあって、門前市みたいなものも開かれていて、けっこうな賑わっている。
魔都は元マビハミアン国の帝都だった都で、マビハミアン国は獣人族国だったためもあってか、エレファンニディオ族とかヒポポタニディオ族、エキュスニディオ族、オックスニディオ族などの大型獣人や、セルヴィニディオ族、ウルフニディオ、タイガニディオ、パンサニディオ族などの中型獣人、カニスディオ族、私たちと同族のフェリノディオ族、モナさまと同族のラビットニディオ族など、私たちと同じような獣人なんかがウジャウジャ歩き回っていて、中にはエルフとか鬼人族とかドワーフなどもちらほら見える。
市民たちは、ガバロス親衛隊に護衛された私たちの馬車が通ると、大人は頭を下げたり、手をふったりして、子どもたちは魔王旗を翻して走る馬車といっしょに走ったりしていた。
魔王さまって、かなり市民から好感をもたれているみたい。
馬車が城門に近づいて行くと塔の警備員だか監視員だかが、馬車隊が近づくのを見たのだろう、城門から数十騎の騎兵たちが走って来た。
うむ。魔王さまの婚約者であるルナレイラお義姉さま一行と“私”を出迎えに来たのね?
ご苦労、ご苦労!褒めてつかわすぞ。
「センチュリオン・グシッケン殿、お役目ご苦労さまでした!」
出迎えに来た強面のガバロス族騎士の中の隊長みたいな人が、馬車の護衛隊の隊長さんに敬礼をしてた。
「おう、 ズドッケンか。出迎えご苦労。無事に任務を果たすことが出来た!」
そのまま馬車隊は城門の検閲も受けずに― まあ、魔王さまの使者が乗っているんだから、検閲なしなのは当然なんだけど― 魔都に入った。
魔都は...
すごく活気のある都だった!
先ほど、お母さまとモナさまが言っていた言葉を実感できたわ。
城門の外にもすでに街並みが広がっていて人通りも多く、かなり活気を感じられたんけれど、城門から中に入ると様子は一変して、4階建て、5階建ての瀟洒で立派な建物がずらりと広い道の両側に並んでいた。
通りに面したお店は、どのお店もガラス張りの大きな見せ窓があって、そこには色々な商品が飾ってあって、幅広い歩道には緑の街路樹が植えられていて、そこをエルフ、獣人、鬼人などがゾロゾロと歩いている。
それらは恋人同士だったり、子ども連れの親子だったり、お店を覗いていたり、楽し気におしゃべりしたり、肩を組んだり、腕をからめて歩いたりしていた。
ブレストピアの王都であったイヴォールの城下町でさえこんなに活気はなかったし、街並みこれほども立派じゃなかったし、人も多くなかったわ。
魔都の人たちは全然ふつうに平和的に暮らして庶民の生活を享受しているようだし、何だか私まで魔都で暮らすのが楽しくなっちゃいそう。
「この町は、以前はマビンハミアン帝国の都でアンドゥインオストと呼ばれていましたけど、魔王さまが魔都と改名して治めるようになってから、この町は目覚ましい発展を遂げたのですよ。ここに私たちが住みはじめた頃は町もこれほど賑わってなくて...」
イクゼルさまが、昔を少し懐かしむような目つきで賑わいを見ながら話してくれた。
魔都がアンドゥインオストと呼ばれていた頃、町の住民はせいぜい10万人くらいだったのだとか。
それが、魔王がこの町を魔都と定め、魔王国の経済の中心地として経済を発展させる政策を実施すると同時に魔都を商業の中心地とすべく、都市計画を作成したのだとか。
それには、聞いた時はちょっと信じられなかったけど、あのアマンダさまとプリシルさまが魔都建設の基本計画を作られたんですって!
アマンダさまとプリシルさまが考案された都市開発計画にしたがって、古い街並みは取り壊され、幅広い道がいくつも作られ、街路樹のある洒落た歩道も作られた。
新たに4階、5階建ての建物が次々に建てられ、広場が作られ、緑豊かで池のある公園もいくつも作られ、もはやこの町がマビハミアン国の帝都だった頃の面影はすべてなくなってしまったんですって。
市民たちは、魔王さまが新しく建てられる建物に優先的に住む権利を保証され、商人たちには商店街の区画整理が終わるまで保証金が払われ、商店街が完成すると以前の店舗の広さに応じた面積の店舗があたえられ、商売拡大を望む商人には、より大きい面積の店舗が格安の値段で貸し出されたんだって。
「以前の古い街は新しい都市として生まれ変わり、魔王さまの経済振興政策もあって働き口は増え、それにしたがって人口は急増し、お金の流通も飛躍的に良くなりましたの。あ、これは主人が教えてくれた事ですわ。おかげで景気はよくて、金回りもいいから、市民もとても満足しているんです」
イクゼルさまの説明はよく理解できたわ。
唯一、マビンハミアン帝国時代の面影を残しているのがアンドゥインオスト城だけど、これも魔王城となってからは、新たに10階建ての宮殿が建てられるなど大改修が行われ、かなり変わってしまったってイクゼルさまが言っていた。
そして、今や魔都の人口は50万を超し、テルースの世界でも有数の大都市になったのだとか。
魔王さまって、私たちが考えているよりもスゴイのかも?
「ほら、あのお店で、あたしの服とアリシアちゃんとビアちゃんの服を買ったのよ!」
「あのお店のシャーベット、若い娘たちにとっても人気なの!」
「ほら、あの喫茶店で女の子が一人でお茶を飲んでいると、かならず男の子から声をかけられるのよ!」
「あのレストランのピザがとてもおいしいの!」
イクゼルさまが、魔都の発展のお話をお母さまとモナさまにしている間、エイルファちゃんの魔都ガイドが、ますます熱をあげていたわ。
“えっ、シャーベットって何? ピザって何よ? 甘いお菓子? それとも知らない果物?”
ルナレイラお義姉さまも、街並みを見ているふりをしていっしょうけんめいに聞き耳を立てているのがわかったわ。
うふふ。エルフって、長い耳を興味ある音や会話の方に向けるからすぐわかるの。
熱心に魔都の情報を伝えてくれているエイルファちゃんもカリブに関心があるらしく、カリブとジオン君の会話を長い耳を時々そっちに向けて聴いているけど、カリブは女の子にかけてはオクテなのか、エイルファちゃんに全然興味ないみたい...
それともカリブって、こう、ルナレイラお義姉さまみたいに、おっぱいがぼーんと出ていて、腰がキュッと締まり、オシリがどーんと出ている女の子が好きなのかな?
カリブとルナレイラお義姉さまは姉弟だけど、カリブはよくルナレイラお義姉さまの胸とかオシリとか見ていたしね。
自分ではルナレイラお義姉さまには気づかれていないと思っているかも知れないけど、はたで見ているとよくわかった。
この歳くらいの男の子って、すっごく女の子に興味があるからね。うんうん。
私もよく... いや、たまに... 正直言うと残念ながら、あんまり男の子から見られた記憶はないけど、わかるよ。
塔のあたり、村に住む男の子しかいないし、私たちのことそんな目で見ていたら、警備兵さんたちに叱られるもんね。
それでも、ヤーダマーの塔にいる私たちに、畑で採れた作物や果物などを持って来てくれる農夫のお父さんやお母さんといっしょに来る村の男の子たちがいて
「ア、アリシアさま、おはようございます」
とか
「アリシアさま、今日の服ステキですね」
とか
「今日の髪型はすてきですね」
とか
顔を真っ赤にして恥ずかしそうに門の外から言っていたんだけど、
なぜか胸がキュンキュンとしちゃたの思い出すわ。
とにかくエイルファちゃん。カリブの関心を引きたければ、もっとオッパイを成長させなきゃね。
でも、エルフのエイルファちゃんは、はたしてどこまで男の子を惹きつけることの出来るオッパイに近づけるかどうかね...
オッパイの大きさは千差万別。私のお母さまはかなり立派なオッパイを持っているけど、果たして私もお母さま同様、立派なオッパイになるかって言うと...
これだけは大人になってみないとわからないのよね。
でも妹のビアは、ルナレイラお義姉さまと同じようにお父さまの方の血を強く引いたのか、まだ12歳なのに、すでに私くらいのオッパイがあるのよ?
これって... エタナールさまっ、少し不公平なんじゃない?