第39章 魔王、祝賀会に出席する
子爵の爵位を授かったことを記念して、家族と近しい人を招待して、ささやかな祝賀会を開くことにした。
以前の私なら、そんな面倒くさいことなんかしなかっただろうけど、晴れて子爵さまになったのだ。
そういう訳にはいかない。それに、もう子どもでもないし、立派な15歳のオトナで、もう処女でもない...(これは関係ないか 汗)ので。
お呼びしたのは、当然、魔王さまと魔王妃さまたち四人とルファエル君にマイレィちゃん。
それにルナレイラお義姉さま、アイフィさま、エイルファちゃん、リエル&エリゼッテ姉妹。そして家族であるモナさまにカリブ君、ジオン君にキアラちゃん。
うちの家族を入れると20人近くになったので、プリシルさまにお願いして、魔宮殿にたくさんある広間の一つをお借りすることにした。
その広間は、誕生会とか何やらの集まりなどになどよく使われる多目的広間だそうで、50人ほどの人数用でさまざまな用途に使えるように、少し大きめの台所やトイレも男女別にあって便利な作りになっている。
祝賀会の費用は、お母さまから借りることにした。
昨日、今日なったばかりの新米貴族さまは、まだ貧乏なのだ(汗)。
魔王さまたちをご招待するのだから、安っぽい祝賀会など開けるはずもない。
何やらかにやらで、費用が金貨5枚ほどかかった。
最初に給料を頂いたら、すぐ返すつもり。
祝賀会の時間となり、光栄にも魔王さまが王妃さまたちを従えて入って来られた。
「これは、魔王さまからのご祝儀です。こちらが、わたくしからのお祝い」
魔王さまに続いて部屋に入って来たアマンダさまが、金と銀の糸が帯のように奇妙な形で封筒に張り付けられている白い封筒と、赤と白の糸が同じように貼り付けられている小さめの封筒を私に手渡した。
「アリシアちゃん、おめでとうね。これはわたくしから」
「お祝いに招いてくれてありがとう!」
「アリシアちゃん、これはわたくしからのお祝い!」
プリシルさま、リリスさま、それにハウェンさまも、同じような赤と白の糸が貼り付けられている、小さめの封筒を私にくれた。
「これは... 何でしょうか? 子爵としての心構えなどが書かれた紙が入っているんですか?」
「あ、そうだったわね。あなたは、まだ知らないのよね? これは魔王城だけで行われている“お祝い”の時に渡すお金よ」
「お...お金?」
お金と言えば、まず金貨。
それから銀貨、銅貨となるが、いずれも金属で出来ていて重い。
だけど、頂いた封筒は軽く、中には何もはいってないみたいな感じだった。
少し怪訝そうな顔の私を見て―
「あ、中身は小切手よ。あなたの名義で銀行口座を開けておいたから、振り込むもよし、引き出して使うもよしよ」
「はあ... どうも...ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言った。
大きな金額を扱う商業取引とか、魔王国と同盟国間の貿易などで小切手が使われることは知ってはいたけど、私が銀行口座を持てる日が来るなど想像もしなかった。
「さあ、子爵授爵の祝賀会を楽しもうではないか!」
魔王さまの言葉に、私もお母さまもモナさまも、あわててテーブルに料理を運んだり、葡萄酒やジュースを運んだりしはじめた。ビアも手伝ってくれ、ルナレイラお義姉さまも手伝ってくれた。
「それでは、アリシアの子爵授爵を祝って乾杯!」
魔王さまが、そう言って葡萄酒のグラスを上げた時―
「おう、もう始まっておるか?」
「いや、これからのようですぞ?ガ―――ッハッハッハ!」
「どうも申し訳ありません。用意に暇取った方がいまして」
スティルヴィッシュ伯爵とバカ伯爵じゃない、ギャストン伯爵、それにペンナス伯爵夫妻が現れた。
ペンナス伯爵は謝っているが、着替えかお化粧だか知らないけど、遅れたのは ギャストン伯爵のせいだろう。
ペンナス伯爵は、美しいフロルフ夫人を伴って来てくれた。
そのあとからゲラルド侯爵さまが、イクゼルさまといっしょに入って来た。
「どうも申し訳ありません。夫爵が、アリシアさまのお祝いには是非行くと急に言い出しはじめまして」
イクゼルさまが平謝りだ。
「おう!みんな来たか?これで役者がそろったな。では、みんながグラスを持ったところで、乾杯!」
「「「「「「「「カンパ―――イ!」」」」」」」」
魔王さまの音頭で乾杯した。
「順序が逆になったが、これは儂からのお祝いだ!」
「これは私からのお祝いです」
「我が輩からのお祝いじゃ!」
「侯爵とわたくしからのお祝いです」
次々と封筒をもらった。
この習慣、ブレストピア王国ではなかったけど、魔王国ではふつうらしい。
祝賀会は、立ち食い式にした。
その方が、参加者が自由に会場内を歩いて好きな人とお話できるから。
それに、立ち食い式祝賀会とか誕生会とかは、ふつうに魔王城で行われているので、たとえ魔王さまやアマンダさまたちをお招きしてやっても問題ない。
たくさんの封筒をもらって茫然としていると、イクゼルさまが近寄って来ておっしゃった。
「装飾品とか服をいただくよりいいでしょ? 装飾品とか、あまりたくさん頂くと置く場所に困るし、服は頂いても、すべて自分の気にいるわけでもありませんしね!」
そりゃそうだ。お城に住んでいた頃なら、いくら物品を贈り物やお祝いにもらったとしても、しまって置く場所はいくらでもあったけど、魔宮殿の部屋住いでは、装飾品とかたくさんもらっても置き場所に困る。そんなことを考えていると、プリシルさまが葡萄酒のグラスを片手に近寄って来た。
「ふふふ。最初にヤーダマーの塔でアリシアちゃんを見た時は、野生な感じのする娘だなって思ったけど、まさか魔王国で最初の女性貴族になるなんてね!」
「え...? わ、私が... 野生ですか?」
「うん。あの時、トイレ行きますって言って、すごい早さで塔に駆けもどったじゃない? 魔王さまも私たちもあっけにとられて... あとで、“あのネコ耳は見どころがある。魔王と恐れられる私を前に平然とトイレに行くなど見上げた勇気だ”と感心しておられたのよ?」
“ぎゃああああああ!一生の不覚だった...
あの日、葡萄を食べすぎたのが、不幸の始まり...
でもなかったか。
えっ、“あのネコ耳は見どころがある”って魔王さまが言ったんですって?
そっと、魔王さまの方を見ると、お母さまやモナさまとお話をされていた魔王さまが、私の方を見た。
ゲっ、何て勘の鋭い魔王さま(汗)。
でも、そうか。それで私を魔王城へ連れて行くことにしたのか。
「まあ、貴族になったらなったで、いろいろと入り用があるから、お金はたくさんあった方がいいのよ。邸宅も必要だし、護衛とか従者とかメイドとかもいるし!」
「邸宅... え、護衛、従者、メイド?」
「当りまえでしょ? どこに貴族で護衛も従者もメイドもいない貴族がいるのよ?」
「ですけど...」
「それとも、あなたはアマンダみたいに剣の腕が立つの?」
「いえ、全然ダメです」
その時の話は、それだけになった。
プリシルさまも、祝賀会の席なのでそれ以上話さなかったみたい。
それほど高いものではないけど、心づくしの料理を食べてもらって、高くもない葡萄酒を飲んでもらった。私が、お母さまやモナさまに手伝ってもらって作ったのは、前に魔王さまとピクニックに行った時に作った軽食だ。
ゆで玉子を刻んで調味料を加えてパンの間にはさんだもの、豚モモ肉燻製の薄切りと葉野菜をパンにはさんだもの。それに酢漬けのペポノスと燻製ソーセージの輪切りをパンにはさんだものと言う三種類の軽食で魔王さまも気にいってくれたものだ。
もちろん、それだけでは足りないのでトマトとチーズのサラダとか、酸味の牛乳クレームをかけた蒸しトゥルッタとか、薄切り牛肉と魚肉に、エライアーオイルとレモン汁をベースにと塩胡椒で調味したたれをかけたものとか、バッカラウレの揚げ物なども用意した。
バッカラウレの揚げ物は、ブレストピアの代表的郷土料理で、塩漬けにして干したバッカラウレという魚を水でもどして料理するもので、細くほぐしたバッカラウレに、玉ネギ、極細に切ったイモを混ぜ、卵でとじたあとで油で揚げた料理で、ご飯のおかずによし、酒の肴によしと言う万能料理だ。
はたして、バッカラウレの揚げ物は大好評で、少し余分に作っていたのだけど、大飯食らいのギャストン伯爵やスティルヴィッシュ伯爵のために瞬く間になくなってしまった。
ペンナス伯爵もフロルフ夫人も食べたりなさそうな顔をしていたし、魔王さまやアマンダさまたちも、もっと食べたそうな顔をしていたので、モナさまがビアとともにダイニングルームの調理責任者にお願いして、急遽材料を調達してもらって追加でバッカラウレの揚げ物を大量に作ることになったが、おかげでみんな満足してくれた。
たらふく食べたあとは「食べすぎて太らないように、少し運動をしましょう!」とプリシルさまが言って、5人の楽団を呼んで(これはプリシルさまの経費だ)、にわかに小舞踏会となった。
祝賀会の途中でお母さまに手伝ってもらってドレスに着替えた私を、最初に踊りに誘ってくれたのは魔王さまだった。
魔王さまとは、いろいろとあった- ムチ打ちの刑を受け、その後遺症が残っていたり、私にとって最初の男だったりした- けど、恩はとても感じている。
私は、お母さまが、若かった頃に着られたという、黒いドレス- あのおパンティが見えそうなくらい短いやつじゃなくて、伝統的な、足首まである長さの袖なしドレスを着て踊っていた。
このドレスは、胸に金色の刺繍が施されていて、上品でありながら袖なしなので、私の白く艶めかしい腕をもろに見せれる、若く美しい私の魅力を十分に誇示できるファッションにドレスだ。
「そろそろ私の〇〇〇が恋しくなっているであろう?」
軽やかに踊りながら、剥き出しの私の腕をさすりつつ魔王さまが耳元に囁いた。
「いえ、恋しくなどありません!」
魔王さまが唐突に、あの大浴場でのコトを思い出させるような事を言ったので、私は真っ赤になってしまい、赤くになったのをヘンに勘ぐられないために慌てて否定した。
「そうか... それは残念だ...しかし、あの《ベーラ》は美味しかったぞ!」
私は、魔王さまの恋人ではないし、愛人でもないのだ。
あの夜、大浴場で起こったことは、私にとっては初めてお酒を飲んだようなものだ。
あの夜起こったようなことは、もう二度と起こらないだろう。
まあ、正式に魔王さまが私と結婚し、私を王妃とすると約束してくれるのなら、身体の関係はあってもいいけど... それは、今のところ、私の人生の目標には入ってない。
魔王城には、将来、魔王さまの妻になるという約束で来ている。だけど、魔王さまは絶対の権力を持ってはいるが嫌がる女性を無理やりに手籠めにしたり、愛妾にしたりしないと言うことはよく知っている。
それに、私にはブリュストン伯爵さまという恋人(なのかしら?)もいるし、ドゥモレ男爵さまも私に気があるみたいだし、早々と魔王さま一人に縛りつけられたくないと言う気持ちもあった。
なにせ、私は若いんだ。もっともっと、経験をしたいし、世の中の事を学びたいし、もっといろいろと男性も知りたいし、たくさん恋もしたい!
今夜も、男性陣全員と踊ることになった。
それも男性の人数が少ないので、全員と5、6回踊ることになった(汗)。
女性陣とも踊ったけど―
「あなた、本当に男にモテるのね?」とアマンダさまからは言われ、
「あなた、皇后さまの座も狙えるわよ?」とプリシルさまから言われ、
「アリシアさま、うちの主人がいつもあなたの事を褒めていましたけど、今日、その理由がよくわかりましたわ」とフロルフ夫人から言われ、
「夫が、アリシアさまは、大きな幸運の星の下に生まれた方だ。見ていなさい、彼女は大きく羽ばたくよ、と今日、言っていたんですよ」とイクゼルさまから言われた。
うーむ。女性陣を敵に回すとあとで怖い。
なるべく、媚を売っていると思われないようにしよう。
それには、やはり、今後も男装を主な服装にした方がいいな…
などと、六回目の踊りの際もあいかららず私の腕をさすり続ける魔王さまを見ながら思った。
祝賀会が終わり、魔王さまたちが帰った後で、私は部屋に残って後片付けをし終え、頂いたお祝いのお金を数えた。
祝儀は、魔王さまから金貨50枚の小切手。アマンダさまたちから、それぞれ金貨10枚ずつの小切手。
大臣たちからも10枚ずつの小切手。ゲラルド侯爵夫妻からは15枚分の小切手を頂いた。
そして、いらないと断ったけど、ルナレイラお義姉さまとモナさまからは金貨5枚ずつ頂いた。
しめて金貨145枚。これからお母さまからお借りした祝賀会の費用金貨5枚をお返しし、子爵の服装とか記章を作るのとかでかかった費用金貨5枚 -これは、王室専属の仕立て屋で、最初の給料で払うということでツケにしておいてもらった(汗)- を差し引くと、金貨135枚となった!
「こんなにたくさん!」
モナさまが目を丸くし
「これで、子爵としてやって行くことが出来ますね!」
ルナレイラお義姉さまが、大きく頷き
「アリシア、結婚資金に貯金しておきなさい」
お母さまが助言をくださり
「お姉ちゃん、これで贅沢できるね!」
ビアがのたもうた。
「みんな、聞いて。私はこのお金で......」
私は、あることを宣言した。
「え?!」
「そんなことを?」
「だめだめ!結婚資金にしなさい!」
「えええ――っ? ぜんぜん贅沢できないじゃん!」
みんなから大反対された(汗)。
* 作品上、1金貨は約10万円の価値があることにしています。




