第38章 魔王、叙爵をする
その日の『平安の間』での話は、私を正式なルーボードタン連邦管理局の職員にするということと、子爵に叙爵するという話だけで終わった。
って、2時間くらい、ダユーネフ国でのことを色々と聞かれ、何やら彼にやら聞かれた。
魔王さまは、私の書いた30ページもの報告書を褒めてくださった。最終ページまで読んだとおっしゃった。それが、私を子爵に叙爵することを決める最大の理由になったのだとプリシルさまがおっしゃった。
部屋に帰ってお母さまたちに報告すると―
大騒ぎになった!当りまえの話だけど。
15歳の娘が、子爵になるってのは前代未聞だそう。
「えーっとね、ルーボードタン連邦管理局の8級職員としての給料が月に金貨4、それに諸手当が毎月金貨2枚ほど。そして所領なしの子爵だから年間に金貨500枚もらえるんですって」
「ええええ―――? 子爵としての年収が金貨500枚ですって!?」
お母さま、卒倒しそうになったわ(汗)。
たぶん、今、お母さまの頭の中では、私が最初聞いた時と同じように、金貨500枚が頭の中をグルグルと渦巻いていることだろう。
って、私も最初聞いた時は、年間金貨50枚の間違いじゃないかと思ったくらいだから、驚くのも無理はないか。まあ、お母さまはヤーダマーの塔で暮らした2年間、かなり苦労をしたからね...
毎月、子爵の月給として金貨15枚、8級職員としての給料と諸手当が金貨6枚、それに年末には年越しの資金 -年末とかお正月とか、いろいろお金使うからね- として、子爵の年末特別手当が金貨100枚、8級職員の年末手当が金貨12枚と大番振舞いだ。
公務員ってサイコ――っ!貴族って本当にサイコ――っ!
「なに、これ?えーっと、生活補助手当として、扶養手当、住居手当、通勤手当、単身赴任手当。地域給的手当として異動手当、特地勤務手当、寒冷地手当。職務の特殊性に応じた手当として、俸給の特別調整額、管理職員特別勤務手当、特殊勤務手当。時間外勤務等に対して支給する手当として、超過勤務手当、休日給、夜勤手当、宿日直手当。賞与等に相当する手当として、期末手当、勤勉手当。その他、魔王国本省業務調整手当、初任給調整手当、専門職員職調整手当...
えええ――っ、お姉ちゃん、これ、みんなもらうの―――?」
ビアが、事務次官がくれた資料を見て驚いている。
「私は家族をもってないから、扶養手当はないし、ただで魔宮殿に住んでいるから住居手当もないし、通勤に馬車とか使わないから、通勤手当もないわ。単身赴任手当は、実際にほかの国に行った場合ね」
「家族いないって、ワタシとお母さまとお父さまがいるじゃない?」
「それは、私の家族じゃなくて、お父さまの家族なの。私の家族って言うのは、私が結婚して生まれる子どもなんかのことよ」
「ふーん... ワタシも扶養家族でお小遣いもらえるかと思った」
「お小遣いくらいあげるわよ」
「ヤッタ――!金貨何枚くれるの?」
「アホか、なんであなたに金貨をあげなきゃならないのよ?」
お母さまとモナさまは教師なので、やはり、配偶者手当とか扶養手当とかもらっているはずだけど、やはり住居手当とか通勤手当とかはもらってないはずだ。お母さまがもらっている扶養家族は、私はもう成人なのでビアの分しかもらってないだろうし、お給料は、せいぜい月に金貨2枚程度だろう。
それでも、住居費とか食費とかは払う必要がないので、魔都で生活していく分には困らない。
私は、連邦管理局の8級職員としての給料のほかに子爵としての給料もかなりもらえるので、これからはもう少し余裕のある生活ができる。お母さまがよろこぶのも無理がない。イヴォール城を出て以来、ずっと苦労して来たからね。
「魔王国外務省ルーボードタン連邦管理局外務公務員(以下、外交官と呼ぶ)の業務内容:テルースの世界における魔王国及び魔王国国民の利益の追求という使命を遂行する。外務省全体としては、テルースの世界中の国との関係構築、安全保障、経済外交を担当し、ルーボードタン連邦管理局の公務員としては連邦加盟各国との協力体制の促進、連邦内の課題、文化外交、連邦法の徹底と、幅広い所掌分野を担当する... って、これもたいへんな仕事ね」
「本当。アリシアちゃんに全部出来るかしら?心配だわ」
お母さまとモナさまは、これも事務次官がくれた小冊子みたいな『連邦管理局の外交官の業務内容』を見て、驚き、心配している。
「だいじょうぶよ。私は新米だし、連邦管理局には経験のある先輩職員とかがたくさんいるし、最初から高度な外交とか、難しい交渉とかには関わらないから!」
「そう?それならいいけど。とにかく、スティルヴィッシュ伯爵さまには、明日にでも菓子折りを持って、ご挨拶に伺うわ」
やれやれ、心配性のお母さま。
でも、私が子爵になり、外交官になるって知って、とてもうれしそう。
そりゃそうだよね?魔王さまの愛人にでもなるのかと思っていた私が、子爵になり、外交官としてお給料をもらえるようになるんだから。
いや、だけど婚約者でもないのに、すでに魔王さまと“肉体関係”のある私は、もう愛人なのか?(汗)
あーあ... フクザツだなぁ...
「お姉ちゃん、ワタシ決めた!」
私の悩みには無頓着な妹が腰に手を当てて胸を張って言った。
「何を決めたの?」
「ワタシもガイコーカンになる!」
「.........」
あなた、フェリノディオ語のほかに、何語をしゃべれるの?
レオニディオ語とエルフ語少しだけでしょう?
まあ、夢ある少女の夢を壊したくないので、ニコニコと作り笑いをする私だった。
私が子爵になると言う話は、光速より早く魔王城中に広まった。
ま、予期していたことだけどね(汗)。
夕食のためにダイニングルームに行くと、テーブルにいた例の仲良し三人組が私を呼んでいた。
急いでお皿に料理を盛り、三人が座っているテーブルに行って座ると、矢継ぎ早に質問された。
エリゼッテちゃん「アリシア、ダユーネフ国で何人の貴族と寝たの?」
エイルファちゃん「アリシアちゃん、なんでアタシには《ベーラ・アリシア・インペリアル》くれなかったわね?」
マイレィちゃん「アリシアちゃん、パパにどれだけワイロを送ったの?」
私は...
瞳孔が開き、心臓の鼓動が早くなり、
全身の血管は広がり、筋肉へ大量の血液を送って臨戦態勢になった。
その結果、顔の血管も同じように広がって血流が盛んになった。
つまり、カンカンに怒ったというわけ。
全身の毛が総立ちし、顔が真っ赤になった私を見て、三人は慌てた。
エリゼッテちゃん「ア、アリシアちゃん、ダユーネフ国でどんな穴場に行ったの?」
エイルファちゃん「ア、アリシアちゃん、皇帝さまと踊ったんですって?」
マイレィちゃん「アリシアちゃん、冗談、冗談だよ(汗)」
ビア「あなたたち、お姉ちゃんに食い殺されるわ!」
ぎゃああああ――――っ!
ひえええええ――――っ!
ママ――っ!パパ―――っ!
三人とも、皿を放り投げて一目散に逃げ出した(汗)。
そのあとで、三人は、それぞれリエルさん、アイフィさま、魔王さまとプリシルさまにこっぴどく叱られた。まあ、三人が、それぞれの保護者(リエルさん、アイフィさま、魔王さまとプリシルさま)とともに謝ったので私は許したけど...
魔王さまとプリシルさまには、褒められちゃったわ。
いや、甘やかされて育っているマイレィちゃんに怒ったからじゃなくて、“怒る時に、当然怒ったから”なの。
つまり、外交官というのは、侮辱されて黙っていてはダメなんだって。
夕食後、仲直りを兼ねて、三人を部屋に招待して、《ベーラ・アリシア・インペリアル》をご馳走した。《ベーラ・アリシア・インペリアル》は、魔王さまとアマンダさまたちに一本ずつあげて、お母さまとモナさまとルナレイラお義姉さまに一本ずつ、お父さまとマイテさま用に一本。
ブリュストン伯爵さまににも一本あげたけど、ヴィディスの醸造所で開けた一本がまだ残っていたの。
それに、昨日、『平安の間』でのお話のあとで、プリシルさまから「これはあなたも頂く権利があるわ」と言って、あの濃厚で深い味わいのある濃赤葡萄酒を6本下さったので、《ベーラ・アリシア・インペリアル》が空になれば、濃赤葡萄酒を飲めばいい。
その結果―
今度は、私が仲良し三人組の保証人から苦情を言われる始末となった。
三人とも《ベーラ・アリシア・インペリアル》をたちまち空にして、その後で濃赤葡萄酒を2本空にして... ぐでんぐでんに酔っぱらってしまったからだ(汗)。
担がれたり、抱っこされたりして帰る三人の保護者に、お母さまと私は平謝りだった。
ん? 私は酔っぱらわなかったのかって? そう言えばそうね?
たぶん、レッべガアルのあの酒場での“特訓”でお酒に強くなったんじゃない?
だけど、私の部屋で五人(ビアも当然加わっていた)で葡萄酒を飲んでいた時、その時点でもうあなり酔っていた三人が言った言葉が頭に残った。
エリゼッテちゃん「アリシア、あなた、最近、すごく色っぽくなったけど、もう誰かとヤったの?」
エイルファちゃん「アリシアちゃん、あなた、このごろすごく女らしくなったけど、ブリュストン伯爵さまに恋をしているの?」
マイレィちゃん「アリシアちゃん、禁断の恋はしてないわよね?」
私の瞳孔が開き、心臓の鼓動が早くなり、全身の毛が立った。
追い打ちをかけるように、ビアが言った。
「あなたたち、今度こそお姉ちゃんに食い殺されるわ!」
エリゼッテちゃん「ごめん、ごめん!あなたは、まだ清純な処女よね!」
エイルファちゃん「アリシアちゃん、あなた、すごくきれいになったあわね?」
マイレィちゃん「アリシアちゃん、本当にベッピンさんになったわ!」
怒りが収まった...
翌日―
大ホールで、魔王城のお歴々や高級官僚、将軍たちが集まった中で、叙爵式が行われた。
私は、アマンダさまたちが準備してくださった、叙爵式用の服装と装備を身に着けて、かなり緊張していた。
叙爵式用の服装は、すべて特注で作らせた。
ジャケットは緑色で袖と衿と前裾に金糸で刺繍が施された豪華な襟高ジャケット。
ジャケットの下には同色のウェストコート。シャツは白シルク長袖で、首には白シルクのシャツにの銀色のシルク・クラバット。
そして、身体にピッタリしたアイボリーホワイトのトラウザーに背中にはやはり緑色のマント。
腰のベルトには、お母さまにお願いしてヤーダマーの塔から持って来てもらった、長さ70センチのショートソードを下げていた。
なんで、こんな恰好で叙爵式に出たのかって?
ほら、そこは“子爵”っていう、いかにも剣の達人みたいな爵位をもらうからよ。
それに、美女の男装って言うのは、魔王城じゃめずらしくないしね。
アマンダさまやプリシルさまもされているし。
剣はね、数少ない家宝の一つで、お父さまがイヴォール城から持ち出すことが出来た品物の一つなの。
幸い没収されなかったので、それをお母さまがお父さまに、私の叙爵のことを伝えて譲って頂いたの。
最初はお借りするつもりだったけど、お父さま「そうか...アリシアも立派になったのだな」て言って、私に譲ってくれるって言ったらしいの。
お父さまとは、例の若い侍女(側女)の件以来、ずーっと会いに行ってなかったけど、それをお母さまから聞いた時は、涙が出そうになったわ。
「これより、アリシア・ミラーニア・ゲネンドルに魔王国の子爵としての爵位が魔王さまより授けられます。アリシア・ミラーニア・ゲネンドル、ここへ!」
これも、バッチリと男装の麗人を決めこんだ、叙爵式の進行係役らしいアマンダさまに呼ばれて、大ホールの中央に長い絨毯を敷いて作られた通路を前方にある祭壇の前で待つ魔王に向かって歩く。
オオオオオオ―――――!
颯爽と歩くカッコいい私を見て、大ホールに集まった人たちは喚声を上げた。
「アリシア・ミラーニア・ゲネンドル、跪きなさい」
「はい」
魔王さまの前で片ひざを折って跪く。
魔王さまは、アマンダさまから手渡された立派な剣を手に持ち、剣の刃の側面を右肩に当て、次に左肩に当てた。
「アリシア・ミラーニア・ゲネンドル、あなたは、魔王国の貴族として、いかなる事態になろうとも魔王国と魔王さまに忠実であることを誓いますか?」
「誓います!」
アマンダさまの問いに真剣に誓いをする。
「もし、誓いを破るようなことがあれば、魔王自らその首を刎ねることでしょう」
魔王さまが、剣の刃を私の首に当てた。
「アリシア・ミラーニア・ゲネンドル。汝に魔王国の子爵位を授ける。心して忠勤せよ!」
「はい」
魔王さまは剣をアマンダさまに渡された。
「アリシア・ミラーニア・ゲネンドル子爵、立ちなさい」
「はい」
立ち上がった私に、魔王さまが記章を首にかけてくださった。
記章をかける前に記章の意匠を見て「ん?」と声を出して、それからかけてくれた。
「よく似合うぞ、ネコ耳子爵!」
自分の場所にもどる前に、ボソッと小さな声で言ってくれたけど、その言葉がとてもうれしかった。
ビリビリ...
ゲっ、ここであの痛み?
「これにて、叙爵式を終えます!」
アマンダさまが、言い終えた直後―
「アリシアちゃーん、バンザーイ!」
エリゼッテちゃんの声だった。
「アリシア―――!」
「アリシア――!よくやった――!」
「アリシア――!アリシア――!アリシア――!」
すごい騒ぎになった!(汗)。
最前列にいたお母さまたちのところに行くとお母さまが泣いていた。
モナさまも涙を流して、お母さまといっしょに私を抱きしめてくださった。
「お姉ちゃん、とってもカッコよかったよ!」
ビアも抱きしめてくれた。
って、ビア、これ見よがしに、その大きな胸を押しつけないでちょうだい(汗)。
「アリシアちゃん、おめでとう!」
ルナレイラお義姉さまも涙を浮かべて抱いてくれた。
「それにしても、この記章、変わっているわね?」
ルナレイラお義姉さまが、私の首に下がっている紀章を手に取って「?」な顔をしてる。
「それはネコなんだよ、ルナレイラお義姉ちゃん!」
「うん。ネコというのは分かるわ。あなた、フェリノディオだから、こんな意匠にしたの?」
「うん。私はフェリノディオであることに、誇りを持っているの!」
「この意匠、ワタシとお姉ちゃんで一生懸命に考えたのよ!」
「ええっ?あなたたち二人で考えたの?」
ルナレイラお義姉さま、唖然としていた。
ちなみに、私の紋章も緑地に、この金色のネコを入れたものとなる。
緑は瑞々しい「若さ」と心のままの「自由」を表すので選んだ。
年取ったらどうするかって?
その時はその時!
アリシア・ミラーニア・ゲネンドル子爵の紋章
* ルーボードタン連邦管理局の職員の手当および職務内容については、某国外務省の手当や業務内容を参考にしました。
* 給料(金貨500枚=5000万円相当の設定)をもらう貴族なんていないのですが、この作品ではあえてそんな設定にしています。貴族の生活を維持していくのはお金がかかるのです(汗)。




