第34章 魔王に愛されるということ
私はブリュストン伯爵さまとナスガアル城にいた。
ナスガアル城は、ダユーネフ共和国の首都にある。
ナスガアル城は、標高150メートル岩山の上に建っていて、城の南西は岩の多い険しい崖となっており、城へ入るためには尾根がより緩やかに傾く東側からの道しかない。
その唯一の道を通って城の第一城門に入る前には、幅15メートル、深さ30メートルの空堀を跳ね橋を通って渡らなければならない。当然、この跳ね橋は戦いになれば上げられ、誰も通れなくなる。
敵が橋をかけようとしても、城門の上と左右にある狭間から雨のように矢を射かけられるし、さらに城門への通路の天井にある石落としや落とし格子がある。
運よく、第一城門を破ることが出来たとしても、さらに第二、第三城門があるのだ。
さらに東側の通路は狭いので大軍が一度に通ることは不可能。
したがって、少ない兵でも十分に守り切ることができる。
ナスガアル城が難攻不落の城と呼ばれる所以である。
と、これはブリュストン伯爵さまからの受け売りだけど、なぜ、私がナスガアルに来ているかと言うと、ダユーネフ国が魔王軍に負け、降伏したあとで魔王さまとの交渉の結果、ダユーネフ国がルーボードタン連邦に加盟することになったからだ。
ルーボードタン連邦というのは、魔王国とその同盟国で構成される“経済的および政治的連合”で、連邦に加盟する国や地方・州には、独自の自治を認めるが、根本的な主権は連邦政府に属するというものなのだそう。
魔王さまが提唱したこの連邦の最初の加盟国は、盟主国である魔王国、それにミタン王国、ボードニアン王国、鬼人族国の5国であり、ミタン王国とボードニアン王国は、すでに魔王国からの技術支援、金融支援を受けて工業や商業を急成長させつつあり、鬼人族国も魔王国との交易拡大で経済がかなり活気づいていると『花嫁修業』の時の政治・経済の授業で習った。
どういうわけか、私はこの政治・経済の授業が面白いと思い、いつも真剣に授業を受けていたので、試験などでもけっこう良い成績をとり、成績表をお見せしたプリシルさまがおどろかられるほどだった。
そのルーボードタン連邦に最近はワチオピアの三州も加盟し、今度はダユーネフ国も加盟することになった。それで、連邦の最高議会- 連盟の指導権を持ち、かつ政策を行使し、日常的に重要政策を審議・決定する役目を持つ機関で、各国首脳が選んだ代表で構成されている- は、使節団として、魔王国、鬼人族国、ミタン王国、ボードニアン王国などの国の代表から構成された使節団をダユーネフ国に送ったのだけど... 魔王国の使節団に、なぜか... 私も... 加わっていた(汗)。
まあ、使節団に加わっていたと言っても、“端くれ”みたいなもので、魔王国使節団の中核は、外務大臣のスティルヴィッシュ伯爵、経済・貿易大臣のペンナス伯爵や農業・漁業・工業大臣のゲラルド・ベルジオン侯爵、それに軍務大臣ギャストン伯爵など錚々たる者たちなんだけど、この魔王国の主要閣僚たちも、初日のダユーネフ国の皇帝と首脳たちとの顔合わせ的な会議に儀礼的に参加しただけ。
大臣たちはその日のうちに帰国し、あとは政務官や事務次官まかせとなり、私は見習い小僧、いや、見習い小娘よろしく、帳面を片手に毎日ナスガアル城で開かれる会議に出席したり、ダユーネフ国の農業とか工業とか町の商業とかの調査をするみなさんについて回ったりした。
そして、私にあたえられた仕事- 報告書を、毎日ナスガアル城内にあたえられた自分の部屋で夜遅くまで書く毎日を送っていた。
どうして、こんなことになったのかを、私は知っていた。
魔王さまの信条は、“働かざる者食うべからず”で、王妃であろうが、恋人であろうが、魔王城にいる者にはすべて何かの役目や職をあたえる。
魔王城に住む者に、ただ飯は食わさないというわけだ。
現に、お母さまとモナさまとモナさまは教師として働いているし、ルナレイラお義姉さまは、ファッションデザイナーのお仕事が気にいったみたいで、アンジェリーヌさまとジョスリーヌさまが創立者であるというファッションメーカー『モンスタイル工房』で見習いデザイナーとして働きはじめている。
政治・経済の授業で良い成績をとり、語学が堪能な私は“外交官”の素質がある、とプリシルさまやアマンダさまは思われたらしい。
まあ、私はエルフ語と獣人語は堪能だし、鬼人族語もヤーダマーの塔で5年間、鬼人族の警備兵さんたちと会話をして覚えたので問題なく話せるようになったし、ただいまドワーフ語とトロール語を猛勉強中なのであと半年ほどもあれば、問題なく使いこなせるようになるだろう。
って、私って語学の天才?まあ、文学的才能はあるとは思ってはいたけどね。
そういう訳で、使節団にくついて、研修生よろしくダユーネフ国に来ているのだけど、鬼人族国の使節団の中にブリュストン伯爵さまが軍事監査役として加わっていたわけ。
それで日中の仕事が終わり、夕食をしたあとは“自由時間”となるので、二人でナスガアルの市内を散歩したり、劇場に行ったり、ダユーネフ国の地方料理を食べさせるレストランに行ったりして楽しんでいるわけ。
ナスガアル市はネーデンバルト川の下流に位置する古い街で、夕方からの街灯に照らされた石畳の目抜き通りはすごく風情があり、ネーデンバルト川に掛かる石橋から見る街並みは、まるで絵本に出て来るような美しさで、それが川面に映るのは息を飲むほど美しいの。
ナスガアルの街はそれほど大きくはないけど、市街地の中心の目抜き通りには喫茶店やレストランが多いんだけど、目抜き通りを1本外れると路地裏だけど、そこにもけっこう洒落た店や酒場、小さなレストランなどがあるの。
目抜き通りには、人も多く、ダユーネフ国は基本的に獣人族の国なので獣人が多いけど、この地方の少数種族である褐色エルフもちらほら見られる。
先のダユーネフ国侵攻の時、魔王の命令で魔王軍はナスガアル市を破壊することなく、ナスガアル城を攻略したので、街は無傷で、市民たちは戦争があったことなどまるで知らないかのようにナスガアルの夕方や夜を楽しんでいる。
クトーマル広場にある洒落たレストランで、豚の切り身にパン粉をつけて油で揚げたものとイモの油揚げにサラダを食べた。揚げたての豚肉は、カリっとしてとても美味しく、お代わりしたいくらいだったけど、好きな男性といっしょの時、レディーはそんなに食べるものではないので、お代わりは我慢する。
ブリュストン伯爵さまは身体も大きく、若いからか豚の切り身を2枚注文してペロリと平らげた。
レストランを出てから、広場を腕を組んで歩いた。
広場には様々な物を売っている雑貨屋もたくさんあり、それらの店を見るだけでも楽しい。
花屋さんのお店で伯爵さまは、私に真っ赤なバラを買ってくださった。
真っ赤なバラを15本。
私の年の数だけの赤いバラを見ると
私は感動してポロポロと涙をこぼした。
伯爵さまは、私の肩をそっと抱いて
口づけをしてくれた。
ブリュストン伯爵さまの初めてのキスだった。
「ごめん。まだ早かったかな?」
唇を離したあとで、ブリュストン伯爵さまは少し気まずそうな顔をして聞いた。
「いいえ。うれしいです」
顔が赤くなるのがわかった。
「よかった。アリシアさんが、気を悪くするんじゃないかと思ったよ」
ホッとした顔で伯爵さまは言った。
「もう一度していいかな?」
こくんと頷いた。
ふたたび伯爵さまの柔らかな唇が私の唇にふれる。
二回目は長かった。吸われるので自然と唇が開く。
そして伯爵さまに舌を吸われた。
伯爵さま、たぶん、私にとって初めてのキスだと思っているに違いない。
だけど、これは初キスじゃない。私の初キスは魔王さまに奪われていた。
初キスだけじゃない。
処女もあの日、大浴場で魔王さまに奪われてしまっていた。
* * *
あの日―
一ヶ月ぶりに凱旋された魔王さまを迎えて開かれた戦勝祝賀会のあとで、魔王さまの“女性たち”全員に、大浴場での家族風呂に参加するようにとのお知らせがあった。
一ヶ月も魔王城を留守にしていた魔王さまといっしょにお風呂に入れる!
私はうれしくて、全力疾走で走り、大浴場に一番に着いた。
大浴場に着いた時、中には誰もいなかった。
魔王さまだけが、あの大理石の大きな椅子に座っておられた。
魔王さまに呼ばれて、彼の前に来た私を魔王さまは上から下までじっくりと見た。
15歳になって、オトナになって、魔王さまにはすでにハダカは何度も見られているけど、
ほかに誰も人がいないところで魔王さまにジロジロと見られるのは、やはり恥ずかしかった。
「オッパイが少し大きくなったな?」
と言って、魔王さまは、私の腰を引き寄せ、ひざの上に乗せると、
ムニュムニュと私の胸を揉んだ。
「ま、魔王さまっ、私には恋人がいます!」
抗議したけど
「それがどうした?」
まったく意に介さず
ムニュムニュ...
と揉み続けた。
「私は魔王だ。魔王城に住んでいるオンナは、好きなようにする!」
魔王さまは、私の抗議など一向に意に介さず、ムニュムニュ...を続けた。
「尻もしばらく見ないうちに少し大きくなったな?」
15歳になって、さらにオンナらしくふっくらとなったオシリを褒められ―
そのあと、キスをされた。
キスは、数ヶ月前にムチ打ちの刑を受けた時された以来だった。
ダユーネフ国との戦争のため、ブリュストン伯爵さまとも会えず、魔王さまもダユーネフ国との戦後交渉とかで10日以上、お姿を見ることが出来なかった私は、欲求不満になっていたのだろう。
ブリュストン伯爵さまとは交際は始めたけど、まだキスもしてなかった。
私の中にある、“男の人に強く抱きしめてもらいたい、熱く、身がとろけるようなキスをしてもらいたい”という本能的欲望があふれ出さんばかりになっていた。
魔王さまは、そんな私の“欲求不満”を見抜いたかのように、熱いキスをしてくれた。
不思議なことに、私に続いて大浴場に来るはずだったビアもお母さまもモナさまも、なぜか現れなかった。
まるで大浴場の時間が止まってしまったみたいな奇妙な時間だった。
魔王さまのひざの上に抱かれ...
キスをされ、胸を揉まれていた私は、なぜか、とても幸せを感じていた。
“女の幸せって、男の人に深く愛されることなんだ”とつくづく思った。
“でも、魔王さま、本当に私を愛しているのだろうか?”
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
男と女は愛し方が違う...
お父さまは、あれほどマイテさまやお母さま、そしてモナさまを愛していられたようだけど
若く新しい女 -侍女- が出来ると、お母さまたちを見向きもしなくなったみたい。
お父さまも魔王さまも男だ。男は、ただ“若い女を抱きたい”だけじゃないだろうか?...
そんな考えも、濃厚なキスで気分は高まり、胸を揉まれる気持ちよさもあって、
躰がとろけるように心地よくなり、ムズかしいことは何も考えられなくなってしまっていた。
そして、魔王さまの“アレ”が私の“アソコ”に当たっているのを感じた(汗)。
だけど、私はもう躰がふにゃーっと柔らかくなり、ダラーっとなってしまっていた。
私は魔王さまのするがままになっていた。
魔王さまに、たくさん可愛がって欲しかった。
私をたくさん愛して欲しかった。
「ネコ耳。おまえはもうオトナだな?」
魔王さまは、突然そんなことを聞いて
「では、今から、私がオンナにしてやる」
といって...
.........
.........
.........
魔王さまは、私を“自分のモノ”にされた。
お母さまから聞いていた“最初の時の痛み”はあまり感じなかった。
ただ、ただ、魔王さまから“愛されている”と言うことが、無性にうれしかった。
魔王さまから激しく愛されながら、私の中で、それまで“くすぶっていた”感情が一気に噴き出したようになった。
私は魔王さまの背中に回した腕に力をこめ、「もっと!もっと!もっと!」と叫んでいた。
心臓がドックン...ドックンと鳴り、あまりの気持ちよさで頭が白くなり、何も考えられなくなり―
「ふぎゃアアアアア―――――――!」
悲鳴のような声が私の口から出て
(誰か、ほかの人が叫んでいるようだったけど、決して痛かったんじゃあない。何でか知らないけど、そんな声が出た)
腰がビクビクと勝手に動いたあとで、思いっきりのけぞっていた。
.........
.........
そのあと、クターっとなって、しばらく放心状態となった。
「ふむ... 立派にオンナになったな...」
魔王さまは、そう言って、軽くキスをしてくれると、私の髪をやさしくなでてくれた。
「魔王さま... 愛しています」
私は魔王さまにきつく抱きついた。
* * *
いや、「魔王さま... 愛しています」って、あの時、大浴場で言ったけど
じゃあ、ブリュストン伯爵さまに感じているこの感情は何なのよ?
私は、夢中になって私にキスをしている伯爵さまを、薄く目を開けて見ながら考えた。




