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ネコ耳❤アリシアの魔王城日記  作者: 独瓈夢
第一部 ネコ耳アリシア
29/316

第29章 魔王の結婚式(前編)

 私たちが魔王城に来てから6か月後― 


魔王城で盛大な結婚式が行われた。


みんなに聞くと、魔王城で行われる結婚式はいつも盛大なのだそう。

ただ、今回の結婚式では、式典に参加した同盟国諸国の招待客たちを驚かせたことがあった。


それは、亡命に失敗して殺されたと思われていた元ブレストピア国のゲネンドル王- 私のお父さまのこと- が生きており、王であった時よりさらに若返ったように顔がツルツル輝いているのを見たからだ。



「いや、ルナレイラの結婚式に参加するなど... それに、儂はもう王でもありませんし」

お父さまは、最初、絶対に出たくないとと固辞された。

お父さまの考えは、娘である私にもよくわかる。


テルースの世界でも、有数の獣人族大国であったブレストピア王国は、長い海岸線をもつことから、漁業と農業が盛んな国だった。

とは言っても、工業はそれほど発展はしておらず、ドワーフ国のように鉱山・鉄鋼業が盛んなわけでもなく、トリゴ麦、アベナ麦などが主要農産物であり、ほかにミーリョとかソラナム芋とか、ウシ・ブタ・ニワトリなどの畜産業もあるにはあるが、それほど生産量が多いわけではなく、自国内での消費をようやくまかなえるほどで、決して豊かな国ではなかった。


 そんなブレストピア国であっても、お父さまは少しでも良い国、住みやすい国にすべく、一生懸命に取りくんで来たのだけど、魔王とその同盟軍によって短期間で占領されてしまい、分割統治されることになってしまった。

 圧倒的な軍事力を持つ魔王国軍と鬼人族国軍にブレストピア軍がかなうはずもなかった。

それに、魔王国はあの無比の強さを持つ魔術師部隊を所有し、その上、ドコデモボードやマデンキ《魔法式遠隔伝達器》などと言う、敵国軍から“卑怯”と罵られそうな秘密兵器をもっているのだから、それほどの軍事力を持ってなかったブレストピア国などひとたまりもなかった。


 しかし、お父さまは、魔王国軍およびその同盟国軍との戦争に負け、ブレストピア国が他国に占領されたのを自分の責任だと重く受け止めていたのだ。

 だから、今さら、おめおめとルナレイラお義姉(ねえ)さまと魔王さまの結婚式に参加して、“生き恥を晒したくない”と思うのは理解できる。

 だけど、ルナレイラお義姉(ねえ)さまの結婚式は、お父さまにとっては、初めての子どもの結婚式なのだ。ルナレイラお義姉(ねえ)さまも、是非ともお父さまとお母さまであるマイテさまに結婚式にご出席して欲しいと思っているはず。


「デルンさま、ルナレイラが元ブレストピア国の王女として魔王さまと結婚するのですよ?父親のデルンさまがルナレイラの手を引いて赤い絨毯の上を歩かないで、誰に手を引かせると言うのですか?」

マイテさまたちが懸命になって説得した結果、ようやくお父さまは結婚式に出ることを承諾された。

事の成り行きを心配していた私も、やれやれと胸をなでおろした。



 *    *    * 



 華麗な軍服に身を包んだガバロス騎兵たちが、これも華麗な衣装を着せた馬に跨って、カッ、カッ、カッ と蹄の音を石畳の路面に響かせながら、馬車の前後を整然と進んでいる。

 沿道は鈴なりの人々で埋まっていた。みんな、馬車を見て手をふって魔王さまのご結婚をよろこんでいるのがわかる。魔王さまって、恐ろしい名前の割りに、けっこう人気があるんだ、とあらためて認識した。

 

 リンリンリンリン…


 馬の首に付けられた鈴の音を鳴らせて大聖堂へと続く道を華やかに飾られたで向かう馬車は10台。

最初の馬車は、花や何やら雅やかな飾りをいっぱいつけた馬車で、その次が花嫁姿のルナレイラお義姉(ねえ)さまが乗られた王室専用馬車だ。その馬車には、付き添いを買って出たプリシルさま、それに侍女が二人、マルカともう一人がお手伝いをするために乗っている。


 三台目の馬車には、お父さま、マイテさま、カレブ君、お母さま、私とビア、それにモナさまとジオン君にキアラちゃんが乗り、五台目、六台目は、モモコ大王さまの馬車、七台目がアンジェリーヌさまたち王妃の方々などが乗り、それから政府高官などが乗った馬車が数台続き、最後尾の王室専用馬車、魔王さまと護衛のアマンダさま、それにリリスさまとハウェンさまが乗っておられた。



 ルナレイラお義姉(ねえ)さまと魔王さまの結婚式に招待される招待客のリストを見た時、私もお母さまもモナさまもすごく驚いた。

 千人は超えると思われる招待客の中には、魔王国の同盟国の王族ならび内外の高名な貴族たちの名前が当然漏れずに記載されていたけど、それだけでも結婚式当日に受ける祝福のあいさつなどへの対応がたいへんだと思うのに、何とエテルナール教の最高指導者であるアガピウス教皇さまが参加すると知って... 正直言っておどろいた。


 エテルナール教の内部事情に詳しいアイフィさまから話を聞くと、教皇さまは、今まで度々魔王さまの結婚式への招待状を受けていられたのだけど、エテルナール教の総本山から魔王国までの距離が遠すぎることと、魔王さまがブレストピア王国とマビンハミアン帝国を征服したことから、たとえこの二国がエテルナール教に敵対していた敵側陣営に属する国であるとわかっていても、教皇は魔王を恐れて一度も結婚式に来なかったのだそうだ。


 だけど、四ヶ月ほど前に魔王国軍は、大規模な敵の大軍による魔王国侵略計画を見事に阻止し、魔王さまは、その力をまざまざと内外に見せつけた。それを見てアガピウス教皇は、“魔王と教会が良好な関係を持つのことが、エテルナール教の将来ためにも賢明な選択だ”と考え直したのだとか。

 まあ、長いモノには巻かれろって言うし、魔王さまは決してエテルナール教を卑下してないし、魔王城内にも魔国内でもエテルナール教を信仰している人を差別しないし、結婚式などはすべてエテルナール教の大聖堂で行って来ているらしいので、教皇もそれほど恐れることはないと考えたのだろう。




 馬車の隊列が大聖堂に到着した。

ルナレイラ王女が馬車から降りて、プリシルさまに付き添われて、マルカともう一人の侍女がウエディングドレスの長い裾を持ち、赤絨毯の敷かれた石段を上がると、そこにはお父さまが緊張した面持ちで待っていた。


「!... ル、ルナレイラ... 何と美しい花嫁に...」

あとは言葉にならなかった。幾筋もの涙がお父さまの頬を流れ落ちた。

「お父さまっ!」

ルナレイラお義姉(ねえ)さまが、お父さまに抱きついた。


「ルナレイラさん、泣いてはダメよ!」

「は、はい...」


プリシルさまが注意したけど... 

滂沱と流れる涙を誰も止めることができなかった。



 大聖堂の前に止まった馬車の隊列からは、正装のモモコ大王さま、アンジェリーヌ王妃さま、ジョスリーヌ王妃さま、ミカエラ王妃さま、リエル王妃さま、フィフィ王妃さまたちが次々と降りて赤絨毯の敷かれた石段を上がって大聖堂の中に入って行った。

 私たちも続いて入る。大聖堂の5つの大きな青銅の扉はすべて開けられており、中はもう招待客でいっぱいだった。そして、花婿・花嫁が通る通路には、金色で縁取られた真っ赤な絨毯が敷かれていた。


 大聖堂の最前列には同盟国の王族が座っており、二列目にはギャストン伯爵、スティルヴィッシュ伯爵、ペンナス伯爵たち魔王国大臣の顔も見える。

 私たちが、左側の親族席に向かう時、彼らは微笑んで会釈をしたり、手を上げたりして挨拶をした。

三列目に、ブリュストン伯爵さまのお顔を見て、胸がときめき、なぜか顔が熱くなった。

 彼は、デュドル公爵夫妻といっしょで、リンマイユお姉さまが、「アリシアちゃーん!」と声を上げて、手をふってくれた。私は頭を下げて、結婚式へ参加してくださったお礼をした。


 魔王さまが、アマンダさまたちを引き連れて大聖堂に入ると、全員起立して迎えた。

魔王さまは、にこやかに笑いながら、祭壇の前の右に立つ。アマンダさまたちは、右側の最前列に座る。

 大聖堂の中では音楽隊がすでに音楽を鳴らしていて、招待客たちは、みんな首を後ろに回して入口の方を見ている。花嫁が入って来るのを待っているのだ。

 だけど、ルナレイラお義姉(ねえ)さまは、なかなか入って来なかった。


「式って、花嫁が遅れて入って来るのがふつうなのよ」

「らしいですわね。わたくしの時は、グロッピン侍従長に言われて、時間通りに赤絨毯ふみましたけど」

「わたくしもなのよ。わたくしたちは、デルンさまの侍女だったから、侍従長さまの命令は絶対でしたものね」

お母さまとモナさまが、花嫁は遅れて来るのが“常識”みたいなことを言いながらも、自分たちの時は時間厳守で結婚式を挙げたらしく、当時の事を思い出しているような目をされていた。


「わたくしもグロッピンさまにそう言われたんですけど、デルンさまを待たせてあげましたわ」

「ええっ?マイテさん、勇気ある――!」

「グロッピンさまの命令を無視して、デルンさまを待たせたんですか――?」

お母さまとモナさまがびっくりしている。


 これは、私も初耳だ。

 マイテさまは、伯爵家の出身、お母さまも伯爵家の出身だけど、伯爵といってもピンからキリまであり、マイテさまのお家は、経済的にかなり苦しい伯爵家だったと聞いている。

 お母さまのお家も、それほど大した資産家ではなく、そのために王宮で侍女をさせ、お金持ちの貴族の目にとまって良縁でもあればとの考えで、おじい様、おばあ様が宮廷勤めをさせたのだと聞いた。

 モナさまのお家は男爵家で、やはりマイテさま、お母さまの実家と似たり寄ったりだったみたい。


「それは、王陛下のご寵愛をいただいていた日陰者の立場から、正式に王妃になれるのですから、うれしくないと言えばウソになりますけど...」

ですけど、王陛下と結婚するということは、もはや侍女でも愛妾でもなくなる。

ブレストピア王国の王妃となるその最初の儀式である結婚式で、最初だからこそ、“しっかりと今までのようにいいなりにはなりません”というメッセージをこめて、30分遅れて礼拝堂に入ったのだとおっしゃった。


「そのお話は、初めて聞きましたわ...」

「わたくしもです。マイテさま、本当に勇気がおありでしたのね!」

お母さまとモナさまがおどろいている。

「でも、デルン陛下は、少しも怒りませんでしたのよ。グロッピンさまは、カンカンになって怒っていたのですけどね...ふふふ」

マイテさまは、その時のグロッピンさんの顔でも思い出したのか、おかしそうに笑った。


 侍従長のグロッピンさんは、本当に厳格な方だった。

魔王国軍がお城に迫り、私たち一家が亡命を決意した時、自分が王陛下の身代わりになりますと言って、お城にとどまったと聞いたが、その後、どうなったかは知らない。

 若い頃は、つやのある鮮やかな漆黒の長い毛が自慢だったといつも言っていた高齢の侍従長は、私やルナレイラお義姉(ねえ)さまが生まれるずーっと目からお父さまに仕えていて、彼の言葉には、お父さまだけでなく、大臣たちまでが耳を傾けるほどだった。




 そして30分ほど待った時―


 オオオオオオオオ――――………! 


大聖堂の中を埋め尽くした招待客たちが急に騒がしくなった。

入り口の方を見ると、ルナレイラお義姉(ねえ)さまが、お父さまに手を引かれて大きな青銅の扉をくぐって入って来た。


「おお! あれはゲネンドル王ではないか?」

「まさか?魔王軍がイヴォール城占領の時に殺されたと聞いたぞ?」

「ゲネンドル王、生きていらっしゃったのね!」

「ゲネンドル王は、亡命に失敗して捕らえられ処刑されたと聞いていたが...」

「生きておられたんだ!」

彼らは美しい花嫁姿のルナレイラお義姉(ねえ)さまを見て感嘆の声を上げ、そして、その横にいる男-デルン・ゲネンドル王- お父さまを見て、騒ぎはじめた。


 大聖堂の前方の方の席を占めていたのは、魔王城関係者と同盟国の王侯貴族だった。

彼らはお父さまが生きていることを当然知っていた。だけど、大聖堂の中ほどから後ろの方にいた招待客たちのほとんどは、お父さまと私たちが“まだ生きてた”ことを知らなかったし、前の方に座っていた私たち“ゲネンドル一家”に気がつかなかったらしい。


 すでに死んだと思っていたゲネンドル王を見て、招待客たちは騒ぎ、中には椅子から立ち上がってゲネンドル王を確認しようとする者が続出した。そして、親族席に座っているのが誰かを確認しようとした。


「じゃあ、あの前に座っているのは、マイテ王妃じゃないのか?」

「違いない。マイテ王妃だ!」

「カリブ王子も無事だったのか!?」

「あのネコ耳の()は、アリシア王女?」

「じゃあ、となりのトラ耳の()はビア王女?」

「では、あの年増のネコ耳がラーニア王妃で、ウサギ耳の若い女がモナ王妃か?」


 ちょ、ちょっとぉ!

なんで、私のネコ耳が一番先に目につくのよ?

それに、ビアはトラ耳じゃなくて、レオニディオ(ライオン人族)耳よ!


 お父さまの元気なお姿を見て、泣く者が数少なからずいた。

その多くが、元ブレストピア国の貴族であった人たちだった。

彼らは美しい花嫁姿のルナレイラ王女の手を引くゲネンドル元王を見て、滂沱と涙を流した。


 招待客たちが見つめる中で、緊張と幸福の入り混じった顔で赤絨毯の上を進むルナレイラ。

音楽隊の音楽は止み、代わりに合唱団が創造主賛歌を美しい声で歌っている。

赤い絨毯の先にはルークが華麗な衣装を着て黄金の王冠をかぶり、これも黄金製の王杓を手にもって笑顔でルナレイラを待っているのが見える。



 招待客たちが見つめる中で、緊張と幸福の入り混じった顔で赤絨毯の上を進むルナレイラ。

音楽隊の音楽は止み、代わりに合唱団が創造主賛歌を美しい声で歌っている。

 赤い絨毯の先には魔王さまが、華麗な衣装を着て黄金の王冠をかぶり、これも黄金製の王杓を手にもってルナレイラお義姉(ねえ)さまが着くのを待っているのが見えた。

 祭壇の前にある檀上には、祭司を行う白いトゥニカ姿のアイフィさまがいた。

お父さまは、ルナレイラお義姉(ねえ)さまのウエディングドレスを踏まないように少し斜め前方を歩いているけど、何だか足がガクガクしているみたい。


「お父さま...」

「お、おう、どうした。ルナも緊張しているのか...」


二人の会話は招待客たちのざわめきと合唱団の歌のためほかの者には聴こえないけど、ネコ耳の私には聞こえた。


「ピ―――皇帝とピ――――皇后とアガピウス教皇のハダカを想像してみてください」

(不敬罪で逮捕されないように、某国の皇帝と皇后の名前はあえてふせておくことにしたわ)


「うん?...」

一瞬、怪訝な顔をしたお父さまは、次の瞬間ニヤリと笑った。


二人を注視していた招待客たちは、ゲネンドル元王が、幸せのあまりニッコリと笑ったのだと思った。

すっかり緊張のほぐれたお父さまは、祭壇の前で待っている魔王さまにルナレイラお義姉(ねえ)さまを渡した。


「ゲネンドル殿。ルナレイラ姫はきっと幸せにする」

「よろしくお願いする」

そう言ってお父さまは、私たちが座っている親族席の方へ歩いて来たけど、その途中で最前席に座っているピ―――皇帝とピ――――皇后とアガピウス教皇を見て、満面に笑いを浮かべて会釈をした。

ピ―――皇帝夫妻とアガピウス教皇は、同じように会釈し、彼に向かって微笑んだ。



 アイフィ神教官による祭司で創造主へのお祈りが行われ、魔王さまとルナレイラお義姉(ねえ)さまは誓いの言葉が述べられ、指輪の交換のあとで、誰もが待っていた誓いのキスとなった。

 魔王さまが贈った宝石を散らばめたティアラの下のヴェールをめくると、その下にはルナレイラお義姉(ねえ)さまの少し緊張した美しい顔があった。


 二重の大きな目、長い睫毛。

 きゅっとしまった小さなあご。

 そしてツヤのあるピンクの唇。


魔王さまの唇が迫って来た時、お義姉(ねえ)さまは、長い睫毛を伏せて目を瞑った。




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