第23章 魔王、交際を許可する
ブリュストン伯爵さまは、先ほど魔王さまに面と向かって無礼と思える言葉を言った舌の根が乾かないうちに、高笑いをして、またとんでもないことをのたもうた!?
「挑戦状って、誰を魔王さまから取り上げるおつもりなんですか?」
「うーん... そうですね。私の好みは、三角に立った耳をもつ王女さまみたいな女性ですね」
そう言って、私の顔を注視した。
“えーっと、魔王さまの王妃さまと恋人の中で、私みたいな耳を持っている人は...
.........
.........
え?誰もいないよ?
あ、私がいるか!
え?私だけじゃん、ネコ耳をもっているのは?
そ、それって... 私のことじゃない?!
ぎゃあああああああああ!
美男鬼人のブリュストン伯爵さまが、魔王さまから奪ってやると挑戦状を突きつけた、“よく構ってない女性”って、私のことだったんだ――――――!?
落ち着けアリシア、落ち着かなきゃ。
深呼吸をして。
スーハー スーハー
うん、少し落ち着いた。
ブリュストン伯爵さまを見ると―
狼狽した私を見て微笑んでいる。
カ――――っ
全身が熱くなった。
思わず目をふせる。
「おい、ブリュストン。あまりアリシア王女さまをいじめるなよ?」
「そうですわ。でも、もし本当に伯爵さまが本気でアリシア王女さまと結婚したいと思っていらっしゃるのなら、モモコ大王さまにお願いして、魔王さまと交渉していただいた方がよろしいですわ」
デュドル公爵さまとリンマイユ さまが、私がいたたまれない状態にあるのを見て話しかける。
「伯爵さま、冗談ですよね?」
「いえ、本気ですよ。アリシア王女さま」
即答だった!
カ――――っ
また全身が熱くなった。
話題を変えなきゃ。話題を変えなきゃ...
「さっき、私は伯爵さまが魔王さまに殺されると思いました...」
「ハーッハハハハハ!それはありませんよ!鬼人族国は魔王国の最大の同盟国だし、鬼人族国軍は、魔法をのぞけばテルースの世界最強の軍をもっていますから!」
「そうなのですか?」
デュドル公爵さまを見ると、頷いていた。じゃあ、本当なんだ。
「それに、もし、俺が魔王か、アマンダに殺されたら、こいつがすぐに仇をとってくれますよ!」
「え?デュドル公爵さまが?」
「もちろんだ。鬼人族戦士は、仲間の仇は必ず討つ!」
厳然とおっしゃった。
「でも、そうしたら、今度はデュドル公爵さまが、ヴァスマーヤさまかアイフィさまに...」
「当然、あの超絶魔術師に殺されるでしょうね...」
「もし、そうなったら、モモコ大王さまが激怒されますわ!」
リンマイユ さまが、シャンパンでほんのりと赤くなった頬で平然とおっしゃった。 」
「そうしたら、魔王国と鬼人族国との全面戦争です。ハーッハハハハハ!」
「え...?そ、それは、自分の国の貴族さまが殺されたら、大王さまは怒るでしょうけど、まさか戦争までは...」
「デュドル公爵さまは、モモコ大王さまのご親戚なのです。いわば身内。身内を殺されれば、いくらモモコ大王が魔王さまの妃であるとしても戦争を起こすしかありませんわ」
「身内?」
「そうです。身内を殺されたのに、何もしなければ鬼人族国における大王さまへの信頼が大きく落ちます」
「暴動が起きるかもな?」
「大王は捉えられ、十王裁判にかけられ...」
「死刑間違いなしだな...」
ブリュストン伯爵とデュドル公爵さまが、恐ろしいことをおっしゃっている(汗)。
「だから、魔王と言えど、伯爵さまには何もできないのです」
リンマイユさまは、平然とおっしゃって、またゴクリとシャンパンを飲まれた。
白い喉が動くのがなぜかなまめかしい。
その後の会話で、デュドル公爵さまはモモコ大王と同じシュテン一族であること、ギャストン伯爵は元デュドル公爵に仕えていたこと、デュドル公爵とブリュストン伯爵は、幼馴染で無二の親友同士だということを話してくれた。そりゃ、親友が目の前で殺されたら仇を打たなきゃ男が廃るよね?
ひととおり、大王と公爵の関係、そして公爵と伯爵の関係についての説明が終わったあとで―
「アリシア王女さま」
ブリュストン伯爵さまが、突然居住まいを正し、あらたまった口調で話しかけた。
「は、はい」
私も、真剣に彼を見た。
私は、ほぼ彼が何を言い出すか予測できた。
「俺と正式につきあいませんか?」
やはり、予測の通りだった。
一挙に結婚してくれませんか?と求婚されるかと思ったが、ブリュストン伯爵もバカではない。
魔王さまが私を将来妻にするという約束で魔王城に連れて来たということを知っていた。
「よ、よろこんで... と言いたいところですが、私は、魔王さまの将来の妻になるという約束で、ここに来ているのですが...」
「それは充分承知しております。しかし、まだ婚約もされてないのでしょう?」
「いえ、まだ何も」
「それなら、話が早い。早速モモコ大王さまにお願いして、魔王さまにこいつとアリシア王女さまの交際を認めるように圧力をかけてもらおう!」
「それは名案ですわ!」
「どのみち、大王さまは、魔王がどんどん王妃や恋人を増やしているのを好ましく思ってないからな!」
「妻でしたら、ふつうはそう思うものですわ。公爵さまも愛人を作る時は、せいぜい私に気づかれないようにしてくださいませね?もし、私が愛人を見つけたら八つ裂きにしかねませんからね!」
は、話がとんとん拍子で進んでいく!
これは、不可逆的進行だ。それにしても、リンマイユさま、すごいこと言っている?
「ふふふ。公爵夫人もシュテン一族の出なので、血の気は多いんですよ。デュドルも浮気は十分気をつけてうまくやらないと愛人もろとも串刺しにされるぞ?」
「おまえまで、何を言っているんだ? 私はリンマイユ一筋だ!」
「そんなこと、これから先はわかりませんわ。男の女に対する愛情は3年したら冷めるって古来から言われていますもの」
「ど、どこの言い伝えだ?」
「シュテン一族の女たちに代々伝えられている教えですわ!」
「ぐっ...」
「ハーッハハハハハ!さすがの鬼公爵もリンマイユ夫人には頭が上がらんな?」
* * *
魔王城の夕食における、ブリュストン伯爵の魔王さまへの挑戦騒ぎは、三日後に具体的な結果となって効果を効果を表わした。鬼人族国大王、モモコさまから魔王さまに対して『ブリュストン・ヤンロリグレン・ギャストン伯爵とアリシア・ミラーニア・ゲネンドル王女の交際を認めるように』との公式要望書が送られて来たののだ。
表向きは“要望書”となっているけど、“この要求を飲まないと、今後、二国間の協力関係に影響するぞ!”という圧力が要望書に込められているというのを魔王国の首脳は理解した。
「致し方ありません」
さすがのアマンダさまも、モモコ大王の意向に逆らうのは全く利益がないことを認め、魔王さまはしぶしぶ交際を認めることにしたらしい。
えっ、どうしてそんな国家機密を私が知っているかって?
それは、ほら、家には有能な諜報員がいるじゃない? 有能な諜報員って誰って、ビアよ。
ビアはマイレィちゃんの親友でしょ?それで、プリシルさまのお部屋によくお泊りに行ったりするの。
それで、ベッドで二人仲良く寝ている時に、マイレィちゃんが、ママから聞いた魔王国の上層部で起こっていることなどをビアに話してくれ、それをビアが私に伝えてくれるという訳なの。
* * *
「お誕生日、おめでとうございます!」
ブリュストン伯爵の挑戦騒ぎから二十日後。
久しぶりに帰ったヤーダマーの塔で、私の15歳の誕生会が行われた。
15輪の真っ赤なバラの花束をもって、ブリュストン伯爵が誕生会に来てくれた。
もちろん、彼がぜひ参加させてくださいとお願いして来て、お父さま、お母さまも承認してくださったので正式に招待したのだけど。ブリュストン伯爵さまお一人ではさびしいだろうと思って、デュドル公爵夫妻も招待することにした。
「おめでとうございます!アリシア王女さま」
「おめでとう、アリシアちゃん!今日から、あなたも大人の仲間入りね!」
デュドル公爵さまは、鬼人族国の名産品だという高級お菓子の入った箱をくださり、リンマイユさまは、シンプルだけど美しいティアラを下さった。
リンマイユさまは、私の親友になってくださり、おたがいに「アリシアちゃん」「リンマイユお姉さま」と呼び合う仲になっていた。ルナレイラお義姉さまが、私たちの仲に妬くくらい、私たちは親密になった。
誕生会には、アイフィさま、リエルさんとエイルファちゃん、エリゼッテちゃん、それにマイレィちゃんも来てくれた。王妃・王女が参加するというので、ものものしくガバロス親衛隊が20騎護衛について来た。
「私がいるのですから、それほど護衛はいりませんとアマンダさまに言ったのですけど...」
アイフィさまが、申し訳なさそうにお父さまたちに謝った。
アイフィさまは、魔王国の魔術師の中でヴァスマーヤさまと並ぶ超絶魔術師だ。
なので、もし、敵軍がヤーダマーの塔を襲おうと思ったら、5万や10万の軍では歯も立たないだろう。
そんな大損害を出してまで、王妃や王女やルナレイラお義姉さまを拉致しようなどと考えるアホはいないだろう。
それに、誕生会には日帰りで来られているので、宿泊とかの心配もないし、プリシルさまのご配慮で誕生会はヤーダマーの塔の庭に立てられた大きなテントの下で行われるので、狭く暗い塔の中へお招きする必要もない。
大きなテントの下で、15歳の誕生日のためにお母さまたちが特別注文してくださった誕生日ボーロの上に15本の小さなローソクを立てて火を点け、みんなが「お誕生日~♪おめでとう~う♪」と定番の歌を歌ってくれ、ローソクをふき消した。
これも考えて見ると不思議な習慣で、誰がこんなことを考えだしたんだろう?と思ってしまった。
ボーロは、トリゴ麦粉と砂糖、卵、ヤギ乳をふくらし粉といっしょによく練って、かまどで焼いたもので、出来上がってから上にヤギ乳で作った白くトロっと甘いタレをかけるもので、中にはイチゴや桃などを小さく切ったものが入っていて、私もビアも大好きなお菓子だ。
誕生日ボーロを切り分け、招待客のみなさん、塔の警備の人たち、ガバロス親衛隊の人たちにも食べていただく。親衛隊のザロッケン君はペロリと食べて、お代わりをたのんだ。彼は、最近デクリオンに昇格したんだって。そう言えば、肩章が違っていた。
食べ物は、ほかにもキーベ、コシーニャ、揚げ菓子や焼き菓子、それにお肉の串焼き、サラダなど盛り沢山。みんな美味しそうに食べている。
「さあ、今日の一番重要なイベントのスタートよ!」
リンマイユお姉さまが、突然、大きな声で告げた。
「?」
何が、今日、一番重要なイベントなんだろう?
ボーロはもう切ったし...
プレゼントはもらったし...
みんなには祝福してもらったし...
もうこれ以上、幸せってないんじゃない?
「さあ、アリシア王女さま、こちらへおいでなさい!」
リンマイユお姉さまが、あらたまった口調で、大きなテントの裏にある目立たない小さなテントへ手をとって連れて行ってくれた。
そのテントは四方が白い布でふさがれていて、中に何があるのか外からはわからない。
テントの入口を開けて中に入ると...
いつの間にか、そこにはアイフィさま、ルナレイラお義姉さま、リエルさん&とエイルファちゃん姉妹、エリゼッテちゃん、マイレィちゃん、それにビアがいた。
「みなさん、どうされたのですか?」
「ふふふっ!これが、15歳のあなたに、もっともふさわしい贈り物よ!」
「ジャジャジャーン!」
「気絶しないでよ?」
テントの床に置かれていた、美しい木箱のフタを、エリゼッテちゃんとエイルファちゃんがいっしょに開けた。
「こ、これは...!」
中には白く輝く衣装がはいっていた。
そう、上流社会の女の子が、15歳の誕生日の時に着て舞踏会で踊る衣装- 成人式ドレスが!
ポロポロポロ...
涙がとめどもなくあふれ出た。
そう。私も考えないではなかった。
もし、ブレストピア国が魔王軍に占領されてなければ...
もし、あのままイヴォール城に住み続けていれば、ルナレイラお義姉さまが15歳になられた時に開かれたような、盛大な成人式舞踏会がお城の大ホールで国内外の王族・貴族を招待して行われたであろうと。
そして、私は立派な成人王女として、華々しく社交界にお披露目したであろうと。
しかし、ブレストピア王国は滅び、ゲネンドル一家は、人里離れた田舎の塔で隠れて暮らすようになり、それもつかの間、見つかってしまい、魔王城で囲われ者のような状態で暮らすようになった。成人式舞踏会も、成人式でさえも夢になってしまった-と思っていたのだ。
感激のあまり、涙が止まらなかった。
「何も心配ないわ。私たちにまかせて!」
リンマイユお姉さまが、私の肩を抱いてやさしく言った。
それからが大へんだった。
広くもないテントの中で、7人がかりで私を着せ替えたのだから!
「アリシアちゃん、中々いい身体しているわね?」
下着から一切を剥ぎとられた私を見て、リンマイユお姉さまが、私の身体を賛嘆した。
「でしょ?でしょ?アリシアちゃんは、いつもルナレイラさまやビアちゃんの胸が羨ましいってコボしているんだけど、わたしは、これくらいがちょうどいいっていつも言っているの!」
エイルファちゃんの言葉に―
「そうね(モミモミ)。これくらいがブリュストン伯爵の好みなのかも?」
とリンマイユお姉さま。
「え、どれどれ...(モミモミ)」
エリゼッテちゃんも
「あ、わたくしにもさわらせてください(モミモミ)」
アイフィさままで(汗)。
「どおれ、お姉ちゃんのオッパイ、どれだけ揉み具合がよくなったか、ワタシが確認してあげるわ(モミモミ)」
ビアまでが、私の胸を揉んだ(汗)。ビア、あなた自分のを揉みなさいよ!
「あの... みなさん、もうよろしいですか?もう十分揉まれたと思うんですけど?」
「そうね。あとはブリュストン伯爵さまに置いておきましょう!」
「リ、リンマイユお姉さま、な、なにを言って...」
「早く着せないと、みなさま、待っておられますよ!」
アイフィさまの言葉に、7人が一斉に私に襲いかかった!
きゃああああああああ!
競い合うかのように、7人でパンティを履かせ、肩紐なしブラジャーを付け、白いタイツを履かせられ、キャミソールを着せられ、二の腕まである白い長手袋をはめられ、お化粧を直され、髪をセットし直され、イヤリングとネックレスを付けられ、銀製のティアラを乗せられ、純白のドレスを着せられ...
成人式を迎えるネコ耳乙女が一人出来上がった?
「どれどれ... うん、完全ね!」
「はい。完璧ですわ!」
「うん。すっごく大人っぽくなった!」
「色気すごく出ているわ!」
「ブラジャーに綿をつめたの大成功ね!」
「私は、そんなもの詰めなくてもいいって...」
私の言葉は無視された。
「さあ、アリシア王女さまのお成り―――よ!」
リンマイユお姉さまが、大きな声で告げるとテントの出入口を開けた。
「え?ここは?」
そこは、見慣れたヤーダマーの塔の庭ではなかった。
豪華な大ホールだった!




