第14章 魔王の超絶魔法能力
ゴクゴク...
果実っぽい味のすっきりした喉越しのお酒を喉を鳴らして飲んでいると、みんなテーブルの上にある料理を小さな串で差したり、小皿に分けたりして立ったまま食べている?!
「あら... みなさん、座らないで食べていますわ?」
「これが魔王国式の晩餐会なのでしょうか?」
お母さまとモナさまも目を瞠っている。
「ふーん。ここでは、行儀の悪い食べ方でもいいのね!」
「そうみたいだな!」
「じゃあ、ご馳走に突撃!」
「とちゅげき!」
ビアとカリブも最初は少しおどろいていたようだが、
若い子は適応が早い。ジオンもキアラもカリブたちを真似て、さっそく、料理を食べはじめた。
「これ、焼きパンの上に肉の味のする練ったものがついている!」
「おいしいね!」
「これは小っちゃなエビが乗っているよ!」
「これは、プツプツしたのが乗っている。噛むと味が出ておいしいわ!」
「この燻製腸詰を薄く切ったのが乗っているやつも超うまいぜ!」
「こっちは燻製トゥルッタみたい!」
わあわあ騒ぎながら食べている。
私も親指の先ほどの大きさの焼いたパンらしいものをとって食べてみる。
お母さまとモナさまも、それぞれ小皿に数個とっている。
わお!これ、すっごく美味しいわ!
焼きパンは一口で食べれる大きさで、その上にクリームみたいなのが乗っていて、さらにクリームの上には塩漬けらしい魚の小片が乗っているんだけど、カリカリサクサクと食べているうちに、クリームと塩漬け魚塩け魚が口の中で混じり合って、すっごく美味しい!
「美味しい?それ、カナペって言うの」
マイレィちゃんだった。エイルファちゃん、エリゼッテちゃんもいっしょだ。
私を探して来てくれたんだ。うれしい!
「カナペ?」
聞いたことのない食べ物。
「パパが発明したのよ!」
ちょっと得意そうに言うマイレィちゃん。
「そのシャンパンも飲むの初めてじゃない?」
エイルファちゃんが、やはり果実っぽい味のお酒のグラスを手にしている。
「これも、魔王さまの発明よ!」
「魔王さまって、お酒とか料理とか、色んなことをたくさん発明したり、考えだしたりしているもんね!」
エリゼッテちゃんの言葉を聞きながら、次から次へと変わった具が乗っているカナペを口に入れる。
どれも美味しい。小エビの乗ったのも美味しいし、燻製腸詰のやつも美味しい。
「本当だね... 魔法を使ったモノも、ドコデモボードとかマデンキとか、垂直移動部屋とか色々あるもんね」
「あれは、魔王さまの発明じゃないよ」
「そうだよ。パパの考えだしたことじゃないわ」
エイルファちゃんの言葉をマイレィちゃんが肯定する。
「えっ、あれって、魔王さまの発明した魔法じゃないの?」
これはオドロキだった。
魔王というから、てっきりあれらの便利な魔法陣も魔王の発明とばかり思っていたの。
「だって、パパ、魔法使えないもん」
「ええええ―――!魔王さまは魔法を使えない?」
急に大声を出したものだから、モナさまと話していたお母さまもビックリして私を見た。
周りの招待客もこちらを見ている。
超恥ずかしい...
でも、大ホールの中は、招待客たちの談笑で騒々しいし、どこかからホール中に響くような大笑いも聴こえて来るので、私の大声なんか、そう目立つことでもない。あのバカ笑い、いや、大笑いはギャストン伯爵さまだろう。
「何でも、以前はスゴイ魔法を使えたらしいんだけど、今はさっぱりダメだって、ママが言っていたわ」
「まあ、以前のことは知らないけど、魔法陣の師匠は、ほら、あそこにいる爺さんよ!」
エリゼッテちゃんが指差す方を見ると、少し離れたところのテーブルに、伝統的なとんがり帽子を被った小柄なエルフの老人が、若いエルフや獣人、鬼人などと談笑していた。
「トゥンシーせんせ―――い!」
エリゼッテちゃんが、大声をあげると、白ヒゲを生やした老エルフがこちらを見て手を上げた。
老エルフはニコッと笑うと、こちらに向かって来た。
そして、若い連中もいっしょにゾロゾロとついて来るじゃない!
「やあ、マイレィさま。しばらく見ないうちに、胸がふくらんで来ましたじゃな?」
開口一番、エルフ老人が言った言葉がそれだった。
「やだ、トゥンシー先生っ、半年ぶりにあったら、わたしの胸の話?」
「胸がぺったんこですな、と言われるよりマシですじゃ!ワーッハッハッハ!」
老エルフは大笑いした。
「それで、こちらは?」
「あ、紹介するわね。こちら、あのパパの婚約者のルナレイラ王女さまの妹さんのアリシアちゃん」
「アリシアです。ルナレイラお義姉さまとは母親が違うんですけど」
「なるほど。ゲネンドル王の娘さんというわけじゃな?」
そう言って、招待された同盟国の元首たちと談笑している魔王とその横にいるルナレイラお義姉さまを見た。
「ワシは、ソントンプ・トゥンシーじゃ。ソントンプ研究所で、魔法陣の研究をしておる」
「あなた、研究所は魔法陣の研究だけやっているんじゃないでしょう?」
「おお、そうじゃった。おう、これはワシの妻のロゼリ・マシーアじゃ」
「ロゼリ・マシーア・ ウインクル=ハーメリーです。よろしくお願いいたしますね」
ロゼリさんって、同じエルフだけどトゥンシー先生よりずっとお若い。
「ロゼリは、ワシより50歳若いんじゃ。じゃから、毎晩大へんでのう。じゃから、キョウセイザイを作るハメになってしもうた」
「あ、あなた、何を言っているんですか?あれは、魔王さまのご依頼だったじゃありませんか!?」
ロゼリさん、真っ赤になった。何だかカワイイ!
それでも、キョウセイザイって何よ?
「トゥンシー師匠、ボクたちも紹介してくださいよ」
「そうです。ロゼリさんとのノロケ話はそれくらいにして!」
若い人たちから文句が出た。
「おう、悪い、悪い。これがワシの甥のトム。そして、トムが長いこと惚れておっのじゃが、それをまったく知らなかったのが、このメリッサじゃが......」
そう言うと、トゥンシー先生は、私やお母さまたちに紹介をはじめた。
紹介が長かったので、トンシートゥンシー大先生の部下というか弟子を省略して書くと―
トゥンシー大先生の甥で、機械専門のトムズークルと妻のメリッサ。二人とも当然エルフ族。
カプラニディオ族夫婦のガエル・ウラシーマ(薬草学専門)と妻のヴィヴィアン(魔法陣専門)。
エルフ族のユーカワ・ウラシマ(錬金術専門)と妻のデュリア(金属学&薬品学専門)。
カニスディオ族のアマンジャク師(錬金術学者)と妻のヤッセー。
鬼人族で魔法陣研究の権威:ビクジン・バラキと妻で数学者のアギュルック。
エルフ族の数学者ラジョー、それに若手研究家のキンキ、フウキ、スイキ。
「みんな、魔王国立のソントンプ研究所で研究や新しい発明を生み出す仕事をしているんじゃよ!」
魔王国って、すごい!
こんなに研究者がいるんだ!
ビックリしちゃった。
「ボクたちは、前はブレストピア国の研究所で働いていたんだよ」
ラジョー君という、まだ若いエルフが言うと、キンキ、フウキ、スイキという三兄弟も頷いていた。
「魔王さまは、テルースの世界各国から、優秀な研究者を集めているんだよ」
驚いている私に、トゥンシー先生の甥のトムが熱烈な片思いの末、結婚することが出来たというメリッサの腰を抱きながら言った。
「だから、魔王国は科学力も魔法開発も軍事力も進んでいるのよ」
マイレィちゃんが、ふくらんで来た胸を張って言った。
「それも、魔王国が経済的にすごく発展しているから可能なんだ」
トムの言葉がよく理解できる。
魔王城郊外に見渡す限り広がっていた麦畑。
以前はただの草原だったとお母さまがおっしゃった。
農業を振興し、商業を活性化させ、工業を発展させる。
ブレストピア国では出来なかったこと。
ブレストピア国でも出来なかったことなのだから、ほかの国は推して知るべし。
かれこれ20年ほど前から始まった、テルースの世界のほぼ全ての国を巻きこむ戦争はまだ続いているけど、戦局はブレストピア国が組していた陣営にかなり不利になっているとお父さまから聞いたことがある。
「じゃあ、この城にある色いろな魔法具やドコデモボードとかマデンキは...」
「全部、トゥンシー先生と研究員たちの発明さ。あ、ドコデモボードは違うよ!」
「だから、魔王さまは魔法は使えないってマイレィちゃんが言ったのね」
「ああ。でも、昔は使えたらしいよ」
トム君は、かなり事情に詳しいみたい。
「でも、今は魔法は完全にダメな魔王なんだ。あっはっはっは!」
「トム、あんまり魔王さまの悪口言わない方がいいわよ」
妻のメリッサがたしなめる。
「いや、本当のことだし。それに、魔王が魔法使えなくても、あそこに敵国の将軍たちを震え上がらせる恐ろしい魔法を使える魔王国の魔術師精鋭隊がいるじゃないか!」
トム君が指差す方向- 大ホールの前方の右端の方に10人ほどの女性たちがいるのが見えた。
その中にはアンジェリーヌさまとジョスリーヌさまとアイフィさまの顔も見える。
魔王国の魔術師精鋭部隊...
すごい名前だ。アイフィさまの魔法のすごさは有名だけど、アンジェリーヌさまとジョスリーヌさまの魔法もすごいってエイルファちゃんが言ってたっけ。
機会があったら、彼女たちとお話をしてみたいし、その魔法とかも是非見てみたい。
「やーあ、遅れた、遅れた!」
入口の方から大きな声が聴こえた。
見ると、頭に立派な黄金の王冠をかぶり、アマンダさまみたいな男装-しかし、こちらの方が遥かに高価そうな衣装を着ている女性、いや、鬼人の女性と鬼人の男たちの一団が入って来た。
「鬼人国大王、モモコ・ベンケー・シュテン陛下のお成り―――っ!」
侍従のメエゲレスさんが、走って来て告げる。
たぶん、メエゲレスさんより早くホールに来たのだろう。
せっかちな大王みたい(汗)。
「もう始まっておったとは!ルークもせっかちになったものだ!」
大声で言いながら、ずんずん歩いて来てアリシアたちの横を通り過ぎる。
モモコ大王は、金糸を織り込んだ上衣の上に白いフサフサした毛のあるガウンを纏い、その上から鮮やかな赤いマントを羽織り、腰には剣を下げていた。
その後ろに続く鬼人族の一団は、どれも大男で、2メートル近くある。
モモコ大王は身長はアリシアかルナレイラくらいなので、まるで小娘が大男たちを引き連れているように見える。
「あれは、鬼人国の十王って言う有名な将軍たちよ」
エリゼッテちゃんが教えてくれた。
十王って言ったけど、ざっと見たところ、8人くらいしかいない。
その中の二人は見知っている顔だった。
「やあ、ヤーダマーの塔でお会いしたゲネンドル王の王妃さまと王女さまたちですね?」
魔王さまに負けず劣らずの美男鬼人公爵は、ニッコリと白い歯を見せて微笑んだ。
「こんばんわ。デュドル公爵さまにジャデ公爵夫人さま」
「お久しぶりですけど、お元気そうですね!」
お母さまとモナさまは、さすがに名前を覚えていた。
「ラーニアさま、モナさま、それにアリシアさんとビアさんでしたね?」
若く美しい鬼人公爵も名前を覚えていてくれた。
ゴクン!
侯爵夫人が私の名前を覚えてくれていたのに驚いて、手に持っていたシャンパンとかいう美味しいお酒の入ったグラスをを慌てて半分ほど飲んだ。
「アリシア王女も、もうマイレィさんとエリゼッテさんとエイルファさんと仲良しになったようすね」
デュドル公爵は私を見て、それから元気よく彼に挨拶をしたマイレィ、エリゼッテ、エイルファの三人を見て微笑んだ。
「は、はい!」
「ルナレイラ王女の妹さんだけあって、可愛いですね!」
「えっ?あ、ありがとうございます!でも、お義姉さまの方がずっときれいです!」
「あと3年もすれば、同じくらい美しくなりますよ!」
全身がカ――っと熱くなった!
「デュドル公爵、早くこっちに来て、ルークに挨拶をしろ!」
モモコ大王さまが魔王さまのテーブルのところから大声を上げている。
「では、後ほどまたお話をしましょう」
「それでは、またね」
二人の若い鬼人貴族は、礼儀正しくみんに挨拶をして魔王のいるところへ向かった。
この二人は結婚したばかりだってプリシルさまが言ってた。
デュドル公爵はジャデさまの腰に手を回して、とても仲が良さそう。
ガブガブ...
グラスに残っていたシャンパンを飲み干し、また新しいグラスを手にとって飲み干した。
“可愛いだって... 私が可愛いだって!”
デュドル公爵が言った言葉が頭の中をグルグル回る。
「パパは、モココさまに頭があがらないのよ」
「モモコ大王は、大の大鬼でさえも敵わないほど強いって言うからね!」
「モモコ大王にグレイブを持たせたら、鬼に金棒だって!」
マイレィちゃんたちが、モモコ大王のスゴさを口々に言う。
そうか。モモコ大王さまは魔王さまの王妃なんだ。
鬼人国も魔王国と同じく戦争中なので、モモコ大王さまは忙しくてここにあまり来られないんだ...
それに、大王さまは鬼人国を治めなければいけないだろうし。
トゥンシー先生たちは、しばらく話をしてから、また元のテーブルにもどって行った。
「ラーニアさまにモナさま、今度、お時間のある時にゴクラクベッドツリーを利用されては?お肌が若返りますわ!」
トゥンシー先生の奥さんのロゼリさんが別れ際に言った言葉が気になった。
お肌が若返る?まあ、私はこの通りぴちぴち肌だから、ルッファの青汁をニキビにつけるのと日焼け止めにフランボエザ液をつけるだけだけど、お母さまとモナさまは、やはりお肌を若々しく保ちたいんだろうな。
フィロメラの糞の粉末を水で溶いたのを塗るだけじゃ十分じゃないのね...
お母さまとモナさまは、ロゼリさんがもどって行ったあとで、しばらく無言で彼女の事を見ていた。
ああ...
何だか、世界が回る気がする...




