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ネコ耳❤アリシアの魔王城日記  作者: 独瓈夢
第三部 アリシア伯爵
116/321

第116章 アリシア伯爵、同盟国を訪れる-ガラガス編③

   ドワランガム宮殿 謁見の間

      挿絵(By みてみん)



「ドワラン・ドンゴ・ロス王陛下におかれましては、益々ご健康の様子、執着至極に存じます。この度は、私にドヴェルグ王国伯爵の爵位をお授けいただき、アリシア・ミラーニア・ゲネンドル、心より感謝いたします」

昨日練習した口上を述べる。


「うむ。伯爵、もっと近く寄るがいい」

さすがに王だけあって、ドンゴ・ロス王はひと際恰幅がよく、王らしい風格を漂わせている。

玉座のそばには、立派な口ひげの両端を上にはねあげたローブ姿のハゲ頭の老人がいる。王の相談役だろう。


「はい」

玉座に少し近づく。


「まだ遠い。ずずーっと近くに来られよ」

「はい」


「朕とドヴェルグ王国は、ゲネンドル伯爵が西ディアローム帝国と交渉して、わが国の外務大臣のティバウド伯爵やら、軍務大臣のダルドン伯爵などが、幾度も交渉をしても得られなかったことを成し遂げてくれたのじゃ。伯爵の爵位をあたえるなど、安いものじゃ。

それだけでは朕の気が済まんので、西ディアローム帝国から割譲される領地の中から適当な土地をゲネンドル伯爵にあたえるようにと言ったのじゃが、侍従長のゴンドが、ゲネンドル伯爵はすでに西ディアローム帝国に広大な領地をもらって困っておると言うてな...」

ドンゴ・ロス王は、そう言ってすぐそばにいる、ハゲ頭の老人ドワーフを見た。


「はっ。豊かで儲かっている領地であれば問題はございませんが、不作続き、天災続きで領民たちが逃げ出すほどのお荷物領地など、それ以上増えてもゲネンドル伯爵殿が困るに違いありませんと申し上げました」

「そういうわけで、ゲネンドル伯爵には、金貨を毎月千枚やるように...」

「え... 金貨を毎月千枚!」


私はドンゴ・ロス王の顔が、この世界でもっとも好ましい男性に見えてきた。

千枚の金貨が目の前を飛び回っているのが見えた。

もはや焦点も定まらず... 


「と言ったんじゃがの。またゴンドが...」

「はい。ほかの貴族の手前もありますし、わが国も戦続きでそれほど財政に余裕はありませんので、金貨900枚に抑えた方がよろしいのではないかとご進言いたしました」

千枚から百枚少ないだけなら、許容範囲だ。

「うむ。そう言うわけで、年に金貨900枚となった。すまん!」

目の前を飛び回っていた金貨が消え、現実にもどった。


「毎月金貨75枚がドヴェルグ王国の伯爵となられるゲネンドル殿に支払わることになります」

白ヒゲのゴンド侍従長が、現実的な数字を挙げる。

毎月金貨千枚が年に900枚になった。

私が魔王国の公使としてもらっているお給料は金貨25枚なので、金貨を毎月75枚もらえるということは、毎月の収入が3倍になるとことになる。

これに魔王国の伯爵としてもらっている年棒金貨800枚プラス年末手当金貨150枚を加えると、毎月金貨180枚ほどになる!ヤッホ――!


「ドンゴ・ロス王陛下、このアリシア・ミラーニア・ゲネンドル、ありがたく俸禄を頂きます!」

うれしさのあまり、思わず笑みがこぼれそうになったのを堪え、深く頭を下げ、礼を申し上げた。

「うむ。これから叙爵式を行い、夜は叙爵祝賀会が行われるが、朕はゲネンドル伯爵が、わずか金貨900枚という安年俸を喜んで受けると言ってくれて嬉しいぞ」

「ドンゴ・ロス王陛下 。つきましては、ドヴェルグ国伯爵位叙爵のお礼に、ささやかな物を持って参りました」

「おう、それほど気を遣わずともよかったのじゃが」


私の言葉を合図に、控室で待機していたリンド君とメイドのキナラさんとイムラさんが、それぞれ木箱を一つずつ抱えて持ってきた。


「これは、私が魔王国ならびに今度西ディアローム帝国でも販売を始めたレッべガアル産の葡萄酒の中でも最高級のものでございます」

「ほう!...」


リンド君とキナラさんとイムラさんが、木箱のフタをとる。

私は、瓶が割れないように藁が詰まった中から、一つの葡萄酒瓶をとりだした。


「こちらは、《グラン・ルキフェル・リミテッド》。辛口の赤葡萄酒で、グラスに注いだ瞬間に香る、花や果実の甘やかな果実の香りに、豊かなコクのある風味や「苦味」と「酸味」が混じった複雑なものがあります。一口飲むと、シルクのようにするする滑らかな口当たりで、クロスグリや干し葡萄、香草、バラのような、かすかに甘味のある心地よい酸味があります。

これだけを飲んでも楽しめますが、脂気のある肉料理、牛肉の蒸し焼きのようなあっさりして旨味の強い肉料理にもとても合います」

「ほう!」


《グラン・ルキフェル・リミテッド》の瓶を箱にもどし、別の一本を取り出す。

「これは、《ヴァレンテ・ジェラード・コンジェランテ》。辛口の白葡萄酒です。豊かな味わいが特徴で、葡萄酒愛好家はもちろん、葡萄酒をあまり知らない方までも虜にしてしまうほどの豊満な葡萄酒です。ハシバミの実やヘントウ(扁桃)の実を感じさせる香り、そしてアカシアの花の蜜を濃厚に感じられ豊富な味が口中に広がります」

「ほう!」


《ヴァレンテ・ジェラード・コンジェランテ》の瓶を箱にもどし、今度は私にとってとても思い出のある一本を取り出した。

「こちらが、今年度初の《ベーラ・アリシア・インペリアル》でございます。白の甘口ですが、驚くほど魅力的な香りと蜂蜜のような味わいを持つ、希少な宝石のような貴腐葡萄酒です。

甘口で濃厚な果実の味がし、さらに熟成すると複雑でまろやかな味わいとなります。魔王国でもめったに入手することができない高級銘酒です」

「ほほう!」


「陛下、その奇しくもゲネンドル伯爵のお名前と同じ白葡萄酒のことは耳にしたことがございます。何でも1本金貨50枚という破格な値段がつき、いまだに愛好家の間で語られている名酒だそうでございます」

「なんと!」

ゴンド侍従長の言葉に驚くドンゴ・ロス王。


そこで、私は5分ほどかけて、《ベーラ・アリシア・インペリアル》という葡萄酒名が生まれた経緯を説明した。

そのあとで、残りの10本の葡萄酒の宣伝もした。

ドン・ゴロス王は、まったく飽きた様子も見せずに、最後まで熱心に聞いてくれた。


「うむ。ゲネンドル伯爵は、なかなか商売上手であるな?早速、栓を開けさせてためしたいところじゃが、まだ叙爵式が残っておる!」

「はい。どうもお時間を取らせて申し訳ございません」

「なんの、なんの。朕も葡萄酒が好きでな。ドワランガム宮殿の地下蔵には、少々葡萄酒を保存しておるのじゃが」

「現在、1万5千3824本ございます」

ゴンド侍従長が、分厚い手帳を見ながら言った。

えっ? ドンゴ・ロス王さん葡萄酒収集家なの?

じゃあ、私の大顧客になること確実!

ドヴェルグ王国へ来てよかったわ。


「陛下、そろそろアガリ王妃殿下からの贈呈品を...」

「おう、そうであった!」

「アガリ王妃殿下、お待たせ申した。さ、どうぞ陛下の御前へ」

「はい。ありがとうございます」


アガリさんがドンゴ・ロス王の前に行くのとすれ違う時、「ごめんなさい」と小声で謝った。

かれこれ30分ほど葡萄酒の売り込みをやってしまったからだ。


「あとで払ってもらうわ」

ドンゴ・ロス王の方を見たまま、小声で答えた。

だけど、怒っている風には見えなかった。


「ドンゴ・ロス王陛下さま、魔王さまより、こちらを預かって参りました」

従僕の一人が、ビロードが張られた台を置き、そこにもう一人の従僕が美しい彫刻が施された重厚な木箱を置いた。


「ほう」

「魔王さまが、3年前に磁器を制作する工房を立ち上げまして、以来、数々の試行錯誤の末、このような素晴らしい陶器製品が生産されるまでになりました」

そう言って、アガリさんは、つい先日、魔王城で西ディアローム帝国政府との割譲問題の報告会の折に見たのと同じ、豪華なティーカップとソーサ―をドンゴ・ロス王に見せた。


「ほほう!... ゴンド」

「はっ」


ゴンド侍従長が玉座に近いところに並んでいるドワーフ貴族たちの方を見て目くばせをすると、貴族たちの後方から従者が出てきてアガリさんから豪華なティーカップとソーサ―を受け取ると、玉座の脇から段を上がり、老侍従長に渡した。


「なるほど。たいへん見事なものじゃ!」

ドンゴ・ロス王は、ためつすがめつティーカップとソーサ―を丹念に見た。


魔王さまもなかなか商売がお上手だ。

商機をうまく利用するのは私だけではなかった。



      ドワーフ斧

      挿絵(By みてみん)



「陛下、そろそろ式を行いませんと」

「うむ、そうであった。では、行うとしよう。アガリ王妃、魔王殿に朕は贈り物にたいへん感謝しておったと伝えてくれ」

「かしこまりました」

アガリさんは、そう答えて一礼をして下がって行った。


「アリシア・ミラーニア・ゲネンドル殿、これへ!」

ゴンド侍従長が、玉座の前を指さす。


「はい」


ふたたび玉座に近づき、畏まり、従者が置いた膝用座布団に跪く。

玉座からヨイショと立ち上がったドンゴ・ロス王は、老侍従長から斧を受け取ると段を降りてきた。


ドンゴ・ロス王は、いかにも古そうな斧を私の右肩、左肩に交互に当てながら叙爵の言葉を述べる。

「朕はドヴェルグ王国の王として、アリシア・ミラーニア・ゲネンドル殿をドヴェルグ王国の伯爵授ける」

「大へんな光栄でございます。今後はドヴェルグ王国の伯爵としての名誉を傷つけないように振る舞うことをドンゴ・ロス王陛下ならびにドヴェルグ王国に誓います」

私はあらかじめ渡されていた、口上が書かれていた紙に書いてあった通りの言葉を言った。


それで終わり。


「もし、誓いを破るようなことがあれば、朕が自ら斧をもってそちの首を刎ねるであろう」

などと言う脅迫めいた言葉などドンゴ・ロス王は言わない。


第一、私はドヴェルグ人じゃないし。


ワーワーワーワーワ――… 

ドンドンドンドンドン!


居並ぶドワーフたちが、やたらと大声を上げ、手にした斧の柄で床を鳴らす。

いや、別に私がドヴェルグ王国の伯爵になったから抗議しているのではなく、これがドワーフ流の賞賛や 歓迎の表現だとあらかじめ教えられていたので全然驚かない。

それにしても、謁見の間で王を拝謁するのに斧を持って来るなんて、ドワーフって本当に斧が好きなのね?


「これにて、アリシア・ミラーニア・ゲネンドル殿への叙爵式を終えます。これより、大ホールへ移って叙爵祝賀会を兼ねた昼餐会が行われます!」

式進行係の合図で、みんなはゾロゾロと謁見の間から出た。

私もみんなといっしょに廊下を歩く。

ドンゴ・ロス王は、別の通り道を通って行くらしく、廊下には現れなかった。


「アリシアさん、あなた中々商売上手ね!」

後ろからポンと肩をたたかれた。

アガリさんだった。


「そう言うアガリさんこそ、魔王さまの磁器を上手に売り込んでいたじゃありませんか?」

「あははは!まったくそうよね。魔王さま、久しぶりに里帰りさせてくれたと喜んでいたら、なんだ、自分が作らせた磁器を自慢したかったから販売員を送り出しただけじゃない!」

「ふふふ。それも王族の美女販売員をね!」


「やだ、アリシアさん、王妃さまの私に向かってそんな冗談言えるのね?」

「はい。私は今やドヴェルグ王国の伯爵なので」

「あら、私もアガリ・ラナ・ガンタレーパ・バンディ伯爵よ!」

「え?」


「魔王さまとの結婚が決まった時、子爵から伯爵に陞爵(しょうしゃく)したの」

「知りませんでした」

彼女の履歴を見て知ってはいたけど、知らなかったフリをした。

「まあ、伯爵より王妃の方が上だし、伯爵はドンゴ・ロス王陛下の結納みたいなものだからね...ふふふ」

予想した通り、アガリさんは、少し得意気になった。

「それそうですね」


「やあ!魔王国の外交員さんに姪っ子!」

大きな声とともにバン!と思いっ切り肩をたたかれた。


「「痛っ!」」

私とアガリさんがハモった。


ふり返ると、中年過ぎの太った背の低いドワーフ軍人、それも片目に黒い眼帯をかけた女性がいた。

彼女がピシッと着ているドワーフ陸軍の制服には、勲章やら略綬やら記章やらが、ビッシリと胸に付いている。

ドワーフ軍の将軍か参謀かなのだろうか。

アガリさんを姪っ子って呼んだってことは...


「二人とも立派な外交員ぶりだったぞ?ガッハッハッハッハ!」

太い身体をゆすって大笑いをしはじめた。


「お、おばさん?!」

アガリさんは、すぐに“おばさん”を紹介してくれた。


「こちら、ラナ・バンディおばさん。私の父の妹なのよ」

「こら、ちゃんとドワ・アグア=ラナ・バンディ伯爵と言え」

へえ。アガリさんの叔母さんで伯爵なんだ。


「あ、ドワって言うのは、ラナ叔母さんみたいな古臭い軍人が...」

「こら!アガリ、古臭い軍人とは何だ? あ、アリシア伯爵、ドワと言うのはな、ドヴェルグ王国で勇敢に戦った将兵にあたえられる名誉称号なのだよ」

「すごいですね!」

とりあえず、驚くふりをしておく。

驚かれると、人はうれしがるものなのだ。


「ま、それも昔のことで、今の若い連中はそんな称号は欲しがらんみたいだがな。ガッハッハッハッハ!」


この笑い方。まるでどこかの国のバカ伯爵(ギャストン伯爵)みたいだ。

ラナおばさん、いつの間にか私とアガリさんの間に入り、大笑いをしながら

バンバンと私とアガリさんの背中をたたいている。

あまり力いっぱいたたかれて背中がビリビリしている(汗)。


「ラナ、客人とアガリを前に何を楽しそうに話しているんだ?」

「何をドワ、ドワと威張っているんだ?」

「ゲネンドル伯爵殿に何を自慢しているんですか?」

「アガリも2年ぶりに帰って来たと思えば、ドンゴ・ロス王陛下への挨拶だけで、ワシらには挨拶なしか?」


ふり返ると四人のエール樽ならぬ、ドワーフ軍人がそこにいた。



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