第114章 アリシア伯爵、同盟国を訪れる-ガラガス編①
魔王さまから許可をいただいた私は、叙爵式に出席するために同盟国を訪問することにした。
ドヴェルグ王国、鬼人族国、ボードニアン王国、ミタン王国の都合を問い合わせると、4月の半ば以降がいいと言うことで、出発は4月の15日とした。
ドヴェルグ王国の訪問団(?)は、主体者である私の他―
首席補佐官 フローリナ・カミュエマ・キャルニボル
個人秘書 ミルイーズ・アスリン・ゼーブランド
補佐官 レイカ・アルデウ・ガルニエ
補佐官 ペーミン・ガンガネッリ
補佐官 ビア・エレオラー・ゲネンドル
補佐官 リラーナ・ダルドフェル
補佐官 アラネイル・ ハンノンベリ
補佐官 イジルダ・ベテラーブ
補佐官 バラメ・ハルメ=ボルル
補佐官 ラノリア・ロバンズン
護衛官 リンド・キインノ・アッカドーウ
魔術護衛士 ユビィラ・ジュノリア・ギュダン
の計12名。
驚いたことに、ビアたちは一か月も経たないうちにあとを継ぐ職員たちに必要なことをすべて教えてしまった!それほど私といっしょに仕事をしたいのかと思い胸が熱くなった。
約束通り、ビアたち居残り組を私-ゲネンドル公使の部下として転勤させることにし、今回の叙爵のための同盟国訪問旅行に同行させることにした。
西ディアローム帝国の大使館に残した部下たちは、私がいない間の仕事とか、『マオウナルド』ゾオル店開店の準備などをしてもらうつもりだ。
だけど、約一ヵ月の間、大使館居残り組はずーっと大使館に残って仕事ばかりやらせては可哀そうだし不公平と文句を言われそうなので、最初のドヴェルグ国とミタン国をレイカちゃん以下ラノリアちゃんまで8名を随行員として連れて行って、残りのボードニアン国と鬼人族国の2国訪問には随行員を入れ替えて、大使館居残り組を連れて行く考えだ。
部下たちにも、そのことを話して理解してもらった。居残り組は、それを聞いた時大喜びした。
そりゃそうだよね。公費で同盟国へ行けるんだから。でも、観光旅行じゃないよ?あくまでも、見聞を広め、将来のために同盟国の友たちと交流を広めるため。
それらのことを伝えるためと、久しぶりに情報分析室のみんなに会いたいと思って魔王国情報総局のビルに行ってみると、私のあとを継いで情報分析室長となったリエルさんは、悪阻がひどくて働きに来てないとのことだった。
「そういうわけで、私が代理室長として来ています」
私の元デスクに座った、青い目、金色の短い髪の美女がにっこり笑った。
魔王さまの王妃の一人であるアガリさんだ。
彼女は、まるでずっと以前から室長であるかのように見事に分析室の空気に溶け込んでいた。
アガリさんは、魔王国参謀本部の参謀をやっており、出身はドヴェルグ国で、私より三つ年上のお姉さまだ。
年下の私に丁寧な言葉を使っている。それだけ私に敬意を払っているということなのだろうけど、もっとざっくばらんにため口で話してもいいと思う。
ちなみに、アガリさんはドヴェルグ国の伯爵でもある。つまり、爵位は私と同じというわけだ。
「突然の穴埋めで大へんだったでしょう?」
急に分析室長をやってくれと言われて当惑しなかったか聞いてみた。
「いえ、分析室のみなさんがとても優秀ですし、情報分析はガラガスの参謀大学でみっちり教えられたので、それほど難しくありません」
えっ、アガリさん、ドヴェルグ国の参謀大学出なの?
道理で魔王国でも参謀をやっているはずだ。それに参謀なら、諸国の軍事事情にも詳しいので、情報分析室の室長も問題なく果たせるだろう。
「そう、それはよかったわ。プリシルさまも、これで安心されたでしょう」
「はい。喜ばれていました。それはそうと、アリシアさん、今度、叙爵式でドヴェルグ王国に行かれると聞きましたけど?」
当然、アガリさんも私の叙爵のことを知っていた。
まあ、彼女のお父さんは、ドヴェルグ王国でも名を知られたザンギレーパ・バンディ伯爵だし、伯父はドヴェルグ国陸軍総司令官のガンタレーパ・バンディ公爵だし、そのほかにもドヴェルグ陸軍参謀とか、師団長とか家族や親族に錚々たるドワーフたちがいるから、ドヴェルグ国の情報もどんどん入ってくるんだろうね。(魔王国の情報も出てたりして)
「一度に四つも伯爵の爵位をもらっちゃって戸惑っているというか」
「いえ、あれだけの成果を西ディアローム帝国との交渉で得られたのです。伯爵の爵位は当然と言うか、たったそれだけなの?って感じですね!」
アガリさん、中々キビしい。だけど、これでリエルさんの後任は決まりね!
「ドンゴ・ロス王陛下も大へん喜んでいると父が伝えて来ましたので、ドヴェルグ国に行かれたら大歓迎を受けますよ」
ドンゴ・ロス王が喜んでくれたのはいいけど、大歓迎って少し苦手かも。
歓迎会は、鬼人族国、ボードニアン王国、それにミタン王国でも開かれるだろうし...
爵位をもらって、歓迎会を開いてもらって、やはり何か手土産を持って行った方がいいのだろうか???
アガリさんの経歴が気になったので、屋敷に帰ってから調べてみると―
ドヴェルグ王国士官学校を優秀な成績で飛び級卒業後、同国陸軍参謀大学に推薦入学した秀才。
ちなみに経歴書には『ドヴェルグ王国陸軍参謀大学を首席で卒業後、レウエンシア・ワーリー戦役に参謀として参加し、アガリさんの属する師団は彼女の見事な作戦で多大なる戦果を挙げ、その功績により子爵の爵位を叙爵される。その後、ドワラン・ドンゴ・ロス28世王の要望により、ドヴェルグ王国と魔王国のさらなる友好のために魔王陛下と結婚し、魔王国王妃となる』
なーるほど。アガリさんは、つまり政略結婚で嫁いで来たってわけ。
まあ、権力者と政略結婚は太古の昔から切っても切れないもので、すでに西ディアローム帝国はアレクサンドラ- 通称破滅拳バロネスとして有名なアレク- 本名はアレクサンドラだけど、おたがいにアレク、アリシアと呼び合う仲だ- を魔王さまに継がせているし、アンジェリーヌさまとジョスリーヌさまはミタン王国の王女だし、リエルさまとエリゼッテちゃんはボードニアン王国の王女だ。
アガリさんは、ドヴェルグ軍の選り抜きだったんだ。
アガリさんは、家柄もいいし、お父さんは将軍だし、家族にも親族にも軍人が多いらしいし、そのままドヴェルグ王国にいたら、将来は将軍になれただろうけど、ドヴェルグ軍での経歴と約束されていた将来を捨ててまでして魔王さまと結婚して幸せなのだろうか?なんて考えてしまった。
とにかく、参謀という人種は優秀な者が多い。
アマンダさまも元の世界では優秀な参謀だったと聞いたし、今でも魔王国軍の参謀本部で作戦の立案などに加わっている。アガリさんが情報分析室の室長になったら、ドヴェルグ軍での経験などを生かして有能な室長になるだろう。
ドヴェルグ軍
例によって、魔王城のドコデモゲート部屋から最初の訪問国ドヴェルグ王国へ移動することになった。
魔王国とドヴェルグ王国の時差は7時間ちょっとだ。なので、ドヴェルグ王国に朝の9時に着くために魔都を午前2時に出発することになった。
今回、見送りには、プリシルさま、マイレィちゃん、お母さま、モナさま、身重のリエルさん、ビアのおともだちのエイルファちゃんとエリゼッテちゃん、そして部下代表として、ロニアちゃん、アマラちゃん、それにビースーとロナッぺが来てくれた。
あ、ロナッぺって、ロナミ・ペンナスちゃんのこと。ロニアとロナミ、呼ぶとき聞き間違いやすいので、ビースーみたいに愛称がつけられたんだって。
それにしても、夜中の2時だというのに、わざわざ見送りに来てくれたのには、正直感激しちゃったわ。
ロニアちゃんとアマラちゃんは、エテルナール教総本山という閉ざされた世界から見も知らぬ魔都という俗世に来て戸惑うことも多かったに違いない。
私やプリシルさまなどの理解と手助けがなければ、ひと月もしないうちに帰ってしまっていたかも知れない。
なので、やはり彼女たち元輔祭を“心優しく受け入れてくれた私”←(ここを強調したい!)に対する感謝の気持ちから見送りに来てくれたのだろう。
かたや、ビースーとロナッぺは、さすが魔王さまの腹心と呼ばれる、外務大臣スティルヴィッシュ伯爵と経済・貿易大臣カルヤ・ジュ・ケネドル・ペンナス伯爵の娘だけあって、如才ないと言うか、気が利いていると言うか... 将来の大成間違いないわね。ウンウン。
10年後か20年後には、ビースースティルヴィッシュ外務大臣閣下とか、ロナッぺ・ペンナス経済・貿易大臣閣下とか呼ばれるようになって、魔王国とは言わずにテルースの世界の国々で刮目される人物に...
「ふわぁあああ... 眠いわ~!午前零時にパパから揺り起こされたわ。『将来、魔王国でパパのように魔王さまから信頼され、魔王国の国民から尊敬される貴族になるためには、魔王さまからの信望厚いネコ耳...いや、ゲネンドル伯爵殿の見送りに行って点数を稼がねばならん!』って大声で言われてね」
「あわわわわ~~~っ 私もよ。午前零時半に眠いわ~!午前零時にお母さまから叩き起こされたの。『将来、魔王国でもっとも重要な政治家になるかも知れない上司の見送りにも行けない者なんて、魔宮殿のメイドチーフにしかなれないわ!』って言ってね!」
やはり...
この成長盛りの、食い気と盛りのついた猫のような色気で充満しているような娘たちが、真夜中に殊勝にも一人で起きて私の見送りに来るはずなんてないのよね。
お母さまは、ビアはやはり末っ子だから心配して見送りに来た。
私が初めてダユーフネフ国に旅行をした時は、そんなことはしなかったけどね...
お母さまは、ビアが初めて旅行をするって聞いてすごく心配して、ビアが私といっしょに行くって決まった日の夜は―
「ビア、ドヴェルグ王国はまだかなり寒いからね。風邪を引かないように冬服持って行くのよ!」
「わかった」
「防寒タイツとか手袋とか厚い靴下とか。はい、これカバンに入れておいて」
「わかった!」
「ハンカチとポケットティッシュ、バスタオル、顔タオル、シャンプーとトリートメントも新しいの買って来てあげたわ」
「ありがと!」
その翌日の夜は―
「それとね、あなたあと五日もしたら生理でしょ?」
「うん!」
「生理用品は余分に持って行くのよ」
「わかっている」
「それと、ヒニンヤクもね」
「な、なによ、お母さん!ワタシ、処女卒業旅行に行くんじゃないのよ?」
「ビア... あなた、まだ処女なの?」
「しょ、処女で何が悪いのよ?」
「お母さんは、14歳でお父さまに捧げたし...」
「奪われただけじゃない!」
「いえ、捧げたのよ。それにアリシアちゃんも15歳で魔王さまに...」
「お姉ちゃんはお姉ちゃん、ワタシはワタシ!」
さらにその次の夜は―
「お母さん、なに、このカバンは!?」
「ほら、旅行一ヶ月間でしょ?みなさんに聞いたら、着替えとか旅行日数分にプラス1セットいるって言うから...」
「えっ... なに、このパンティの数?ワタシ下着販売に行くんじゃないよ?」
「1日3枚いるって言うから、少し余分に用意して100枚入れたのよ」
「お母さん、ワタシ赤ちゃんじゃないのよ?オムツじゃあるまいし、なんでこんなに持って行かなければならないのよ!」
結局、お母さまが六つ用意したカバンを三つに減らして旅行することになった。
私?
私は伯爵なので、メイド二人キナラさんとイムラさんを連れて行くことにした。
キナラさんとイムラさんは、魔都の私の屋敷のメイドなんだけど、今回は大使館のメイドとかいないので連れて行くことにしたの。その間、屋敷の方では臨時メイドを雇うことになる。
荷物?
荷物は長櫃が4つほどとカバンが20くらい。
なにせ伯爵なんで。衣装とか、衣装とか、衣装とか。
いや、衣装は持って行くけど、それほど多くは持って行かない。
公式な席で着るドレスを10着くらいと男装用のコートとかベストとかパンツとかを20着分ほど。汗をかくのでシルクシャツは40着くらい。ほかにブーツを20足と下着をたくさん。
さすがにおパンティは、ビアのためにお母さまが用意した数ほどは持って行かないけれど、50枚は用意した。ブラはその半数。
長櫃
私と私の専用メイドをふくめて15人が、それぞれ大きなカバンや背嚢や長櫃などを担いだり、押したりしてドコデモゲートの部屋に集まっていた。
「あら、アガリちゃん、遅いわね?」
プリシルさまが、壁の時計を見てつぶやいた。
時計の針は午前1時58分を指してる。
「えっ、アガリさん、見送りに来てくださるんですか?明日早いから...」
“見送りに来てくれなくてもいいのに”と言おうとしたら
タッタッタッタ
数人がこちらに向かって走って来る足音が聴こえた。
ゴロゴロゴロ......
何かの音もする。
「あ、来たわ!」
ドアのところに見に行ったマイレィちゃんが叫んだ。
「遅れてごめ――ん!」
ふうふう息せき切って走りこんできたのは、青い目に金色の短い髪の美女だった。
彼女に続いて、ラビットニディオスのメイドが三人とカニスディオの従者二人が入って来た。メイドたちは、両手に大きなカバンを下げ、背中にも大きな背嚢を背負っていた。たくましい体格のカニスディオの従者たちは、それぞれ小さな車輪付きの大きな長櫃を押していた。彼らも大きな背嚢を背負っている。
彼らが入って来たので、ドコデモゲート部屋は狭くなった。
「ア、アガリさん、その恰好は?」
「うん。魔王さまが、おまえも久しぶりに里帰りをしたらどうだ?っておっしゃって。それで、私もいっしょに行くことにしたの!」
青い目に金色の美女は、胸を張って言った。
「そ、そうですか...」
「では、みなさんそろったようなので、ゲートを開けます」
魔術師のユビィラちゃんが、ドコデモボードに向けた手先から淡い光が放たれた。
ジ…ジジジ…ジジジジ…
周囲の空気が震えるような音がしはじめた。
窓側の空間に小さな穴が開いたと思ったら、見る見るうちにその穴は大きくなり、シャンデリアのある豪華な広間が見えはじめた。
「さあ、行きましょう!」
アガリさんが、自分の家に案内するような口調で言って、最初にゲートをくぐった。
パパパンパン パンパンパ―――ン♪
パパパンパン パンパンパ――――ン♬
突然、軍楽隊の演奏が響きはじめた。
「え?」
アガリさんが立ち止まったので、あとに続いていたラビットニディオスのメイドが背中に当たってアガリさんがさらに前に押し出された。
たくましい体格のカニスディオの従者たちもドヴェルグ王国側に渡る。
アガリさんたちの頭越しに横断幕が見える。
『アリシア・ミラーニア・ゲネンドル伯爵閣下 ドヴェルグ王国へようこそ!』と書いてある。
ゲートを出たところには、ずらーっとエール樽が...じゃない、ドワーフたちが並んでいるのも見える。
「アリシア・ミラーニア・ゲネンドル伯爵さま、ようこそドヴェルグ王国へいらっしゃいました!」
美しく着飾ったドワーフの美女らしい娘が、大きな花束を持って近づき、アガリさんに渡した。
「アリシア・ミラーニア・ゲネンドル伯爵閣下、ようこそ遠路はるばるドヴェルグ王国へいらっしゃいました」
ひときわ恰幅のいいドワーフ貴族らしい男が、恭しくアガリさんの前に進み出て頭を下げる。
「わ、私じゃありません」
「え?」
ひときわ恰幅のいいドワーフ貴族の男がポカンとする。
「私は、ガンタレーパ・バンディ伯爵の娘のアガリ・バンディです!」
「「「「「「「「「エエエエ―――――!」」」」」」」」」」
魔王の王妃の一人であるアレク(アレクサンドラ・マリアンヌ・ゼリアンスロゥプ・ドレッドメイル)は破滅拳バロネスと言う通り名の持ち主です。
この男爵と言う言葉ほどおかしい日本語訳はありませんね。なんで『男』と『爵』をくっつけて“Baron”の日本語訳にしたのかわかりません。
語源を中英語とする“Baron”のさらなるルーツを調べてみると-
〔中英語【baroun】 ⇒ 古フランス語 baron⇒ 中世ラテン語 barō⇒< フランク語 *barō bʰer- (「負担する」)となり、ゲルマン祖語の baro (「人間、男、自由人」) と、おそらく古英語の beorn (「男、戦士」) と同義。 初期のゲルマン法で「人、人間」という意味で使われる〕となっています。
まあ、昔は女性で爵位を持つ者は少なかったので、 “baro”が「男」、“beorn”も「男」を意味するところから、“男”+“爵”をくっつけて男爵という日本語訳になったのでしょう。そのため、ファンタジー小説で女主人公に男爵という称号は、日本では少なくとも使われていないようです。




