第1章 魔王降臨
これは、私が心から愛し、尊敬する魔王さまと私の記録❤
テルース歴5064年 5月10日。
私の名前はアリシア・ミラーニア・ゲネンドル。
父の名前はデルン・リッグラム・ゲネンドル。
そう、魔王に国を滅ぼされ、テルースの世界における、魔王さま最初の領土となったブレストピア国の元王でした。
ふつうであれば、テルースの世界で有力な王国の第二王妃の娘として、何不自由なく暮らし、15、6歳になれば、王族や公爵あたりの息子とかと結婚し、妃殿下、または公爵夫人などとして“玉の輿に乗った”、優雅で贅沢な暮らしを続けるはずだったのが...
いろいろとあって、魔王から見初められ、魔王城で暮らすことになりました。
見初められたってことは、いつか魔王の嫁さんになり、夜ともなれば、夫婦としてあんなコトやこんなコトをしなければ...
きゃあっ、恥ずかしい、恥ずかしい!
いくら回想記とは言え、こんなことを書くのは恥ずかしいわ...
私がこれから記すことは、私が魔王さまの目に留まり、魔王城に暮らすようになってからからの記録。
これを記す理由は、将来生まれて来るであろう孫たちや子孫たちのため。
なぜ、没落した元王族の娘が魔王の妃になれたのか、魔王さまとの生活がどんなものであったかを書き、子孫たちがいつの日か、結婚とか夫婦生活の問題で迷った時に、それを解決する一助にでもなればと思ったからなの。
私の母の名前は、ゲネンドル王の第二王妃ラーニア・セリナーユ・アイヴァー。
私はラーニアの長女。ちなみに、魔王さまのもっとも愛する寵妃の一人であるルナレイラ魔王妃さまの異母妹ということになる。
魔王の軍勢と同盟国である鬼人族の軍勢が、私たちが住んでいたイヴォール城に迫った時、国王であったお父さまは、家族を連れて盟主国へ亡命しようとしたの。
だけど、時すでに遅く、盟主国への道はすべて厳しい検閲が敷かれていたため、しかたなく馬車をUターンして、国境からかなり離れた山奥の小さな村に隠れる住むことになった。
魔王軍と鬼人族の軍によるブレストピア全土の占領が終わったあとで、鬼人族国の大王は、魔王との取り決めにしたがって、鬼人族国の領土となった元ブレストピア国東部の調査を始めた。
いわゆる“検地”とか言うもので、新しい領主が、新たに征服した土地の田畑の面積、収穫量の調査などをするために農民の田畑を調らべるの。
そしてその時に、調査にやって来た鬼人族の兵士たちに、山奥の村に私たちが隠れ住んでいるのが見つかってしまったの。
私たち家族は鬼人兵たちに捕らえられ、鬼人貴族のところに連れて行かれたのだけど、ちょうどそのころ鬼人族国は魔王の訪問を受けていてすごく慌ただしかったらしい。
あとで知ったことだけど、鬼人大王という方は、何でもベンケー・ シュテン大王というお名前の女鬼人で、大の鬼戦士でさえ負かすほどの怪力の持ち主なんだとか。
その女鬼人大王が、どういうわけか魔王にひと目惚れして- やはり強者は強者に惹かれるということなのね- 魔王のハートを射止めようと忙しかったらしく、元ブレストピア国の没落王族のことなどどうでもよかったみたい。
報告を受けた鬼人大王は、「どこかに閉じこめておけ」と命じたきり、すっかり私たちのことを忘れてしまっていたのよ。
私たちを捕らえた鬼人貴族は、大王が次の命令を出すまで、取り敢えず私たちの元居城であったイヴォール城から北に200キロのところにある小さな塔に私たちを幽閉した。
この塔は、ヤーダマーと呼ばれていたこの地方を治めていた、ブレストピア国の地方貴族が作った小さな砦で、砦の中心に八角形で五階建ての塔があり、地名をとってヤーダマーの塔と呼ばれていたらしいの。
ヤーダマーの塔は、このあたり一帯の見張り塔および砦を管理する者の住居として使われていたのだとか。
ヤーダマーの塔での生活は、当然お城に住んでいたころとは比べものにならないくらい質素なものだった。でも、警護の鬼人兵たちは、元王族国であった私たちを尊敬してくれたし、地元の村人たちも元国王であった父と私たち家族をたいへん尊敬し、慕ってくれた。
そんなわけで、ヤーダマーの塔に住むことになったゲネンドル王の家族- いや、もう王族じゃないんだけど- ゲネンドル一家は、お父さまを含めて10人。
その内訳は、お父さまの元ブレストピア国王であったデルン・ゲネンドル、元第二王妃であったマイテさまと娘のルナレイラと息子のカリブ。元第三王妃であったラーニア(私の母親)と私、アリシアと妹のビア。元第四王妃であったモナと息子のジオンと娘のキアラ。それに侍女三人と使用人が二人。
私たちは、もう王族じゃないんだから、せめて自分たちの住んでいる塔を少しでも住みよくしようと、塔の警備隊長さんの許可を得て敷地内に小さな畑を作って、自給自足用の野菜を植えたり、小さな花壇を作ってお花を植えたりしたの。
こうして、殺風景な塔の生活を少しでも明るくしようと、お父さまもおばさまたちたちも、毎日畑を耕したり、野菜や花のタネを植えたりして過ごしていた。
私もルナレイラお義姉さまや、妹のビアたちといっしょにお父さまたちの手伝いをした。
最初は、畑の作り方とか栽培の仕方などまったく分からないので苦労したけど、親切な村人たちに教えてもらって少しずつ収穫できるようになったの。
お父さまも、以前のように戦争とか外交の問題とか、経済・行政の問題とか、宮殿内の人間問題とかに頭を痛めることもないヤーダマーの塔での生活がとてもお気にいったようで、庭園いじりや野外作業で顔や手足が日に焼けるにしたがって食欲も出て、元気も出て、精も出て、毎晩お母さまやほかのおばさまたちと寝室で元気に夫婦の営みに励むようになった。
お城に住んでいた頃、お父さまたちの寝室はかなり離れていたんだけど、ヤーダマーの塔では、階上、階下と一応離れてはいるけど近いし、部屋にはそれぞれ木のドアがあるんだけど、寝室から響いてくるお父さまの吼え声とか、お母さまやほかのおばさまたちが上げる声とか、すべて筒抜け同然なの。
私やルナレイラお義姉さまなど年頃の娘がいるんだから、少しは気を使って音や声を控えて欲しいんだけど... やはり生物の本能だから無理なのかしら?
そんなはた迷惑で騒々しい夫婦の営みが、延々と夜半まで続くの。
お父さまって、私のお母さまを含めて三人の奥さんがいるでしょ?だから、単純計算で、一人2時間ずつくらい愛し合っている夫婦の営みの声を聴くことになるのね(汗)。
最初の頃は、恥ずかしくて布団の下で耳を塞いでいたけど...
そのうちに慣れちゃって... 一生懸命に聴くようになっていた(汗)。
マイテさま、お母さまのラーニア、それにもっとも若いモナさまとか、一人ひとり声とか反応とかが違って、それがまた興味深くて。
そして、排卵期が近まると気分が高まるらしい人もいるらしくて...
注意して聴いていると、けっこう奥深くて面白いのよ、あれ。
私たち三人、私とルナレイラお義姉さまと妹のビアは同じ寝室で寝ていた。
寝室には二段ベッドが二つあって、その一つの下段を私が使って、上段がビア。
もう一つの二段ベッドの下段をルナレイラお義姉さまが使っていたんだけど、三人とも“女の子”として一応知っておかなければならない事は、年齢相応なことを、それぞれお母さまから教えられてはいたんだけど、耳で聴く教育っていうのも捨てがたいって思っちゃったわ。
ルナレイラお義姉さまは、さすがに私より三つ年が多いだけあって、私たち姉妹がまだ知らない事も知っているらしいけど、“そういう事”を話すのは、いつもあまり乗り気じゃないの。
でも、女の子同士の恋の話- って言っても、ヤーダマーの塔でのことじゃなくて、まだお城に住んでいた頃に、〇〇〇男爵がステキだったとか、□□□伯爵の息子が背が高くてカッコイイとか、舞踏会で△△子爵と踊ったとか、何十人の貴族たちが踊りの順番を待っていたとか、他愛ない話しを聞き出しながら、男女のコトを聞き出すの。
ルナレイラお義姉さまって、かなりウブなところがあるみたいだけど、何と14歳の時に初キスをしたって告白したの!? なんでも、お城で開かれた舞踏会で踊りの相手をしてくれた貴族の息子が、ルナレイラお義姉さまが、踊りで少し汗をかいた身体を涼めるためにベランダにいたところに来て、突然抱き寄せられてキスをしたんですって!
“えええ――っ!14歳って、今の私の年じゃない?” 私もガンバらなきゃ!って、こんな山奥の塔に、どんな白馬の王子さまがやって来るってのよ?!せいぜい、道に迷ったロバくらいでしょ。
そんなこんだで、ヤーダマーの塔での生活は、けっこう健康的だったの。
だけど、お母さまたちには困ったことがあったの。いえいえ、それは夫婦関係ではなく、その方は娘である私たちが証言できるほど、毎晩夫婦円満にやっておられる。
お母さまたちの悩みというのは、日焼けの問題。毎日陽を浴びて仕事をするというのは、健康的ではあるけど、肌を白く保ちたいという女性にとっては困った問題なのよね。
ある晩、私がマイテさま からお借りした本を返しに行く途中で、居間のある階に降りて行こうとした時、お母さまが、マイテさまとモナさまと葡萄酒を飲みながら話しているの聞いてしまった。
「デルンさまは、日焼けしていても男ですから、全然かまいませんけど...」
「デルンさまは、日に焼けていた方が男らしくてよろしいですけど、わたくしたちは女性ですから、あまり焼けるのは困りますわ」
「そうですわね。これ以上日焼けしたら、ベッドで服を脱いだ時、顔と腕だけが日焼けしているわたくしたちを見て...」
「そんなわたくしたちを見たら、デルンさま、きっと幻滅されますわ!」
「いくら片田舎の塔に幽閉されていても、美しい女性であることを保つ努力は欠かせませんのにね...」
「マイテさまのおっしゃる通りですわ!」
問題は、かなり深刻みたいだった。
「まったく同感ね、アリシアちゃん!」
「!」
後ろから突然声が聞こえたので、思わず叫んでしまうところだったわ。
ルナレイラお姉さまが後ろに来ていた。
彼女は手に刺繍枠をもっていた。
おそらく、部屋で刺繍をしていてわからないところがあって、マイテさまに聞きに来たのね。
「私たちも、たっぷりとフランボエザ・オイルを塗って、いつ白馬の王子さまが現れても困らないようにしておきたいわね」
にっこりと笑うルナレイラお義姉さま。
その美しさに思わず見とれてしまうほどだった。
フランボエザ・オイルって、何でもエルフが作っている秘薬とかで、すごい日焼け止め効果があるの。
でも、お城から持って来たフランボエザ液も残り少なくなったので、お嫁入前である私たちが日焼けしないようにって、私たちだけに使わせて、お母さまたちは使ってなかったの。
でも、お母さまたちの深刻な悩みは、ひょんなことから解決しちゃった。
妹のビアが、お母さまたちの悩みを鬼人族の警備隊長さんに訴えたからなの。
警備隊長さんはたいへん優しい方で、村人に“フランボエザ日焼け止めオイル”を入手するようにたのんで、一ヶ月に一度村にやって来る行商人から入手してくださったの。
妹のビアは12歳になったばかりだけど、この年齢で大の男、いえ、鬼人族の警備隊長さんを手玉に取るなんて... いえ、上手に利用する知恵を持っているなんて、まったく驚きだわ。
この才能は、私も見習いたいくらい。
だけど、このまま成長したら、将来、ビアはどんな女性になるのかしら?
“フランボエザ日焼け止めオイル”の効果はバツグンで、少し日焼けしていた肌も数日すると、日焼けしてないお胸とかオシリなどと同じく白くなってしまい、ルナレイラお義姉さまといっしょにバスに入る時もおたがいに白くなった身体を見て手をとりあってよろこんだくらい。
ルナレイラお義姉さまと私は3つ違い。
母は違えど、私たちは生まれた時からいっしょに育てられたためもあってか、とても仲良し。
ルナレイラお義姉さまは、エルフであるマイテさまの血を引いたらしく、エルフの特徴である細長い耳をもった美しい娘なの。
髪はピンクで- これはマイテさまの髪は黒いので、お父さまの方でも引いたのかしら?- 白い肌をさらに引き立てるみたいで、とてもよく似合うの。
お城に住んでいた頃は、後ろで纏めて長くたらしていたけど、塔に住むようになってからは、手入れが簡単な三つ編みにしている。
ルナレイラお義姉さまの美しさは小さい頃から評判だったらしい。
5歳になった頃から、あちこちの王族や貴族から是非息子の嫁にとか、孫の嫁になどという申し出が引きも切らなかったそうだけど、賢明なマイテおばさまが「ルナレイラには婚約とか結婚とかは、まだ早すぎますす」と言って断って来たってお母さまから聞いたわ。
ルナレイラお義姉さまは、顔も美しいのに、それに加えて胸やオシリはレオニディオ族であるお父さまの血を引いたらしく、フェリノディオ族である母の血を引いた私が、まあまあな胸なのに比べて羨ましいくらい豊かな胸とオシリを持っているの。
エタナールさまって少し不公平だと思わない?
質素だけど、楽しい日々が続いていたヤーダマーの塔の生活。
気がつけば、5年も経っていた。このまま、ここで囚われの身のまま、一生過を過ごすものとみんなが諦めてしまっていた。
おそらく、私もルナレイラお義姉さまも、ビアもキアラも、誰にも嫁ぐことなく、カリブもジオンも妻を娶ることもなく、独身のまま、この山奥の塔で老いて死ぬまで暮らし続けるものと誰もが思い、あきらめていた。
だけど、お父さまやお母さまたちが、どう考えていらしたか知らないけど、私やルナレイラお義姉さまやビアなどは、まだ若かったこともあり、そんな悲観的な将来のことなど考えずに、毎日を楽しく暮らしていた。教師はもう雇えないので、お母さまたちが当番制で毎日数時間勉強を教えてくれていた。
そんな私たちの生活にある日、突然異変が起きた。
その日のことを、私は一生忘れない。
それはテルース歴5064年5月10日のことだった。
その日も天気が良かったので、私たちは朝から庭で仕事をしていた。
私は、昨日、村人が「今年は豊作でしたので」と言って持って来てくれた葡萄を食べすぎて、少しお腹の具合がよくなくて塔のトイレに行っていた。
「アリシア、だいじょうぶなの?」
しばらくすると心配したお母さまが来て、ドアの外から声をかけてくれた。
私はようやくピーピーシャーシャーが終わり
(恥ずかしいことにお母さまに、下痢の音を聴かれてしまったわ。これがもし恋人だったら、オヨメに行けなくなるところよ?)
「うん。だいじょうぶよ、お母さま」
下痢のし過ぎでひりひりするオシリをそろりと拭いてから、ドロワーズを上げながら答えた時-
「誰か来たわ! なんかエライ人がゾロゾロ。護衛の兵隊さんもたくさん!」
上の階にいたビアたちが叫ぶ声が聴こえた。
「お父さまを捕らえに来たんだ!」
ジオンの悲痛そうな声。
「えっ!?」
お母さまは、それを聞くとあわてて走って行った。
私も急いでトイレのドアを開けて、手も洗わずにお母さまのあとに続いた。
塔の入口から外の様子を見ていた使用人のギトスが大きな声で叫んだ。
「あれは... ブレストピア国を占領した魔王と鬼人です!」
ギトスはお父さまと同じレオニディオ族の元軍人で、戦いで怪我をして足を引くようになってからお城で使用人として働くようになったという経歴の持ち主で、何でも戦いの時に魔王を見たことがあるそうなの。
「きっと、ゲネンドル王さまを処刑するために来たんです!」
侍女のマルカが青ざめた顔で私たちを見て言った。
そういう噂は私たちも聞いていた。
魔王が占領した国の王や貴族の男たちを皆殺しにしているって話。
女は美しかったら性ドレイにされ、そうじゃない女は、女子どもといっしょにドレイとして売り払われるという話。
次の瞬間、お母さまはフェリノディオ族特有の敏捷さで、階段を階下まで飛び降り、外へ向かって走り出していた。私もお母さまの後を追って飛び降りたけど、あまり急いだので、あやうく転んでしまうところだった。レディーが転んだら、目も当てられないわ!