9.訪問
小栗が犯人だと突き止めてから3日後。
太陽は小栗を捕まえるべく恵梨香に電話口で指示をしていた。
事務所の中は色々な資料で散らかっていた。
「ということで、今日は少し遅めに帰るようにしてくれ」
『わかりました。でも、信じられない…小栗くんはいい子だったのに』
「嫉妬は人を狂わせるからな」
一通り話し終え、電話を切ると机に置かれていた紅茶を一口飲む。
コンコン、とノックが聞こえ扉に視線を向ける。
誰が来たのかと腰を上げると再びノックが聞こえた。そこでノックの音がやけに近いことに気がつく。
もしやと思い、振り返って窓の方を見ると美墨がわずかな幅しかない窓枠に立っていた。
「こんにちは」
「何をしているんだキミは…」
呆れたようにため息を吐き美墨の立つ窓とは違う窓を開けると、器用に窓枠を伝って美墨は開いた窓から事務所へ入る。
「近所に変な目で見られるからやめろ」
「今は妖なので見られませんよ」
「それでもだ」
手厳しいと笑う美墨を睨む。
「何故ここが分かった?」
先日は途中で別れたため、事務所の場所は知らないはず。
――まさか、跡をつけられたか?
太陽が警戒すると美墨はスマホを取り出した。
「事務所名でググったら出たので」
……それなら分かるか。
別れ際に連絡先を交換したことを太陽は思い出した。
妖怪は機械や新しいものを使わないという先入観から、太陽は色々な可能性を失念していた。
認識を改めなければ。
軽く咳払いをし、美墨を見る。
「わざわざ何の用だ?」
「いつ頃小栗くんを捕まえに行くのか気になりまして」
「なら連絡を寄越せばいいだろう。わざわざ…」
来なくていい、と続けようとしたとき美墨がクスクスと笑う。
何か面白いことを言ったか?と疑問に思うが心当たりはない。
美墨は鋭い目つきで太陽を見つめる。
「貴方は教えてくれないでしょう?」
「何故そう思う?」
「だって…」
美墨は右手を首の近くまで挙げると、左から右へ首を切るように動かす。
「ボクが居たら小栗くんに殺害の許可を出すと思っているから」
違いますか?と首を傾げた。
図星を突かれた太陽は沈黙する。
『殺人をさせないために自分がいる』
そうは言っても妖怪の言うことだ。
信用するほど太陽は妖怪に心を開いていない。
「だから事務所まで来たんですよ。今夜とは良いタイミングでした」
電話の内容を聞かれていたようだ。
「是非お供させてください」
有無を言わせない圧に太陽は負け、静かに頷いた。
それに満足した美墨はソファに座る。
「では、ここで待たせてもらいますね」
スマホをいじり始めた。メッセージを打っているのか、忙しなく指を動かしている。
太陽はため息を一つ吐き、心を落ち着かせるために紅茶を淹れるのだった。