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7.交換

 小栗と別れたあと、太陽と美墨は街を歩きながら話をする。


 「…俺の依頼人のストーカー妖怪はアイツだったってことか」


 くだらない恋バナ大会かと思ったが、最終的には大収穫だった。

 恵梨香に対する恋情、そしてその彼氏に対する嫉妬。そこからストーカーになったと太陽は推測する。


 「知っていたのか?」

 「そういうわけではありません。他の妖から最近小栗くんの様子がおかしいと言われまして、貴方の話を聞いてもしやと思っただけです」


 小栗は普段、温厚で誰かの悪口など言うような妖怪じゃないらしい。

 それなのに最近は会えば「あの子の恋人」なる人物の嫌いなところを仲間に愚痴っていたようだ。


 「なんにせよ現行犯で捕まえれば解決か」


 さすがにあの場で捕まえるには確証がない上に、知り合いが妖怪で犯人など言っても信じてもらえなそうだ。

 目の前で捕まえるのが一番だろう。


 「あの~」

 「何だ」

 「その現場にボクも居ていいですか?」

 「何故?」

 「最初に言ったはずです。小栗くんにお願いごとをされたって」


 太陽は出会ったときの会話でそんなことを言っていたなと思い出した。


 「アレの願いは何なんだ?」


 小栗はあの子を不幸にしている恋人を殺したいと言っていた。


 「言ってたでしょう?」

 「そうだったか?」

 「あの子の恋人を殺してもいいか、と」

 「それが?」

 「つまり、ボクに『あの子の恋人を殺すのを許可してくれ』というのが願いです」


 殺すのに許可を求める。

 太陽には理解しがたい願いだった。


 「なぜキミに許可を求めるんだ?」

 「貴方も知っているでしょう?妖にも警察に似た組織があるということを」


 妖怪は自由気ままで、自分の本能に従って生きている者が大多数を占めている。

 そんな中、規律を重んじる珍しい妖怪が人間の真似事をして警察のような組織を作っり、その代表が祓い屋の人間と「互いに害を与えない」という契約を結んだ。

 以来、妖怪たちは組織の許可なく人間に害を与えることができなくなった。それは些細な悪戯も含まれる。


 「キミがその組織に所属しているのか?」

 「はい」


 美墨は着流しの袖をゴソゴソと探り何かを取り出した。

 それはネクタイピンのようなもので、先端に白く丸い玉が埋め込まれている。


 「組織に所属している者の証です。玉は階級を示しています」

 「キミは偉いのか?」


 白がどのくらいの階級なのか太陽には分からない。


 「偉くはないです。ボクは特別枠なので」

 「七光り的な意味で?それとも問題児か?」


 失礼な太陽の問いに美墨は目を丸くしてから笑う。


 「両方ですよ」


 親の権力を笠に着て好き勝手やっていたのか?

 祓い屋にもそういう人間が多く、太陽が嫌いなタイプだ。

 話が脱線してしまった。


 「つまり、組織が許可すれば殺しは正当化されるということか?」

 「はい」

 「それは人間からしたら契約違反だと思うが?」


 美墨を睨むと、彼はため息を吐く。


 「人間と妖が同じ価値観を持っていると思わないでくれますか?」

 「何?」

 「たった数十年しか生きられない人間の死期が早まったところで、妖は何も思いません」


 その言葉に太陽は「は?」と怒りを露わにする。


 「じゃあお前らは適当に理由をでっちあげて人間を殺しまくってんのか?」

 「違います」

 「今の言い方はそうだろう」


 確かに妖怪からしたら人間の一生など瞬きのようなものかもしれない。

 だからと言って殺して良い理由にはならない。


 「それをさせないためにボクがいるんです」


 美墨はネクタイピンを再び袖にしまい、今度はスマホを取り出す。

 慣れた手つきでそれを操作する。


 「とりあえず、ボクの連絡先をお教えします。ストーカーを捕まえる日程の連絡をください」


 今時の妖怪はフリック入力もできるのか、と頭の隅で考えた。

 メッセージアプリのQRコードを表示させ、太陽のスマホで読み込むように言う。

 太陽は言われるがまま読み込み、連絡先を登録した。美墨のアイコンには鳥の羽根が表示されていた。

 美墨の方にも太陽が登録されたのを確認すると、袖にしまう。


 「では、ボクはやることがあるので一度失礼させて頂きますね」


 一礼をし、美墨の身体がふわりと浮いた。そのまま手頃な木の枝に足をつけ、ピョンピョンと忍者のように木々を足場にして跳んで行った。

 美墨が見えなくなるまでそう時間はかからなかった。

 太陽はスマホを握り呟く。


 「意味が分からん」


 ピコンと鳴ったスマホには、美墨から「どうぞよろしくお願いします」と一言メッセージが来たのだった。

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