3.相談
とある町の三階建てビルの二階に、怪しい名前の相談所がある。
【サンライズ・クレバー心霊相談所】と看板にあるが全く想像ができない。
ビルの入り口には張り紙がされており、内容は何とも胡散臭い。
《サンライズ・クレバー心霊相談所》
心霊現象で困っているそこの貴方!
私に相談してみませんか!
費用は要相談!
決して損はさせません!
住所:〇市〇町1-1-1竹田ビル2階
電話:080-××××-〇〇〇〇
そんな張り紙と同じ内容が記されたチラシを握りしめ、相談所の扉の前に一人の女性―鈴木 恵梨香が佇んでいた。
彼女は最近、身の回りで起こる不思議な現象に悩まされている。
色々と対策を練ったがどれも意味はなく、縋る思いで相談所に来たのだ。
何度か深呼吸をし、意を決してドアノブを握りしめたとき。
「何なのよもう!二度と来ないわ!」
中にいた人物によって扉が開かれ、握りしめたドアノブと共に恵梨香は中へ引きずり込まれた。
そのまま倒れこむ恵梨香を跨ぐようにして、叫んでいたと思われる女性が外へ出ていった。
「いったぁ…」
倒れた拍子に膝を打ったため少し赤くなっていた。
「まったく、ヒステリックな女はモテんというのに」
恵梨香が顔を上げると一人の男が立っていた。
男にしては長く肩くらいまである茶色がかった髪を一つに結び、自信に満ち溢れたような立ち姿をしている。
倒れている恵梨香へ男は手を差し伸べる。
「さて、キミは相談者か?」
その手を取り、恵梨香は「はい」と返事をして立ち上がる。
先ほどの女性が怒りながら出ていったため、変な所かと思ったが杞憂のようだ。
パンパンとスカートに付いた埃を払い恵梨香が口を開く。
「あの私、鈴木と言います…」
「あぁ、電話で予約した相談者だろう?入るといい」
ソファへどうぞと男が座るように促す。
「俺は所長の三島 太陽だ」
前の相談者に出したと思われる紅茶と菓子がテーブルに並んでいた。
「……さっきのヤツは飲み食いしていなかったからな。そのままでいいだろう」
良くない、と恵梨香は思いながらも口には出さなかった。
前言撤回。変な所かもしれない。
恵梨香の向かい側のソファに座った太陽は、足を組んで恵梨香に視線を向ける。
「それで?キミの相談というのは?」
太陽が自分の目の前にある菓子を一つ食べて問う。
「えっと、自分でもよくわからなくて…」
「構わない。感じたことを言えばいい」
目の前でティータイムを楽しむかの如く、太陽は優雅に菓子と紅茶を堪能している。
「改めまして、私は鈴木 恵梨香と言います。その、ここ最近、誰かに跡をつけられていて…」
「ストーカーは専門外だ」
震える声で恵梨香が言うと太陽はそれを一蹴した。
確かに人間相手ならそうするべきだろう。
「それが、振り返ると誰もいなくて」
「身を隠すのが上手いストーカーか?」
「歩きながら後ろを見ても誰もいなくて」
「夜だから見えない可能性もある」
「足音が、犬みたいな足音がするんです」
「ふむ、犬の散歩か。子どもの頃はデカい犬が欲しかった」
「真面目に聞いてください!」
茶々を入れる太陽を恵梨香が怒鳴りつける。
太陽は慣れているのか特に驚いた様子はない。
「こんなこと、普通じゃありえない…きっと幽霊の仕業なんです…」
「ほぅ」
「毎日本当に怖くて、彼氏にお願いして一緒に帰ってもついてくるし、神社でお祓いしてもらっても良くならないし…。だからこんな胡散臭いところでも良いから縋っているのに…」
「胡散臭いとは失礼な」
ボロボロと涙を流す恵梨香を慰めることもなく太陽は自身の手にある紅茶に口を付ける。
先ほど帰った…否、出ていった相談者が来た時に淹れた紅茶のため、残念ながら冷めている。
「貴方、幽霊をどうにかしてくれるんでしょう?じゃあどうにかしてよ!」
そして息を一つ吐いた。
「どうにかとは?具体的に言ってくれ」
女はいつまで経っても本題に入らん。と太陽は呟く。
「ここは心霊相談所だ。キミは俺にどうしてほしいんだ?」
鋭い視線で恵梨香を見つめる太陽は少し威圧感があった。
何を相談したいか。そんなことは決まっている。
愚痴や慰めが欲しくてここまで来たわけではない。
「助けて、ください。この音から、幽霊から解放されたい…」
恵梨香は絞り出すように言葉を紡いだ。
「初めからそう言えばいいものを」
紅茶を飲み干し、太陽はカップをテーブルに置いた。
「その相談、承った」
展開が急すぎる気がする