残された令嬢達は
コミカライズ5巻発売されました(*'ω'*)
体調崩してしばらくお休みしておりました…ごめんなさい。
『ロッテバルト侯爵夫人』
離婚しようと心に決めてからは特に、親しくなった方には積極的に名の方で呼ぶようお願いをしている。
なので家名や爵位で呼ばれるのは初対面か、それに近い間柄の人。
朝方、交流のない家から届いたという招待状のことを思い出しつつ、精一杯体面を崩さないよう表情管理と所作に気を配りながらゆっくり振り返った。
そこには鮮やかなブルネットの髪が印象的な令嬢と、その後ろに令嬢方が数名並んでいた。
ブルネットの令嬢は私と同い年か少し上、他の方達も似たような年頃のお嬢さんたち。
皆さん動きやすい乗馬服か、コルセットなしの簡易的なドレスを纏っている。
「私になにか?」
手元に扇はないけれど、王妃様の美しい所作と表情を脳裏に浮かべトレースしながら、声をかけて来た令嬢に問いかける。
「初めまして、ルミエラ・ファンゼッタ・ファーバーですわ」
「……ああ、ファーバー侯爵家の」
とりあえず商売相手ではなくても、王都に住まう高位貴族の名前と爵位くらいは頭に入れておかないと……、と日ごろから暇を見ては貴族名鑑に目を通しておいてよかったわ。
名前を知ってる、知らない程度でもそれなりに歴史のある家柄とかだと困る事になる時もあるからね。
なので御高名は耳に届いておりますわ、的に頷きながら笑顔で応えておく。
……そういえば招待状の中にもファーバー侯爵家の名があったわね。
朝の出来事を思い返しながら、用件を聞こうと令嬢達の方へ一歩踏み出した。
う~ん、ルミエラ様だけならまだ気が楽なのだけど、彼女の後ろに控えている数人の令嬢達がどのような関係なのかわからなくて少し緊張してしまう。
アルルベル嬢を始め、令嬢達ともそれなりに交流を深めて慣れて来た気はするのだけども、知ってる方が同席している状況じゃないとまだ不得手に感じてしまうのよね。
混ざっても大丈夫かしらと一抹の不安を憶えながらも歩み寄らない訳にはいかず彼女たちの方へと歩み出すと……。
「エリザベス様」
横から響いた呼び声に踏み出そうとした足が止まる。
「お話に割り込んでしまい申し訳ありません。王妃様がお呼びなのですがお時間はおありでしょうか?」
「……え、ええと」
助け舟が来てくれた!
……と、頭の中で叫びそうになったけれど、慌てて表情を引き締める。
あからさまにホッとした顔を出してしまったら失礼だわ。
とりあえず掛けられた言葉への返事を少し保留にして、先に声をかけてくださったルミエラ様へ視線を向ける。
「ふふ。わが家からお出しした招待状を受け取っていただけたと聞いて、嬉しくてついお声をかけてしまっただけなのです。どうぞ先に王妃様の元へ……良いお返事期待しておりますね」
「わかりましたわ、では失礼します。素敵な時間をお過ごしになって下さいませ」
そう返してから互いに軽くカーテシーを向け合い、その場を離れた。
なるほど、そういう事ならファーバー家のお誘いを受けないといけないわね。
それでも内心ほっとしながら、割り込む形で声をかけてくれた方へ振り返る。
聞き覚えがあるなと思っていたら、伝言を持って来て下さったのは何度も王宮で顔を合わせていた王妃様付きの侍女の方。
それにしてもいいタイミングで声をかけてくれて感謝だわ……と、ホクホクしながら後について王妃様の元へ向かう。
ほんの少し前は王族の方と顔を合わせるだなんてって恐縮のかぎりだったのに、見知らぬ令嬢達の中に放り込まれるより遥かに安心できる場所になっているなあ。
戻ったら招待状をくれた家のあらましをアンドルにレクチャーしてもらい、最低限の情報くらいは頭に入れておこう。
顔を合わせる程度だから……なんて気の抜けたこと考えてたら駄目だわ、平和ボケしてる暇なんてないもの。
しゃんとしなさい、エリザベス。
そう1人頭の中で気合いを入れなおしたあたりで、王妃様の元へたどり着いた。
「御機嫌よう、エリザベス」
「昨夜はありがとうございました、エリザベス様」
朗らかで落ち着いたお声と、鈴のような軽やかな声が同時に響く。
「御機嫌よう王妃様、マデリン様。お声をかけて下さって助かりました」
二人にそっとカーテシーで挨拶を返し、ほっとしてしまった心境を言葉に添えると、王妃様が楽しそうに微笑まれた。
「邪魔をしたわけじゃないなら良かったわ。天幕があるとはいえ野外は初めてかしら? ちゃんと眠れた」
「はい、それはもう」
朝まで目覚めもせずにぐっすりと。
……恥ずかしさに悶えていたこともすっかり忘れて寝入ってしまったなんて流石に言えない。
「王妃様やマデリン様もよく眠れまして?」
「堅苦しさのない行事ごとは楽しみすぎてよく眠れないことが殆どだったのだけど、最近はダメね……昨夜も月を眺める暇もなく眠ってしまったわ」
年のせいかしらとコロコロと笑う王妃様に、マデリン様が隣で申し訳なさそうに眉を下げる。
「それは私の傍にいて下さったからで……」
「それは構わないのよ、具合の悪い時位頼って頂戴な。大事な娘になる子の傍に居て世話を焼けるだなんて親の冥利だもの。それにあの子の悔しそうな顔を眺められる機会なんてそう何度もないものね」
寝所迄は流石に入り込めないとぼやいていた婚姻前のナイジェル様は、昨夜の言葉通り節度を保ってお外で我慢していたよう。
王妃様とどんなやりとりが繰り広げられていたか、はっきり浮かぶ程度に想像が出来てしまった。
こんなに王族事情に慣れてしまっていいのかしらと思いつつ……マデリン様を実の娘のように接する王妃様と控えめながらもそれを嬉しそうに受け入れているようなマデリン様の仲睦まじい様子を見て、傍に控える侍女たちと共にほっこりしてしまう。
「さて、陽が高くなってきたところだし木陰に席を作ったので貴方も付き合ってちょうだい。祭りを楽しむにもまず情報が大事でしょう?事情通の夫人たちも招いたのよ」
てっきり乗馬のお誘いかと思っていたのだけど、違うらしい。
まあ確かに、護衛は充分いるけれどもナイジェル様達も森の奥の狩場へ出かけてしまっているから、マデリン様を一人にしておけないものね。
「はい、もちろんです。喜んでお付き合いさせてくださいませ」
何しろ初めてな事ばかりで楽しい催しがあるなら教えてください! と、ここは参加経験も豊富で主催者側という大きな情報カードをお持ちの王妃様に頼るのが正解ね。
王宮や貴族の催す夜会やお茶会とは違い、民たちの生活の場に近い催しなので場所によっても様々な楽しみ方があると聞いているから余計にワクワクしてしまう。
「マデリン様も、ご一緒ですよね?」
それに新しいお友達が出来そう、という高揚感を憶え見知らぬ令嬢達のことや昨晩のトラブルごとなどすっかり頭から追い出した私は、マデリン様に全開の笑みを向けたのだった。
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