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狩猟祭開幕

本編再開です。

マデリンの過去を深堀すると長くなりそうなので

そのうちナイジェル×マデリンのお話も番外編とか外伝とかでまとめられたらなあと

おもってます。リズもカイルも出てこなくなるので出しどころが難しい…

 恥ずかしさのあまり、カイルと共にナイジェル様もまとめて天幕から追い出してしまった。


 天幕の外でしばらく話声がしていたから外の様子を確認する勇気なんてあるわけもなく、応接セットの奥側に置かれた衝立の向こう側にある寝台へ潜り込んで世界を遮断した。


 恥ずかしくて沸騰しそうだった思考が冷えて冷静になれば、相変わらず布団に潜り込むしか逃げ道が見つからないなあ、とか成長しないなあって凹んでいるうちに旅の疲れも相まって眠りに落ちてしまう。

 

 再び目を開けば天幕の中は灯りを灯さなくても良いくらいに明るくなっていて、朝を迎えていることを知る。


「奥様、お目覚めになりましたか?」

「……ひゃっ」


 目を開けて寝台に身を起こしただけなので、外へ響くような物音なんて立ててないはず。


 なのに、天幕の外にいたらしいアンドルから声がかかって思わず声を上げそうになり、慌てて唇を塞ぐ。


「ふむ……お目覚めのようですね。ニーナ、リリィ。お願いします」

「わかりました。奥様失礼いたします」


 そして私を放っておいたまま天幕の外でのやりとりが聞こえる。


 失礼します、の言葉を合図に天幕の入口が開き、逆光に照らされたニーナとリリィのシルエットが衝立の布地に浮かび上がった。


「まあ、奥様。昨日お戻りした姿のまま眠ってしまわれたのですか? まずは湯あみをしてしまいましょう。リリィお湯はたっぷり沸かしたわよね」

「はい、用意してあります」


 ニーナは辺境伯家からマリアと共に王都へ来てくれた中堅の侍女の中の一人、リリィは私たちがロゼウェルに行っていた頃に新しく雇い始めた商家の娘さんだったかしら?


 元から人手が足りず、その点もアンドルに任せていたので戻ってきた際に紹介された新人たちのプロフィールを思い出していく。

 

 ニーナは今回の旅に同行した新人たちの指導役もしているらしく、リリィに指示を入れ乍ら自らもてきぱきと動き湯あみの仕度を整えてくれる。


 流石に屋敷の浴室のような事は出来ないけれど、大きめのたらいに湯を張っただけの簡単な湯舟があっという間に出来上がる。

 せっかく沸かしてくれたお湯が冷めてしまわぬよう、私も急いで乗馬服を脱いだ。

 

 湯あみの最中リリィが不便なことも楽しむ方がいいと告げる私に驚く姿を見て、ニーナと共に笑ってしまう。


 まあ、天幕のサイズや連れて来た使用人達の数なんてどこの家も変わりはないでしょうし、どこも似たような不便を抱えている平等な状況だから、不満を探すより楽しい事を探すほうが心にもきっと健康的よね。

 

 ……なんて言えるのは不便の中でも、ただ耐えるしかなかった過酷な経験があるからかも。


 リリィが不思議そうにしてるのも、不便に慣れて居ないはずの生粋の高位貴族の私がこんなことを言うからなのよね、きっと。


 湯あみを終え身支度を済ませて天蓋の外へと出ると、我が家の有能過ぎる家令が旅先ですからと外に出したテーブルの上に朝食が並べられていた。


「招待状?」


 森の恵み尽くしの美味しい朝食を終えてから朝のお茶を味わっていると、傍に控えていたアンドルがスーツの内ポケットから数通の封書を差し出した。


「ええ、王都で交流の機会のなかった家門の方もいらっしゃるようです。如何されますか?」

「そうね……まあ交流を深めるだけでなく広げるために参加しているわけだし。時間をみて少し顔を出してみようかしら」


 王妃様たちもそう私ばかりに構っていられないだろうけど、ナイジェル様直々に頼まれたこともあるので基本的に王家の方優先で動くことになると思う。


 まあ、臣下の務めって言えば途中退席も容易よね。


 開催期間が短い祭りでもあるのは皆さんご存じだろうし、顔だけ出して縁を繋げておいて冬の間王都でゆっくりと交流を深めるやり方もあると聞いているからきっと大丈夫。


 そう思いながらアンドルから戴いた招待状を受け取り、家名を頭に入れておく。


 アンドルに招待状を下さった家の方へ礼状を出すように頼んでから、狩猟祭のオープニングに間に合うようイスラ卿を連れてまずは昨夜の広場へ向かう。


 昨夜もずいぶんな人だかりだったけれど、昼はさらに人が増えたようで離れた所からも楽しげな声が聞こえて来た。


「もううちの子達は向かったの?」

「ええ、ショーン含め若手の者が先に行って用意していますよ」


 流石に馬へ乗れるようにはなったものの、馬上で弓を引くなんて芸当出来る訳が無いので、ロッテバルト侯爵家からは護衛騎士の若手達が参加することになっている。


 そんなわけで会場へ向かう私の役目は参加する騎士たちの激励。そういえば、みんな海育ちだけど大丈夫なのかしら?

 

 昨夜の儀式に使われていた椅子は綺麗に片づけられ、明るくなったおかげで周囲が良く見える。

 

 こんなに広いところだったのねと思いながら明るい日差しに照らされた広場を見回す。


 広場の入り口側と森へ向かう側を分けるように張られたロープを境になっているようで、ロープの向こう側に騎馬したまま祭りの開催を待つ男性たちがずらりと居並ぶ。

 

 各家の自慢に違いない手入れをされた毛並みの良い馬に跨った令息や騎士達の狩猟服姿を見て、令嬢達が色めき立っている。


 騎士服や礼服と違った趣があるわよね。


 この混み方だとうちの騎士達が見つかるかしらと思ったけれど、居場所を事前に打ち合わせていたらしいイスラ卿のエスコートのおかげでスムーズに彼らを見つけることが出来た。


「奥様、御機嫌よう」

「来てくださったんですね、大物狩ってきますよ。期待しててください」


 騎馬のままですいませんと謝られたけど、この場で馬から降りる方が危ないから気にしないでと笑い返した。

 馬の扱いもずいぶんと慣れたお陰で、人懐っこい馬が鼻面をこちらに向けて来たので優しく撫でてやる。


「いいのよ。みんな頑張って、でもケガをしないようにね。 安全第一で励んでちょうだい」

「そうだ、周りにいる綺麗な令嬢達へ意識を向けすぎて馬上から落ちないようにな」


 気をそらすなというイスラ卿に声を揃えてこんな機会滅多にないんですよと返す騎士達。

 どうやら婚約者を射止めたショーンに当てられて、皆婚活に励んでいるようね。


「ああ、そうだ。奥様あちらに閣下と王太子殿下が」


 騎士の一人が指示した指先をたどると、令嬢達がこんもりと一山状態で群がっていた。

 昨日はお歴々達に囲まれていたのに、人気者は大変ね。

 

 ……まあ、話す機会はすぐ出来るだろうし、あの山を乗り越える勇気は流石にない。


 王妃様たちも探してみると、ナイジェル様たちのおそばで同じように皆に囲まれていらっしゃる。

 マデリン様は王妃様のおそばに控えていて、ナイジェル様と視線を交わしては微笑みあう仲睦まじい様子。


 流石にあの状況でマデリン様に悪意をぶつけるような人は出てこないわよね。

 

 そんな中、高らかに鳴り響くラッパの音を合図にざわめきが止まった。


「では、皆の幸運を祈ろう。立派な獲物を手に戻って来い。無論私も負ける気はないが」


 『一番立派な獲物を狩った者に森の大精霊の祝福と加護が与えられるだろう』


 静かになった広場の中、ナイジェル様の声が響き渡る。

 その声に応えるように狩猟に向かう騎士や令息たちが声を上げ、馬たちを操り森の奥へと走り出す。


 見送る者たちも森へと向かう彼らへ声をかけ、広場が歓声の渦に包まれた。


 最後迄その場に残っていたカイルとナイジェル様も馬の首を森の奥へ向ける。

 走り出す姿を見て思わず頑張って、と声を上げてしまったのはこの祭りの熱気に私もあてられたせいかしら。


 狩場へ向かった参加者たちの姿が見えなくなると、残された私たちはそれぞれの目的に合わせて動き始めた。

 

 狩猟場ではない小道を散策してもよし、秋色に染まった木々を眺めながらお茶と歓談を楽しむもよし。

 近くの村の人たちの案内で秋の実りの収穫を体験してもよし、手作りの工芸品の体験を楽しむもよし。


 自然の中での社交の場に令嬢や夫人たちの楽し気な笑い声が広がっていく。


 王妃様たちはまだ他の方々に囲まれてお忙しい様子なので、私は何をしていようかしら。

 ……なんて考えていたところ、後ろから声がかかった。


「ロッテバルト侯爵夫人。 早速我が家の誘いに良いお返事をくださって嬉しい限りですわ」



読んでくださってありがとうございます。

次回更新までお待ちください

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