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つい、うっかり

お待たせしてしまいました( ;∀;)

はうう、忙しい…続きになります。

「では夜も遅い事ですし、本題に入って頂いてもよいでしょうか?」


 イスラ卿が天蓋の外へ出たタイミングでナイジェル様にそう促した。


 ……例え傍に居られないとしても、体調を崩した婚約者の元からそう離れていたくはないでしょうし。

 ナイジェル様の隣で勢いよく首を頷かせているカイルを横目にナイジェル様へ目線を向けると、少し神妙そうな面持ちで腰に下げていた布袋から取り出した物は――。


「……棒?」

「というか、松明だね」


 私の言葉を補足するようにカイルの声が被さる。

 太めの棒の先端に布が巻き付けられたそれはどこか見覚えがあった。


「でも松明にしては不出来な代物だな。松脂や油を使ってない」

「あら、それじゃ火がなかなか点かないじゃない?」


 私とカイルたちを挟むテーブルの上に置かれたそれをそっと手に取る。

 そして巻き付かれた布の部分に手を触れるとしっとりとした水気を感じて驚いてしまった。


「これ濡れてませんこと?」


 指先に着いた液体の匂いを嗅いでみる。

 少しだけ青臭い匂いを感じるけども、きっと巻き付けた棒の匂いが移ったのかも。


「濡れてるだって? まさか」


 まあ火を点けるために作られたものだから濡れてるわけなんてないものね。

 なので確かめてみた方が早そうと思ったので本当よ、と言いながら手にしていた松明未満のそれをカイルへ渡した。

 

 カイルも同じように巻き付けられた布に指先を触れさせて確認する。


「燃やそうとした跡があるな……まだ新しい。これは先ほどの儀式でマデリン嬢が手にしていたものじゃないか?」


 カイルが隣に居るナイジェル様へ問いかけ、視線を向ける。

 そういえばマデリン様が手にしていた松明に火が点かなくて、儀式の進行がしばらく中断していたわね。


「……ナイジェル、まさかお前……火が点くだなんて危ないとかそういう過保護か?」

「そんなわけあるか、お前と一緒にするな」


「な……ッ」

 思いがけない飛び火に頬が熱くなる。

 ここで茶々を入れると話が変な方向へ飛びそうなので、声を上げるのをぐっと我慢して話に耳を傾けた。


「公的な場に出る機会がまだ少ない彼女の晴れ舞台を邪魔するわけがないだろう。それにそのつもりだったらお前たちに相談するわけもない」

「まあ、それもそうか。それでこれがどうしたんだ? 用意した者の不手際なら当人に問いただせばいいだろう」


 でもうっかりにしては布が濡れているのは少しおかしい話よね?

 それに王家の侍従職の者がそんなわかりやすいミスを犯すものかしら。


 思ったままの言葉をナイジェル様に向けると、小さく息を継いで頷いた。


「昼に手が空いた時に私も確認した。その時はごく普通の松明だったんだ」

「……つまり、すり替えられたという事ですか? でもいったい何故そんなことを」


 そう大きくもないし似たものはすぐに作れるだろうけど、偽物の松明にすり替えるだなんて何の意味があるのかしら?


 儀式を中断させて祭りを失敗させようとか?


 ……ううん、もっと他にもやりようがあるわよね。


「彼女……マデリンの名誉もあるから決して口外にはしないで欲しいのだが。女学園での揉め事をまだ引きずっている令嬢が居るようなんだ」


 揉め事を起こすような方には見えないのだけれど、もしかして見た目よりアクティブな性格の方なの?

 ……あ、起こされる側という可能性の方が高いわね。


「もうじき王籍へ名を連ねる令嬢に、嫌がらせを仕向ける不遜なものがいるというわけか。王太子妃以前に彼女は現時点で公爵令嬢だろう? 大公家に公女が居ないこの国で彼女の身分は王妃様に次ぐものじゃないか。そんな彼女へ嫌がらせだなんて、あのオーベル殿に直に喧嘩を売るようなものだろうに」


 あの人に喧嘩は売りたくないとカイルが呟き肩を竦め、ナイジェル様も「同感だ」と返す。


 多少の理不尽なら自分より上位の爵位の令嬢への不満は飲み込むなり受け流すなりするもの。

 当人同士の揉め事で収まるならいいけれど、家同士の揉め事になりかねないし。


 ……まあ、辺境伯令嬢ひいては侯爵夫人になった私へ喧嘩を売り続けた、男爵令嬢ととり巻きの方々も居たわね。


  ああいう子達は身分とかあまり気にしないのかもしれないわ。


「マデリンが助けを求めるのなら無論手を貸すつもりだし、いくらでも罰してやりたいのだが」

「……マデリン様が望んでいないのですね?」


 人に助けを求めることにとても勇気がいることなのは私がよく知っている。

 出来る事なら自分でどうにかしたいもの、大切な人に心配をかけたくないから。


 もしかしたら、マデリン様もそうなのかも。


「今までは親しげに装いながらマデリンへ不愉快な言動を投げつけたり、遠巻きで噂する程度……初等科の子供らでもするような、些細な嫌がらせに見えるやり取りだったんだ。その程度は身分の上下関係なく誰もが経験があるから、そんな下らない者に気をかけるのも馬鹿らしいと彼女の望み通り放っておくつもりでいた」


「……でも一線を越えてしまった。エスカレートしたら怖いです」

「エリザベス嬢もそう思うかな?」


 言葉も使いようによっては心に消せない傷を作る鋭利な刃になるけれど、耳を塞ぐなり場を離れるなり出来る。

 でも小さな嫌がらせが次第にエスカレートして取り返しのつかないことに繋がっていくこともあるわ。   

 私は前の時にそれを嫌というほど味わった。

 

 勿論、虐げられるのが当たり前のようだったあの時の私と、今のマデリン様の立場や状況も違う。

 

 王太子妃、そして王妃となる尊い身の方を害するようなバカな真似を、おいそれとする令嬢がいるなんてとても思えないけれど……悪意がどんな場面で膨らむかは誰もわからない。


 それに目に入れても痛くないほど大事にされている想い人だもの。

 王太子の名を使えばすぐに解決できるでしょうけれど、それがマデリン様のためになるとは限らないし。

 ナイジェル様もきっと歯がゆい思いをされているのでしょうね。


 私に何か出来ることはないかしら……なんて、考えていればナイジェル様が私に頼み込むように顔を上げ、腰を浮かせながら話し出した。


「それでね、エリザベス嬢に頼みたいのだが。……狩りの最中だけでいい、マデリンに気を配っていてはもらえないだろうか?」

「ナイジェル……!」


 ナイジェル様が言い終わる前にカイルの声が被さった。


「護衛を増やすなりすればいい話だろう? リズだって初めての祭りなんだ」


 あ、うん。……確かに過保護ね、これ。


「カイル、いいのよ大丈夫。……というか貴方たちが狩りに出ている間は暇でしょうし、私だってマデリン様と親交を深めたいと思っているもの」

「でも……」


「初参加同士傍に居れば心強いわ。王妃様もいらっしゃるし……勿論、貴方の応援も目一杯するわよ?」

 しないと拗ねそうだものね。……なんて考える私も過保護なのかしら。

 

「君がマデリン嬢を気に入ったのなら問題はないけど」

「それは当たり前よ。だってマデリン様とはもしかすると……」


 親戚になるかも、と告げたところでハッとして口を閉じた。

 儀式の最中考えていたことをつい、言葉にしまったと気が付いたのは、もう声が出た後。


「……ほお」


 私の前で顔を赤くして言葉を無くしているカイルと、楽し気に頷きながらニヤつくナイジェル様の視線が痛い。

 そして次の瞬間、あまりの居たたまれなさに思わず二人を天幕から追い出してしまったのだった。

次回は閑話休題。

エリザベスに追い出されたあとの二人+@での

ナイジェル視点のお話でっす


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